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「学び、考える時間を持つ」ということ──コデラ総研 家庭部(89)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(ほぼ隔週木曜日)の第89回(これまでの連載一覧)。今回のお題は「『学び、考える時間を持つ』ということ」。
文・写真:小寺 信良
ここのところネットでは、「5時間ルール」なるキーワードがバズっているようである。5時間ルールとは、「成功した人はみんな意図的に学習する時間を週に5時間持ってるよ」というところから命名されたようだ。
週に5時間というと長いように思えるが、実際にはウィークデーに1時間ずつ、ということである。学習と聞けば思いつくのは、テキストを読んで問題集を解くみたいなイメージだが、資格試験ならともかく、一般的な社会学習ではビジネス書を読んでも学習だろうし、1人でじっくり考えを練るのも学習と言えるだろう。
「何だそれなら」と思われる方も多いだろうが、実際にはどうだろうか。これまでの生活習慣や仕事をこなすほかに、1日に必ず1時間、集中して学習する時間を作るのは、なかなか難しい。特に若い方は、手間のかかる仕事ばかり押し付けられて自分の時間すら取れないという人も多いだろう。社会はそうやって、若い人の労力を搾取することで回転している。
だがそんな中においても、やはり「意識して知らないことを学ぶ時間」というのは重要だ。ほんの少しずつでも、積み重ねれば大きな力になる。「誰かに勝つ」ためではなく、「自分の将来のための貯金」だ。
コデラ式学習法
じゃあオマエは何をしてきたんだ、と言われるだろう。ここでは筆者が過去やってきた学習方法を披露したい。
筆者がまだ23歳ぐらいのころ、海外製のシンセサイザーを購入した。それには分厚い英語のマニュアルが付いており、操作方法から特殊なチューニングの仕方、メンテナンスの方法など、音楽的にも技術的にもかなり網羅的な内容だった。
当時日本語バージョンはないということだったので、その分厚いマニュアルと電子辞書を電車の中に持ち込み、通勤中に少しずつ熟読していった。当時は始発駅に住んでいたので、2、3本見送れば座って通えたのだ。
最後まで読み終わるまで、半年以上かかった。よく飽きずにそんなことを続けたなと思うのだが、その結果、英語のテキストを読むことが苦痛ではなくなった。すらすら読めるわけではないが、1人で渡米しても困らない程度にはなった。
首都圏に住む人なら、通勤時間は往復で2時間近くあるはずだ。その時間を睡眠にあてるか、娯楽にあてるか、学習にあてるかで、2年3年後には大きな差が生まれるだろう。
ところがフリーランスになって通勤がなくなってしまうと、そういう時間が取れなくなってしまった。そこで始めたのが、ジョギングである。最初はヘルニアの予防のために始めたのだが、およそ50分間の間、体を動かしつつ、いろんなことを考える。
原稿のプロットを考えることもあるし、新しい製品のアイデアを練ることもある。椅子に座って50分も考え事をしてたら途中で寝てしまうが、体は動かし続けているので眠くはならない。逆に運動によって脳が活性化されているので、妙なアイデアを思いついたり、まったく別のことが今考えていることと結びついたりと、シナプスの繋ぎ目が組み替えられるようなことが度々起こる。「熟考」とはまた違う、アグレッシブなアイデアが飛び出してくる。
その成果の1つは、今皆さんがスマホなどで使っている「パノラマ撮影」だ。これはカメラを持って自分が回ることで複数枚の写真を撮影し、繋ぎ目をブレンドするという方法で実現されている。
このアイデアは、筆者がフィルムを使ったパノラマカメラの原理を応用して、それをデジタルカメラでできないかと試行錯誤し、それをメーカーに持ち込んでディスカッションしたものである。当時筆者が持ち込んだアイデアは、円筒形のボディにレンズが付いて、それが回転するというものだったが、メーカーは撮影者がカメラを持って回るという、もっともローコストで汎用性の高い方法を考えついた。
その点では、現在のパノラマ撮影方法は筆者のオリジナルアイデアというわけではないが、当時見向きもされていなかったパノラマ写真をメジャーなものにしたという功績は、いただいても構わないだろう。
今回は何だか自慢話ッぽくなってしまったが、日々目の前のことを右から左にこなしているだけでは、面白いことにはならないのだ。面白いことに出会うためには、面白いことを考えるヤツにならなければならない。だが面白い考えは、机の前でうんうん唸っても生まれない。長い時間かけて面白いことを50や100ぐらい考えて、その中からやっと1つ2つ当たりが出るのだ。ハズレの49や99を考えたことは、無駄ではない。それらがなければ、当たりが出る確率はゼロなのだから。(了)
本連載では、読者の皆さんからの、ご意見、ご質問、取り上げてほしいトピックなどを、広く募集しています。編集部、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
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