あのチームのコラボ術
数字はただの数値ではない、社内公用語だ――グノシー流「誰でもものが言える文化」の秘訣
国内最大規模のユーザーが利用している情報キュレーションアプリ「グノシー」。最先端のテクノロジーを強みとする同社のビジネスでは、ユーザー、広告主、記事提供メディアといった多様なステークホルダーとの関係性が鍵になっています。それぞれ向き合う相手が異なる中で、どのようにコンフリクト(衝突)を乗り越えてきたのか。
なぜ「数字で判断する文化」がストレスにならないのか?
「乗り越えの技術」をテーマに話を伺います。さまざまなステークホルダーがかかわるグノシーの事業を前進させるための「意思決定上の特徴」はどこにあるのでしょうか?
グノシーの特徴的な文化の1つが「迷ったら挑戦しよう」です。この文化があるから、一般の会社だと議論になりそうなポイントでも、あまりゴタゴタしないんですよ。
コンフリクトが起きそうな問題も、いったんやってみる。先に指標となる数字を決め、その結果をもって「どっちが良いんだっけ?」と判断をしています。全員の判断がぶれることはありません。
「やるのかやらないのか」を判断するときに、やった方が良いと思う人が一人でもいて、そこにロジックがあれば、通します。やってみて、ダメだったら撤退するという文化があるのが良いところなんじゃないかな。挑戦した結果が失敗だったとしても、責めることはありませんから。目的達成に対してどの施策がどの数字に結びついているのかを理解して、数字の示す事実に対して合理的に判断します。そのための手段は何でも試し、やることを是とする。それが共通認識です。
やらなくてもすっきりで終われるので、「何でやらないんだよ」というイライラはないですね。
数字を見て、数字で判断します。広告出すとDAU(デイリーアクティブユーザー)が下がるのか、他社がやっていない広告形態はどうか、といった点も試します。
「この施策はこのようにDAUに貢献している」と数字で示され、合理的な説明があれば、全員が納得できますよね。前例で失敗した、誰かの経験上はどうだといったことではなく、あくまでも数字で判断します。
他社の方からよく聞くのは「数字の話ばかりだとストレスがたまります」ということ。グノシーではそれは絶対に起こりませんし、それが良いところですかね。
数字で合理的に判断するという社内文化はどう形成されたんですか?
共通言語として数字を見ていれば公平に判断できる、ということです。メンバーそれぞれが、各担当領域についてプロであるという認識があるので、余計な言葉がなくても通じ合える、ということが大きいですね。
達成目標も明らかで、ゴールへの共通理解・認識も近い。一致団結感がありますね。
「うまくいかなかったね、はい終わり」を無くすには
小さく失敗すること自体も難しいことだと思います。
良い失敗ができるかどうかですね。考えずに挑戦して「うまくいかなかったね、はい終わり」「成功かどうかもわからない」というのが一番よくない。その施策の是非を判断できるように、判断基準となる数値を決めておくのもポイントです。
判断基準の数値はどう決めているのですか?
まずは大きな目的を明確にします。すると、何のための施策なのか、どういう数値を見るかが決まり、その数値をどうしたいかという目標も決まります。その後、どういう施策を試してみるかという仮説に落とし込まれるわけです。
期待している効果や仮説の立て方が大事で、実現のためにみんなでサポートする。一緒に達成する環境があるので、目標も立てっぱなしになりません。
違う部門でもみんな目標の数字を知っています。その方が何を目指すかがわかりやすいですし。
小さく失敗する前に「やらなかったこと」もありますか?
関さんと「広告を減らそう」という話がありました。時間がかかるわりに得られる結果も少なくて、どれだけ成果が出てもプラスゼロみたいな感じで、結局やりませんでした。ある程度成果が見積もれて、ユーザーの関心がこう変わるとわかっていたので、やらない判断ができました。
人が増えてきたら「皆が全社の数字を理解している」という雰囲気はなくなっていくような気もしますが、大丈夫ですか?
CPA、1ユーザー獲得単価、売上、1案件あたりの単価などを知っていることが価値になるから大丈夫です。この仕事で好きなことをしようとしたら、知ってないといけないです(笑)
広告を減らすことを試したいと思ったときに、数字を知っていないと発案もできないし、提案も通せないですよね。
誰でも立案できる会社だけど、ビジネスの全体感を知らないと、実行まで辿りつけませんから。
「誰でもものを言える環境」の裏側にはそんなことがあったんですね。
全員が数字に近いところで仕事をしているし、広告の数字もみんな見ていますね。
会議で何を話しているのかも、議事録ですべて公開していますし。
自分は知りません、が許されない環境ですよね。「自分の部署がこうだから」と変な意思決定をする人がいないし、セクショナリズムで仕事をする人は評価も下がります。役割分担というか責任の範囲が広いですよね。
「自分のやることが当たるかどうか」といった、個人の手柄を気にするような議論がないんですよね。会社の重要な数字や、長期的に目指している方向を一人一人が理解し、共有しているからです。「失敗するか成功するかは運である」。いっぱい小さく失敗しましょう、ということですよね。
「なぜやるか?」を突き詰める、社内ではPowerPoint禁止
グノシーは「エンジニアの会社」という色合いが強いと思います。開発チームとビジネス面を見るチームにコンフリクトはありましたか?
部署や人の対立はありませんね。うちの会社はまだ企画やプロデューサーといった専門職が存在しないんです。プロダクトに関することは大体エンジニアサイドでやっていますし。ただ「言われたものを作るだけのエンジニア」はうちの会社にはいません。いい加減な企画を出したら絶対つっこまれますからね。だからこそ、コンフリクトがないのかも。
「それなんのためにやるんですか?」っていう質問がよく出ます。
もしプロデューサーがいたら、エンジニアから詰められるみたいなことがあったかも……。
入社時には「こんなに動けるエンジニアはすごいな、企画の人いらないじゃん。この会社すごいな」と思いました。企画の人は考える時間が長いけど、エンジニアはすぐ作れるから、提案資料はいらないんです。
やってみよう文化が強いから、社内はPowerPointも禁止。
営業やマーケティング担当者との調整もだいたい口頭ベースですし、エンジニアがスケジュール調整してやってくれます。
では、グノシーでコンフリクトが発生するのはどこでしょうか?
コンフリクトの焦点は、各目標数字の達成の部分です。ステークホルダーのメリットを提示し、「すべて実現できるメディア」としてグノシーの価値を高めていく必要があるからです。ビジネス担当側は、コンテンツをご提供いただいているメディアさん向けのメリットを実現する方法について、開発と議論を重ねますね。どういう施策があればより価値を還元できるか、どんな導線があればより多くの流入を提供できるか、などです。
「それは継続できるのか?」が争点になることもあります。単純にお金で解決するのではなく、サービス改善を通じて提供価値を増やし続けられるのかが大事です。そこが一番葛藤するポイントですし、常に社内で問いかけ、最適な指標を議論するんですよね。
「徹底的に議論した」ことはありますか?
バージョン4(※2014年2月の大幅アップデート。朝刊/夕刊を総合ニュースに変更した)のときです。かなり大きなアップデートでしたが、突然誰かの思いつきでやったわけではありません。仮説に基づき、小さく試して、数値を見ながら最適な方法を見いだして、全ユーザーに反映させていったんです。
数値を見て合理的に判断するといういつものやり方を続けるわけです。より大きなユーザーのニーズに応え続けるサービスをつくるためには、しょうがないかな、と。自分たちの直観だけで改善をするのは難しいんだな、と感じたりしましたが。
4.0は相当苦労しましたね。別の導線を入れたかと思えば、ある日全部を入れ替えたり……。ユーザーのための変更と目の前の数字を上げることを同時に実現していく必要があったからです。
どう乗り越えていったんですか?
結局「半年後や一年後にそれが続くのか?」を議論の出発点にしたことが大きいですね。半年後に会社が無くなったらサービスもなくなってしまうので。
目の前の売り上げを求めてユーザーが減って、その状態でまた半年後に同じ施策をやって売り上も半分になった──。そういう未来ではよくないからです。それらを踏まえて「みんながハッピーな臨界点は?」というバランスで決めます。どの期間でどれだけの売り上げが必要なのか。会社として継続できるか。そして「5,000万人都市構想」に対して最短に進む道は、と考えていきます。
一発花火で終わらせない。「続くかどうか」を考えぬく
全体の視点をもっているからできるんでしょうね。
「会社やサービスを継続的に成長させる」という目標で全員が見ているから、目の前を追いかけるだけの判断はしません。これは自信を持って言えますね。組織が大きくなって、もし広告売上しか見なくなると、施策打てよと言うかもしれないけれど。
最初に広告を始めるときも同じような状況でしたか?
そうですね。「会社が成長する」「みんなが使うアプリケーションをつくる」という目的はぶれないので。売り上げをつくる意味も明確で、そのために広告をいれるのも間違いないと思いました。広告を入れるのも「お、ついに!」って感じでしたね。
広告の場合は、クライアントに求められる効果と現実プロダクト水準のジレンマが生まれがちになりませんか?
ジレンマはありません。僕はクライアントの願いを叶えることに全力を注ぎました。それが売り上げにもつながり、会社もよくなると思っていました。Webサービスやアプリの売り上げは、アクティブなユーザーがどれだけいてくれるかです。それ以外の飛び道具(で売り上げが増えること)は存在しません。1つ1つの仕事にコミットしていくしかないんですね。言い方は悪いけれど、よくある昔の営業のように「一人のクライアントに無理させて、ひどい契約を取り、自社は今月の売り上げを作る。来月は違うクライアントに契約させればいい」という考えは成立しないんです。
「続くかどうか」というのが重要ですか?
すごく重要です。僕たちだけが得するパターンは論外。コンテンツパートナーさん、クライアントさん、ユーザーさんの誰かだけが得する短期的な売り上げは意味がありません。みんながハッピーになるのが「続く」ことだと思います。
今後もっとも取り組んでいきたいテーマを教えて下さい。
もっと使われるアプリにしていきたいです。ひとりひとりがより使いたくなるには、全てが価値あるサービスでなくてはいけない。そのための指標として、滞在時間を上げていこう、という点に取り組んでいます。
同じように、まだ使っていない人がどれだけ使ってくれる仕組みとコンテンツを考えられるか、挑戦していきたいです。
SNSシェア