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「メシマズ」からの脱却──コデラ総研 家庭部(59)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(ほぼ隔週木曜日)の第59回(これまでの連載一覧)。今回のお題は「『メシマズ』からの脱却」。
文・写真:小寺 信良
家庭での料理全般を面倒見ることになったとき、面倒くさいというよりも先に、美味しくできないという挫折があった。独身のころは一人暮らしだったので、それなりに料理もしていた。だが当時は自分だけで食べるものだから、かなり適当だった。そのときから、料理の腕はまったく進歩していなかったのである。しかし家族にも食べさせるとなれば、美味しいほうがいいに決まっている。
おそらく料理を始めたばかりの男性も、美味しく、さらに加えて見た目がきれいにできないという悩みを抱えているのではないだろうか。料理初心者なら誰でも通る道だと思うが、いわゆる「メシマズ」状態からどうやって脱却していくかは大きな課題だ。今回は自分の経験から、どうやってメシマズ状態から脱却していったかをお伝えしてみたい。
自分の能力を疑え
日本で学校教育を受けた人なら、調理経験がゼロというのはないはずである。家庭科の時間で調理実習をやっているはずだ。ただし、中途半端に調理の知識がある場合は、かえってそれが邪魔になるケースが多い。「メシマズ」になる原因の第1位は、「大して経験もないのに適当にやるから」だ。
ほとんどの料理は、煮る、焼く、揚げる、蒸すに分類される。もっとも簡単なのは焼き物だろうが、適当に塩コショウして焼いただけで美味しくなるのは、たまたま素材が良かっただけの話である。
基本に立ち返るという意味では、当たり前だが「レシピを見る」ことが第一である。自己流料理と比べて他の人がどうやっているのかを知るべきだ。素材によってはアク抜きや臭み抜きが必要かもしれない。そういった下準備があることを知らず、完成形から逆算して想像で調理するのでは、うまくいかない。
次のポイントは、これも当たり前すぎてバカバカしいが、「レシピ通りちゃんとやる」ことである。素材のグラム数は多少の増減があっても仕方がないが、味付けに必要な調味料は、きちんと量る。大さじ2杯と書いてあるなら、目分量ではなく計量スプーンできれいに量るのだ。
計量カップや大さじ小さじがセットになった計量スプーンなど、100円ショップでいくらでも買える。重さを量る計量計、油の温度が測れる温度計といった計測器具も、きちんと用意すべきだ。
最初から目分量では、実際より多かったり少なかったりするので、味が必ずブレるのである。同じ味ができなければ、さらに砂糖を足したり醤油を足して調整することになり、目分量の感覚がさらにどんどんずれていく。器具できちんと計量し、量の感じが掴めてきた先に、初めて「目分量」が存在するのである。
レシピの読み方を覚える
レシピの中には、スプーンで計量できない単位の用語が存在する。例えば「コショウ少々」といった分量だ。「塩ひとつまみ」という分量もある。「少々」と「ひとつまみ」ではどちらが多いのか、初心者には違いが分からない。
一般的な定義として、「少々」とは親指と人差し指でつまんだ量で、重量としては0.5g程度である。一方「ひとつまみ」とは、親指、人差し指、中指の3本でつまんだ量で、重量としては1g程度である。少々とひとつまみでは、ひとつまみのほうが多いのだ。
もうひとつ謎の単位として、「生姜1片」というものがある。生姜は普通小ぶりのジャガイモぐらいの大きさで売られているので、1片とはそこからある程度の分量を切り取ったサイズとなるはずだが、初心者にははっきりしない。これも一般的な定義としては、親指の第一関節分の大きさだそうである。
水の分量にも、「ひたひた」や「かぶるぐらい」と言った表現がある。「ひたひた」は、材料の頭が見え隠れする程度の量で、部分的に材料の頭が出る程度ということである。一方「かぶるぐらい」は、材料の頭が出ないようにギリギリ、という量のことだ。大して違わないように見えるが、水の量で調理時間に差が出てくるため、レシピ通りの時間煮込んでも仕上がりがブレるわけである。
下準備にも、それぐらい分かってるはずとして説明されていない手順がある。例えば「下茹で」は本調理に入る前に、あらかじめ材料を茹でておくことで、調味料を入れないお湯で茹でる。一方「塩茹で」はお湯に塩を入れて茹でるわけだが、分量としてはお湯2リットルに対し、塩小さじ1杯分である。
その一方で「水煮」というものがある。スーパーではよくサバの水煮とかタケノコの水煮が売られてたりする。水煮とはWikipediaなどを参照すると、「水または塩水で煮ること」とある。つまり材料によって「下茹で」だったり「塩茹で」だったりするわけだ。これは自分で行う調理用語ではなく、食品加工用語のようだ。
調味料の基本としてよく「さしすせそ」などと言われる。さ=砂糖、し=塩、す=酢、せ=醤油、そ=味噌のことだ。これを単に調味料5種類セットとして覚えている人もいるかもしれないが、実はこの並び順は、味を浸透させやすい順となっている。
つまり砂糖と醤油を入れて煮込む場合、砂糖を先に入れて醤油を入れると、どちらの味も材料に入る。逆に醤油を先に入れて後で砂糖を入れると、醤油味は入るが砂糖が入りにくい。同時に入れた場合も同様だ。レシピには煮汁の作り方として材料しか書いていない場合があるが、調味料を入れる順序を考えないと味が入らないことになる。
調理は、適当にやってもある程度の味にはなる。だが美味いと言われるためには、手順も含めてきちんとレシピ通りにやる必要がある。そもそもレシピとは、誰が作っても美味くできるようになっているのだ。(つづく)
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