本とはたらく
本を読む時間は、生きるのを考えるのにちょうどいい速さ──TSUTAYA中万々店・山中由貴&書店バイヤー・飯田正人

働き方の価値観が多様化している時代に、本が教えてくれるこれからの働き方のヒント。 その可能性を掘り下げるべく、サイボウズ式の出版チームである「サイボウズ式ブックス」では、本のプロである書店員さんにお話を伺うことにしました。
今回お越しいただいたのは、TSUTAYA中万々店の山中由貴さんと、書店バイヤーの飯田正人さん。
インタビュー第1回に登場した佐賀之書店の本間悠さんと「山本飯」というユニットを結成し、従来の書店員の枠にとらわれないユニークな挑戦を続けているお二人です。お二人には、シェア型書店「ほんまる神保町」で開催中の企画「書店員さん選書リレー by サイボウズ式ブックス」にご協力いただきました。
人生の余白が、働くことに繋がっていく


森潤也(もり・じゅんや)。出版社勤務。宣伝プロモーションとデジタルマーケティングに携わりながら、編集者として書籍の編集も手掛ける。主な編集担当作に、凪良ゆう『わたしの美しい庭』、ほしおさなえ『活版印刷三日月堂』、やなせたかし『わたしが正義について語るなら』など。SNSで本についての発信を行っており、noteでは本づくりの裏側や、魅力的な書店の紹介記事を投稿している。

あれもやりたいこれもやりたいと考え過ぎてしまい、キャパオーバーした時期があったんです。

山中由貴(やまなか・ゆき)。高知県高知市にある「TSUTAYA中万々店」に勤務。主に文芸分野を担当し、オリジナルの読書賞「山中賞」を主催。毎年の発表には各出版社が注目している。書籍の推薦コメント執筆も多数。

そう気づいて気持ちにゆとりができましたし、歩いていると仕事に繋がるアイディアが浮かんだりします。
「働く時間」も大切ですが、「それ以外の時間」を自分のために使うことは、めぐりめぐって働くことにすごくプラスになると分かったので、その体験も踏まえて「余白」を考えました。

書店の仕事ってやろうと思えば無限にやれることがあるんです。だから疲弊しないようにちゃんと休むことが大事で、そこに繋がる「余白」という言葉はすごくいいなと思いました。

飯田正人(いいだ・まさと)。大手書店チェーン本部にて勤務。オリジナルの文学賞「飯田賞」を主催する。読書のジャンルは多岐にわたり、書籍の推薦コメント執筆も多数。
働くことがちょっと楽になれる本とは?

この中でおすすめの本はありますか?

「書店員さん選書リレー」 山中さん・飯田さんの選書(2024年11月~12月)
- 『バリ山行』松永K三蔵 講談社
- 『うどん陣営の受難』津村記久子 U-NEXT
- 『庶務省総務局kiss室政策白書』はやせこう ハヤカワ文庫JA
- 『フィールダー』古谷田奈月 集英社
- 『面白南極料理人』西村淳 新潮文庫
- 『日記の練習』くどうれいん NHK出版
- 『ビジネスマン超入門365』林雄司・ヨシタケシンスケ 太田出版
- 『宇治拾遺物語』町田康・訳 河出文庫
- 『人生のレールを外れる衝動の見つけ方』谷川嘉浩 ちくまプリマー新書
- 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆 集英社新書


『バリ山行』(松永K三蔵/講談社)
第171回芥川賞受賞作。古くなった建外装修繕を専門とする新田テック建装に、内装リフォーム会社から転職して2年。会社の付き合いを極力避けてきた波多は同僚に誘われるまま六甲山登山に参加する。その後、社内登山グループは正式な登山部となり、波多も親睦を図る目的の気楽な活動をするようになっていたが、職人気質で職場で変人扱いされ孤立しているベテラン社員妻鹿があえて登山路を外れる難易度の高い登山「バリ山行」をしていることを知ると……。(講談社ホームページより)


会社の経営が苦しくなる中で「うちは大丈夫なんだろうか?」と不安な空気が広がったり、どの上司の意見を支持するかで分かれたり。
私達も系列店舗が閉店することがありますし、世間的にも安泰な企業ばかりではありません。中小企業のリアルさに共感しつつ俯瞰することで、自分自身の働き方も考えられる本です。

飯田さんのおすすめはどの本ですか?


『宇治拾遺物語』(町田康・訳/河出文庫/河出書房新社)
〈こぶとりじいさん〉こと「奇怪な鬼に瘤を除去される」、〈腰折れ雀〉こと「雀が恩義を感じる」など、現在に通じる心の動きと響きを見事に捉えた、おかしくも切ない名訳33篇を収録。(河出書房新社ホームページより)


仕事がたてこんでなかなか片付けられなかったり、帰るのが遅くなってげんなりしているときに、家に帰ってこの本でひと笑いしたら、また明日から頑張れるんですよ。


本を読むことや笑うこと、現代から遠い時代のおとぎ話に浸ること。たくさん詰まった「余白」に触れることで、働くことへのポジティブな感情を取り戻してほしいです。
本を読むことは、生きるのを考えるのにちょうどいい速さ






入社二年目くらいの時に『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』という本に出会いまして、「誰にも気づかれない仕事はやらなくていい。その時間でやりたい仕事に取り組め」という内容に衝撃を受けて、今でも働き方のヒントにしています。


その点、しっかりした出版社から出た本は内容の信頼性が担保されています。本がすべて正しいと言うつもりはないですが、質の高いインプットができるのも本の良さですね。


映画や音楽も楽しみますが、私には情報の届く速度が速すぎるんです。


本を読むことは、自分を振り返るのにちょうどいい速さなので、働くことに考えをめぐらせたいときにぴったりだと思います。

そんなときに、知識や視点を授けてくれつつ自省も出来るメディアが本なんでしょうね。
企画・編集:小野寺真央(サイボウズ) 執筆:森潤也
サイボウズ式特集「本とはたらく」

働き方の価値観が多様化し、どのように働き、どのように生きるのかが問われている現代。そんな時代にあって、「本」というメディアは「働くこと」を自分で見つめ直すきっかけをくれるのではないでしょうか。「本を読むこと」を通じて、私たちと一緒に、仕事やチームワークに繋がる新たな発見を探しに行きませんか?
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執筆

森潤也
出版社勤務。宣伝プロモーションとデジタルマーケティングに携わりながら、編集者として書籍の編集も手掛ける。SNSで本についての発信を行っており、noteでは本づくりの裏側や、魅力的な書店の紹介記事を投稿している。
編集

小野寺 真央
サイボウズ式ブックス副編集長。メーカー、出版社勤務を経て、2022年にサイボウズ入社。趣味は読書・演劇・VTuber・語学勉強・ラジオ・旅行。複業で小説の編集をしている。将来の夢はラジオパーソナリティ。