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籾殻まで全部使う──コデラ総研 家庭部(26)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(隔週木曜日)の第26回(これまでの連載一覧)。今回のお題は「籾殻まで全部使う」。
文・写真:小寺 信良
前回でとうとう籾から精米し、白米を食べるところまで到達した。これでこの話は終わりだと思われたかもしれないがさにあらず、もうちょっと続くのである。
籾を玄米にすると、大量の籾殻が出る。その量7kg。元々の籾の重量からすれば、およそ30%に相当する。ただしその嵩(カサ)だけ見れば、ほぼ元の籾と同じぐらいの体積となる。米1粒に対して、小さな船のような形の籾殻が2つ。中身は空っぽだが、形が潰れないのだ。
籾殻なら植物の枯れたものなんだから、土に撒けば肥料になるだろうと安易に考えてはいけない。籾殻は数年放置しても変わらないほど腐りにくいため、そのまま撒いても肥料にはならない。むしろ船型の凹んだところに水が溜まり、その水のほうが先に腐るので、植物にとっては悪影響が出るという人もあるほどだ。
したがってそのままの利用方法としては、土に混ぜ込んで土壌改良として使うとか、昔はリンゴの運搬用緩衝材としてリンゴ箱に山盛り入っていたりしたものである。もし肥料として使うなら、いったん焼却してその灰を使うしかないという。
精米していただいたヨシクニ米殻のご主人からは「籾殻どうしますか、こちらで処分しますか?」とおっしゃっていただいたのだが、実はある計画があって全部持ち替えることにしたのだった。
その計画とは、籾殻でまくらを作ることだ。そば殻でまくらができるぐらいだから、籾殻でもできるだろう。そう考えて調べたところ、昔は籾殻のまくらというのもあったそうである。ただ現在は、市販品ではほとんど存在しない。なぜ廃れたのかは分からないが、そういうものがあったことは事実のようだ。
ヨシクニ米殻のご主人に伺ったところ、もしまくらを作るのであれば、いったんビニールに入れてからのほうがいい、とアドバイスを頂いた。そうしないと、布地を突き破って籾殻の先端が出てきて、チクチクするそうである。
だがビニールで覆ってしまっては、通気性的には台無しである。なんとかそのまま入れて作れないものか。
超簡単! 籾殻まくら
そもそも裁縫の腕も大したことないので、なんとか楽してまくらを作る方法はないかと考えたところ、市販品のまくらの中身だけ抜いて差し替えれば早いのでは、と思い立った。
さっそく駅前のニトリにて、1個480円のまくらを購入(写真1)。布地がポリエステルなので目が細かく、これなら容易に籾殻が刺さりそうにない。さらにまくらカバーも付けて二重化すれば大丈夫なんじゃないかと思い、カバーも一緒に購入した。
さっそく短辺の糸をほどいて、中身を取り出す。安いだけあって、中身は普通のポリエステル綿である。取り出すと膨れて、40Lのゴミ袋いっぱいまで膨張する量だ。
このまくらの中に、籾殻を流し込む(写真2)。7kgの半分程度で、そこそこの膨らみとなった。ほどいたところを縫わなければならないわけだが、それも面倒なので、ワッペンの貼り付けなどにつかう両面接着シートを使って貼り付けることにした。これは糊が仕込まれたテープで、アイロンで熱を加えると糊が溶け、接着できる。糸がほつれないよう、ほどいた部分も一緒に巻き込みながら接着した(写真3)。
逆さまにして振ったりしてみたが、きっちりくっついているようだ。まくらカバーを被せて、さっそく使ってみた(写真4)。
籾殻を手で握った感触と比較すると、想像以上に堅い。形は自在に変えられるし、頭を乗せてもその形をキープするのだが、クッション性はあまり感じられない。柔らかいまくらが好みの人には、違和感があるだろう。
一方通気性は非常によく、サラサラとした音も心地よい。僕と娘のぶんと2個作ったのだが、娘にも好評である。そば殻のまくらは、中に虫が湧く恐れがあるため1年程度しか保たないと言われているが、籾殻はその殺菌性を考えると、もう少し寿命は長そうである。ただ、汚れても丸洗いできるわけではないので、定期的に作り替える必要はあるだろう。
大量に籾があれば、そこから出るものも大量なので、いろいろなものができる。玄米から精米する際にできる大量の米ぬかも、ぬか床に活用できるはずだ。ただ僕がぬか漬け嫌いなので、そこはやる気はないだけである。
米のことを知ると、日本の文化が見えてくる。いや知識として見えるだけでなく、触ることができたような気がする。(了)
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