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「満ちても欠けても」──techな人にお勧めする「意外」な一冊(12)
tech@サイボウズ式のアドベントカレンダー企画、techな人にお勧めする「意外」な一冊の12日目。 サイボウズ・ラボの 中島 薫さんのお勧めは「満ちても欠けても」(水谷フーカ、講談社)です。(編集部)
文:中島 薫
「意外な一冊」ですか……、というわけで、なんでココでコレという一冊を(単に個人的な一押しとも言う)。こんにちは、サイボウズ・ラボ中島です。
わたくし、これまでの人生で縁あって、雑誌の編集部で打ち合わせ、ラジオの生収録スタジオ、TV番組の制作会議、にそれぞれ参加(同席)させていただいたことがあるのですが、いずれの現場にも共通しているなと感じたのは、携わる人達の鋭い洞察力と、限られた時間内で問題を洗い出し決断して解決していく決定力の高さです。
TVのディレクターとADさん達のやり取りに至ってはもう完全に異次元で、「これはこうだよね、じゃあこうしよう、Aさんはこれやっといて、Bさんはこれ調べて、で次は……」ぐらいのペースの早口で物事が決まっていくのは、かつて18カ月スパンでパッケージソフトを開発してた自分の世界観からは衝撃的な光景でした。
一週間とか一カ月とかの単位で高い水準のコンテンツを提供し続けなくてはいけない世界の人々は、世間とは全く違った時間の流れの中で生きているのだな、と(その一方で、常に時間との戦いで速断を迫られる世界だからこそ、昨今のやらせ問題のような強引な番組作りも生まれてしまうわけですが、それはさておき)。
「満ちても欠けても」はそんなラジオ局の制作サイドの一面を見せてくれる、いわゆるカルチャー物のコミックスです。
はい、そこ! 今、「ラジオなんて……」と思いましたか? 思いましたね? まぁ、でも読んでみてくださいよ。読後にちょっとラジオ聞きたくなることは 請け合いますから。
お話は、深夜番組「ミッドナイトムーン」の制作チームの面々を中心に、ラジオ雛菊(JOKS/AM1431)という小さなラジオ局の人々が人間味豊かに描かれていきます。
ラジオという「音だけ」の媒体で、何をどうすれば気持ちを、面白さを伝えることができるのか、作り手はどのような思いとどのような現場で番組を制作しているのか。IT産業でインターネットにべったりと依存して、見たいものが、即・今・目の前に見える、というのがあたりまえな日常を送っていると、想像することさえも難しくなってしまいそうな、そんな世界を様々なエピソードの一部として垣間見させてくれます。
ラジオの世界というのは、自分の印象でも本当にコンパクトかつスピーディー、そしてリスナーと近い世界で作られていて、うんうんそうそう、と頷かせられる部分があちこちにありました。
そして、ざっくりとしたカテゴリーで言ってしまえば「ちはや」や「のだめ」と同じあたりなのですが、ああいう押しの強さではなく、さりとて男性誌のキャラ萌えや緻密さの世界とも違う、ふわりとしつつも大人な感じという水谷フーカ作品の独特なテイストがツボにハマればさらに楽しめるでしょう。
なんか、小難しく書きましたが、基本、誰が読んでもさらりと読むことができる内容で、物語としての面白さと絶妙なリアリティが、単なる職業紹介マンガを超えたレベルで楽しめる、面白いマンガをお探しの向きには、ぜひおすすめしたい一作だと思います。
ちなみに、既刊は「1巻」のみで、現在連載が続いていますが、この巻のみでもある程度まとまった所でキリが付いているので、読み切り感覚で手にとっても支障ないかと思います。そして一緒にジリジリと続巻を待ちましょう。(了)
中島 薫さんのプロフィール:
高専卒、外資、日本企業、未踏創造事業などを経て現在はサイボウズ・ラボに所属するプログラマ。主にWindows関連を中心にMS系プラットフォーム向けの研究開発に携わる。個人名義ではWindows Phoneアプリ「食べログStreetWalker」、 Windowsストアアプリ「NatehaR」等を公開中。
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