長くはたらく、地方で
多様性をアピールするほど、冷める社員。「エイジダイバーシティ」が当事者意識を育むカギ
多様性とは「ある集団の中に、さまざまな特徴や特性を持つ人がともに存在していること」。
少し前までは、人種や国籍、性別、年齢、障がいの有無、宗教、性的指向といった「何らかの事情を抱えたマイノリティ(少数派)」に対して使われるケースが少なくありませんでした。
一方、近年は、価値観をはじめ「一人ひとりの違い」に目が向けられ、より多くの場面で、多様性という言葉を見聞きするようになりました。
しかし、多様性という言葉が多くの人に知られるにつれて、各企業では「新たな課題」が生まれているようです。
世代間ギャップが「多様性の課題」に
僕はサイボウズで複業しながら、しごとのみらいというNPO法人を経営している。
しごとのみらいでは、僕がかつて受けた、ストレスをかけるマネジメントにより心が折れかかった経験や、自身が管理職になり、関わり方を変えることで、チームが変わった経験をもとに、組織づくりやコミュニケーションに関する企業研修や講演に携わっている。
特に、2022年5月に『Z世代・ゆとり世代の上司になったら読む本』を刊行させていただいてから、世代間ギャップに関する講演依頼が増えた。
世代間ギャップの講演といえば、以前だったら人事や研修担当部署からの依頼がほとんどだった。しかし近年、DE&Iの部署からの依頼が増えている。
ここでいうDE&Iとは、ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公正性)&インクルージョン(包括性)の略で、いわゆる「多様性を扱う部署」である。大企業を中心に、DE&Iの担当部署が設置されている。
なぜ近年、多様性を扱う部署からの講演依頼が増えているのか? そこには、各企業で起こっている「多様性の尊重が生んだ弊害」があるようなのだ。
特別な事情がないと「尊重されていない」と感じる
ここでいう「多様性の尊重が生んだ弊害」とは、特別な事情を抱えていない社員が、「自分たちは尊重されていない」と感じてしまう問題である。
講演を依頼いただくDE&I担当者と話をさせていただく機会が多くある。彼らは、口をそろえて次のように指摘する。
「一人ひとりの個性や事情を尊重し、働きやすい職場を作るためには、多様性はとても大切な考え方です。しかし、多様性の重要性を伝えれば伝えるほど、特別な事情がない社員の関心が薄れていくんです」
多様性という言葉は、最近多く使われるようになってきた。だが、「一人ひとりの個性や事情を尊重する」というよりも、まだまだ、何らかの事情を抱えているマイノリティ(少数派)に対して、「さまざまな事情を、個性の1つとして受け入れよう」といった印象がある。
その結果、「多様性」「ダイバーシティ」と言われると「それは、特別な事情がある人たちの話であって、自分たちのことではない」と感じる。
そればかりか、「なぜ、少数派の人たちだけが優遇されるのか?」「わたしたちだってがんばっているのに……」といった声が聞こえてくるようになったと、先のDE&I担当者はいう。
本来、多様性は特別な事情を抱えている人だけではなく、一人ひとりの個性や特徴を活かして働くことができる環境づくりが大切だ。だが、特別な事情がない社員にとっては、自分ごと化しにくく、逆に「尊重されていない」と感じてしまうのである。
「当事者意識」をどう育むか──世代を「多様性の要素」に
そこで、DE&I担当者たちは、多様性を考えるうえで、すべての社員が「自分ごと化できるテーマは何か」を考えた。そこで上がってきたのが、エイジダイバーシティである。
エイジダイバーシティとは、「世代や年齢の多様性」のことだ。
年齢は、すべての人が持っている多様性の要素のひとつだ。一人ひとりの価値観は、それぞれが生きてきた環境や、時代背景によって当然異なる。
だが、仕事をしていると、「最近の若い世代は……」「おじさんはこれだから……」のように、ある世代をまるっと一括りにして、「あの人たちは、僕たちと違うから……」のような関わり方をしてしまう。
しかし、ある世代を一括りにしたとらえ方やコミュニケーションを過度にしてしまうと、世代間の分断が生じてしまう。また、異なる世代とのコミュニケーションがおっくうになって「関わらないでおこう」とする場合もある。
実際、世代間ギャップを感じている人は多い。龍谷大学が2022年に調査した世代間ギャップの調査によれば、上司・部下世代ともに、7割近い人が世代間ギャップを感じているそうだ。
特に近年は、パワハラ防止法などの法改正もあり、「パワハラ・モラハラが気になって、うまい距離感がとれずに困っている」といった声を、本当によく聞く。
このように、多くの人が当事者であるテーマであれば、多様性を「自分ごと化」できるかもしれない。そういった試みが、さまざまな企業で始まっているのである。
世代を越えて良好な関係をつくる「唯一無二の方法」
年齢や世代に関わりなく、一人ひとりの個性や強みが活かされているためには、それぞれの価値観や、理想、悩み、困りごとなどをおたがいに知る必要があるだろう。
そのためには、どうすればいいのだろうか?
僕の意見では、世代や年齢を含めて多様な価値観を知るためには、最終的には「1対1で対話をする」しかないんだろうな……と思っている。
相手が「何を考えているのか分からない」のは、対話をしていないから。ざっくばらんに対話ができれば、相手を「理解」はできなくても、「何を考えているのか」はわかるのではないか。
とはいえ、「話をしよう」「対話をしよう」と言うのは簡単だが、これがなかなか難しい。「たまには、話をしませんか?」と声をかけるのも、かなり勇気がいることだ。
たとえば、サイボウズでは「ザツダン」という取り組みがある。ざっくばらんな話をすることで、上司・メンバー、おたがいを知る機会になっている。
しかし、僕自身もそうだが、関係がそれほど構築されていない相手に対して「今度、ザツダンしませんか?」と声をかけるのは、なかなか勇気がいる。年齢や立場が違えばなおさらだ。
「分かってはいる。でも、できない」――読者のみなさんにも、きっと経験があるのではないか。
対面よりも実践しやすい?「オンラインコミュニケーション」
だが、僕の場合、オンラインツールのおかげで、救われてきたところが多分にある。
サイボウズでは、日常の業務やコミュニケーションの多くを、kintoneという、弊社が提供している業務改善プラットフォームを使って行なっている。
kintoneは、業務改善を行なうためのアプリケーションを、専門的なプログラミングの知識がなくても作成できるサービスだが、それ以外にも、自分の考えを書いて社内に発信・共有したり、直接やり取りしたい人にはメンションを飛ばして連絡するなど、コミュニケーションツールの一面もある。
対面でコミュニケーションを行なう場合、人見知りの僕は、「あの~、〇〇さん」と、直接声を掛けることに、とてもドキドキする。だが、オンラインでのやりとりなら、対面よりもハードルが低い。
また、僕はサイボウズで複業をはじめた2017年からフルリモートで働いているが、物理的に離れているために、そもそも、対面で声を掛けること自体ができない。
以前、「あいつ、家でちゃんと仕事しているのか?」──コミュニケーションが難しい在宅勤務を円滑にする工夫という記事を書いた。テキストコミュニケーションのポイントについて触れたものだが、さまざまな制約があるテレワークでも、いろんな工夫をしてきたし、「オンラインだからこそできる関係構築のやり方があるな」と思っている。
そこで、話しかける際には、まずはオンラインで声をかけ、そのあとで「今度、ザツダンしませんか?」のように、1対1で話をする場に誘うようにしている。
また、異なる世代とよりよい関係を構築していくためには、相手のよいところを見つけ、ポジティブなメッセージを伝えていくことも大切だと思う。
「○○さん、すごいですね!」と、面と向かって伝えるのはなんとなく恥ずかしいが、オンラインなら、目の前に相手がいないため比較的書き込みやすく、書き込んだポジティブな言葉はずっと残る。
そこで、冒頭にお話した世代間ギャップや多様性の講演会では、「もしも、異なる世代と関わるのが難しければ、オンラインからはじめるのもひとつの方法ですよ」「オンラインのほうが実践しやすいこともありますよ」と、伝えるようにしている。
多様性の「あるべき姿」とは?
冒頭でも触れたように、本来「多様性」とは、「ある集団の中に、さまざまな特徴や特性を持つ人がともに存在していること」である。ここには、特別な事情がある人だけではなく、すべての人が含まれる。
一人ひとりの事情が尊重され、個性や強みを活かして仕事ができる。それが、もっとも理想的な姿であることに、間違いはないだろう。
だが、多様性という言葉に「なんで少数派の人だけ……」といった、自分ごと化できないという声がある事実は、多様性が、まだまだ浸透していない証拠でもあるのだろう。
一人ひとりが自分ごと化していくためには、すべての人が当事者になる必要がある。
年齢や世代を多様性の1つの要素としてとらえ、多様性を自分ごと化していくこと。そして、年齢や世代を越えて、関わりを持てるようにしていくこと。
そのためにも、オンラインだからこそできる方法で、年齢や世代を越えた関係構築ができるといいなと思うのだ。
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執筆
竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。
撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。