長くはたらく、地方で
副業10分で50万円? ネット情報の多くは複業の実体験と違いすぎてモヤモヤする
地方でNPO法人を運営しながら、サイボウズで複(副)業している竹内義晴が、実践者の目線で語る本シリーズ。今回のテーマは、複業に関する「情報」と「実際」のギャップについて。その情報、本当に正しいですか。
最近、「副業」や「複業」の話題をソーシャルメディアで見聞きする機会が増えた。
副業とは、「本業>副業」の状態で、副収入を得るために企業外で働くこと。複業とは、「本業がいくつもある」状態で、目的は副収入というよりも、「新たなチャレンジ」や「人とのつながり作り」「自己実現」などのために企業外で働くことである。
目的はどうあれ、働き方の選択肢が増えるのはうれしいことだ。
一方で、「副業」や「複業」の情報をネットで見たとき、「これが、本当に正しい情報なのかな」と、モヤモヤすることが時々ある。なぜなら、ネット上で見聞きする情報と、私が実際に体験している複業の間には、大きな「ギャップ」があるからだ。
例えば、ネット上に流れている情報の9割は、私の体験とは異なる。もちろん、「9割」という数字は実測値ではないが、感覚的には、これぐらいのギャップを感じるのである。
そこで、この記事では「ネットに流れている情報」と「実際の複業とのギャップ」、「複業関連の情報にふれる際に気をつけたいこと」について見ていこう。
世間の複業情報は「お金」か「自己実現」
まず、「ネット上に流れている情報の9割は、私の体験とは異なる」について。
twitterで「#副業」「#複業」などのハッシュタグが付いた投稿を見てみよう。実際にクリックして、流れている情報を見てほしい。
「#副業」は次のような内容が多い。
- 「短期で高収入」
- 「初期費用なしで稼げる」
- 「副業で稼ぐ方法教えます」
- 「ネットビジネス10分の作業で50万GET」
一言で言えば、「お金」の話ばかりだ。
「#複業」は、「#副業」の内容に加えて……
- 「やりたいことをやって夢を叶えよう」
- 「先行き不透明な時代、複業を始めるべき」
- 「自己実現のための複業」
- 「これからの働き方」
のような、「自己実現系」が多い。
生きていく上でお金はとても大事だし、将来の方向性やキャリアを考えたとき、自己実現に意識を向けておくことは大切だ。
だけど、実際に経験している立場から言わせていただくと、これらの情報の一部は同意しないわけではないが、私は普段、そのようなことは考えていないし、複業で得たものは、そのようなものではないのである。
複業しながら考えている9割は「目先の仕事」
私は普段、仕事をしている中で、考えていることの9割は「目先の仕事」である。「お金」や「自己実現」のことを考えている時間はほとんどない。
私の本業はNPOの運営だ。「次のイベントどうしよう?」「研修のスライド作らなきゃ」「あっ、個人相談(コーチング)の時間だ」と、日々「目先の仕事」のことを考えている。
複業のサイボウズでは、ブランディングと、昨年立ち上がったチームワークを広める事業の広報やコンテンツの研究開発を担当している。こちらも、「次のサイボウズ式の企画、何にしようかな?」「チームワーク総研の認知を広げるためには何が必要だろう?」「記事書かなきゃ」など、そのほとんどが、「目先の仕事」である。
残りの1割は、「未来の仕事」である。
「働く人々が、自分らしく働けるようになるためには、どうすればいいのだろう?」「地方の企業で、都市部の人が複業できたら、人材不足を解決できるのではないか」「それを実現するためには、どうすればいいのだろう?」
「未来の仕事」は、「自己実現」のことと言ってもいいだろう。
9割の「目先の仕事」と、1割の「未来の仕事」の間で、時々「未来の仕事を、目先の仕事に織り込めないかな」と考えている。
複業で得られたのは「特別なこと」ではなかった
次に、複業で得られたことを見てみよう。「お金」や「自己実現」といった内容がないわけではないが、「今、ここ」で得ていることのほとんどは、「お金を儲ける」とか、「夢を叶える」「やりたいことをやる」といったことではない。
複業で得ているのは、次のようなことである。
- 組織に所属すること得られる「安心感」や「信用」
- 複業前には考えられなかった「人とのつながり」
- 複業以外の時間で、本業にチャレンジできる「両立感」
- これまでの経験を、サイボウズのために活かせている「喜び」
- 一人では決してできない、チームで仕事をする「醍醐味」
- ある程度の固定給があり、お金のことを気にしなくてもいい「安定感」
- 都市部と地方の二拠点で仕事をする「刺激」や「機会」
「複業ならでは」なものも2~3ある。だが、それ以外は、「本業だけ」の働き方でも得られるものも多い。
「楽して儲ける」系情報への不安
このように、「世間に流布されている情報」と、「実際に体験していること」には、大きなギャップがあるのだ。
この現状に、私は不安を覚えるときがある。
それは、「将来、複業したい」と考えている人が、実際と異なる情報に、惑わされたり、騙されたり、過度な期待を抱いたりしてしまうのではないか……という不安である。
「ネットビジネス10分の作業で50万GET」といった「楽して儲ける」系の話は、今までもないわけではなかった。それらは今まで、起業を目指すような人に向けられており、一般の人が目にすることは、それほどなかったと言ってよい。
だが、副業解禁の流れで、これらの情報が一般のほうにも一気に流れてきているように思う。
複業研究家の西村創一朗氏によれば、昨年からの副業ブームで、「副業詐欺」にダマサれる人が後を絶たないという。次のように警告する。
「ラクして稼ぎたい!」という人間の心理につけ込んで、「1日たったの5分で30万円の副収入をGET!」みたいな、冷静に考えて「そんなうまい話あるわけないでしょ…」という話にダマサれて、変な情報商材を買わされたり、友人を失ってしまうようなネットワークビジネスに巻き込まれたり、といった「副業詐欺」の被害者が続出しているからです。
複業の情報で気をつけたいこと
本業では、私も一人の経営者だが、これまでの経験では、お金を稼ぐのはそれほど容易ではなかった。そもそも、もし10分で50万円稼げるなら、私は複業などせずにそれを本業にする。すごい!1ヶ月でいくら稼げるんだ?
稼ぐこと自体は、何ら悪いことではないし、突き詰めて、突き詰めて、10分で50万円稼げるビジネスを作るのなら、それはすばらしいことだ。
でも、誰もが「楽して儲ける」ことができるビジネスは、みんながマネするからすぐに価値が無くなり、稼げなくなる。だから、私はやらない。「楽して儲ける」系の情報は、くれぐれもご注意を。
また、複業への「過度な期待」も気をつけたい。
実際に複業してみて、改めて思うのだが、複業をはじめたときは確かに、「これからの働き方」だと思ったし、ワクワクするような気持ちが全くなかった……と言ったらウソになる。でも、仕事として現場に入ったとき、そこにあったのは「新しい」「特別な」ものではなく、むしろ「目先の仕事」だったよ。
もちろん、前出のように、複業にはさまざまなメリットもあるから、期待を抱くのは悪いことではない。だが、「複業すればハッピー」なのではなく、複業は働き方の、一つの「手段」にすぎない。
もし、複業の情報に触れるなら、実際にやっている人か、信頼できる出どころの情報にふれるようにしたい。
イラスト:マツナガエイコ
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執筆
竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。
撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。