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「資格試験」はなぜ古臭くなってしまうのか?──エンジニアにとっての「資格試験」を考える(2)
サイボウズ・ラボの西尾 泰和さんが「エンジニアの学び方」について探求していく連載の第11回(毎週火曜日に掲載、火曜日がお休みの場合は翌日、これまでの連載一覧)。
今回のテーマも「資格試験」です。
本連載は、「WEB+DB PRESS Vol.80」(2014年4月24日発売)に執筆した「エンジニアの学び方──効率的に知識を得て,成果に結び付ける」の続編です。(編集部)
前回は大手ITベンダーにお勤めのAさん(仮名)にお話を伺いました。今回は、アニメーション制作会社システム管理者のおおつねまさふみさんにお話を伺いました。
おおつねさん、「基本情報処理の資格を取るために勉強することに価値がない、もしくはもっと良い方法があるのでそちらに時間を投資すべき」とお考えでしょうか?
情報処理資格については持っていないので直接の評価はできない。似た資格として、民間のJAGATのDTP資格というのがあって、それについてはプロの間では「現状の手法の変化についていけてない」などのデメリットの指摘がある。「取ってもいいけど資格としての判断基準や勉強のきっかけとしては非効率だよね」という意見。
古い手法に偏った試験内容になっていて、新しいことがカバーされていない、ということですか?
その通り。
もっと効率の良い方法としては例えばどういうものがありますか?
例えばアニメーターで新人の特性を見るときには、資格試験で実用になるものは現状ないので、しばらく実務をやらせて判断するしかない。絵を1枚書かせてすごく苦手かどうかを見る程度。つまり、実務をさせることが最大効率だと考えている。
なるほど。実務をさせて、そこから足りないところ必要なところを補っていくわけですか。もし最新の手法もカバーしている「陳腐化してない資格」があったとしたら、それを受けることは良いことだと思いますか?
多少の古さがあっても、8割ぐらい外してないなという実感があればそういう資格試験を受けるのは効率的だと思う。
なるほど。でも資格試験を受けようかどうか悩んでいる人には、その資格が「外してない」かどうか判断することができないですよね。
まぁ確かに現場の人に資格試験を見せて聞くぐらいしか確認する方法がないな。あと現場のやり方が会社によってバラバラだと評価もバラバラになる。
価値があると思うかどうかは会社によっても違うということですか。
アニメーションスタジオだと人材のやりとりも流動性がかなり高いので、手法はどこでもほぼ同じだけど、ゲーム開発やウェブサービスだと、手法の違いが結構ある。会社が変わるとツールや手法が異なるので知識や経験が生かされない。
なるほど。そういう会社によってやり方が異なる状況で「その会社のやり方」を効率よく学ぶためには、実務から学ぶのが効率が良さそうですね。でも一方で、学ぶ側の人には「この知識は会社が変わったら陳腐化してしまうのではないか」という不安を感じる人もいるように思います。
まったく同意。資格試験に感じるなんだかな感には、どの会社でも共通する基本を試験問題にしようと頑張って、かえって曖昧な古臭いことしか試験になっていないという感覚もある。
なるほど。
「陳腐化した資格はとっても意味がない。陳腐化してない資格なら受けることは効率的。でも陳腐化しているかどうかの判断は難しい」という話でした。人材の流動性が影響してくるという視点はとても興味深いです。流動性が低いほど、会社ごとに必要な知識に差が出てきて、結果として資格試験で共通のことを学ぶよりも、実務で実際に必要なことを学ぶことが有用になるようです。
前回のAさんのケースでは、実務に直結した知識は新人研修で教えていて、そこで教わらない普遍的な「基礎」を学ぶために資格試験を使っているとのお話でした。この2つの意見は同じ現象を別の視点から見ているように思います。
Twitterでの反響で「Webやモバイルなどの変化の激しい業界ではどうなのだろう」という疑問がありました。そこで次回はWebとも関わっている、変化の激しいセキュリティ業界で活躍されているはせがわようすけさんにお話を伺います。(つづく)
「これを知りたい!」や「これはどう思うか?」などのご質問、ご相談を受け付けています。筆者、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
謝辞:
◎Web+DB Press編集部(技術評論社)のご厚意により、本連載のタイトルを「続・エンジニアの学び方」とさせていただきました。ありがとうございました。
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