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4つのレベルと7つのステップ──U理論・中土井 僚(5)/西尾 泰和の「続・エンジニアの学び方」
サイボウズ・ラボの西尾 泰和さんが「エンジニアの学び方」について探求していく連載の第26回(これまでの連載一覧)。U理論の伝道師、中土井 僚さんにお話を伺うシリーズ(5)です。
本連載は、「WEB+DB PRESS Vol.80」(2014年4月24日発売)に掲載された「エンジニアの学び方──効率的に知識を得て,成果に結び付ける」の続編です。(編集部)
U理論の解説では4つのレベルと7つのステップが並べて描かれた図がよく出てきます(図1)。今回はそのレベルとステップがどう対応しているのかについてのお話です。
レベル1〜レベル4の4つのレベルと、ダウンローディング、シーイング、……という7つのステップは対応しているんですか?
はい、対応してます。
レベル1とダウンローディングとは同じ意味?
そこがちょっと分かりにくいところなんですけど、この図は今この瞬間の「意識の状態」という視点と、時系列で新しいものが生まれてくる「プロセス」っていう視点との、2つのレンズを1つのモデル図で表しているんですね。レベル1からレベル4っていうのは、意識の状態のことを言ってるんですよ。なので、私たちも今この瞬間、レベル1からレベル4のどこかにいるんですね。一方、何か新しいものを生み出していくとき、そのプロセスは7つのステップで表現されています。
なるほどなるほど。
ステップ1からステップ4までと、レベル1からレベル4は対応しています。
ステップ4よりあとのステップ5、ステップ6、ステップ7に関してはどうなんですか。対応はしているんですか?
レベル1からレベル4という表現は意識状態の話なので、ステップ6とかステップ7になったときにも、レベル1からレベル4までの意識状態があるわけです。プロセスとしてはステップ6のプロトタイピングに入っていても、意識状態はぐるぐる変わるのでレベル1のときもありますし、レベル4のときもある。
なるほどなるほど。つまりあの図では、4つのレベルと、7つのステップでできているカーブとが並べて書かれてますけど、あれはちょっと誤解を招きやすい表現ですね。
そうです、切ってるディメンションが違うんです。
最初の4つのステップに関しては、ステップ1のダウンローディングとレベル1の意識状態はすごい近い、ステップ2のシーイングと、レベル2の意識状態ではすごく近い。
はい
ステップ3のセンシングとレベル3の意識状態も近い、ステップ4のプレゼンシングとレベル4の意識状態も近い、だけれども、密に関係しているのはそこまでで、そのあとに関しては4つの状態それぞれになり得る。
そうです、そうです。
例えばプロトタイピングはステップ6です。プロトタイプを作るって、要はPDCAサイクルだと思うんです。「作ってみる、動かしてみる、その結果が思った通りにならなかった、じゃあここを変えてみよう」っていうサイクルを回すわけですよね。
はい。
その結果のチェックのところでレベル1の意識状態だと、ちゃんと見ないで「ちゃんと書いたからちゃんと動くはずだ」と思い込んで突き進んでしまう。一方レベル2だとちゃんと動くはずだという思い込みにとらわれずに「あれ? ボタンクリックしたら一瞬モサっとしたけど、これってバグの兆候じゃないだろうか?」とちゃんと見ることができる。
そうですそうです。
プログラミングに関してレベル3な状態っていまいちピンとこないんですけれども。
プログラミングに関してレベル3な状態は、例えば作ってる最中にユーザの気持ちがものすごく分かるような瞬間があったりとかですね。
そうか、なるほど。作り手は「こういう設計だとコードが美しい」とか「そんな機能を突っ込むのは当初の設計に合わなくてコード汚くなるから嫌だ」とか考えがちなんですけど、それってあくまで自分の視点であって、ユーザの視点に立った考えではない。ユーザはどうなるのが嬉しいのか、そう考えると、プログラマの自分にとってはちょっとしんどいけど、この機能は入れざるを得ないな、みたいな視点の変化と気付きなわけですね。
はい。だからレベル3って、何度も何度もたどり着けば入りやすくなるんですね、相手の気持ちに立ちやすくなる。システム開発してて、「ユーザの気持ちを考えろ」とか、「ユーザの視点に立て」って言うと思うんですけど、頭で考えてるうちはユーザの視点じゃなくて、ユーザの不快感や嬉しい気持ちが自分のことのように感じられる状態っていうのがレベル3です。
他人の気持ちになる経験を何度もするうちに、他人の気持ちで考えることがしやすくなってくる、自分の中にいろんな人の目玉ができる感じですか。
そうです、そうです。
ついつい自分の目玉で見ていると、自分が学んだことによって作られた、先入観に縛られた見方をしてしまいがちなんですけれども、それを解決する方法はいろんな人の視点で見るということだというこですね。
はい。だから優れたエンジニアと仕様を詰めてたりすると、「え、それってさ、ユーザから見たらこうなんじゃない」って発言で、みんながハッとするってことがあると思うんですよ。でも言ってる本人は「当たり前じゃねえか」「そのボタンを作って誰が喜ぶの」みたいに感じている。腹が立つくらい当たり前に思っている。それって結局レベル3にどれだけ入ったことがあるかなんですよね。
レベル3の経験を何度もしていることで、他人の目玉が自分の中に増えていって、その結果、多角的なものの見方や広い視野が手に入ると。
その通りです、その通りです。
そのレベル3に到達するための具体的なプロセスとしては、まずダウンローディングからVOJ(Voice Of Judgement:判断の声)を乗り越えてシーイングになり、シーイングからVOC(Voice Of Cynicism:あきらめの声)を乗り越えてセンシングになるんだ、ということですね。
そうです。
この話は「エンジニアの学び方」というテーマにとてもマッチした内容だったと思います。
4つの意識状態に名前がついておらず「レベル1〜4」と呼ばれていて、7つのステップの最初4つの名前がしばしば流用されるのは、混乱を招きそうですね。
また、ステップ5〜ステップ7とレベル3〜レベル1は対応してはおらず、ステップ5〜7ではレベル1〜4のどれにでもなり得ることが分かりました。
整理すると、イノベーションが起こるプロセスは、7つのステップで表現される。人間の意識状態は4つのレベルで表現される。で、7つのステップのうち頭の4つは、意識状態の4つのレベルを降りていくことと対応している。これが今回のお話でした。
その4つのレベルを降りていくことの障害になる3つの壁VOJ、VOC、VOFについては前回解説しましたが、大事なところなので簡単におさらいしておきまましょう。
- Voice Of Judgement:既存の枠組みで評価してしまう「判断の声」
- Voice Of Cynicism:既存の枠組みを生み出している「あきらめの声」
- Voice Of Fear:既存の枠組みが壊れることに抵抗する「恐れの声」
この3つの声が、新しいものが生まれることを邪魔するわけです。(つづく)
「これを知りたい!」や「これはどう思うか?」などのご質問、ご相談を受け付けています。筆者、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
謝辞:
◎Web+DB Press編集部(技術評論社)のご厚意により、本連載のタイトルを「続・エンジニアの学び方」とさせていただきました。ありがとうございました。
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