テレワークを、家族のために。
「パパがずっと家にいてうれしい」。息子の不登校に家族全員で向き合えたのは、きっとテレワークだったから
家族関係をより豊かにするものとして「テレワーク」をとらえる人たちを特集する「テレワークを、家族のために」。
第2回目は、テレワークのおかげで「家族を大切にしたい」という思いを諦めずに日々を過ごし、お子さんが不登校になった時期も家族全員で向き合えたという、田崎さん(仮名)のお話です。
「お迎えに間に合わない」。共働き子育ての難しさ
ぼくたち夫婦のあいだに息子が生まれたのは、2014年のはじめのこと。
幸せな毎日だった。ただ、妻が育休から仕事に復帰したあとは、慌ただしい日々が待っていた。仕事が終わるのは、おたがいに早くても19時ごろで、保育園の閉園時間である20時半にお迎えが間に合わないこともあった。
「20時半を超えられると、困ります」。
園長先生に何度かそう指摘されたときは、やるせなかった。遅くまでひとりで待たせている息子にも申し訳なかったし、働き方を見直したくても、すぐに転職する余裕は精神的にも時間的にもなかった。当時は共働きで育児に取り組んでいる同僚も少なくて、相談できる相手もおらず、正直なところ、どうすればいいのかわからなかった。
その場しのぎのテレワークに、意味はない
ぼくはそれから、別の会社に転職をした。忙しさは前職にくらべてましになったものの、あいかわらずバタバタとした家庭と仕事との両立は続く。
新型コロナウイルスの影響で、全社的にテレワークが導入された時、ぼくは憂鬱な気持ちの方が大きかった。なぜならそれはその場しのぎの対策で、会社に振り回されることがわかっていたからだ。
実際に社内でのテレワーク対応は、世の中の情勢に合わせて二転三転とコロコロ変わった。フルリモートになったり、週3回の出社になったり……。度重なる会社の方針変更に対する調整コストは、決して低くなかった。
勤めてからしばらくして、ぼくは「家族のことが大事なので家事、育児もしっかりとやりたい」と同僚に宣言をするようになり、率先して早く仕事を終えるようになったけれど、もう少し根本的に、家族や、別にそれ以外でもいい──仕事と同じくらい大切なものを大切にすることに共感してくれる会社に行きたいと思うようになっていった。
そうしてぼくは、2021年の夏、サイボウズに転職した。
家族で過ごす時間が増えていった
サイボウズに入社してからは、ほとんどテレワークで働いている。必要があれば出社をするけれど、それも月に1・2度くらいだ。
テレワークが中心になって、家族で過ごす時間がかなり増えた。妻もテレワーク中心の会社なので、妻と話す時間の多さは、以前とは比べものにならない。仕事で何か悩みごとがあったときにサクッと気分転換にランチをしたり、今まで以上に家事育児を分担できるようになったり、いいこと尽くしだと思う。
それまでは、朝6時に起きて、その日の朝食と夕食をまとめて作ってから息子を見送り、自分も支度をしてバタバタと出社、帰ってきても家事をこなして、息子を寝かせているうちにあっという間に1日が終わり……という具合だった。妻や息子との対話も少なく、とにかく「日々を必死にこなしている」という、作業的な感じがあった。
でも、テレワークが中心の働き方になってからは、精神的にも時間的にも余裕ができて、家族にも、仕事にも、ていねいに向き合えているように感じている。
そして、そういった生き方に共感してくれる仲間がいるということに、ぼくはいつも救われているのだった。
子どもの不登校、テレワークの合間の家族ピクニック
今年の初夏、息子が突然不登校になった。原因はいろいろとあったのだけれど、最初息子から「学校に行けない」と言われたときは戸惑った。
前提として、ぼくも妻も、学校は無理をしてまで絶対に行かなくてはいけないものだとは考えておらず、不登校が悪いとはまったく思っていない。ちゃんとした理由があるのであれば、それに対してサポートしていきたいと思っている。
ただ、不登校がはじまって1週間ほどは、学校の先生との相談や打ち合わせが休日に入ったり、妻とも夜な夜な話し合ったりして、それなりの負担があったことは否めない。なかなか周りに相談もできないので、妻もぼくも疲れが溜まってしまい、息子としてもそんな親を見ながらがんばっていたんだろうなと思う。
学校に行かないとして、そのあいだ、新しいフリースクールを探した方がいいのかなとか、習い事を増やした方がいいのかなとか、そもそも子どもになんて言葉をかけていいのかな……など、ずっと考えていたけれど、ぐるぐるとして答えは見つからない。外で誰かに会うと、何かを言われる可能性もあるので、外出もしづらい状況だった。
でも10日ほどが経った頃、近場でランチくらいならしてもいいんじゃないか? という話になり、テレワークの合間、1時間ほど、外の公園で家族3人でピクニックをすることになった。
息子はひさしぶりに、外でのびのびと駆け回っている。
そのピクニックで、ぼくたちはとても気持ちが晴れやかになった。息子に対しても、「不登校は、悪いことだと思っていない」という気持ちをあらためて伝えた。そして、その上で「でも学校に行ってない分は家で時間もできるから、家で何か新しいことに挑戦したり、せっかくの時間を楽しく過ごせるといいね」という話になった。
息子もすっきりした顔になり、その翌日からは、不登校という事実を受け入れて、どう前向きに過ごしていくかを家族みんなで向き合えるようになったのだ。
仕事と家族の循環が、うまくいくようになったと思う
もしも、ぼくの働き方がテレワークじゃなかったら。そのことを考えると、たまに怖くなる。
妻や息子の行動や表情が見えず、息子が何をしているのか、それに向き合っている妻の心理的な状況は大丈夫なのか、妻からヘルプのメッセージがくるんじゃないか……などと、仕事をしながらも家族のことを考えて、上の空になってしまっていたんじゃないかなと思う。そして、ストレスで子どもにも厳しく当たってしまっていたような気もする。
けれどテレワークがあることで、家族がしんどい時に、彼らのことをそばで見ていられる。その結果、仕事にも安心して取り組めて、家族と仕事の良い循環が生まれているように思う。
数ヶ月が経って、いまは息子は学校に行けるようになった。
ふと、隣にいる息子に「パパがずっと家にいてうれしい?」と聞いてみると、少し照れた顔で「うん」という答えが返ってきた。ぼくはこの息子の表情を、これからも守っていきたいなと思う。
企画:穂積真人・高橋団サイボウズ式特集「テレワークを、家族のために。」
テレワークが、多くの企業で取り入れられつつある現在。時間や自由が増えて「ラッキー」だと思っている方も、少なくないかもしれません。そんな「ラッキー」を、自分のためだけではなく、家族のために使ってみませんか? もちろん「家族のため」がすべてだとは思いません。ただ、ひとつのあり方として。テレワークで生まれた時間を、家族のために。
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