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文化としての「ごはんの食べ方」論──コデラ総研 家庭部(22)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(隔週木曜日)の第22回(これまでの連載一覧)。今回のお題は「文化としての「ごはんの食べ方」論」。
文・写真:小寺 信良
僕が小学生のころは、給食の「三角食べ」というのが奨励された。パンと牛乳、おかずを三角形に配置し、右回りで順番に食べるという方法だ。当時はなんでこんなことが決まってるのかなと不思議に思っていたが、後年子供にご飯を食べさせるようになると、このような「順番に食べる」という教育も悪くないと思うようになる。
今小学校では、なるべく順序よく食べるようには指導されるものの、「三角食べ」という言葉で厳しく躾けられるようなことはなくなっているようだ。だが家庭に帰れば子供がおかずばかり食べてお腹いっぱいになってしまい、ご飯(白米)だけ残るといった状況になってしまう。これまで3年ほど順番に食べるよう注意し続けているのだが、未だに定着しない。
元々日本では、ひとつのものばかり食べ続けることを「重ね箸」と言って、行儀が悪いこととされてきた。料理を作る側の理屈としては、おかずは基本的に「メシの種」であり、味付けがどうしても濃くなるので、そればかり食べて終わりにして欲しくないわけだ。トータルで全部食べればバランスは取れるのかもしれないが、最後に白米だけを黙々と食べさせるのは、こちらとしても味気ない。
白米というのは、長時間噛んでいれば、唾液中の酵素の働きで糖に分解されるため、甘く感じる。だがそこまで噛み続ける人も、また少ないだろう。つまり「ご飯がおいしい」とは、白米そのものがおいしいわけではない。白米とおかずが口の中で混ざることで、丁度いい味になる。
このような食べ方を「口内調味」といい、日本人特有のものであると聞く。ただこれは日本の古くからの食伝統であるため、なかなか他国には理解しがたいものであるようだ。
誤解される「口内調味」
口内調味とは、読んで字の通り、口の中で味を調整する食べ方である。例えば焼き魚の身を口に放り込んで、何度か噛む。そして白米を一口食べ、口の中で一緒に混ぜて食べる。飲み込んだら、味噌汁を一口すする。こういった食べ方は、日本人なら普通に行なっていることだ。
世界の食文化を俯瞰的に眺めてみると、食べる前に混ぜる料理はアジア圏に多い。一番混ぜるのは、韓国料理だろう。ビビンバを始め、多くの料理は食べる前によくかき混ぜる。混ぜれば混ぜるほどおいしいとされる。
東南アジア圏で広く食されているカレーは、ライスとルーが別々に出てきたり、1皿の上にライスとルーが分けて盛られたりしてくるが、食べるときには端の方からライスとルーを混ぜて食べていく。これなどは、韓国よりもやや小規模に混ぜていく感じだ。
その対極にあるのが西洋のコース料理で、1品ずつ順番に出てくるため、順番で食べるしかない。もっとも西洋料理がすべてこうというわけではなく、リーズナブルな料理なら1皿にいろいろ盛りつける出し方もあるわけだし、サンドイッチやハンバーガーなど、端から食べていけば結果的に口の中で混ざる料理もある。
日本の食べ方はそれらの中間に位置するもので、おそらく美的な観点も多く含まれているように思う。今でもカレーを食べる前に全部混ぜてしまうような食べ方を巡ってネットで論争が起こったりもしているように、食べる前にすべて混ぜきってしまうという食事法は、日本的な美的感覚に合わない。盛りつけにもひとつの芸術的要素を感じるのだから、それをいきなり全部破壊して食すというのは、作った人に対する敬意もあり、躊躇するところだ。
これは推測にしか過ぎないが、おそらくそういった「心」の問題もあり、口の中でそっと混ぜるという食べ方が産まれたのではないか。日本人なら、そういうこともあるかもしれないと納得して貰える論かなぁと思う。
だが最近の論調では、口内調味は分が悪いようだ。いろんなものを一緒に口に入れるのは行儀が悪いと考える人も出てきた。口の中のものを味噌汁で流し込むような食べ方は良くないとする人もいる。
いやそれは僕もダメだろうと思う。そのような食べ方は、そもそも口内調味という方法論に入れてはいけないのである。元々は白米をおいしく、行儀良く食べることを目的として産まれた食べ方だったはずだ。
そう考えるとオマエのところは子供の躾けがちゃんとできてないじゃないかと言われるかもしれないが、いやまったくその通りで、だから現在苦戦中なわけである。ただご飯のお供と言われるノリや明太子のようなものの食べ方は最近わかってきたようなので、そっち方面からなんとかうまいこと教えられないかなぁと思っているところである。(了)
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