就職活動で「仕事の楽しさ」をすぐに見つけられなくてもいい──日本仕事百貨・ナカムラケンタさん

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第一志望の会社から内定をもらえなかったので、社会人になるのが楽しみじゃない。ホワイト企業がいいと思って入社を決めたけど、仕事自体を楽しめる自信がない──。

就職活動が終わり、いざ入社の時を迎えると、いろいろな不安が浮かんできます。4月から始まる仕事に対して、前向きに思えない学生は案外多いのかもしれません。就活を乗り越え、せっかく自分で選んだ道なのに、ただ楽しみな気持ちだけではいられないのは、なぜなのでしょうか?

その疑問のヒントを得るためにお会いしたのが、求人サイト『日本仕事百貨』を運営するナカムラケンタさん。“生きるように働く人の仕事探し”をテーマにさまざまな職業の魅力を掘り下げて紹介し、「働くことの喜び」を伝えています。「自分の仕事のおもしろさを見出すには?」というテーマで、サイボウズ式編集部インターン生の松下美季がお話をうかがいました。

「わくわくする相手」に会って、「すごい」と「同じ人間だ」の両方を感じることが大事

松下美季
日本仕事百貨を見ていると、募集要項を見ているだけでは魅力だと思わなかった仕事でも、文章を読んでいくうちに自然と「この仕事、いいなあ」と思うようになります。
ナカムラケンタ
ありがとうございます。
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ナカムラケンタさん。1979年、東京都生まれ。明治大学建築学科卒。不動産会社に入社し、商業施設などの企画運営に携わる中で、居心地のいい場所には「人」が欠かせないと気付く。退職後の2008年に“生きるように働く人の求人サイト”「東京仕事百貨」(現:日本仕事百貨)をオープン。生き方や働き方を考える本のレーベル「シゴトヒト文庫」や、さまざまな働き方を実践する人と出会うことができる場所「しごとバー」などを展開する。

松下美季
でも、「自分の仕事っていいよなあ」と思うのって、案外難しいですよね。

私は今大学4年生なのですが、私の周りには、せっかく内定が決まったのに、春からの仕事にわくわくできないという人がたくさんいます。
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松下美季(まつした・みき)。サイボウズ式編集部のインターン生。現在大学4年生で、2018年4月に就職を控えている。入社前のいま、純粋に仕事が楽しみな学生ばかりではないと気づき、ナカムラさんにお話を伺った。

ナカムラケンタ
そうなんだ。
松下美季
せっかくたくさん悩んだ就活を乗り越えたのに、なぜそうなってしまうのかを不思議に思っていまして。
ナカムラケンタ
うーん……。その人たちの身近には、わくわくしながら働いている人がいたのかなあ。

身近にいる人の影響は大きいですから。たとえば学生時代だと、目の前にいる先生に影響を受けて、「自分も教職の道に進みたい」と考える人もいますよね。
松下美季
たしかに! 中高時代、先生に憧れている人は多かったです。
ナカムラケンタ
世の中にはさまざまな仕事や働き方があります。「自分の仕事、いいよなあ」と思いながら働いている人たちもたくさんいます。

そんな人と接する機会が乏しいと、自分も仕事に対してわくわくする気持ちを持てなくなってしまうことはあるかもしれません。僕もそうでしたから。
松下美季
ナカムラさんご自身は、どんな方に影響を受けたんですか?
ナカムラケンタ
働き方研究家の西村佳哲さんには大きな影響を受けましたね。20代で西村さんの著書『自分の仕事をつくる』に出会いました。
松下美季
私も以前、西村佳哲さんにインタビューさせていただき、学生が働くことに前向きになれない理由や、自分の「好きなこと」に敏感になる方法を伺いました。
ナカムラケンタ
あとは、『東京R不動産』のディレクターである林厚見さん。他の不動産サイトにはない切り口で物件を紹介するというスタイルに影響を受けました。2人ともお会いして話すことで、たくさんのことを受け取ったように思います。
松下美季
興味を持った人に自分から会いに行くというのは、すごい行動力ですよね。やっぱり、実際に会うことが大切なんですか?
ナカムラケンタ
本やネット、テレビに出ている姿だけを見て特別な存在だと思ってしまうと、自分とは関係ない世界のことのように感じられてしまうと思うんですよね。だから「素敵だな」で終わってしまう

実際に会って、その人の熱量や体温を感じることって、貴重な体験だと思っていて。
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松下美季
なるほど。
ナカムラケンタ
反対に、熱量を感じるだけでなく、「めちゃくちゃすごい人だと思っていたけど、意外と普通の人だ」「同じ人間だ」と感じて、「自分にもできるんじゃないか」と希望を持てることもある。両方の意味で、自分のエネルギーになることってあるんですよ。

「なぜあなたは今、ここに座っているんですか?」

松下美季
日本仕事百貨の記事に出てくる仕事にわくわくするように、自分の仕事にもわくわくできたらいいな、と思うんです。

仕事に対して「わくわく」するためには、どうしたらいいのでしょうか?
ナカムラケンタ
それは、その仕事の「根っこ」に触れてみることだと思います。
松下美季
根っこ、ですか?
ナカムラケンタ
はい。日本仕事百貨の取材では、ひとつの職場のさまざまな人のお話をうかがいます。そのときは、働く人たちが本当に大切にしているもの、つまり「根っこ」に触れることを心がけています。
松下美季
なるほど。
ナカムラケンタ
働く人たちが発するいろいろな言葉は、一枚ずつの「葉っぱ」なんです。たとえば具体的な仕事内容だったり、就職を決めた理由だったり。

その「葉っぱ」を一枚一枚知っていくと、その職場の全体像である、大きな「木」が姿を表す。その奥を探ってみると「根っこ」が見えてくる。

たぶん、その仕事の「根っこ」に触れて共感したときに「いいなあ」と思えるんですよね。そして、「根っこ」に共感して働いている人は、そう簡単にはブレないと思います
松下美季
日本仕事百貨では、仕事の「根っこ」を引き出すために、どんな工夫をしているんですか?
ナカムラケンタ
それはもう、いろいろあるんですが(笑)。

ひとつご紹介できるとしたら、「なぜあなたは今、ここに座っているんですか?」という質問をするんです。
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松下美季
なぜここに座っているか。
ナカムラケンタ
はい。「生まれたときからでもいいし、この会社に入ってからでもいいので、今ここに座っている経緯や理由を教えてください」と聞きます。

たとえば「こんな会社にしたい」といった未来の話は、少なくともまだ実現されていないものです。だから未来の話を聞くよりも、具体的に「あの日、あのとき、誰と、何をして、何を思った」という事実を引き出していく。するとそこに、本物の「根っこ」が隠されていることが多いんです。

これまで生きてきた中で何が大切だったかを聞くことで「根っこ」に近づいていけると思います。
松下美季
今の仕事や、これからの仕事にわくわくできていない人は、自分の仕事の「根っこ」に触れられていないのかもしれませんね。
ナカムラケンタ
きっと、はじめは誰も根っこなんて生えていないと思うんです。ここだと思った場所に根付いて、一生懸命伸ばしていく。
松下美季
伸ばしていく、とは?
ナカムラケンタ
ちょっと月並みな言い方になるかもしれませんが、どんな仕事でも、一生懸命にやればおもしろくなるケースが多いんです。
松下美季
なるほど。そういえば、西村佳哲さんも、「仕事は正しく『やりすぎる』と楽しくなる」とおっしゃっていました。
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ナカムラケンタ
まさしくそうなんです。

僕は釣りが好きなんですが、たとえば魚を100匹釣らなければいけないときに、人から指示されたとおりのことだけをして「全然釣れない」と文句を言っているだけの状態では、当然つまらない。でも、「自分で考えてもっと釣ろう」と工夫を重ねていくのは、おもしろいですよね。

攻略法や裏技が全部わかっているゲームより、自分で模索していくほうがおもしろい

松下美季
内定先が第一志望じゃなかったり、有名企業だけど「ブラックだ」という噂を聞いて不安になったり、「ホワイト企業」だけど仕事内容自体には興味が持てなかったり……と、自分で選んだ仕事なのに、もやもやしている学生が多いと感じます。

そんな学生が「自分の仕事、楽しみだな」と思えるようになるためには、どうすればいいんでしょうか?
ナカムラケンタ
「仕事が楽しい」と思えるようになるには、どんな小さなことでもいいから、「やりきった!」と思える経験が必要だと思います。

ある物事を、酸いも甘いもまるごと経験すると、楽しさがわかる。そうすると、それに味をしめて、もう少し大きなことをやりたくなる。

どんなものもひとかじりするだけでは、おいしさがわかりません。同じように、まだあまり経験がない仕事に対してわくわくできないのは、食わず嫌いだからかもしれませんよね。
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松下美季
食べたことがないから、おいしさもわからない。
ナカムラケンタ
まずは小さいものを、まるごと1つ食べてみる。その前から、その仕事を自分の「天職だ」なんて思い込むのもあまりよくないかもしれない。
松下美季
えっ!となると、どうやったら自分に一番合った仕事を見つけられるんですか?
ナカムラケンタ
「すぐに天職にたどりつくには?」という質問への答えは、ありません。仕事は、やっぱりやってみないとわからない部分が多い。

攻略法や裏技が全部わかっているゲームより、自分で模索していくほうがおもしろいと思いませんか? 

仕事も同じです。「食っていける」レベルを維持したうえで、自分に合った仕事を探っていくのがおもしろいと思います。
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松下美季
なるほど。

とはいえ、すぐに転職に踏みきれない人もいると思います。もやっとしつつも今の仕事を頑張っている人が、日本仕事百貨が理想とするような「生きるように働く」状態にまで自分を持っていくのは難しそうだな……と感じてしまいます。
ナカムラケンタ
僕は、仕事のはじまりには、「自分ごと」と「贈りもの」があると思っています。今の仕事を楽しくするには、「贈りもの」からはじめるといいかもしれません。
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松下美季
「自分ごと」と「贈りもの」?
ナカムラケンタ
はい。「自分ごと」というのは自分ありきの仕事。対して「贈りもの」は相手ありきの仕事です。

たとえば、まだ市場がなく、求められているかもわからないけれど、新しいサービスを作りたいと思ってはじめるのは「自分ごと」。目の前の人はどんなものを求めているんだろうと考えてはじめるのが「贈りもの」です。

もし会社の中で不本意な毎日を送っているのだとしたら、まずは「贈りもの」からスタートしてみるといいかもしれません。
松下美季
会社の中での「贈りもの」、ですか。
ナカムラケンタ
会社に所属していると、たいていは与えられるミッションが明確です。だから「あれをして、これをして」と指示される。これだと嫌になってしまうかもしれませんね。まさしく、人に言われたとおりに、魚を100匹釣ることだけを考えている状態です。

でも、ミッション以上の「贈りもの」をすることを日々考えていると、だんだん依頼される内容が変わってきます。「この人はいろいろ考えているから、もっと手前の段階から相談してみよう」となるんです。
松下美季
自分の関われる範囲が広がっていくということですか?
ナカムラケンタ
そうです。たとえばWebサイトを作る仕事をするときに、詳細な設計指示書を渡されてただ作業するのではなく、まだコンセプトが固まっていない企画段階から関われるようになるかもしれません。
松下美季
裁量を広げて仕事を楽しみたいと思うなら、まず会社へ「贈りもの」をするべきだということですね。

でも、やりたいことが会社の求めることと明らかにずれてしまう場合は、どうすればいいのでしょうか?
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ナカムラケンタ
会社に所属している以上は、できることとできないことがあります。「求められていないけど自分がやりたいことなんだ」と思うなら、会社のない休日などにやるしかないですよね。あるいは、副業とか。

これが「自分ごと」に挑戦するということですね。

「天職」という強迫観念を持たなくていい

ナカムラケンタ
でも現実には、求められることのレベルが高すぎたり、そもそも時間がなかったりして、「『贈りもの』どころじゃない!」と思う人もいると思います。
松下美季
それが仕事の現実なんでしょうか……。
ナカムラケンタ
僕もいろいろな仕事の依頼をいただくんですが、求められるがままに120パーセントの力で返し続けていると、当然「無理」になっていくんですよね(笑)。

そういう状態になってしまったら、一度あきらめることも必要だと思います。
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松下美季
あきらめる……。そんなこと、会社でできるのでしょうか?
ナカムラケンタ
はい。といっても、 ネガティブな意味じゃなくて、ある種の達観、諦観という か。

会社で求められすぎて無理だと感じたなら、率直に「できません」と言うことも大切だと思います。あるいは、自分よりできる人に任せるとか。何かをあきらめることによって新たに選択できることもあるんですよ。
松下美季
そこには会社を変えるという選択肢も含まれるのでしょうか?
ナカムラケンタ
そうですね。あきらかに仕事に合っていないと感じるなら、離れていくこともあると思います。

中には「この仕事が天職なんだ」という幻想を抱いて、会社にしがみついてしまっている人もいると思うんですよ。
松下美季
自分では天職だと思っていても、実はそうではない場合もあると?
ナカムラケンタ
はい。世の中にはありとあらゆる仕事があって、そのぶんだけ、いろいろな可能性がありますよね。実はまったく違う仕事が自分に向いているということもあるかもしれません。

それに、経験を積む中で、自分の志向性が変わっていくこともありますから。
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松下美季
幻想にとらわれず、客観的に自分のことを見るように意識しなければいけないのですね。
ナカムラケンタ
仕事に幻想が生まれるのは、自分のモノサシだけでなく、家族や友人のモノサシも影響していると思います。社会的に高い地位にあるとされている仕事や、友人に自慢できる仕事、家族が喜んでくれる仕事……。
松下美季
「大企業」「ホワイト企業」といった会社選びの基準も案外、家族や友人のモノサシにとらわれてしまっているのかもしれませんね。

一度、自分が仕事で大事にしたいモノサシは何か、周りにとらわれずに考えた方がよさそうです。
ナカムラケンタ
“生きるように働く”ことの主人公は自分ですからね。まずはやってみて、自分のモノサシを明確にして、その上で「違う道があるかもしれない」と思うなら、また新しいアクションを起こしていけばいいと思います。

執筆・多田慎介/撮影・すしぱく(PAKUTASO)/企画編集・松下美季

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