あのチームのコラボ術
経営学の権威が認めた“変わり者”の働きかた──ほぼ日手帳チームのこだわりとは?(後編)
人気商品を作り出すチームワークの源泉を見つける本コーナー。今回は、持っているだけでもワクワクしてしまうシステム手帳「ほぼ日手帳」商品企画チームの後編だ。前編では「ほぼ日手帳」チーム詳細や製作プロセスを紹介。アイデアを徹底的に掘り下げることで誰もが“おもしろい”と感じる商品を生み出す。
「ほぼ日手帳とは自分の分身のようなもの」、そう語ったのはほぼ日手帳チームの齋藤正輝氏。後編は手帳チームのリーダー棟廣祐一氏、齋藤氏に東京糸井重里事務所の情報共有の方法、独自のワークスタイルポリシー、昨年受賞したポーター賞についてお話を伺った。
デジタルを“アナログ”に使いこなす“ほぼ日”の情報共有
糸井事務所ではどのように情報共有を行っていますか?
大槻
「ほぼ日ホワイトボードカレンダー」とグループウェアは「サイボウズ Office」、そしてEメールを使っています。カレンダーは商品などの担当グループ毎に、予定や掲載コンテンツを書いたりしています。サイボウズにはそのほかの予定やプライベートなこともすべて入力。Eメールはこまかいことを共有する感じで使っています。
「サイボーする」って一般的ですか?弊社では、サイボウズに入力することを「サイボーした」と言っているんですけど、ほぼ日手帳の進行情報のほか、プライベートでゴミを捨てることとかまでサイボーしています(笑)。
「サイボウズ入れといて」は聞いたことがありますが、「サイボーする」は初めてです(笑)。“つぶやく”感覚のEメールとは具体的には?
大槻
ちょっとしたアイデアや、おもしろいネタを見つけた時もメールで送る。ccで届いたメールもすべて目を通すのが弊社のルール。チーム、全社、読者などメーリングリストで細かく分けられています。それぞれの件名に“□”や“△”の記号を付けて件名を見ただけで大まかな内容が分かるようになっています。その振り分けフォルダを設定するのが、入社して最初に教わることでした。
メールでアイデアを作り上げていくこともありますか?
大槻
基本的には、アイデアを送っておいて、あとは会議で詰めていくことのほうが多いです。デジタルを使っているようで、使い方はアナログかもしれません(笑)。デジタル上で完結させるより、目の前にいるなら話してしまったほうが早いです。
対外的なコミュニケーションはどのように行っていますか?
大槻
去年からほぼ日手帳の交流のためにFacebookを始めました。以前はほぼ日手帳のサイト内に専用ページを作って、お客様とコミュニケーションしていました。あとは、ロフトさんの店頭で行っているイベント。年に2回ほど糸井と手帳チームがほぼ日手帳を使っている方とお話できる場です。このイベントと同じようにFacebookはお客様から“気付き”をいただけます。また、ほぼ日手帳をみなさんがどのように使っているのか、感想を聞けるとともにみなさんにも共有できる場だと思っています。
ほぼ日手帳は自然とコミュニティを自然に作り出す特徴も持っています。Facebookのほか、Instagramではハッシュタグでお客様自らがコミュニティを作ってくれています。お客様の愛着は僕等の想像を越えており、使っている方同士がヨコで繋がって行っています。
トレンドには乗らない、何事も納得感を持ってから挑戦する印象を抱いていました。Facebookを始められたのは意外だと思っていました。
大槻
手帳チームは新しいサービスに疎い人が多かったので、よく分かっていない部分もあります(笑)。 Facebookは、手帳チームで書き物を担当しているものと経理の、2人でスタートさせました。2人が「やりたい」と動機を持って主導し、最初は1週間限定公開で開始。その後、段々公開期間を延長していきました。まだまだお客様からの反響はEメールで届くことが多い。しかし、Facebookも少しずつコメントの数が増えています。
じっくり検討していたら、多分実現は出来なかったと思います。「やってみないと分からない」 と感じたら、とりあえずやってみてから整理をしていく。もちろん他社様のアカウントやページを覗いて勉強、研究も並行。“自由”だからこそ“動機”が重要です。自由に伴う“責任”を全員が熟知しているのも糸井事務所の魅力ではないでしょうか。
ポーター賞受賞で自分たちの「ありのまま」が自信に
昨年受賞されたポーター賞ですが、そもそも応募された背景や受賞に対する感想をお聞かせいただけますか?
大槻
プロジェクトや部単位の売り上げ目標や経費予算は作成しない、企画書を作らない、井戸端会議が多いなど、私たちにとっては“当たり前”でも、他社にとっては“変わり者”。私たちも日々「本当にこれで良いのだろうか」と疑問を持ちながらやってきたことが、企業の働き方や競争原理を見直すポーター賞で認めていただけたため、自信に繋がりました。
今までは不安を感じていたのですか?
大槻
基本的には“ゆるい”、“自由”な会社なので不安に思うこともあります…今回の受賞は、自分たちの働き方が評価されたことがうれしく感じましたし、間違えていないんだと、自信を持つことができました。自分の仕事のやり方を「正しいですよ」と言われる機会はなかなかありませんから。また、ビジネス誌など、これまでとは違う切り口からの取材が増えた点も嬉しいです。モノづくりの中で、新たな出会いは良いアイデアが出る“きっかけ”にもなります。
応募の発案はCFOの篠田が行いました。「弊社の仕事がどのように捉えられるのか、評価されたら嬉しいな」が動機になり彼女が主導。自分たちの働き方は一風変わっているので「どう伝えるべきか」と非常に悩んでいました。しかし、糸井が「相手の視点に合わせようとするから悩む。うちのやり方をありのまま伝えればそれでいい」と言い、篠田が見て感じたありのままの“東京糸井重里事務所”で応募しました。それが評価された、とても嬉しく思います。
「ありのまま」、つまりは評価基準を相手ではなく自分に定める。自分が「良い」と思うことをしっかり伝えることに集中。それはほぼ日手帳にも通じる魅力なのかもしれませんね。最後に今後の目標、展望をお聞かせいただけますか?
大槻
今後も、多くの方々と出会いたいと考えています。ほぼ日の読者、手帳のユーザーともに毎年平均年齢が1歳ずつ上がっていますので、若い世代とどんどん出会いたい。まだほぼ日手帳の存在を知らないかたも多いのかな?使う習慣が定着していないのかな? いろいろ考えなければいけないことがあります。目標は見えている、だから解決もできるはず。
ほぼ日手帳を楽しんでいただける方はもっとたくさんいると思っています。ほぼ日のWebサイトや商品を通して具体的な提案をしながら、手帳の使いかたの自由さを伝えていきたいです。あとで見返す楽しさも含め、手帳のある生活を今後も提案していきたいと考えています。
写真撮影 :橋本 直己
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