特集・連載
「がんばらずにはいられない」私は、軽やかな環境づくりにこだわっている
サイボウズ式特集「そのがんばりは、何のため?」。今年3月までサイボウズ式編集部にいた、フリーの編集者・ライターのあかしゆかさんに、「がんばらずにはいられない人の、がんばり方」について執筆していただきました。
いきなりですが、私は自分のことを「がんばらずにはいられない人間」だと思っています。
一言で言うと、「まじめ」なのでしょう。昔はそんなまじめな自分に対して、どこかで「おもしろくない人間だな」と思っていました。以前サイボウズ式編集部にいた時、一見いい加減に見えるのにバシッと仕事をこなす人に憧れて、こんな記事を企画したほどです。
もちろん、「がんばらずにはいられない」と一言で言っても、その中には、さまざまな種類の「がんばり」があります。
自分の夢や大切な誰かのためにする努力や、「他人の期待に応えたい」という昔ながらの性格が生み出す努力、何のためにがんばっているのかわからない、自分ですら無駄だと思ってしまうような努力……。
いろんな「がんばり方」をこれまでしてきて、少しずつ、自分がなぜがんばっているのかわからないような「悪いがんばり」は、排除できるようになってきました。
それもあってか、昔は「まじめ」で「ついついがんばりすぎてしまう」自分のことが嫌いだったのですが、今では、そんな自分を認めてあげられるようになった気がします。
私はきっと、根本的に、がんばることが好きな人間なのです。
今日は、そんな「ついがんばってしまいがち」な私がここ数年で見つけた、自分なりの「がんばること」との向き合い方について、書いてみたいと思います。
「自分のため」にがんばれるようになった
私は昔から、人の期待に応えながら生きてきました。親からの期待、先生からの期待、友達からの期待、恋人からの期待……。期待に応えて誰かのために動くことが体に染み付いていて、努力の方向が、「他者」を向いていたのです。
それに対して、嫌だと思ったことはあまりないのですが、やっぱりどこかで、他人の人生を生きているような感覚になる瞬間がありました。ふとした瞬間に襲ってくる虚無感に、耐えられなくなりそうな夜もありました。
そういったがんばり方は、体と心をすり減らしていきます。実際に、がんばりすぎて、体調を崩してしまったことも……。
そんな失敗から、がんばる前には「なぜ私はがんばるのだろうか?」、がんばっている最中には「なんのためにがんばっているのだろうか?」と、自分自身に問いかける瞬間が増えていきました。そして少しずつ、他人の期待に応えるためではなく、自分のためにがんばれるようになってきました。
自分のがんばりに対して、ちゃんと、納得感を追求するようになったのです(今思えば、当たり前の話なのですが……)。
人生には「がんばるべきかどうか」、やってみるまでわからないことが多い
自分の中に「いいがんばり」が増えてきたようには思いますが、最近私が感じるのが、人生の中では、「がんばるべきかどうか」が、やってみないとわからないことも多い、ということです。
日々新しい選択肢を探し、挑戦してみたい意欲がある人ならなおさらのこと。
複業や地方移住といった新しい働き方、そして結婚などのプライベートなことだってそうです。いろんな事例が世の中にあふれていたとしても、結局は、自分自身でやってみないとわからない。世の中の多くの常識が、自分に当てはまるとは限りません。
せっかくなら私は、一度きりの人生、自分自身でちゃんと実感を持った人生を送りたいな、と思っています。「誰かが失敗していたから」「これは理論的にこうだから」といった、世の中の平均値のデータに左右されるのではなく、「やってみたい」「がんばってみたい」と思ったことに関しては、実際に自分で経験して、感じて、それから、自分にとって本当にがんばるべきなのかどうかを判断したい。
やっぱり私は、自分自身が興味あることに対しては、まずはがんばってみたいし、「がんばらずにはいられない」のです。
まずはやってみる、ダメならやめてみる
そんな時に、私が大切にしていることは、「やってみる、ダメならやめてみる」といった、軽やかな環境を作ることです。
これは完全に、サイボウズの社長である青野さん、副社長である山田さんの考えに影響を受けています。お二人とも、ことあるごとに「まずはやってみよう。ダメならやめましょう」と口を揃えて言うのです。
サイボウズは、会社のフェーズに合わせて、さまざまな人事制度の改革を行なってきた会社です。評価制度もころころと何度も変わっているし、社員の働き方に関する制度も、形を変え続けてきた。何度も挑戦してがんばっては、失敗をして、そのトライアンドエラーを繰り返し、今の「働きやすい会社」と言われるサイボウズの形ができあがっています。
その様子を目の当たりにしながら、5年間社員として働いていると、気づけば自然と、そのマインドが自分にも染み付いていました。
私も人生において、「まずはやってみる、ダメならやめてみる」、その姿勢を大切にしたいと思っています。そうやって少しずつ、自分にとって「本当にがんばるべきこと」を見つめていきたいと思っています。
「がんばってみる」前には、コストを考える
ただ、「やってみる、ダメならやめてみる」という考え方は、ともすれば、一緒に仕事をしている仲間や、チームメンバー、身近な相手に迷惑をかけてしまうこともあります。
たとえば、数年間続けることを前提で契約したプロジェクトを「合わなかったから辞めます」と言って途中でやめたり、プライベートの例でいえば、高いお金を払って家を購入したのにすぐに引っ越したくなってしまったり……。そういったことは、自分自身の信頼を落としたり、首を絞めることにつながりかねません。
だからこそ、私のような「とりあえずがんばってみたい!」と思う人、そしてそれが「まだいいがんばりかどうかわからない」といった場合に大切なのは、始める前に、きちんと「コスト」を確認することだと思います。
コストとは、時間やお金、他者からの期待値などのこと。コストをかけて何かを始めてしまうと、それが足かせとなってしまい、「違う」と思った時に抜け出せなくなってしまいます。
たとえば私は、数年前に「海辺の街に引っ越したい!」と、神奈川県の逗子市にプチ移住をしたのですが、実際には1年たらずで長時間の通勤がしんどくなってしまい、都内に戻ることにしました。
ただ、都心から離れた生活が自分に合っているかどうか確信が持てていなかったため、あらかじめ、敷金礼金がかからない、安い家賃の家に引っ越していました。だからこそ、合わないなと思った時にすぐに「やめよう」と思えたのです。
これがたとえば何十万もかけて行なった引っ越しだったら、「もったいない……」と思って、がまんしてがんばり続けていたかもしれません。
もちろん、「このがんばりは、絶対に自分にとって必要なものだ!」という確信を持っている場合であれば、えいやと大きなコストをかけてみることは大切だなと思います。ただ、「がんばりたい、けれど合っているかわからない」程度の不確かな場合は、できるだけ低いコストで挑戦するのがいいな、と思うのです。
本音を言える人間関係を築く
また、そのがんばりが「間違っていた」と思った時に、正直に相手に伝えられるような人間関係を構築しておくことも大切だと思います。
おたがい損得感情だけで動く関係性や、あまりにもパワーバランスが不均衡な関係性だと、なかなか「やめる」と言い出しにくい。「やめる」と言ったとたんに、関係が壊れてしまうこともあり、これもまた、無理してがんばり続けてしまう原因になりかねません。
私自身は、人生における仕事の優先順位がとても高く、それがゆえに仕事を「がまんするもの」にしたくない思いが強いので、損得感情でしか動けなかったり、あまりにもパワーバランスが不均衡で理不尽なお仕事は、そもそも受けなかったり、気づいた時に撤退するようにしています。逃げる勇気も必要なのだと、これまでよくないがんばりもたくさんしてきて気づきました。
自分が挑戦する時には、つらい時にはつらいと、まちがっていた時にはまちがっていたと、素直に言える人がそばにいるか確認しておく。
おたがいの人生をきちんと理解、応援したいと思える関係性の人のもとで、新しい挑戦・努力をする。それだけで、グンと気持ちが軽くなるはずです。
「自立」も軽やかな環境づくりのコツ
そして、挑戦しやすい軽やかな環境づくりにおいて何よりも大切なのは、「それだけがすべてじゃない」と思えること──つまり、失敗したとしても、他に自分の居場所がちゃんとあると思えること、だと思っています。
「これに失敗したら、他に逃げ場所がない」という状況だと、その環境に依存をしてしまい、自分にとっていいがんばりじゃなかったとしても、がんばり続けてしまいます。
ですが、「これに失敗しても、他にも自分の居場所があるから大丈夫だ」と思えると、そのがんばりが間違っていた時にも、方向転換ができるのです。
「自立とは、複数の依存先があることだ」というのは有名な言葉ですが、まさに自立こそが、がんばりつづけるための軽やかな環境づくりに一番大切なことなのではないでしょうか。
「これに人生を賭けてがんばりたい」という必死さと、「ここだけしか人生の居場所がないからがんばるしかない」という必死さは、まったく似て非なるものです。私はまだいろいろと、新しい世界に飛び込み、がんばっている最中ですが、「他にも自分の居場所はたくさんあるけれど、それでも、これに人生を賭けてがんばりたいのだ」と思える何かが、いつか見つけられるといいなと思っています。
たくさんの選択肢がある、不確実な人生。いろんなことに挑戦して、がんばって、失敗したり成功したりして。おもしろい人生を、これからも歩んでいきたいです。
サイボウズ式特集「そのがんばりは、何のため?」
一生懸命がんばることは、ほめられることであっても、責められることではありません。一方で、「報われない努力」があることも事実です。むしろ、「努力しないといけない」という使命感や世間の空気、社内の圧力によって、がんばりすぎている人も多いのではないでしょうか。カイシャや組織で頑張りすぎてしまうあなたへ、一度立ち止まって考えてみませんか。
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執筆
あかしゆか
1992年生まれ、京都出身、東京在住。 大学時代に本屋で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者を目指すように。2015年サイボウズへ新卒で入社。製品プロモーション、サイボウズ式編集部での経験を経て、2020年フリーランスへ。現在は、ウェブや紙など媒体を問わず、編集者・ライターとして活動をしている。
撮影・イラスト
小林ラン
神奈川県うまれのイラストレーター。 書籍・WEBのイラストレーションや広告ビジュアル制作など多方面で活動中。 ここちよいラインとスマートな色使いを追い求め日々描いています。