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ペンで書く、ということ──コデラ総研 家庭部(91)
テクニカルライター/コラムニストの小寺信良さんによる「techな人が家事、子育てをすると」というテーマの連載(ほぼ隔週木曜日)の第91回(これまでの連載一覧)。今回のお題は「ペンで書く、ということ」。
文・写真:小寺 信良
僕はパソコンでモノを書くのが仕事なので、取材時のメモも常時パソコンで入力する。完成原稿に落とし込む素材としては、やはり最初からテキストデータになっていたほうが使いやすい。自分のメモをもう一度パソコンに入力し直すのは、無駄のような気がするのだ。
だが記者やライターの中にも、これは取材ジャンルによるのかもしれないが、一定数の手書きメモ派がいる。先日ちょうどそんなジャンルの違うライターの集まりに呼ばれることがあって、取材メモの話になった。
ノートメモ派の皆さんは、3色や4色ボールペンを使うのが普通だそうである。そしてメモを取りながら、ここは要点だなと思うところは赤で色分けしたりしているそうだ。中にはボールペンの色を変えるのが間に合わないので、2本のボールペンを持ってメモするというワザをお持ちの方もいた。
そういう方も、iPadなどのタブレットとペンでメモを取ることには興味があるようだ。ただ、何度も試した結果、やはり紙に戻ってきたという。
その理由を聞いてみると、大きく2つに分けられる。1つは、スピードの問題だ。書くスピードに対してタブレットの反応が付いてこないため、後で何を書いたのか、判読できないことがあるという。そしてもうひとつは、あまりイメージが湧かないかもしれないが、「小さく書けない」ということである。
手書きのメモは、俯瞰性と情報密度が重要なのだそうだ。ページの見開きにどれだけ情報が整理されて詰め込めるかがポイントなのだ。従って、ある程度大きな字で要点を書いた脇や隙間に、フキダシや四角を書き、その中に小さい字で追加情報の書き込みができないと困るのだ。
記者やライターにとっては、自分オリジナルの取材メモは生命線となる。まさにその部分は人によって様々なこだわりがあり、理想に一番近いことができるのが「紙とペン」というのであれば、今風ではないなどと揶揄するのも的外れであろう。
書くことの効能
最近ちょっと思うところがあって、法律の勉強をしている。年甲斐もなく学校に通ったりしているわけだが、こうした一般を対象とした専門学校の授業では、パソコンの持ち込みが禁止されている。恐らく、キーボードの音がカチャカチャうるさいと、他の人の迷惑になるからだろう。
紙のノートを持参することも考えたのだが、家には昨年購入したiPad Proがある。今となってはNetflix試聴機に成り下がっているのだが、Apple Pencilを使えば手書きノートになるはずだ。
先のWWDCでは、新しいApple Pencilが発表になるという噂もあったが、結局出なかった。そこで安心して、初代Apple Pencilを買い込み、さっそくノートとして使っているところだ。
使用アプリは、ペン書きアプリとして評価が高い「Note Always」を使っている。これは文字入力を補助したり、手書きの線を自動でまっすぐにしてくれるような機能は一切ないが、ペンと指とで機能が使い分けられるのがポイントである。
例えば漢字を書き間違えたとき、通常ならばUndoするか、消しゴムツールに持ち替えて1文字消すことになるが、Note Alwaysでは指でその文字を擦ると、書いたものが消せる。指消しゴムというわけである。これは直感的に短時間でノートを取るには、実に強力だ。
また法の学習では、1つの模式図を何度も使い回して、パターンを書き分けるようなこともある。このようなときに手書きノートでは最初から図を書き直しだが、Note Alwaysでは丸で囲むことで、図を簡単にコピーすることができる。これは早い。
仕事で記事を書く場合、学んだことは原稿に落とし込んで、アウトプットしたら終わりだ。だからたいていのことは、忘れてしまう。一方法律の勉強とは、記事などのアウトプットになるわけではない。自分の頭の中に入れて、いつでも引き出せるようにしておくためのものだ。従って手書きの意味は、後で読み返すためのメモではなく、理解して覚え込むためのプロセスである。
もちろん紙のノートでも同じようなことはできるのだろうが、iPadでのノートは、罫線の幅やパターンを自由に変えたり、ページ数が無限に使えたりというメリットもある。仕事ではまず手書きでメモを取ることはないが、学ぶということに関しては、まだまだ手書きの要素は捨てがたいものがある。
2020年には、小中高校にデジタル教科書が導入されることになっている。テキストはデジタル化するが、ノートはどうなるのだろうか。すでに手書きのレポートは受け取らない大学も多いと聞くが、学習プロセスにおける手書きのポジションがどうなっていくのか、この2、3年がまさに議論の山場となるだろう。(了)
本連載では、読者の皆さんからの、ご意見、ご質問、取り上げてほしいトピックなどを、広く募集しています。編集部、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
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