野菜のバラつきやブレは許せるのに、人の多様性を許せないのはおかしいと思ったんです──坂ノ途中・小野邦彦さん
野菜と畑をこよなく愛する人たちから、キレッキレのビジネスパーソン、さらには元力士、元プロボクサー、元メコンオオナマズの研究者……。京都に、一風変わった多様なメンバーがそろう企業があります。
その企業とは、「百年先も続く、農業を」を企業理念として掲げている、株式会社坂ノ途中。
環境負荷の小さい農業の普及を目指して、農薬や化学肥料に頼らずに栽培された個性あふれる野菜を販売しています。取り扱っている野菜は、なんと400種類以上。
畑でも、オフィスでも、生物多様性に向き合い続けて10年。「野菜も人間も生き物だから、ブレがあって当然」と話す、坂ノ途中代表・小野邦彦さんに、ライターの杉本と編集部の明石が「畑に学ぶ、チームマネジメント論」をお聞きしました。
ものごとの始まりには、誰かが「えいや」と決めた方が早いときもある

農業は、人と環境のちょうど結び目にあたるもの。とても多面的で、あまり知られていないですが、やりようによっては大きな環境破壊ツールにもなってしまうんです。

小野邦彦さん(おの・くにひこ)さん。「坂ノ途中」代表。奈良県生まれ。京都大学総合人間学部卒業。 学生時代はアンティーク着物にハマったり、休学してアジア圏を旅行したりと、好きなことばかりしていた挙句、専攻していた文化人類学の奥深さに気づき、ラスト一年だけちゃんと勉強する。そんな日々の中で、自分が本当にしたいことは人と自然環境との関係性を問い直すことなのだと思い至り、有機農業にその可能性を見出す。2年余りの外資系金融機関での”修業期間”を経て、2009年株式会社坂ノ途中を設立。

その一方で、農業は人と自然が対話する接点にもなりえるとも思っていました。なので、農業を自分のエリアとしてやってみようと思い、始めたんです。

一人は広告系のベンチャーで働いていた、派手なギャル男くんみたいな人。もう一人は頭脳労働には向かないけど、体力だけは有り余っていた平松という高校の同級生でした。


立ち上げ期はやらなきゃいけないことがものすごくたくさんあるから、社内のコミュニケーションコストはできるだけ下げたほうがいい。
そういう意味では、僕の脳の中だけですべての意思決定が完結していたので、コミュニケーションコストはゼロでした。

マイクロマネジメントはいずれ限界を迎えるときがくる

僕は初期の頃、ものすごくマイクロマネジメントをしてしまっていたんですよ。

「野菜提案企業」とか言っているヘンな会社をやっていると、「土と触れられていたら幸せです」みたいな人たちが集まってくるんです。
だから、採用するたびに名刺の渡し方や電話の取り方を僕が教えていましたし、一挙手一投足を僕が指示するマイクロマネジメントを徹底していました。多様性なんて、あったもんじゃなかった。

ところが、そうやって自分の美しいと思う仕事をさせようとした結果、働いている人たちが「自分が小野ならどうするか?」を意識して振る舞うようになってしまったんですね。

自分の美学を押し通した結果、人の振る舞いが美しくなくなるのであれば、その人がその人らしくしているほうがいいですよね。

でも、わざわざ京都で起業して「土と触れ合うのが幸せです」みたいな人をかき集めておいて、自分の美学を押し通そうとするのは自己矛盾があるなあと思ったんです。
多様な仕事があることが、お互いへのリスペクトを育んでいる

社内の多様性をすこやかに保つために、意識していることはありますか?

一方で、ふだんは無口すぎてしゃべらない人が、パッと手に持つだけで野菜の重さがわかって、量りを使わずに野菜の仕分けができたりする。それだけで、彼はリスペクトされるじゃないですか。


坂ノ途中本社1階では、野菜の出荷作業が行われている。ケースごとに各農家さんから届いたさまざまな野菜が収められています。

かぼちゃだけでも5種類以上!
単純作業と割り切って外注してしまうと農家さんの個性を殺してしまうし、会社のキャラクターも変わってしまう。表現したいと思っている大切な部分が損なわれるような気がします。
なので、うちは出荷もクリエイティブな仕事と位置づけて、よほどのことがない限り抱え続けていくと思います。


なのでせめて、メシを食ったりしながら一緒にいる時間を増やすことで、なんとなーくわかっていけたらいいなと思っています。ほんまに、人ってそれぞれなので。
坂ノ途中の「まかない」。ほとんど毎日ランチタイムに出されている(坂ノ途中提供)
採用では、「野菜のことを好きか」よりも「自分の物差しを壊せるか」を見ている


坂ノ途中さんには採用時に「これだけは」という基準はありますか?
そして、もうひとつは「変われるか」ですね。脳みその中身を入れ替えるぐらいのレベルで変われるかどうか。

極端な話、野菜のことはそんなに好きじゃなくてもいいから、「自分の物差しを一回ぶっ壊せるか?」という感じは大事にしています。

普通とは違うことをしているので、「やっぱり、常識で考えたらこうでしょ」みたいな考え方をされるとしんどい。特に、中途採用の場合は「ゼロベースで考えて学べる人かどうか」が鍵になります。

何かを持ち上げすぎず、バランス感覚を保つのはすごく大事だなと思います。
「今いるひとでチームをつくる」ことが最善の価値を生み出している

ブリコラージュは、フランス語で日曜大工のように「寄せ集めで自分でつくる」ことを意味する言葉で。要は、あるものを使って必要に応じたものをつくることが、もともとの人類の知恵ではないかと言ったんですね。

やっぱり、僕らはふだん野菜を売っているわけですよね。

だから、その感覚を会社までちゃんと持って帰ってきたら、平和になるなと思うんです。

たとえば、雨が降った後の夏野菜は、何を食べてもちょっと水っぽい。曇りの日が続くと、ちょっと光合成が足りていない味になる。

僕らは、お客さんにこうした野菜のブレを楽しんでほしいと思っているし、人間のパフォーマンスについてもブレを許容していきたいと思っているんです。

坂ノ途中の野菜ではじまる?「リーダーの意識改革」と「働き方改革」
「先週の人参は甘味が強かったけど、今週の人参はすごく香りがいいのね」と、それぞれのキャラクターの違いを楽しんでほしいんです。

イラッとすることもありますけど、「ヘンな人たちやなあ」と味わっていこうとしている感じです。


坂ノ途中の「お野菜セット(定期宅配)。野菜がうつくしい!

もっといろんなメンバーがキャラ立ちして外に出るべきだと思うし、いろんな人が事業をつくっていって僕が埋没していきたいです。
これ、10期目のキックオフの写真なんですけど、真ん中で目立っている彼は代表ではなくて、僕は後ろの列にいるんです。こういうのがいいなあと思います。


今世の中で「へン」だと言われている人が埋没して、何も違和感なく当たり前の状態になってはじめて、真の多様な個性が集まるチームになるのかもしれませんね。
SNSシェア
執筆
編集
あかしゆか
1992年生まれ、京都出身、東京在住。 大学時代に本屋で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者を目指すように。2015年サイボウズへ新卒で入社。製品プロモーション、サイボウズ式編集部での経験を経て、2020年フリーランスへ。現在は、ウェブや紙など媒体を問わず、編集者・ライターとして活動をしている。
