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ハッカーの遺言状──竹内郁雄の徒然苔
第34回:楽器の楽しみ
元祖ハッカー、竹内郁雄先生による書き下ろし連載の第34回。今回のお題は「楽器の楽しみ」。
ハッカーは、今際の際(いまわのきわ)に何を思うのか──。ハッカーが、ハッカー人生を振り返って思うことは、これからハッカーに少しでも近づこうとする人にとって、貴重な「道しるべ」になるはずです(これまでの連載一覧)。
文:竹内 郁雄
カバー写真: Goto Aki
第25回の遺言状で、私がフルートやチェロを嗜んでいることをちょっと紹介した。子供のころの私は音楽という教科が大の苦手であった。また、みんなと斉唱するのも嫌いだった。これは今でも変わらない。どうもほかの人と声を揃えるのがいやなのだ。これが異端児の沽券なのだろうか。しかし、楽器で斉奏するのは何とかOKだ。強いて言えば、「演奏技術」が間に1枚絡んでいるからだろうか。
大学時代に割と一所懸命フルートを独学練習したことも書いたが、もともと口も指も回るほうではないので、当時と今とでは、音色はともかく、指はほとんど進化していないと思う。
プログラミングの仕事をすると、高速タイピングが必須である。ピアノを弾ける人がタイピングも速いのは羨ましい限りである。私はタイピングをすることで指の回りが衰えることを防止できているように思う。原稿を書いたりすると、1日で6、7万回はキーボードを叩く。さすがにプログラムは考え考えなのでそこまでの打鍵数はない。deleteキーのほうが多いかもしれない。もっとも、πの計算で有名な畏友金田康正さんは、猛烈なタイピング速度の人で、プログラムを1日10万打鍵を超すスピードで打ち込んだという伝説があった。
ピアニストには高齢になっても活躍する人が多いが、ピアノの打鍵は、コンピュータのキーボードを叩くよりは、和音やリズムがあるのではるかに複雑で、かつ指に力が必要だ。だから、脳を始め、体のいろいろな部分が活性化されるらしい。
私はピアノがまったく弾けないが、もしちゃんと弾けたら、ピアノのように強弱の調整や、同時打鍵(和声式打鍵)ができるコンピュータのキーボードを開発していたと思う。実際、仮名漢字変換論争が盛んだったころ、文節の最初、例えば「おおきい」の「お」(o)を少し強く打鍵することによって文節の最初であることを陽に指示するという仕組みを考案したことがある。現在私が使っているローマ字漢字変換システム「Kanzen」は、最初のアルファベットを大文字にすることによって、文節の最初を指示する。これも、和声的打鍵と言えないことはない。おかげでコントロールキーを含め左右の小指を良く使う。通常はミソッカスの小指を良く使うのも脳の活性化に役立っているはずだ。
楽器の話からずれてしまったが、多くの楽器では指を独立に動かさないといけない。しかも、通常は指を見ないで動かす。タイピングで言えば、ブラインドタッチ(あるいはタッチタイピング)だ。ブラインドタッチの最大の利点は、文字通り目を使わなくていいことである。それは、目をほかのことに使えることを意味する。仮名漢字変換システムはずいぶん進化してきたが、いくらキーボードを見ないで打てても、変換結果を目視確認しないといけないので、本来のブラインドタッチではない。山田尚勇先生が開発されたTコードや、大岩元先生が開発されたTUTコードは、2ストローク(つまりキーボードを2回叩くこと)で、通常使われる日本語のほとんどの文字を打てるようにしたもので、覚えるのが大変だけれど、一旦覚えれば、手書きの原稿を見ながら、連続的にタイピングできるのでとても生産性が上がる。山田先生が何かの機会に「プロのタイピストがお互いに雑談しながら、仕事ができることが重要」とおっしゃっていたのを思い出す。実際、山田先生は「タッチタイプにおける大脳半球の機能分担」という研究もなさっていた。
これを楽器のほうに「移調」すれば、楽器演奏が脳の活性化につながることの傍証になっている。ミソッカスの小指は楽器ではかなり重要な役割を果たす。ピアノだと最低音と最高音を分担するし、バイオリンでもチェロでも左小指は最高音を分担する。逆に木管楽器では最低音に関わるのが右小指だ。
定年退職してから、楽器を始めようと考える人も多いようだが、悪い選択ではない。
脳の活性化などと、ちょっと打算めいたことを書いてしまったが、楽器を演奏するのが楽しいのは間違いない。至近距離あるいは近隣の人がそれで迷惑するという代償を払わないといけないのが玉に瑕だが……。
私の大学時代の数学科の同級生に笠井君というフルート吹きがいた。東大オーケストラにも入っていた。サークル会館でときどき彼がフルートを吹いているのが聞こえたことがあるが、これが素晴らしい。上手なフルートは低音が明瞭で豊か、そして高音が繊細(逆に言うと下手なフルートは低音が貧弱で高音が暴走)、そして音の粒立ち、つまり1音1音がきれいに区切られて聞こえる。笠井君のフルートはそれがすべて揃っていた。
笠井君は「フルート」とは言わず、「笛」と言っていたが、日本の多くのフルーティストは「笛」と言うようである。実際、「フルートの心」よりは「笛の心」のほうが響きがいい。日本の伝統楽器である篠笛のような歌い方をして、世界で勝負しようという意図もあるかもしれない。その笠井君は結局、大学院を中退してスイスの音楽院に行ってしまった。
フルートは、歌口という穴に息を半分だけ吹き込み、そこで起こった乱流(?)で発音する仕組みなので、基本的に篠笛と同じ発音原理である(尺八も同じ)。息の当て方で音程が変えられるし、強さも変えられる。オーボエやクラリネットのようにリードという弁を経由しないので、息と音の関係が直接的である。だから、フルートでも篠笛の真似事はできる(リコーダーでは難しい)。
大学1年だったか2年だったか、サークルの友人宅に遊びに行ったら、高級オープンリールデッキ(録音機)があり、録音しながら再生すると、少し遅れた再生音がまたマイクに入るのでお風呂場のようなエコーがつく。つい気持良くなってデタラメな即興演奏をしたら、音がかすれたり、上ずったりとロクなことはなかったが、あとで聞いてみるとなぜか妙にカッコイイ。友人がこれはいいと言って、頑張って採譜しようとしたのだが、何しろシロウトの音程外れまくりの演奏なので苦労したらしい。
この迷録音がデジタルに復刻されていたので、御用とお急ぎでない方は聞いていただきたい。「笛」っぽく聞こえないだろうか?
ところでその友人、大林君も大学を中退して、オランダのオルガン職人に丁稚奉公してしまった。楽器の魔力に取り憑かれたとしか思えないが、今は一流のオルガンビルダーとして活躍しているようだ(ずっと会ってない)。検索したら、こんな記事が見つかった。
学生時代は、吹ける吹けないにかかわらず、たくさんの楽譜を買いまくった。アルバイトで稼いだかなりの部分を楽譜代に費やしたはずだ。プロコフィエフ、ヒンデミット、メシアン、ジョリベといった近代作曲家の難曲はサワリを吹こうと試みるも、目の保養(?)にしかならなかった。
NTTの研究所に入ってから、仕事やサッカーが忙しくなったうえに、チェロも始めたので、フルートは長いブランク、ついでにチェロも途中から長いブランクに入った。それから幾年月、東大を定年退職して、やっと楽器を再開する時間ができた。昔のフルートをケースから出してみたが、どうも元気が出ないし、音も出ない。嫁と楽器は新しいほうがいい(というのは必ずしも真ではない、と一応弁明)というわけで、ちょっとお金をはたいて銀のフルートを購入。しばらくそれでリハビリ練習をしていたら、気のせいか、指は回らないが昔より音が良くなった気がする。すると欲が出てきて、もっといい楽器が欲しくなった。そこで同じメーカー(ムラマツ)の銀にプラチナメッキのものを試奏のうえ、購入。カスタムメイドなので半年待たされた。あとでもう一度触れるが、見た目ほとんど差がないのに、音の立ち上がりの良さが全然違う。
東大のあと早大に籍をおいて、エジプトに毎年4カ月程度行っていたが、フルートだけは持参した。せっかくリハビリしているのに、4カ月もお休みしたら元も子もない。コンクリート造りの30畳程度の部屋がリビングだから音が良く響く。金曜日の礼拝で、コーランが街中に響き渡る時間帯(午前11時ごろから1時間強)だけは練習しないようにしたのはもちろんである。
合計でエジプトには7往復したが、アレクサンドリアから日本に戻るとき、フルートが2回も検査に引っかかった。高価な楽器なので、当然手荷物にするのだが、レントゲンにはゴルゴ13の組み立て銃に見えるのだろうか。「それは何だ!」と来る。「楽器だ」、「そうか、じゃあ演奏してみろ」。というわけで、レントゲン装置の隣でフルートを組み立て、テキトーに吹く。空港でこんな光景、見たことのある人は少ないだろう。私はそれを2回も経験した。
最近、非常に悲しいのは、エジプトに行き始めたころからだろうか、フルートを吹くと咳が出るという症状に悩まされること。しばらく吹いていると出なくなるのだが、不思議でしょうがない。自分もフルートを吹くという内科の先生、耳鼻咽喉科の先生、呼吸器科の先生、すべてのお医者さんに「うーむ」と言われてしまった。呼吸器科の先生には、「世の中にはもっと辛い病気で苦しんでいる人がたくさんいる。この程度のことで悩む必要はない。本気なら管楽奏者専門の医者を紹介しようか」とまで言われてしまった。そうなのか、じゃあ、あきらめるか、ということにしてしまった。今は演奏前に気休めに咳止めの薬を飲むぐらいの対策しかしていない。
何しろ、フルートはある意味、オープン空間(※1)に向かって息を吹くことによって音を出す楽器だから、呼吸がそのまま音に影響する。オーボエやクラリネットはしっかりとリードを口で挟むので力の入りどころが明確だ(というのは間違い?)。だから安定させやすいと想像する。息を切らして走ったあと、最も吹くのが難しいのはフルートだと思う。アルコールを飲むとフルートは途端にうまく吹けなくなる。困ったことだ。
何だか、楽器の楽しみだか、楽器の苦しみだか分からなくなってきたが、曲がうまく吹けたときの快感は何物にも代えがたい。しかし、一度うまく吹けたからといって次回もうまく吹けるとは限らない。これが「シジフォスの神話」にも似て、アマチュアの永遠の挑戦たり得るところなのだろうか。
フルートとチェロを両方やるという人は意外と多そうだ。音高、発音原理、音楽の中の役割が対照的なので、何というか、音楽を「相補的」に楽しめるのである。フルートは独奏楽器の役割が多いが、チェロはシロウトレベルだと古典室内楽の通奏低音の役割が多い。
私のチェロはいまだに入門レベルを出ないが、それでも簡単なトリオソナタ等で低音の下支えをしているとき、自分の頼りなさを棚に上げて、非常に気持ちがいい。しかも、アルコールを飲んでも(もともと下手なので)演奏にほとんど影響がない。チェンバロ(※2)の左手はバロックだと大体同じ音形なので、それを頼りに弾けばそうひどくは間違えない。
最近、いろいろなご縁で、合奏仲間がどんどん増えてきた。飛び抜けて上手な人がいると申し訳なくなってしまうのだが、アマチュアレベルだと、合奏すること自体が楽しいので、多少レベルが異なっても、機会あるごとに合奏ができるようになった。もちろん、そのためには練習をしなくてはいけない。練習にも励みが出る。合奏は、無我夢中で最後まで行くのだろうかのスリルを味わう初期段階と、お互いの音が良く聞こえるようになって、楽器の掛合いが楽しめるようになる段階まで徐々に進化する。それぞれの段階で、楽しみようが変化していく。汲めども尽きないとはこのことだろう。
何と最近、ビオラが弾ける高校同級の元マドンナの女性にもお仲間入りしていただいたので、とうとう絃楽四重奏に挑戦できるようになった。すると、ますます私のチェロの下手さが浮き立ってくる。それはそれ、形の上だけでも挑戦できる幸せを味わえる! 当然、もっとチェロを練習しなくては、という動機がむらむらと湧いてくる。
いきなり話が変わる。大昔の話だが、クラリネットをかじっていた友人の結婚式で、友人一同で合奏しようということになった。クラリネット、三味線、アコーディオン、玩具の太鼓とくると、曲は「美しき天然」しかない? とすると、私はフルートでなくバイオリンのほうがいい? というわけで、家内の下手バイオリンを借り、俄か勉強で、美しき天然を弾くことにした。チェロとバイオリンでは恰好が全然違うが、手や指には共通原理があり、何とか弾けるものだ(※3)。
しかし、ご存知のように、「美しき天然」はうらぶれたサーカステントには似合っても、結婚式にはまったく似合わない。というわけで、式場は見事にシラーッという沈黙の世界へと変身したのであった(写真1)。これは今でも仲間うちでは飲み会の反省材料になっている。
楽器の楽しみは演奏するだけではない。楽器そのものの楽しみがある。友人の1人は、自分は弾けないのに、ヴァージナル(古典鍵盤楽器の一種)のキットをゼロから組み立て、最後の塗装の仕上げまで徹底的に拘った。それには遠く及ばないが、私はベークライトや塩ビのパイプとゴム栓を使って、何本か笛を作ったことがある。うち1本は良く鳴り、音程も割と正確で、よく東欧の民族音楽風の曲を飲み会の余興に吹いたものだ。穴さえうまく開ければ、誰でもある程度の笛は作れる。
定年退職後、銀と、銀にプラチナメッキのフルートを買ったと上に書いたが、この2つの音の差には驚いた。木管楽器の中でもフルートは管の中の空気振動が主たるものなので、管自体の材質は音に影響しないはずだ、と特に工学系の偉い先生方はおっしゃる。だが違うものは違う。フルートの場合は一本の中空の円筒に穴を開けて、そこに短い煙突のような円柱を半田付けにして、穴塞ぎの蓋(キー)を受けるようにするのが本来の作り方だが、最近は穴を開けた周囲を煙突になるように変形する作り方がよく行われる。こちらのほうが手間がかからないらしい。もともと同じ連続した金属を変形していくのだから、こっちのほうが音も良さそうだが、別の煙突を半田付けするほうが、音の立ち上がりがいい。これは私にも体感できた。音の立ち上がりがいいと音階を速く吹いたときの音の粒立ちが良くなるのである。
でも、「メッキでそんなに音が変わるの?」という疑問を持つ人は多い。銀の楽器は錆びて表面が酸化銀で黒ずんでくるのだが、そのほうが音が良くなるという人がいる。あながち楽器の手入れをさぼる理由だけとは思えない。酸化銀のほうが硬度が高いらしい。
フルートと言えば金だが、14金、18金、24金(ふにゃふにゃになるので、実際は多少ほかの金属が入る)とあって、それぞれ音の「輝き」が違うらしい。これはもう私が手を出せる世界ではない。その上に最も高価なプラチナフルートがある(※4)。これをいいという人はあまりいないらしい。だが、メッキぐらいに身をやつすと良くなるということなのだろうか? 錆びの酸化銀よりは見栄えが良くて、管の振動モードをいいほうにシフトしているとすれば、それは大いに結構、ととりあえずそのあたりで私は納得することにしている。
ムラマツフルート工房の専門家のお話だと、たとえ、金属でも吹き込むことによって音はどんどん良くなるそうだ。そういえば、自分の唇の形が良くなってきたのか、吹き込みによって楽器が良く鳴るようになったのか定かではないが、以前より音が大きくなったと思う。その代わり強弱・音色・音程の制御の幅が広がり、演奏には気を遣う。
金属の楽器でこうなのだから、弦楽器だと楽器の個性や変化がもっとすごい。私が昔持っていたチェロは当然木製で、今から40年ほど前、何も知らずに陳昌鉉さんの工房で買った東欧の作者のものである。もちろん陳さんの作品ではない。陳さんは「海峡を渡るバイオリン」(河出書房新社)という自叙伝でも有名だが、東洋のストラディバリとも言われる作品を生み出した人だ。買った楽器の保守のために、当時京王線の仙川にあった工房に行くと、「これが今度作った楽器だよ、深い良い音がするんだ。弾いてみるかい?」と言ってくださった。とてもとても、と遠慮させていただいた。
そのチェロもブランクの間、何もしていなかったので、ボロボロ、手入れしてちゃんと音が出るのかも分からなくなった。リハビリとはいえ、いいチェロ欲しいなぁといろいろ物色していて、Webで見つけたのがLuis and Clarkのカーボンファイバチェロである。このチェロは、かのヨー・ヨー・マも喜んで弾いたとあるではないか。いわく「I love this cello」。
これに10桁ほど劣る奏者が弾いているふりをしているのが、第12回の遺言状のカバー写真である。このカーボンファイバチェロがひっそりと登場している。
高い買い物、しかもネット通販なので、このWebページは隅から隅まで見た。今は当時とはページ構成がだいぶ違うが、ぜひ見ていただきたいのが次の2つのURLである。1つ目は、
https://luisandclark.com/the-instruments/
この中に動画がある。メイキング映像だが、これを見て驚かない人はいないと思う。伝統的な弦楽器製作者だったら目をそむけたくなるような映像だ。テクノロジーの現実を見せつけられる。これで音が悪かったら何のインパクトもないが、この楽器で音楽コンクールに入賞した人もいるのだからリスペクトは必要だろう。
2つ目は、
https://luisandclark.com/category/disasters/
あ、今見たらだいぶ増えている。オリジナルはViola-Maticというやつだ。まぁ、これを見て笑わない人はいないだろう。
私がこのチェロを買ったときはかなりの円高で80円台だったと思う。ラッキー、いい買い物ができた。買い物ボタンをポチしてから、わずか5日程度で米国東部から自宅に届いた。そのときの写真をお見せしよう(写真2、写真3)。何とチェロが、大きなダンボールに緩衝材なしに、宙吊りになって米国から空輸で配送されたのだ。
付いてきた1枚紙にはいろいろな注意が書いてあったが、「Unbreakable」と書いてあったのには驚いた。実際、地球をほぼ半周してきたにもかかわらずチューニングすらほとんど狂っていなかった(運送用にすべて半音下げられていたが)。なお、駒と魂柱には従来の木の製品が使われている。音を決める最も重要な部品だ。
最初に鳴らしたとき、これは前の木のチェロよりも鳴ると、瞬間的に思った。あるアマチュアオーケストラの首席チェロ奏者に弾いてもらったところ、「何これ? やたらと大きい音がする」との感想だった。
しかし、それでも国内の楽器屋に持ち込んで、軽く整備してもらったところ、「こんな楽器初めて、とても不思議な鳴り方」と言われた。「はぁ、そうですか」と持ち帰ったところ、これまた圧倒的に音が良くなった。ハイテク楽器とはいえ、昔ながらのチューニング技術がまだまだ必要ということなのであろう。
弦楽器は弓も大事で、楽器より高い弓を使っている人もいるくらいだ。私も以前の楽器より高い弓を持っていた(実は何となくだまされたような気もしているのだが)。カーボンファイバチェロに悪乗りして、ドライカーボンという混ぜ物の少ない弓のバーゲン品を、Webページを漁りながら買ってみた。これも異常に軽く、バイオリンの弓と同じくらい長い。講釈がいろいろあるのだが、たしかにすっきりした音が出る。でも、いろいろな試行錯誤の結果、今は以前の木製の弓を使っている。でも、最高の弓素材であるフェルナンブーコは絶滅危惧種の貴重な木材なので、そのうち(といっても100年以上後)カーボンファイバの弓が主流になるに違いない。
ともかく、オーディオも、楽器も難しい。楽器は生身が絡むから余計難しい。(つづく)
※1:フルートの評価に「適度な抵抗感」という言葉が出てくるのだが、私にはまだ分かっていない。
※2:電子キーボードのチェンバロ音は、ある程度の機種になると、チェンバロのキーを押したときに皮のピックが弦を弾く音と、そのピックが元に戻るときにかすかに出るこすれ音がちゃんとする。こうでなくちゃ、チェンバロとは言えない。
※3:先日、チェリストだと思っていた人が、いきなりビオラを弾きまくっていたのでたまげたてしまった。「音楽三昧」というグループで、素晴らしい編曲を一手に引き受けている田崎瑞博さん。
※4:プラチナの比重21.5にちなんで、「Density 21.5」という曲を書いたのは第28回の遺言状にも出てきたエドガー・ヴァレーズである。まさに「笛」の音がする。YouTubeで検索するといろいろな奏者の演奏を聴くことができる。
カバー写真の撮影場所として「山中湖情報創造館」にご協力いただきました。ありがとうございました。
竹内先生への質問や相談を広く受け付けますので、編集部、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
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