なぜサイボウズは働く「時間」と「場所」の制約をなくせたのか?(後編) -変革のカギは社員の自立-
コクヨ株式会社の「近未来の働き方、学び方」を研究する組織「WORKSIGHT LAB.」が、2012年12月10日に「『縁』を広げて企業競争力を高める!~クラウド&ソーシャル時代の働き方と働く環境~」と題し、渋谷ヒカリエでセミナーイベントを開催。 サイボウズ社長 青野慶久が社員の自立性を高めチームで成果を上げていく働き方をテーマに、サイボウズ“式”の働き方と企業文化を語った。 前編では、多様な働き方を受け入れるにいたった経緯や主な制度を紹介。後編では、制度を正しく利用するために大事にしている企業文化の育て方や、試験運用中の「時間」と「場所」の制約のない「ウルトラワーク」という働き方、変革への思いを紹介する。
多様な働き方は、オープンな文化があってこそ
多様な働き方をするのに必須になるのは「公明正大」の文化です。「公の場で明るみに出ても、正しいと大きな声で言えること」、これはサイボウズで一番重要な行動規範です。
サイボウズが月一回行っている全社ミーティング「Monthly Message Meeting(3M)」を、「公明正大」の代表例として紹介。ビデオ会議システムを使って拠点間も結んでいる。
売上げや経費の細かいところまで、見てもらっています。経営がごまかしをするのはおかしいと示したい。
サイボウズの社員が毎朝グループウェアにログインして最初に表示される画面には、「スッキリQ&A」と名付けられたデータベースがあります。会社に対する小さなことから大きなことまで、違和感を覚えたらここに書き込みます。内容がどうとかは問題ではない。違和感を持っている人、持っていない人それぞれが表に意見を出すことが大事だと思っています。
「議論から逃げるな!」求められる「説明責任」と「質問責任」
2つ目は「自立と議論の文化」です。
いろんな人がいろんな考えをもっていると、表に出てきたときに、当然違和感を持つわけです。衝突が起きたときは議論をしないといけない。そこで、コンサルタントのような議論のスキルを社内研修で教えています。「理想と現実」、「事実と解釈」を分けて議論しましょうと。問題解決のフレームワークで議論すれば一応噛み合います。
また社員には、「議論から逃げるな」と言っています。これは「説明責任・質問責任」という考え方です。会社の中で違和感があった場合は、質問しなければならない。質問を受けた担当者は、説明する義務がある。質問する人と説明する人は対等です。
サイボウズの人事制度は、自分たちで作る。昔は人事が制度を考えて提案、実施していたのですけど、今は社員が出しています。「なんでこういう制度がないのですか」と。在宅勤務制度もその一つでした。
まずリーダーが実行する
ルールを決めた後は、リーダーが率先して実行しないと、皆ついていきません。サイボウズでは「率先垂範」の文化を大事にしています。私自身がやったことは子供が生まれて育児休暇をとることでした。
一人目のときは2週間、育児休暇をとりましたが“なんちゃってイクメン”でした。二人目の子供が生まれたときは半年間、水曜日を育児デーとし、出社しないことを徹底しました。普段も早朝や夜に家事・育児をする、保育園にも送るという“リアルイクメン”になりました。 この影響もあるのか、社内の雰囲気も変化し、育児休暇に関心をもつ男性社員も増えました。
育児休暇を通して育児の大切さに気付きました。この国がなぜヘタリ続けているのか、多分、一番の問題は少子高齢化です。人口が逆ピラミッドなのです。出生率が2(※)まで回復しないと、バランスのいい社会にならないと気がつきました。 (※厚生労働省の調査では2012年6月時点での日本の出生率は1.39)
「ルール」は「目的」への共感とセットで伝える
ルールもいいですが大事なのは目的です。サイボウズでは「ルールより目的」の文化を大事にしています。ルールを悪用しようと思えばできるし、そもそもの目的を理解しないと良い効果は得られません。信号と同じです。なんのために信号があるのか。安全にスムーズに人を移動させるためですよね。
ルールを作ったら目的をセットで伝えないといけない。目的に共感できるようにしています。
今、「ウルトラワーク」という新しい働き方を試験導入しています。働く「場所」だけでなく「時間」の制限もなくしています。「スギ花粉が辛いため自宅で働きます」「通勤ラッシュが大変なので時間をずらします」など。しかし、単に便利な制度に留めるのではなく、生産性の向上を目的としていると理解して使って欲しい。「朝9時から18時まで会社にいるよりも、生産性が上がると感じたら行使してください」と伝えています。
ウルトラワークは、会社都合と個人都合が交わったところで行うべきです。バランスが大事です。会社都合だけでは楽しくないし、個人都合に偏ると会社の業績が悪くなったときには制度をやめないといけなくなる。
ワークスタイル変革がもたらすこと
そんな働き方を推進しているサイボウズですが、ここ4年は売上がほぼ横ばいで褒められたものでもありません。ただ私の中ではイノベーションを生む下地ができていると感じています。
私たちは、2011年からクラウドサービスの提供を開始しました。社員にインフラをやりたいという人がいたので、基盤から構築しました。3年間で、総額20億円ほどを投資した結果、強固なインフラが構築できました。
これまで進めてきた多様化がうまく機能して、結果も徐々に出ています。後は、維持、向上させられるかどうかです。
ワークスタイルについて一番大事なのは制度ではない、ツールでもない、オフィス環境でもない。それらは手段であって目的ではない。もっと大事なのは、会社が何をしたいのか、どんな文化を重んじているのかです。
必要がなければ、ワークスタイルを変革しなくてもいい。しかし、サイボウズにはする必要がありました。働き方の多様化をやるしか方法がなかった。そのために必要な文化、ツールを揃えていった。そう考えています。
そもそも職場は、多様な人たちの集まり
多様な働き方を認めれば、皆がクリエイティブになりますよというのは違和感があります。
僕が実際に感じているのは、集まっている人自体がそもそも多様だということです。みんな顔も考え方も違うのです。これまでは多様な人たちを同じルールに押し込めていたから多様に見えなかっただけです。
多様な人たちに自由を与えると、多様な人たちのクリエイティビティが引き出せます。あなたはどういう風に働きたいですかと聞いて実現すれば、結果的に多様になります。
今、日本の閉塞感は続いています。まさに考え方、働き方を変えるべき時期に入ってきているのではないでしょうか。私自身は中途半端な世代で、バブル崩壊直後の1994年に社会に出ました。大学時代に右肩上がりの経済を味わい、入社したら、ずっと同じ会社で働くものだと思っていました。男性は会社に専念して女性に家を守ってもらうというのも、心の中のどこかで思っていました。
でも、これを変えないとこの国の閉塞感を払拭できません。私たちサイボウズはチャレンジします。皆様とぜひ一緒に日本を変えていけたらと思います。
関連リンク: なぜサイボウズは、働く時間と場所の制約をなくせたのか? <前編> WORKSIGHT「グループウェアで世界一になる」すべての制度はその理想のためにある
写真撮影 :橋本 直己 取材協力 :山川 譲
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撮影・イラスト
編集
渡辺 清美
PR会社を経てサイボウズには2001年に入社。マーケティング部で広告宣伝、営業部で顧客対応、経営管理部門で、広報IRを担当後、育児休暇を取得。復帰後は、企業広報やブランディング、NPO支援を担当。サイボウズ式では主にワークスタイル関連の記事やイベント企画を担当している。