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税制の調整で主婦の労働力は上昇するか──コデラ総研 家庭部(77)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(ほぼ隔週木曜日)の第77回(これまでの連載一覧)。今回のお題は「税制の調整で主婦の労働力は上昇するか」。
文:小寺 信良
写真:風穴 江(tech@サイボウズ式)
パートなどで働く主婦が年収103万円を超えると、夫側の配偶者控除38万円分がなくなるという、「103万円の壁」。これにより、主婦が年収を103万円以下に収まるよう調整してしまうため、主婦の労働力が期待できないのだという。これを解消するため、自民党の税制調査会では、現状の配偶者控除の限度額である103万円から、150万円程度に引き上げるべく、検討が進められている。
子供が小学校に上がると、とたんに母親がパートなどの仕事に付くケースが増える。近所のコンビニや宅配便の営業所に行くと、そこで働く誰かのお母さんに会うというケースも今では珍しくなくなってきた。PTAや子供会のミーティングも、土日にもかかわらず仕事が休めず、欠席する人も珍しくない。正社員なら有休が使えるところだが、非正規の雇用だと、休みを取りづらいのだろう。
この休みづらさを「103万円」の壁と照らし合わせると、事情がよく分かる。仮に年収を100万円に抑えようとすると、月給8.3万円。ざっくり月に20日働くとすると、日給4000円程度となる。時給900円だと、1日4時間労働ぐらいか。子供が学校から帰ってくるまでには家に戻っているのが理想なので、子供を送り出して掃除洗濯などをして、10時ぐらいからお昼休憩1時間入れて15時ぐらいまでで、丁度4時間となるわけだ。
だがそのような理想的な時間帯でOKな仕事が、そうそうあるわけではない。アルバイトやパートが必要なのは、営業時間の長い業務で、早朝や深夜に人を振り分けたいからだ。朝7時から午前中までとか、夜6時から11時までといったシフトを避けて、理想的な時間帯のシフトに入れた場合、それを手放してしまうとその枠を誰かに取られてしまう。従ってなるべく休みを取らずに、働きやすい時間枠を押さえていたいわけである。
減税の笛でママは踊れる?
政府としては、この税制改変で主婦層の労働力を増強し、経済効果を高めようとする狙いがある。ただ上記のような事情を考えると、労働時間を増やすと損だからしないということではなく、理想的な労働時間枠がないという問題のほうが大きいように思える。
そもそも103万円を超えても、実際には次なる「配偶者特別控除」の枠があるので、まったく控除されなくなるわけではない。国税庁のサイトを見れば分かるが、配偶者の所得の5万円刻みで、38万円から3万円まで段階的な控除がある。ここで言う所得とは、年収から給与所得控除65万円を差し引いた額なので、年収で言えば105万円未満なら38万円、あとは5万円刻みで、140万円台までは何らかの控除があるということになる。
配偶者控除が150万円まで引き上げられれば、特別控除のレンジまでカバーされることになる。従って特別控除枠で働いている家庭には、現状のままでも減税となるはずだ。しかしそもそも働ける主婦は、年収が調整できるような器用な働き方ができるわけでもなく、すでに配偶者特別控除枠まで使って時間が許す限り働いているだろう。つまり配偶者控除をいじっても、労働力は大して増えないと言うことになる。
今働いているママにもっと働けというのは、無理があるのだ。それよりも、現状働きたくても子供を預ける場所がないので働けないママを、労働力として追加できる施策のほうが、ピンポイントで効くように思える。しかしながら「保育園落ちた日本死ね」問題は、東京都にボールが渡されたままになっており、国単位で大幅なてこ入れ策が行なわれる様子はない。
逆にものすごい勢いで増加しているのが、高齢者向けのデイケアサービスである。車で道を走っていると、あらゆるところにデイケアサービスが開業しており、しかも常時働き手を募集している。デイケアの利用は、高齢者本人がある程度お金を持っていることも前提だが、事業者や利用者にも自治体から大量の補助金が投入されている。
高齢者保護に比重を置いた施策がなされるのは、高齢者が政治家の票になるからだ。たとえ小さい子供を持つママ層がこぞって投票に行っても、そもそも日本人の年齢構成からすれば高齢者の人数が圧倒的に多いため、やっぱり高齢者の票が強くなる。
高齢化問題を早めに手当てできた点では国の施策は間違いではないが、生産力のある年齢層に対して、各家庭へ向けた減税措置だけではうまく回らないだろう。女性の社会進出云々を語るのであれば、まずは代わって子供の面倒を見るどこか・誰かかを用意しないと前に進まないということなんである。(つづく)
本連載では、読者の皆さんからの、ご意見、ご質問、取り上げてほしいトピックなどを、広く募集しています。編集部、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
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