女性に「活躍して」というのなら、妊娠・出産の重さに理解を──いまどき40男の問題意識
「女性に活躍して下さいというのなら、妊娠・出産の重さを理解できないと」。そう語るのは、著書『<40男>はなぜ嫌われるか』で、中年男性に対し清々しいおじさんになることを提唱している「男性学」研究者の田中俊之さんは40歳。同じく40歳で働き方を見直しサイボウズに転職した社員 倉林一範、35歳の『産後が始まった』著者でアイナロハ代表 渡辺大地さん、彼らは、妻に寄り添える<40男>。 昭和と平成の狭間に育ち、旧来型の性別役割分業意識から脱却しつつある彼らが前回に続き、夫婦の関係維持の工夫や、妊娠・出産がハンディになる社会の変え方、中年以降の人生をいかに生き、どう社会に関わるかなど、「40男」の本音や可能性を語ります。
夫婦の関係を長く良好にする工夫
田中さんは、妊娠中、夫婦でどのようにすごされていますか?
うちは毎日一緒に夕方に散歩をしています。 あとは生まれるまでに毎日日記を書ける本がありますよね。それを夜一緒に読んで、スペースが広い日は僕も日記を書いています。妊娠してしまうと夫婦の話題が子どもに集中してしまいがちですが、対話の時間は毎日必ず取っています。 僕はまだ結婚して1年と少しです。夫婦の関係が長いお二人が大切にしていることを聞かせてください。
大ちゃん(渡辺大地さん)のところは奥さんと付き合って何年目?
もう11年位。
僕は16年目です。妻は同志みたいな感じです。恋愛感情とは違うんです。でも結婚したら女として見られないという話があるじゃないですか。僕はそうではないです。普通に会話もあります。平日は帰ったら寝ているし、朝ごはんの時ぐらいですが。
向こうからなんて呼ばれているの?
子どもの前ではパパって呼ばれていますが、二人の時には「クラ」。向こうも「クラ」なんですけど(笑)。
夫婦関係はちゃんと構築していいものにしていこうっていう努力を常にやっていた方がいいと思います。その意味では呼び名はけっこう重要です。
僕は、2人目を妊娠中の妻から「子どもの話しかしていないよね」って言われました。夫婦の会話がないということで、妻にこんこんと説教をされたことがあります。
「子ども、子ども」となると、自分のことを見ていないという感じになりますよね。 夫婦の関係をどう作っていくかですが、やっぱり共通の趣味があるといいと思うんですよね。
うん、それはいい。子どもが生まれるまでは山登りとかスポーツを一緒にやっていたんですけど、生まれてからはスポーツはあまりできないので『アメトーーク!』という番組を一緒に見るぐらいです。お笑いネタは面白いし、当たり障りがないじゃないですか。子どもの話でもないし。
終わった後に見たものをテーマにワイワイできますね。いい工夫ですよね。
うちは夫婦の会話をしようという話になった後に、妻がダイビングをしたいと言いだしてライセンスを取ったんですよ。二人で沖縄に2回行って。スーツとかダイバー用のウォッチとか全部揃えちゃおうかと話をしていた時に1人目の妊娠がわかった。 二人になるきっかけとしては、それが良かったかもしれないです。この子は沖縄のあの時にできた子だよねって話をしているんですけど。
生々しいんですけど(笑)
僕のせいでこの人は今つわりになっている
僕はここ数カ月すごく無力感を感じているんですよ。まず僕はつわりのような症状になったんですよ。
え? 想像妊娠?(笑)
奥さんが具合悪そうにぐったりしているのに、僕だけ元気に「ジム行ってくるね」みたいな毎日に申し訳なくなった。「僕のせいでこの人は今つわりになっているんだな」と責任を感じたんですよ。土日は「今日はだるいね」って一緒に寝ていました。ネットで調べたら、男のつわりってあるそうです。
今ちょっと好感度を上げようとしていませんか?(笑)
僕は、妻の妊娠中は、全部荷物を持ったりとか、「嫁はおれが守る!」みたいに思いました。 食事中、禁煙席が無いお店に入った自分が悪いんですが。「ちょっと煙草止めてくれませんか」って、周りの人に言ったりとか。
いろいろなことが目につきますよね。一緒に電車に乗っていると優先席も譲ってもらえないんだな、とか。
妻が妊娠すると妊婦さんのことがすごく気になりますよね。
妻が妊娠して気づいたことは、特に東京はなのかもしれないけど「健康な体力のある人しか行動できないように設計されているな」ということです。車いすの方やお年を召された方は、ずっと大変だったのでしょうけれど。
人間は、妊娠・出産が重すぎる
人間は、妊娠・出産が重すぎますよね。期間も長いし、ダメージも大きい。だから「これから女性も働いて下さい」と話をするのならば、そこを理解できないと。
妻が「この6年間で3年間妊娠しているなあ」と言っていました。そう考えると結構なことですよね。
その間に男性は普通に働いて業績を貯めて偉くなっていくのなら、なんかおかしいんじゃないかと。バランスが取れないのではないかと思うのです。
うちも子どもが3人で、ちょっと歳も離れてるのでこの12年間ぐらいは育休か復職を繰り返している感じですね。
子育てしない人が出世しやすい仕組みですよね。
妊娠・出産がハンディになる社会の中で、女性に「活躍して下さい」と言うのは無理ですよね。 中野円佳さんの書いている『「育休世代」のジレンマ』という本がその話ですね。「男女平等で育ってきたし、出世していこうと思っていた女性たちが退社している」と。 男性は妊娠も出産もしないし「俺は仕事が楽しい」と思う。女性だって仕事は楽しい。だから結婚や出産を躊躇することもある。そうすると少子化が止まらないと思うんですよね。
僕の以前の勤め先の上司は女性でしたが、会社人間という感じの人で、育児に理解が全然無かったんですよ。 「この日子どもの予防接種があるので休ませて下さい」というと、必ず「土曜日に受けさせなよ」という。かかりつけ医が平日しかやっていないから申請するのですが、毎回そのやり取りがありストレスになっていましたね。
会社中心の発想ですね。「仕事に支障が無い範囲で生活しなさい」と。それは誰にとっても間違っているような気がします。やっぱり生活があっての仕事です。 順位が逆転しちゃっていることが、非常におかしいのではないでしょうか。有休なんて100%取得してもいいわけですよね。
育休は「取ってよかった」と思いますけど
どうすれば世の中が動くのかなあ。
誰にでもできることではないですが、渡辺さんみたいに自分で仕事を作っちゃうのも一つの手ですよね。 男で有休を取った人に聞いたら、基本的には空気が読めない人になるしかないと。
僕も取った時は、ちょうど微妙なタイミングでしたね。結果育休をしましたし、育休を取得しなかったからどうだったかは分かりませんが。
やっぱり出世も先送りになっちゃった?
ゼロクリアとまではいかないけれども、育休前とは異なるポジションにつくことになり、そこからの積み上げになりましたね。 育休は「取ってよかった」と思いますけど、普通の会社員全員に育休を勧めるかというと戸惑うところもあります。半年後の復帰がめちゃくちゃ大変だったんですよ。本当に理想的にできるのならば、午前中だけとか時短で継続できるといいです。
今の話を聞くと、なおさら男性は育休を取るべきですね。だって、多くの職場復帰した女性はブランクやハンディを味わっているわけじゃないですか。男性は妊娠・出産はできませんが育休で復帰の難しさを味わえるのですから、なおさら取るべきです。 育休は上司のマネンジメント能力が高ければ、可能ではないかと思うのです。人材を適材適所に配置する。上の人が汗をかくかどうかの問題です。
他人事ではなく当事者として「どう自分を変えていくか」
僕が会社を経営していて思うのは、何か状況が変わったことに対処するのが怖いということですね。うまくいっているのが崩れるという怖さはある。やっぱり臆病になっちゃいますよね。正直なところ、面倒くさいと言うのが根底にあると思うんですけれども。
渡辺さんがおっしゃるとおり、大変だし怖さもあります。 でもそれも企業の責任じゃないでしょうか。企業が次世代の育成に対してどう責任を果たすかというのは、重い課題ですよね。 世代交代の話もでてはいますが、上の世代のことを非難しても、いわれた人たちはこっちに歩み寄ってくるとは思えません。対話がないのが現状の問題ではないでしょうか。
子育て世代から歩み寄った方がいいのですか?
両方ですね。 管理職の中高年世代と若い子育て世代の交流が生まれればお互いに影響を与え合うことがあると思うのです。努力してやっていくしかない。 男性が育児休業を取りますといったときに寛容な人が増えてくるとは思います。「取るやつもいるよね、俺は取らないけど」といった「消極的寛容」では社会全体は変わりません。 多様な価値観が交錯する中で、他人事ではなく当事者として「どう自分を変えていくか」「どう社会を変えていくか」を考えられるような寛容さ、つまり「積極的寛容」がこれからの時代には必要になります。そもそも、子育ては、社会に生きる全員が当事者である問題です。子供がいなければ社会は滅びてしまうのです。 この手の問題は、必ずバックラッシュみたいなものが起きます。男性も育児休業を取って当たり前ということに対し、「そんなのおかしい」という流れも現にあります。もっと強い風としてくるかもしれない。気運は高まっていますが、旧態依然とした方にぶり返すかもしれないです。 でも僕らの世代は数が多いわけです。選挙でも票数が多い。人数が多いということは、それだけ社会に影響を与える世代でもあります。
僕たちがむにゃむにゃやっている間にヒューっとエースみたいな人がいくこともありますね。それこそ大ちゃんみたいに。
中年以降の人生って、自分のためにばかりもう生きられないですよね。
前の会社にいたときは、そこそこの収入を得て、子供を育てて「なんかこのままいけるのかな。」とも思っていたんです。けれど、少し前に『100年の愚行』という本を読んで「このまま行ったら死ぬときに絶対後悔するなぁ」と思うようになりました。
今も思っている?
思っています。それこそ前は本当に仕事だけでしたが、今は仕事と併せて「子供・食・地域」をテーマに「子ども食堂」や青年の地域の活動に参加しています。
倉林さんのようにそこに価値を見いだせるようになるなら、悪いことばかりではないと思います。そういうフェーズに移行していったほうががいいですよね。
中年が自覚を持って社会を変えていく
これからアラフォーのイメージは良くなっていくんですか?
別に良くはならないと思います。好かれる必要はないのでいいのです。 場合によっては「おじさん、うるせえな」と思われるかもしれないです。
今まで「真面目な発言」が少し恥ずかしいような気もしていましたが、田中先生も本の中で「自分に正面から向き合えない方がよっぽど恥ずかしいことだ」と書いていましたね。感動しました。
面白味はあっていいですけど、おちゃらけはいらない。おじさんは「まじめに社会をこうしたい」とか「自分はこう生きたい」と真剣に言えるようにならないと恥ずかしいと思うのです。中年が自覚を持ってこれからの社会を変えていくんですよ。
ドアちょっと開けておいて下さいね。僕ら30代は開いたらすぐにいくので。
文:渡辺清美/写真:尾木司
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執筆
渡辺 清美
PR会社を経てサイボウズには2001年に入社。マーケティング部で広告宣伝、営業部で顧客対応、経営管理部門で、広報IRを担当後、育児休暇を取得。復帰後は、企業広報やブランディング、NPO支援を担当。サイボウズ式では主にワークスタイル関連の記事やイベント企画を担当している。