あのチームのコラボ術
「まずは自分の国を強くしたい」――現役理系大学生のホワイトハッカーが語る自分たちの将来とチームのつくり方
目標を実現に結びつけるチーム力の源を探究するこのコーナー。今回は、セキュリティコンテスト「SECCON 2012 CTF 全国大会」で準優勝した学生チーム「wasamusume」です。
SECCONは実践的な技術を養い、国際的なセキュリティレベルを向上させるセキュリティコンテストイベントです。昨年までは参加対象が学生のみでしたが、今年から、社会人や企業チームも参加する日本最大の規模となりました。
「技術力は高くないかもしれませんが、個々の持てる力を最大限に引き出したのが結果に出た」。そう語るのは、リーダーで現役大学生の三村聡志さん。チーム力を引き出す工夫、将来への想いを三村さん、美濃圭佑さん、村上隆俊さんに学生のナマの視点でお話いただきました。
全国各地から集まり、都度メンバーが変わるチーム体制
SECCON2012 CTFの経過を見ました。一日目から独走していたチームを追い上げ、あと一歩で優勝できたかもしれなかったのですね。wasamusumeはほかのチームと異なり、メンバーが東北から九州まで各地に散らばっていると聞きました。集まってチームになるきっかけは?
椋田
私と村上さん以外は、大会ごとにメンバーが変わっています。 セキュリティ技術を学べる合宿「セキュリティ・キャンプ」で知り合った方々やつながりのある方々に都度都度で声をかけています。
僕はセキュリティ・キャンプで三村さんと知り合い、昨年筑波で行われたSECCON CTFに出場するときに声をかけていただきました。僕は信州大学に所属しているので、普段はSkypeで会議をして、大会やイベント時に集まっています。
キャンプで知り合ったメンバーがひとつにまとまって勝ち取った準優勝だったのですね。チームをひとつにするために工夫したことは?
椋田
わたしはプログラミング、美濃くんはネットワーク、それぞれの興味のある分野や趣味が異なるメンバーを集めました。他分野のメンバーが集まることによって、チームに幅広い視点が備わります。SECCONはお祭りのようで純粋に楽しいというのもあります。普段はお互い遠隔地にいるので、会える楽しみもありますし、決められた時間内にチームでワイワイ言いながら協力してパズルに挑戦するのも楽しい。その想いが共通しているんだと思います。
ほかのチームから「wasamusumeはにぎやか」とよく言われます。1人で全部の問題を解くのは難しいので、協力して解いていきます。ワイワイ話しながら挑戦しているので「何がわからないのか」がすぐに周りにも伝わります。もくもくとやっている人がいても気軽に話しかけていました。
問題によっては技術よりも、コミュニケーションが重要になりますので、しゃべりながら挑戦するのは大事なことでもあります。
挑戦することを楽しんでいるのが力を引き出すトリガーになり、結果にもつながっているのかもしれませんね。
椋田
勝敗が決まりそうなときには「優勝してやるぞ!」って思っていましたけど、基本的にはずっと「楽しければいいよ」と考えていました。
集中力を削ぐための妨害でBGMが流れるんですけど、これも「楽しみのひとつ」になっていました。BGMに合わせて歌いながら挑戦していたら地区優勝が決まっていました。あの時は「まさか!」って思ったよね(笑)。 企業でもチームで仕事をやっている時、もくもくとやるよりにぎやかなほうが効率は上がったりしませんか?
集中するときは集中して、にぎやかなときはにぎやかにのほうがメリハリがあるかもしれません。
椋田
今までは1人でもくもくと作業するのが当たり前だと考えていました。wasamusumeで活動してみて、チームで挑戦するとこんなに楽しいんだって気づきました。
役割分担が明確で、チームでの活動に楽しさとやりがいを感じるって、確かにワクワクしますよね。今年のSECCON2013には参加されますか?
椋田
毎回技術力不足だなって感じますけど、参加していると新しい発見があるので、今回もぜひ参加したいです。
小学生の時から好きなことに熱中
みなさんはいつごろからセキュリティに興味を持っていたのですか?
椋田
僕は高校生のころにセキュリティ・キャンプに参加してからです。ネットワーク技術者クラスに参加したのですが、パケットを作って流したりpingを使ってコンピュータの動作を確認したり、「こんなことができるんだ」と感じ、セキュリティの世界に魅力を感じました。
高校生までは家でプログラムをしていたとかですか?
椋田
父親が電気系のエンジニアなので、小さいころから僕も機械とかマシンが好きでした。小2のときには、インターネットに触ってました。
わたしはパソコンに触ったのは小4ぐらいかな。小学校にパソコンが導入されてから興味を持ち、放課後にコンピューター室に入って遊んでいて、先生に怒られるとかもありました。そのうちプログラミングが楽しくなってきて、市販のゲームには興味がわかなくなってきました。
僕も小2の頃に、自作PCを組み始めました。中学校のときにプログラミングに興味を持って、大学に入ってからセキュリティの勉強会にも参加するようになりました。自分でOSや無線LAN機器で実験をしながら、セキュリティの仕組みを学んでいきました。
小2で自作はすごい……。みなさん小学生のときに、何かしらのきっかけがあったのですね。
椋田
中学卒業までは、パソコンは1日1時間までという制限がありましたよ(笑)。でもその限られた時間の中で何をやるか、とかすごく考えていたので、今となってはそれが良かった気もします。
自作のゲームをつくっていたら知り合いが増えていきました。協力してセキュリティソフトを作り、公開配布したのですけど、自分が作ったセキュリティソフトが原因でサイバー攻撃につながったら嫌だなぁと思ったのが、僕がセキュリティへ興味を持つきっかけでした。
勉強会に参加することで、オフラインでの知り合いやつながりが増えました。最近では、わからないことがあったらそういうつながりの仲間に聞くことが多くなったかな。
小学校からプログラムをしていて、あの人とつながった、この人とつながったというのはネットを通してが多いですね。そういう人のつながりからwasamusumeチームもできていっているし。
インターネットでの人間関係の構築には抵抗がない?
椋田
特にないかな。
インターネット上でのつながりだけの方々、現実でもつながりのある方々で情報の交換範囲は変えますけど。
フェイスブックは必ず1度会った人としか承認しないとか(笑)。
日本を強くしたい!現役大学生が考えている進路
将来はセキュリティ業界への就職を考えてらっしゃるのですか?
椋田
わたしは今、大学院の1年生なんですけど、卒業後の進路はまだ決めていません。セキュリティ系の職業では、フォレンジック(=デジタル鑑識)やネットワーク診断の分野には興味を持っています。ただ、将来それ一本に絞ってやっていこうとは考えていません。プログラムやハードをいじるのが好きなので、コンピューター関係とは決めていますけど、インフラ系も面白そうですし…。
私も決まっていません。これまでも興味のわく方向に全力でやってきましたし、それこそ来年でさえ何をやっているのかわかりません(笑)。セキュリティの知識をつけることで、元々興味があったソフトウェア作成に生かしたいと考えています。
僕も同じです。院へ進学しますけど、卒業後はまだ何をするのかは考えていません。僕はインフラに興味があるので、ネットワークの維持管理でセキュリティの知識をつけたい。ただ、それ一本になってしまうのは寂しいので、知識をつけながら模索しています。
海外で勉強してみたいと考えていますか?
椋田
わたしは国内でやっていきたいと思っています。まず自分が育った国を強くしたいって考えるじゃないですか、セキュリティは特にそういう気持ちになるかもしれません。
僕も同じで、日本に貢献したいと考えています。まだ国外で何かしたいというものは感じていません。
IT業界でのメジャーな企業は海外企業が多いこともあり、海外での勉強や就職も視野に入れているのかな?と思っていたのですが、違うんですね。
椋田
今やりたいことが決まっているならその分野を高めるために海外に行くのは良いと思います。僕はまだ将来やりたいことが決まっていませんし、飛び抜けた才能があるわけでもない。だから、僕は特定の分野だけではなく、いろいろな分野を平均的に伸ばして行きたいと考えています。日本にもたくさんおもしろいことはありますし、もしかしたら自分が本気でやりたいと考えられることが見つかるかもしれません。
ITの技術系はアメリカから入ってくることが多いと思うのですけど、日本らしさと技術や情報を紐づけた日本独自のITはまだまだ少ないと感じています。 ただ、少ないけど優秀なサービスやアプリケーションが生まれています。それを発掘していくのも面白そうだなって思います。
以前、海外に技術を学びに行くのではなく、コンテンツの広げ方を勉強したいと仰っている方がいました。日本は地理的に狭いので、国土が広いアメリカで学びたいと考えていたそうです。
椋田
日本では無線など法律的な縛りが厳しいことでも、海外ではゆるい場合があります。法律に縛られずに研究や開発を行いたいと考えて海外に行く人の話は聞いたことがあります。ただ、違いがあるのは法律や広さぐらいじゃないですか。技術を学ぶだけなら国内でも充分だと感じます。
日本にもすごい人はいるよね。僕の教授も地デジの暗号化にかかわった“すごい人”の1人ですし。海外に行くのは「そういう人を超えてから」って気持ちもあります。
「日本に貢献したい」と明るく力強く話すwasamusumeのメンバー。今年のSECCON2013のより多くのチームの中でどのような結果を残すのか、また彼らの将来についても応援したくなりました!
(写真撮影:本田 正浩)
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