働き方を変えるって、勝ち組の発想じゃないの? ──サイボウズ青野社長と理想のカイシャを考えてみた

私たちは、どんな「カイシャ」なら幸せに働くことができるのだろう。
『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)の出版を記念し、この出版を記念し、改めて「カイシャ」のあり方について考えるディスカッションイベント。
前半では、働き方のひとつである「フクギョウ」についてさまざまな議論が行われました。続く後半では、そんな働き方を実現するために必要な「カイシャ」のあり方について、みんなで考えます。
「回遊」や「旅人」など、新たな働き方が提案される一方で「でも、そういう働き方ができるのって"勝ち組"だからじゃないの?」なんて疑問も。簡単に答えが出る問題じゃないけれど、目指すべき方向性や課題が見えた時間でした。
理想のカイシャ=自由意志のあるコミュニティ?



私たちはワークライフバランスというとき、ファーストプレイスとセカンドプレイスのバランスについて考えますよね。友人との関係、つまりサードプレイスも大切だけど、家族や職場と違って「契約関係」ではないから、ついつい二の次にしがち。

野村 恭彦(のむら・たかひこ)。博士(工学)。慶應義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻 後期博士課程修了。富士ゼロックス株式会社にて同社の「ドキュメントからナレッジへ」の事業変革ビジョンづくりを経て、2000年に新規ナレッジサービス事業KDIを自ら立ち上げ、シニアマネジャーとして12年にわたりリード。2012年6月、企業、行政、NPOを横断する社会イノベーションをけん引するため、株式会社フューチャーセッションズを立ち上げる。著書に『フューチャーセンターをつくろう』、『サラサラの組織』など。


「儲かるかはわからないけどやってみようよ」と言えるような、コンフォートゾーンを越えた、もっと自由な環境での挑戦こそが新しい発想につながるんじゃないか、と。

とはいっても、会社を辞めるのって、だいぶハードルが高いと思うんです。なので、今後の新しいカイシャのあり方として、自由にキャリアブレイクできる環境があるといいんじゃないかと思っています。
「半年間なら辞めていいよ」と言ってもらえれば、社員がチャレンジするハードルが下がるんじゃないでしょうか。


これは、サイボウズを辞めたいという人に対して、6年間以内だったら戻ってきていいよ、という制度。これまで実際に8人が戻ってきています。


なので、キャリアブレイクもうまく活用すれば、その組織を強くするためになるかもしれませんね。

青野慶久(あおの・よしひさ)。サイボウズ代表取締役社長。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得している。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)など。

でもよくよく考えてみたら、友達にもなりたくないような奴と契約しているんだな、と。ああ、自分たちは今そういうおかしな状況にあるんだな、と思いました。


これまでサイボウズが取り組んできたことを、改めて「関係性」という視点で見てみると、新しいチームワークの作り方が見えるかもしれないというのは、今日の新たな気づきでした。


自分の作業の優先度と比較して、たとえ自分の成果にならなくてもビジョンの共有ができているから、何を優先するべきかがわかっている。それはこれまで、サイボウズがチームとして達成できたことかもしれません。

無期雇用っていう制度自体に無理がない?


「複業したい」という要望が高まっているのは、「いまの仕事だけじゃ満足できない」から。ひとところにいると淀んでしまいます。
会社を回遊するというのは、ひとつの施策になるんじゃないかと思いました。




旅人というのは、いろんな場所に行って、その都度選択を迫られるわけです。いつまでそこにいるか、ご飯は何を食べるか、次はどこに旅立つか。
当然トラブルに巻き込まれるかもしれないけど、そういったリスクも想定して生きていく。僕はこの「旅人」という概念の対極にあるのが「サラリーマン」だと思っています。

いま59歳ですが、会社に給料をもらって生きてきた三十数年の間に、どんどん旅人としてのスキルがそぎ落とされていって、結果として組織に依存するような自分がいるような気がしています。



同じ仕事なのに、誕生日の次の月からはそうなってしまう。相当ひどい制度だなと思うけど、自分に旅人スキルがないから、そういう弱いところにつけこまれているんだと思っています。



ある意味、強制解雇ですよ。そういう意味でも制度から見直す必要があるのかな、と思いましたね。

新しいカイシャを考えるって、結局勝ち組の発想なんじゃないの?

それを変えようとするのは、みなさんにスキルがあり、会社の中でも常に選ばれる側にいる、いわゆる「勝ち組」だからでは?とも言えそうですね。



以前、為末大さんとお話させていただいた際にも、自由と責任の話がありました。



「自由だ! おー!」とばかり言っていると、そこには何か見落としている裏の側面があるような気がしています。



スキルがあって、理念に共感してくれて、モチベーションが高い人を集めている。そりゃうまくいくよな、と。




なので、今回は世代も業種も立場も業界もステージも、すごくさまざまな人たちからお話しいただけて刺激的でした。今後も引き続きこういった意見交換の場をなんらかの形で作っていければなと思っています。



今までは株主に選ばれた経営陣が株主側を向いて経営していましたけど、今後は「株主の利益のために」以外の形を模索できないかなと思っています。
あえて株主総会の日に「サイボウズの株主、それでいいのか?」というのをぶつけてきます。次の株主総会では堀江貴文さんも呼んで、またそこでも議論していく予定です。



文:園田菜々 編集:柳下桃子、椋田亜砂美、松尾奈々絵(ノオト) 写真:栃久保誠
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