tech
スーパーの袋詰め理論──コデラ総研 家庭部(35)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(隔週木曜日)の第35回(これまでの連載一覧)。今回のお題は「スーパーの袋詰め理論」。
文・写真:小寺 信良
別に家事をやらなくても、誰しもスーパーで買い物ぐらいはしたことがあるだろう。だが、自分の食うものをちょこっと買うのと、家族の分の買い出しでは、質、量ともにレベルが違う。
スーパーの利用方法は、その地域ごとにまちまちだ。近所に地元スーパーがある場合は、コマゴマと買いに行けば済むことだが、近所に気の利いたスーパーがないと、週末に車で大型スーパーまで買い出しに行き、1週間から2週間分の食材を一気買いすることになる。
僕はこれまで、いわゆる「郊外」に住んだことがないので、たいていは近所にスーパーがあった。今も自転車で2分ぐらいのところに大きなスーパーがあるので、それほどまとめ買いをしなくても済んでいる。そうは言っても、たくさんの食材を痛めずにうちまで持って帰れるようになるまで、いろいろと試行錯誤した。
スーパーの袋詰めの方法論に関しては、それぞれがそれぞれの理屈で創意工夫していることだろう。何が正しくて、何が正しくないのか、基準はあってないようなものだが、そもそも誰からも教わることのないスーパーの袋詰めの方法論について、考えてみたい。
食材を一定のスペースに積載する方法としてもっとも参考になるのは、レジで店員さんがカゴに入れ直してくれるやり方だ。重いものや壊れにくい箱ものは下に、柔らかいものや軽いものは上に、というのが基本セオリーだ。
本当はこれをそのまま袋に入れればいいわけだが、自分で袋に入れる場合は上から取っていくことになるので、入れ替えていく過程で上下が逆になる。このあたりのイケてなさに関しては、もう21世紀が始まって15年も経つのに、まったく上手い方法が確立されていない。人類の進歩があきらかに減速しているのを感じる瞬間だ。しょうがないので、いつも上に載っている軽いものをいったん取り出して袋詰め台の上に展開し、重いものから袋詰めしていくことになる。
3層で強度設計
袋詰めは、いつも大きく3層に分けるイメージで入れている。一番下の第1層は土台、第2層はやや丈夫なものか、多少押されても影響のないもの、最上の第3層は押されるとダメージを食らう柔らかいものだ。
重いもの、堅いものの代表格は、ペットボトル飲料だろう。こういう長ものは、立てて入れると途中で倒れて中のものを圧迫するので、一番下に土台として横倒しにする。2Lのものを2本ぐらい入れると、袋はその底面積をベースに垂直に立ちあがる箱状となる。その箱の姿をイメージしながら、他のものを上に積んでいく。
ここで忘れてはならないのが、長ネギだ。これは底から垂直に立てないと、あとから入れようと思ってもどうにもならない。これは、並んだ2本のペットボトルの口の間、ここは隙間ができているはずなので、ここに立てる。こうすると底部でも潰れることがない。
次に丈夫なのは、箱もの、缶もの、ビンものだ。バター、マーガリンやチーズなどの乳製品は半固形物だし、多少箱が潰れても中身には影響ない。缶もの、ビンものはもちろん頑丈だ。だがこれらはそれほど大きくないし、強度があるのでどこに入れても大丈夫である。従ってこれは、第2層がガタガタしないように詰め物として使うので、後回しにする。
第2層の主力は、肉、魚などのパック食材だ。これはある程度重量がある割には中身が押されてしまうと傷むし、水平を保ってないと中身が寄ったりする。そこでフットプリントの広い順に下から積んでいくことになるわけだが、強度を上げるために、パック同士ビニール面(食材が見えている面)同士を貼り合わせていく。こうすれば摩擦でズレなくなるので、運搬中に荷崩れしにくくなる。また中身同士がお互いクッションになるため、押されても衝撃を吸収できる。さらには外側がプラ容器でカバーされるため、他からの圧力にも強い。
ただしお刺身盛り合わせなど完成されているものは、裏返しにするとあとでものすごく面倒なことになるので、それは上向きに入れなければならない。そして横倒しにならないように、先ほど確保しておいた小さい箱ものや缶ものを隙間に詰めて、脇を固めていく。
冷凍食品は袋ものが多いが、中身がカチカチなので割と丈夫である。また野菜1つ加えるだけ的なチルド食品も中身は真空パックされていて、これも結構カチカチなので、わりかし丈夫である。こういうものも第2層の主力となりうる。
一番上は野菜類だ。ただしここに載るのは主にレタスやチンゲンサイ、水菜といった葉野菜か、果物である。そこそこ重量があって堅い野菜、ダイコンやタマネギ、ジャガイモなどは別の野菜専用袋に入れることになる。
こちら野菜袋のほうは、先ほどの重量があって堅い野菜が第1層となる。その上に第2層としてやや堅いもの、キュウリや白菜、茄子といったものが載る。そして第3層は、ぶつけるとそこそこのダメージを食らうもの、苺や桃といった果物がくる。
しかしこれらは単にふんわり上に乗せておくだけでは横滑りして第2層に落っこちたりするので、何か固定材が必要だ。そこで登場するのが、袋菓子である。いわゆるポテチ的なものは中身が破損しないように、結構多めに窒素が充填してある。これらで第3層の脇を固めると、丁度いい緩衝材となる。
袋詰めもこうやって強度設計しながらやっていくと、意外に楽しい。混んでる時間帯ではなかなかゆっくりもしてられないが、買うものなどだいたい毎回同じなので、慣れてくれば段取りよくできるようになる。なお強度以外にも、熱いもの、冷たいものなど温度でまとめていくという軸も存在する。さらには複数の袋に分かれた際の重量バランスという軸もある。強度軸と温度軸、重量軸をXYZで考えながら構築した袋詰めは、このまま2〜3日床の間に飾っておきたくなるなるほどに完成されている。とはいえ袋詰めは、家に帰るまでの命。このあたりのはかなさに、諸行無常の美学を感じさせる。(了)
本連載では、読者の皆さんからの、ご意見、ご質問、とりあげて欲しいトピックなどを、広く募集しています。編集部、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
SNSシェア