残業体質・新しい仕組みが生まれにくい!? 役所の風土をどう変える?──世田谷区 保坂区長×サイボウズ青野
残業体質や、新しい仕組みが生まれてこない区役所の風土を、どうしたら変えていけるのか? 2017年2月、現状の働き方や風土に危機感をもつ「せたがや若手自主勉強会」が働き方改革をめざして、区長、管理職含め120人の職員が集う「新しいはたらき方討論会」を開催。当日は区長が、7月末には管理職もイクボス宣言をするという成果につながりました。
登壇者は、2011年から世田谷区長を勤める保坂展人さんと、働き方改革の先端を走り続けるサイボウズ株式会社代表取締役社長 青野慶久。この2人から、一体どんな提言が出てくるのでしょうか?
従業員の話を聞いてみたら業績が上がった
M&Aで企業を買収したり、成果主義の人事制度をつくったりされました。途中で大きく方針を転換されましたがどうしてでしょう?
成果主義は取り入れてみたものの、みんなが本当に楽しくは働けなかった。それで働き方をドラスティックに変えてみようと思ったんです。
働き方の多様性とか、オフィスの作り方とか、そもそも会社とは何か、というところから、根源的に変えようとしてきた。それは、どうしてだったんですか?
ところがですね、聞いてみると、すごくイキイキする人が増えてきた。新しい発想も出てくるし、「これ、どこかで業績にもつながるんじゃない?」みたいな空気が出てきました。最近は本当に業績も上がってきて、「間違いじゃなかったんだな」と確信しているところです。
つまり一人ひとりの「働き方の多様化」を進めながら、それぞれの持ち味が出るような環境を作れば、自ずと結果はついてくるんですね。
地方自治体はゲリラ戦で国をけん引できる
ただそれも、本当に一部の自治体だけです。ほとんどの自治体は旧態依然として、変わるきっかけがないまま、ズブズブと沈没しているように見えます。
父親が産休をとると子育てへの関与が深くなる
当時、僕はフリーランスのジャーナリストで10種類くらいの仕事を同時並行でやっていたんですけれど。
フランスでは、一度低下した合計特殊出生率が2.0近くまで回復しましたが、その要因の一つが2002年から制度化された父親休暇なんですよ。「父親となる覚悟を引き受け、子どもの命とちゃんと向かい合っていく期間があるかどうか」で、その後の父親の子育てへの関与の深さが変わってくると聞いています。
「トップが育休なんか取って、その間に問題が起きたらどうするんだ?」と言われるんですけれど、そういうときは出社(出庁)するわ、って話ですよ。なにかあったらすぐ来るよ、と。
あれから7年経って、相当空気は変わりましたね。首長さんは「子どもが生まれたら育休を取ったほうが選挙につながる」と思います。
だから、批判を恐れずにいってほしいですね。
批判する人もいるでしょうけれど、もう背中を押してくれる人のほうが多いんだから。
小学生にして長時間労働
日本のように、お父さんが帰ってくるのが21時半だとか、子どもが塾から帰るのはさらに遅く22時半だとかいうことは、オランダなどではありえない。
息をつく暇がなくて、いつも過剰に緊張している状態だから、効率が悪いんじゃないかと思います。
自分で選んで、その結果に対して責任を取る、ということをやっていかないと、自立は引き出せない。誰かに指示されないと動けない、幼稚な人が量産されてしまう。非常に怖いなあと思います。
バーチャルとリアル2つのオフィスを並行して使う
代わりに増えているのが、地域に密着した業務です。一点集中の役所の建物にいるのではなく、区内27か所にある「まちづくりセンター」、あるいはそこから出かけて、区民と対面でお話して必要なサービスにつなげる、という仕事がすごく増えています。
世田谷区はちょうどいま、庁舎の建て替えで、新しいオフィスのあり方を再整備しようとしています。これについてサイボウズ的な働き方の視点から、なにかヒントがあればお願いします。
そのために、リアルオフィスが不要だとは思いません。新しいリアルオフィスも求められるので、そこは皆さんで議論して考えていただければと思います。
世田谷区職員からの質問コーナー
1.不都合なことが発生したときどう調整する?
自立しているから、問題があると思ったら「問題がある」と言える。議論のメソッドを共有しているから、建設的な議論をできる。自立と議論の風土こそが、不都合を解決してくれるんです。そういう意味でいうと、社長はけっこうラクをさせてもらっています。
2.テレワークや短時間勤務は実現できる?
自治体職員は個人情報を扱うからテレワークは難しいんじゃないか、と言われますが、個人情報と切り離した仕事というのもあると思うんですね。
また区内のいくつかの場所で、区民の皆さんのためのコワーキングスペースがあるとよいと思っています。たとえば隣の部屋に保育士さんがいて、子どもを見てくれているので、子どもの様子を見に行くことができる。そういう場所で4、5時間の短時間勤務を可能にする試みができればよいと思っています。
区役所内でも、このように工夫した短時間勤務をできるように考えていきたいと思います。
3.働き方に満足しています。変えないといけませんか?
別に満足していれば変えなくてもいいんです。ただ、いちおう確認してほしいのは「あなたのいまの働き方は、周りの人も満足させているんですか?」ということなんですよ。
長時間労働にエクスタシーを感じる人もいっぱいいますけれど、家族からしたら迷惑なんです。周りからしたらどうなんですか、というのをちゃんと確認してくださいね、ということですね。
4.どんな職員を望みますか?
今日の会を実現するのだって、すごく大変だったと思うんですよ。僕、区長になってから、こういう会は初めてなんです。僕のほうから「若手職員と話したい」ということは、けっこう呼び掛けていたんですが、逆はなかなか、遠慮もあって、声が届きづらかったのかもしれません。
「今までなかったことだから、やめよう」じゃなくて、「なかったことだから、やろう」という人になってほしいなと思います。
5.業務量が多く育休に反対する雰囲気、どうしたらいい?
これはやっぱり、休みに入る時期にいかにカバー体制を作れるか、ということですね。もし絶対的に人員が足りなくなるなら、そこをカバーする体制を作っておく必要がある。
今日は総務部長も後ろで聞いていますから、確実に推進していきます。一緒にやりましょう。
5.公務員についてどう思われますか?
率直に申し上げますと、やっぱりみなさん、批判を恐れすぎている気がします。区民はいろんな人がいますからね。批判もくるだろうけれど、もはや追い風ですから、気にせず突破してほしい。
やらなくていい仕事をやっていないか、ということは、本当に見直してほしいです。
6.区長、イクボス宣言しませんか?
我々は、部下の育児・介護・ワークライフバランスを応援するため、以下の事項を約束します。
一:私は、仕事を効率的に終わらせ早く帰る部下を評価します。
二:私は、土日、定時以降には、仕事の依頼をしません。(できるだけ)
三:私は無駄に残らず、率先して早く帰ります。
四:「え、男なのに育休?」などとは絶対に思いません。
五:私は、部下のどんな相談にも応じます。以上です。
これを止めちゃうのが、間に入る中間管理職の人や、声を上げられない現場の人だったりするんですけれど、トップがこれだけ言っているんだから、いきましょうよ。
ぜひ今日を境に、世田谷区にもイクボスの流れを作っていっていただければと思います。今日は良い機会を、ありがとうございました。
※2017年7月28日、世田谷区では、保坂区長をはじめとした特別職、部長級職員が「せたがやイクボス宣言」を行いました。
文/大塚 玲子 撮影・編集/渡辺 清美SNSシェア
執筆
大塚 玲子
いろんな形の家族や、PTAなど学校周りを主なテーマとして活動。 著書は『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)。ほか。
撮影・イラスト
渡辺 清美
PR会社を経てサイボウズには2001年に入社。マーケティング部で広告宣伝、営業部で顧客対応、経営管理部門で、広報IRを担当後、育児休暇を取得。復帰後は、企業広報やブランディング、NPO支援を担当。サイボウズ式では主にワークスタイル関連の記事やイベント企画を担当している。
編集
渡辺 清美
PR会社を経てサイボウズには2001年に入社。マーケティング部で広告宣伝、営業部で顧客対応、経営管理部門で、広報IRを担当後、育児休暇を取得。復帰後は、企業広報やブランディング、NPO支援を担当。サイボウズ式では主にワークスタイル関連の記事やイベント企画を担当している。