あのチームのコラボ術
グレートリーダーの条件は「フォロワーに恵まれること」――太陽のマテ茶のチーム作り
あのヒット商品は如何にして生まれたか? チームから解明する本コーナー。今回は、2012年3月に登場し、お茶業界に新たなカテゴリを作り出した太陽のマテ茶のチームリーダーにヒット商品を生み出すチーム作りの秘密を伺いました。
ビタミンなどの栄養素を豊富に含み、“飲むサラダ”とも名高いマテ茶は、ブラジルなどの南米を中心に愛されている健康茶。野菜が育ちづらい風土も影響し、マテ茶は地域によっては貴重な栄養摂取資源にもなっているようです。
太陽のマテ茶は、長らく緑茶、紅茶、ウーロン茶、ブレンド茶の4種類がメインだった無糖茶飲料市場に新しいカテゴリを生み出すことにも成功。日本発のブランドとして韓国などグローバルへの展開もスタートしました。
「リーダーにとって最も重要なのは“フォロワー”です。」そう語るのはマテ茶の開発を主導した高木直樹氏。ヒット商品を作り上げたチーム、チームをまとめるためのリーダーの役割などを伺いました。
議論では“笑い”を大切に
太陽のマテ茶が大ヒットしているとお聞きし、取材を依頼いたしました。"マテ茶"については昨年御社が商品を出すまで知らなかったのですが、マテ茶を知った背景、また商品化しようと考えた経緯を教えていただけますか?
椋田
ブラジルに出張した際、あることに気付いたんです。現地のどの料理も「口に合わない」ということがない! これは実はブラジルの人の味覚は、日本人と近いのかもしれないと考えました。ただし、肉中心の料理が多い中で、野菜が意外と少ないんです。 マテ茶はビタミンや鉄、亜鉛を多分に含み、現地では「飲むサラダ」とも呼ばれている。つまりは、不足している野菜を“お茶”で補っていたんですよ。
日本も肉料理が食卓の中心になってきていますので、マテ茶を受け入れる土壌はあったんですね。
椋田
日本人はお茶をよく飲むと言われますが、南米のお茶飲用量は日本人の数倍にも及びます。向こうでは野菜不足を補う意味もあり、マテ茶が日常的に飲まれています。実はこれまでも日本にマテ茶商品はありましたが、定着はしていませんでした。 たとえ受け入れてもらえる土壌があり、商品力が強くても、そのまま市場に投入しただけでは受け入れてもらえない可能性が高いです。異なるアプローチが必要、「挑戦」をしなければなりませんでした。
マテ茶の企画には何名ほどがかかわったんですか?
椋田
全体で70名ほど。30名が製造や味覚設計の部分を担当し、マーケティングコミュニケーションに約40名ですね。全員が専任ではありません。他のプロジェクト、既存商品を見ながらマテ茶も担当しています。
70名のチームメンバーをまとめるのは大変そうですね。
椋田
挑戦を成功にするためにも、メンバーから意見を貰わないといけません。チームメンバーひとり一人がマテ茶に共感し、経営層を納得させる商品を作り上げれば、お客様にもマテ茶の魅力が伝わりますよね。 だから「70名もの知識や経験がマテ茶に盛り込める」と考え、意見を出しやすい環境作りに力を入れました。
「意見を出しやすい」とは具体的には?
椋田
チームには各分野の“プロ”が集まっているので、みんな担当分野の豊富な経験と知識を持っています。だからこそ「失敗しないように」と考え、意見を出してくれますが、リスクだけにフォーカスすれば逃げ場がなくなってしまいます。ジョークを交えたり、意図的に自分を落としたり、“笑い”を起こすことで場の雰囲気をやわらげ、異なる視点で考えるきっかけを作っていました。例えば深刻で難しそうな内容の議論でも “笑い”が起きることで、前向きに考えていくきっかけにもなります。
「笑っている場合じゃない!」と言い出すメンバーはいらっしゃいませんでしたか?
椋田
だからこそ、僕はブランドのコンセプトやブランドの立ち位置を踏まえた味覚設計など、核となる部分を一貫してこだわり抜きました。関係者すべてが「マテ茶にかかわって良かった」と思ってもらいたい気持ちは強かった。 太陽のマテ茶のコンセプトは「ラテン・バイオリズム」。開発する私たちが陽気でなければお客様にマテ茶の魅力も伝わらないですよね(笑)。
グレートリーダーを成立させる“グレートなフォロワー”の存在
高木さんにとって、リーダーとはどのような役割を持つ存在ですか?
椋田
以前、ある経営者が「グレートリーダー」の概念を教えてくれました。「優れた知見や経験を持つ“グレートフォロワー”が集まって、初めてグレートリーダーが生まれる」、つまりはプロジェクトには優れた一人のリーダーではなく、多くの優れたフォロワー(=メンバー)が必要であるということです。この話を聞いて、グレートリーダーはまさに私が求めるリーダー像、マテ茶の開発にぴったりな存在だと思いました。
マテ茶の開発にぴったりとは具体的にどういうことですか?
椋田
私が社内にマテ茶のことを話してから、商品化するまで3年ほどかかっています。その間、さまざまな方にマテ茶の魅力を話し、メンバーに加わっていただきました。 決めるべきところはリーダーの私が決める、あとはメンバーに「かかわると楽しい」と感じてもらい、担当分野を託してしまう。リーダーは、社内のあらゆる権限、役割を持つ方々を巻き込んで、任せてしまうのが“主業務”ではないでしょうか。
確かに商品開発に関してはそういうリーダーがベストかもしれませんね。
椋田
「マテ茶」は日本市場に定着していませんでした。つまりは「前例がない、答えがない」商品です。先鞭を付ける意味でも、いろいろな視点を盛り込み「答え」になる存在にしていく必要があったんです。参加してくれるメンバーは立場や経験が異なります。立場に左右されず忌憚なく意見や力を出して貰うため、グレートリーダーの「リーダーとメンバー(=フォロワー)を対等にとらえる」考え方を取り入れたいと考えていました。
リーダーとフォロワーに壁がなく、お互いがプロジェクト実現に向けて協力し補い合う。「グレートリーダー」の考えは、マテ茶にとって不可欠な考え方でもあったんですね。
椋田
日本コカ・コーラは個人裁量で任せていただける範囲が広いです。一方で、評価は厳しいため、失敗を怖がってしまう可能性が高いです。しかし太陽のマテ茶が目指すのは、陽気でエネルギー溢れる“ラテン・バイオリズム”です。これまで無糖茶飲料全体が押し出していたイメージは“くつろぎ”や“リラックス”でしたし、私たちが“前例”になるためにも枠からはみ出る必要がありました。
答えがない上に枠からはみ出る、商品を自由に作れる反面、やり過ぎてしまう危険性もありますね。
椋田
お客様にひと目で「マテ茶だ」とわかって貰えるパッケージにしたい、味は「また飲みたい」と感じるようにしたい──どちらもやり過ぎると「日常で飲んでもらう」のが難しくなってしまいます。デザイン担当やマーケティング担当、開発担当が出してくれた試作品から、リーダーとしてコンセンサス、バランスの調整も行いました。
伝えたいことは、シンプルに。対面で。
社内での連絡ツールはどのようなものを使っていましたか?
椋田
主にメールでしたが、良い所と悪い所を見定めて使っていました。 誰が読んでも間違いがない、ルーティン的な内容だったらメールは良いのですけど、感想を述べる、課題を解決する際には向いていません。内容によって、会議などのFace to Faceのコミュニケーションも織り交ぜていました。マテ茶に初めて触れた社員でもすぐに魅力がわかるよう、シンプルなメッセージで伝えることにも気をつかっていました。
常にマテ茶を見ているメンバー、そうでないメンバー、混在する中で「シンプルさ」は重要ですね。
椋田
お客様はもちろん、経営層に伝える際にも「一目で魅力がわかる」は重要になりますよね。経営層の決断は「会社の決断」です。リスクや優先順位、味、さまざまな要素に納得いただき、可能性を感じて貰わなければゴーサインは貰えません。説明に長時間を要すこともあれば、一行だけのメールで合意をとることもありました。裏付けを用意することのほか、相手が決断しやすいタイミングを見ることにも力を入れていました。
常に相手の立場を考えて行動していた、ということですね。
椋田
例えば、“味”は非常に感覚的なものです。 個人的な意見もあるし、自分で直に飲んでみて判断するほか、さまざまな担当者、市場リサーチを経て、"商品にする味"を決めていかないといけない。ただ「美味しい」だけでは定着しないかもしれない。完成までにはメンバーのそれぞれの感覚から出てきた意見を集約していきました。 「お客様がどう受け取るか」、引いては「メンバーがどう思うか」を常に念頭に置いて作り上げて行く。その繰り返しが、結果にも繋がったのではないでしょうか。
太陽のマテ茶が大ヒットしたことについて、高木さんの感想は?
椋田
2012年3月に発売し、一年で1億6千本以上を売り上げました。結果、日経トレンディやその他様々な媒体等で2012年のヒット商品にもに選ばれ、無糖茶飲料市場に新たな「マテ茶」カテゴリを生み出すことにも成功しました。そうした成功を背景に、韓国をはじめ世界のコカ・コーラ社で太陽のマテ茶の販売がスタートしました。太陽のマテ茶のふるさとのブラジルという国は、ラテンのノリがあり、陽気な国のイメージが強く、多くの人に愛されています。私もラテン系男子を狙っているんですけど(笑)、太陽のマテ茶をもっともっと多くの皆さんに飲んでいただき、“ラテン気質”を広げていきたいと考えています。
(写真:赤司 聡)
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