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「Martin Gardner's Mathematical Games [CD-ROM]」──techな人にお勧めする「意外」な一冊(17)
tech@サイボウズ式のアドベントカレンダー企画、techな人にお勧めする「意外」な一冊の17日目。竹内郁雄先生のお勧めは「Martin Gardner's Mathematical Games [CD-ROM]」(Martin Gardner、Mathematical Association of America)。竹内郁雄先生のお名前を初めて目にしたのは「GNU Emacsマニュアル」(共立出版)の翻訳者としてでした。大型汎用機の窮屈な世界から来たばかりだった私は、Emacsの高機能さに興奮するとともに、GNUの考え方に衝撃を受けたのでした。その後、ダイアログ形式で進める連載を手伝うことになり、その参考にと手に取ったのが「初めての人のためのLisp」(竹内郁雄、サイエンス社)でした。そんな私が、いまや竹内郁雄先生の連載担当。感慨もひとしおなのです。(編集部・風穴)
文:竹内 郁雄
Martin Gardner's Mathematical Games [CD-ROM]
マーチン・ガードナー(1914~2010)は「Scientific American」(日本語版は「日経サイエンス」)に1956年から25年間「数学ゲーム」のコラムを連載し続けた人である。私は1970年ごろから、このコラムだけは毎月欠かさず読んでいたと思う。パズルではほかにもデュードニー、サム・ロイドなどの大家がいるが、ガードナーには、なんともいえない深みがある。ときどきやけに哲学的だったり、文学的だったりするのだ。2013年になって「Undiluted Hocus-Pocus、 The Autobiography of Martin Gardner」(Princeton University Press)が出版された(Kindleでも買える)。とある事情でこれを超斜め読みしたのだが、彼はもともと哲学を学んだ人で、神の存在について考察することが彼の生涯を通しての最大の関心事だった。つまり、彼は数学者ではなかった。数学者でないからこそ、かなり高度な数学的な話題を、噛み砕いて、噛み砕いて紹介することに成功したのだろう。それにしても、そんなガードナーによって世に知らしめられた話題の豊富さには感歎せざるを得ない(Conwayのライフゲームはその1つ)。
彼のこの膨大な「数学ゲーム」コラムが集大成されたものはないのだろうかと思って真面目に検索したら引っかかってきたのがこの本というか、CD-ROMである。米国のいろいろな出版社から「数学ゲーム」を20編ほどずつ(追記を含めて)まとめた小さなペーパーバックが15冊出版されており、それらを全部まとめたのがこのCD-ROMである。紙のページで4500ページにもなる。上記のWebページを見ると、まとめただけでなく、検索可能になっているのが売りとある。これはファンにとっては本当に重要だ。ガードナーのコラムのような多彩多様な内容で4500ページもあるものが検索できるというだけで素晴らしい価値がある。
で、早速Amazon.comに注文。すると配送に1カ月半以上かかるとメールが来た。高速便にすればと思ったが手遅れ。しかし、実は1週間で届いたのであった。ちなみに私が注文したときは66.45ドルだったのが、その1週間後には51.94ドルに値下がりしていた。2005年出版の古いものなので、このまさに1週間にどんな突然があったのかと思ってしまう。まさか、私が購入したおかげで仕入れ原価の高いものが在庫一掃したとか……。
届いたものを見ると、これは元祖「自炊」といえる作りだった。紙の本を丁寧にスキャンしてpdfにしたものらしい。閲覧用にAdobe Acrobat 6.0 Readerがついている。2005年だけにちょっと古い。また検索はCD-ROMが対象なので、いちいちCD-ROMを持ち歩くのが面倒。というわけで、少しWebを調べ回ったら、以下のようなページが見つかった。
Gardner Index
http://www.ms.uky.edu/~lee/ma502/gardner5/gardner5.html
CD-ROMと本の番号が一部ずれているところがあるが、どの本の第何章ということが、1500個ぐらいキーワードから引けるようになっている。たとえば、
continuum hypothesis, G7 3; G10 4(G7とかG10は本の番号)
という具合だ。これだったら、CD-ROMのコンテンツ(正味は361MB)を自分の各種のPCやタブレットに入れておけば、簡単に所望のコラムにたどりつける。でも、どうせなら、CD-ROMと同様、所望のコラムのページがキーワードから直接開ければいいなという気分になる。ならば、上記のhtmlの「G7 3」とか、「G10 4」をクリックして、そうなるようにすればいい。
幸い、pdfファイルの特定ページにリンクすることができるらしいので、早速やってみた。Emacsのキーボードマクロでちょいちょいかなと思ったが、結構時間がかかる。やっぱ、これはちゃんと元のhtmlから大量のアンカーつきのhtmlに半自動変換するプログラムをつくったほうがいい。半自動にならざるを得ないのは、pdfの中の目次で参照されているページと、pdfの実際のページの対照表(300アイテムほど)は手作業でデータをつくらないといけない、などの理由である。
作業のプログラムは上記のデータを含めてLispで80行足らず。Emacsキーボードマクロでやるよりトータルで1桁以上変換時間を短縮できた。本来は2桁以上なのだが、使うべき文字列処理関数を思い出すのに時間がかかってしまった。ああ、歳だ。
というわけで、買った「本(?)を読む(?)」ために、プログラムをつくったというところが、少なくとも私には初めての経験だったので紹介した。しかし、それとは関係なく、ガードナーの「数学ゲーム」は私が絶対の太鼓判と言っていいほどのお勧めである。不肖の私も連載時にごく一部のコラムを翻訳したことがある。コラム全部ではないが、日経サイエンス社から翻訳が別冊として出ている(編集注:「別冊176 マーチン・ガードナーの数学ゲームⅠ 新装版」「別冊182 マーチン・ガードナーの数学ゲームII 新装版」「別冊190 マーチン・ガードナーの数学ゲームⅢ 新装版」)ので、頭を活性化するためにぜひ読んでいただきたい。(了)
竹内郁雄先生のプロフィール:
フルート練習家/チェロ入門家/東京大学名誉教授/未踏統括PM
1946年、富山県生まれ。1971年にNTT研究所に入所して以来、人工知能をかじったりしていたが、プログラミング言語、中でもLispとその処理系の開発にはまってしまい、通常のプログラミング言語には不自由な人となってしまった。しかし、そのせいか、プログラミング以外のことにもいろいろ首を突っ込むことになってしまい、今日のような肩書きになった。NTT研究所のあとは、電気通信大学、東京大学、早稲田大学と歴任。また、IPAの未踏IT人材発掘・育成事業の始まりから、プロジェクトマネージャ(PM)として参画している。
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