経営層から見て、複業ってどうなの?
副業OK!独立OK! ウルトラ自由な人事制度は企業にどんな変化をもたらすのか?
選択型人事制度、副業解禁など人事制度を自由な方向にシフトしているサイボウズ。社員の自主性を重んじる先に目指すものとは?
2013年7月、東京ビックサイトで開催されたHREXPO2013で副社長の山田氏が「副業解禁~サイボウズが目指すソーシャルチームワークな人事制度~」と題して講演した内容を紹介する。
試行錯誤を重ねた人事制度
サイボウズは1997年創業の会社です。2006年に東証一部に上場しています。社内のコミュニケーションを活性化し、チームワークを高めるソフトウェアを作って販売しています。今の人事制度に至るまで、いろんな制度をトライし失敗しています。初期の社員数が30人ぐらいまでは「業績いいからボーナス弾むわ」という感じで社長が給料を決めていました。2000年に東証マザーズに上場するにあたって、目標管理制度を導入しました。今期は何々をやりますと目標を3つぐらい作り、達成度について点数をつけ給料を決めていました。本当にシンプルなものです。それをやっていく中で「甘いやん」とか「辛いやん」とか評価の納得性に議論が移りました。
どうすればもっと納得感がある評価制度になるのかと考え、達成度の評価は6割にし「市場評価」を3割「360度評価」を1割にしました。市場評価とは事業部長が全社員の中で欲しい人材に点数を配分するものです。「360度評価」は社員がランダムに選ばれた5人に対し点数をつけるものです。これをやっていくとどうなるか。上司から部下に適切なフィードバックができなくなります。上司と部下の信頼関係はどんどん薄れ、組織としての一体感が希薄化していきました。 そこで原点回帰です。上司が1人1人のメンバーをちゃんと見ることにしました。今度はプロセスも含めて能力評価にし、その人が何をできるかを評価していこうとガラッと変えました。たくさんあった職階の定義は、覚えられないので10段階のシンプルなものにしました。そして「ここができるようになったから、こういう評価だよと。次はこういうところを頑張ろうね」と成長をサポートする会話をしていくことにしました。これは今も続いています。
働く「時間」は各自の選択に委ねる
能力評価ではガンガン働いていくワーク重視が当たり前。そのように働いていく人しか評価されない仕組みでした。2007年からはワークライフバランスに配慮した選択型の人事制度を始めました。ライフステージに応じて、本人の希望で働き方を切り替えられる制度です。ワーク重視型(PS2)とライフ重視型(DS)とその中間のワークライフバランス型(PS)の3種類があります。
ワーク重視型は銀行の総合職や、みなさんがイメージするベンチャー企業の働き方です。時間に関係なくガンガン働きますよと。ライフ重視型は「基本的には残業はしたくないです。この時間で帰りたいです」というもの。真ん中のワークライフバランス型は「月間の残業時間は40時間以内。毎日1時間から2時間ぐらいの残業ならします」というものです。
ちなみに名前の由来はプレイステーションとニンテンドーDSです。帰りたいのに帰れない雰囲気があるとか、評価を下げられるかと思うので帰りにくいという話をよく聞きますよね。でもゲームなら基本的にはDSをやりたい人はDSをやるし、PSをやりたい人はPSをやります。それと同じように考えて欲しいのです。働きたい人は働きますし、ライフを重視したい人はライフを重視します。「お互いの価値観を尊重し、みんなで協力してやっていこう」、そういうメッセージを込めています。
「在宅勤務」のメリット
次に導入したのが「在宅勤務制度」です。目的の1つは、雇用機会の創出です。「家でなら働けます」という場合の雇用機会が作れます。2つ目は業務効率の向上です。「家のほうが資料を作るのに集中できます」という場合などです。3つ目はライフ重視の支援です。
3つの目的で導入しましたが、3.11の震災では危機管理に役立ちました。サイボウズは3月14日の月曜日に決算発表でした。土日を挟んで営業日がない中、全員が在宅勤務で業務をこなし決算発表ができました。
「時間」と「場所」両方自由に
次に「場所」と「時間」の制約を両方とも取っ払うことを考え、「ウルトラワーク」と名づけた制度を導入しました。「超働け」ということではなく「ウルトラ自由にしてみよう」という意味です。
ウルトラワークは常時ではなく、申し出があるごとに上司が認めるものです。サイボウズのグループウェアを使うと「場所」と「時間」をフリーにしてもコミュニケーションを取って仕事ができます。それが前提です。今は働き方をさらに9種類に分けることを検討しています。「どうやって管理するの?」と思うでしょう。そこは一人一人に宣言してもらいます。大事なことはその人がどんな働き方をしたいのかを上司と本人が認識し合っていることです。
「育自分休暇制度」も6年に
最近作ったのは「育自分休暇制度」です。サイボウズでは子育てのために6年間休んでもいいのですが「では自分を育てるために休んだらあかんの?」と。若い子はいろんなことにチャレンジをしたいと思います。ですがサイボウズの仕事には限りがあります。留学のお金も簡単には出せません。だから「戻る場所は用意するので自分のリスクでトライしてください」と。退職から6年間は復帰が可能な制度です。最近も4年目の社員が海外青年協力隊でボツワナに行ってくると退職した際、「戻ってきてね」とパスポートを作り渡しました。
副業を気にするほうがナンセンス?
副業も解禁しました。副業は本業に身が入らないとか、会社の資産を毀損するということから原則として禁止にしていました。しかし「オークションでいらないものを売って儲かりましたという状況は、副業なん?どうなん?」と。考えてみると、個人で簡単にビジネスしやすい状況なのに、気にしているほうがナンセンスではと思うのです。実際には副業は自立の一歩につながります。もうけ方も覚えられます。
当然ながら会社の資産を毀損する副業や勝手にサイボウズのブランドを使うのは禁止しています。会社の名前を使う際は事前に会社の承認を得ることが必須です。ピアノを教えるとか、テニスコーチをするとか、自分の名前で本を書くとか、誰かに頼まれてプログラミングしてあげるとか、その辺りは自由にやってくれればいいんです。自立できるならいいじゃないですか。「副業のほうがもうかって、逆にサイボウズを副業にしたいのですけれど」となっても。大事なところは評価です。サイボウズで働いて出すアウトプットに対してどれだけ評価してお金を払うかです。アウトプットが減ってくるのなら給料は減ります。これを減らさずにいるとモラルハザードになっていくのではないでしょうか。
制度策定の軸は「合理性」「メッセージ性」「わびさび」
人事部のミッションは「より多くの人が成長してより長く働く環境を提供する」というものです。ここからはぶれません。人事制度を作るときの軸として「合理性」「メッセージ性」「わびさび」という言葉を使ってコミュニケーションしています。「合理性」は大事です。イメージでは半分以上の制度は「合理性」です。ただ「合理性」だけでは人事制度はうまくいきません。3割ぐらいはメッセージ性をもつ制度でもいいのではないでしょうか。例えば育児休暇を6年まで取ってもいいという制度。なんで6年かというとそこに合理性はないです。制度を決めたときに6年が日本企業の中で1番長かったからなのです。それだけ「戻って来て欲しい」「君と一緒に働きたい」というメッセージです。変わった制度であればあるほどメッセージが強く伝わります。
1割は「わびさび」です。これがないと感情的に受け入れられないという制度です。例えば通勤交通費。合理的に考えれば、家が遠いことと報酬は関係ないはずです。だからといって、通勤交通費は給料に含まれていますとすると「この会社ケチや」と思うでしょう。理屈はわかっていても感情的には受け入れにくいのではないでしょうか。永続的な成長を目指し、生産性の向上につながってこそ制度が継続できる。この大前提を社員に伝えることが大事です。
理想は100人いたら100通りの人事制度
これからは環境が変化してそれぞれの「個」がどう頑張っていくかにスポットが当たります。一言で言えば「価値観の多様化」とか「ダイバーシティ」です。「やりたいこと」というのが基本的にはモチベーションになります。ただ会社の中では「やるべきこと」で「できること」を実行して初めて仕事が成り立つわけです。これが商売の2点セットです。ここに「やりたいこと」が重なれば最高です。ハッピーセットです。
選択肢の増加は自分がこれを選んだという主体性につながります。この主体性がやる気でありモチベーションの源泉ではないでしょうか。そもそもみんな働くために生きているわけじゃないですよね。生きるために働くわけです。ライフがあってワークがある。1人1人にライフスタイルがある。つまりいろんな選択肢が必要なのです。理想は100人いたら100通りの人事制度です。「そんなの無理」と思うかもしれないですけれども、自分のやりたい形でオーダーメイドされた人事制度、報酬制度、働き方があったら、みなさんだって選びたいですよね? 1万人いて1つの人事制度なんて僕はおかしいと思うのです。少なくとも働き方を3つ、4つぐらいは用意します。人事制度は変えようとするから大変だと思うのであり、増やせばいいのです。ターゲットを決め、こういう人にこの制度というふうに。
「イキイキ」とか「ワクワク」という言葉も使われますけども、僕は「イキイキ」には、主体性と「あなたが必要だ」と思われている環境が必要と思うのです。「ワクワク」は、理想に対する変化、つまり成長を実感できる環境でちょっとした安心感があるのが大事かと思います。夢や理想だけで安心感がないと「ドキドキ」になります。では「サイボウズはちゃんとやれているのか?」と思いますよね。全然できていないです。「なんで私はこんな評価なのですか?」と不満みたいなものはあります。それに対しては方針や基準、そのように決めた背景を説明することで納得感を得られるようにしています。
資本ではなく「理想」でつながる「独立支援制度」
いま考えている課題は、高齢者をどう雇用していくかです。サイボウズに高齢者はいませんが、これから出ます。そのときのために考えているのは「独立支援制度」です。ずっと同じ会社に閉じ込めてお給料を払うことだけが雇用を守る手段とは思いません。1人で働けるようになる、自分で商売ができるようちゃんと道筋をつけノウハウを渡していくことも雇用を守る手段ではないでしょうか。独立後もサイボウズの商売とつながるなら会社としてもハッピーです。社員にとっても選択肢が増えるし自由が得られる。「お金を渡すから自分でやれよ」ではなく、ある程度の支援をします。失敗したら戻ってきていいとか、サイボウズのブランドを使っていいとか、経理や法務を受けてあげますとか。こういう制度が必要になってくるのではと検討しています。独立支援は「子会社」として資本でつなぐのではなく「理想」でつなぎたいです。「それぞれのやり方でサイボウズの夢を一緒に実現したい」そんな感じの「理想」や「志」でつながるチームをこれからのチームとして目指します。
サイボウズが目指すソーシャルチームワークとは場所や働き方が自由な適度な距離感のチームです。同じ場所で、同じ時間に、同じ価値観で働かないとダメというのはもう古い。くっつきたいときはくっついて、離れたいときは離れる。そして、また近づくときもある。個人が自分の意志で自由に働いて、世界一チームワークのよいチームとなる。サイボウズは、そんなチームを目指しています。ご清聴ありがとうございました。
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編集
渡辺 清美
PR会社を経てサイボウズには2001年に入社。マーケティング部で広告宣伝、営業部で顧客対応、経営管理部門で、広報IRを担当後、育児休暇を取得。復帰後は、企業広報やブランディング、NPO支援を担当。サイボウズ式では主にワークスタイル関連の記事やイベント企画を担当している。