初めて「サイボウズ」という社名を知ったのは「サイボウズ式」がきっかけだった、なんて方も多いのではないでしょうか。
サイボウズが運営しているオウンドメディア「サイボウズ式」では、「『新しい価値を生み出すチーム』のための、コラボレーションとITの情報サイト」というタグラインを掲げ、数多くのコンテンツを掲載しています。
中でも「働き方」をテーマにした記事が多く、実際に運営しているサイボウズ式編集部のメンバーも、複業や在宅勤務をしたりとかなり自由に働いているそう。
なぜ自由に働きながらもヒットコンテンツを出せるのか?そんな素朴な疑問を解消するべく、サイボウズ式編集長の藤村能光さんにチーム作りのコツを直撃してきました。
サイボウズ式編集部のみなさん、働き方自由すぎません?
藤村能光ーサイボウズ株式会社 コーポレートブランディング部 サイボウズ式編集長。4名の編集部メンバーとサイボウズ式を運営しており、今年はコミュニティ運営に注力している。プライベートでは大のサウナ好き。
たくみ
ライターのたくみと申します。今日はよろしくお願いいたします。
早速ですが、以前にTwitterでサイボウズ式編集部の人たちの働き方に関する、こんなスライドを拝見しました。
たくみ
サイボウズ式編集部の人たちっていつもみんな在宅していたり、複業していたり、スライドに出てくるような働き方なんですか?
藤村
さすがにみんなが一斉にこういう働き方になることは少ないですけど、割と日常ですね。
社員がみんな会社に来ていなくて、インターン生からは寂しいと言われることもあります(笑)
たくみ
業務の合間、複業で抜けるようなメンバーもいるとか。
藤村
普通にいますね。編集部の正社員は5名ですが、そのうち僕を含む4名は複業をしています。
ですので、全社公開のスケジューラーに「10~11時まで複業」という予定が入っているメンバーもいますね。
とある編集部員のスケジュール。複業で抜ける時は、全社公開のスケジュールに記入する。
たくみ
本当にみなさん当たり前のようにリモートワークや複業をしているんですね。それにしても、5名中4名が複業ってすごいチームだな……。
残業はしない。集中できる時間の生産性を最大限に高める
たくみ
残業とかはいかがです?
藤村
僕ですか?
たくみ
はい。僕もwebメディアの編集長をやっていたことがあるので分かるのですが、なんだかんだ編集長ってやること多いじゃないですか。
藤村
残業はしませんよ。
たくみ
えっ、じゃあ夜は何してるんですか?もしや、サウナ……?
藤村
サウナや銭湯が好きなので毎日のように通ってますね。あと、飲みも含めて毎日いろいろな人に会ってます。
6・7月は珍しく予定が埋まっていて、週5で飲みの予定が入っていた週もありましたね。
たくみ
なんと!毎日じゃないですか。
藤村
先月はヤバかったですね。なぜかダブルヘッダーで飲み会が入っていたこともありましたし、それ以外にも外部のイベントに登壇、勉強会、飲み会、キャリア相談、飲み会、ミートアップ、飲み会、イベントの企画会議、飲み会、飲み会……。
たくみ
……す、すごい!(むしろ、夜の方が忙しそうだ)他に、働き方に関して何か変わった特徴はありますか?
藤村
「サイボウズ式Meetup」など、夜に自社イベントを開催することも多いのですが、その翌日は午前休を取ることが多いですね。
たくみ
えっ……ゆるすぎません?
藤村
だって、体が持たないじゃないですか(笑)
イベントは時間にすると数時間ですけど、当日は運営や登壇も含め、かなりのエネルギー使います。そんな疲れた状態でダラダラ仕事をするのは効率が悪いですからね。
たくみ
確かに。
藤村
たくみ
藤村さんってもしや、相当な合理主義者ですか……?
藤村
そうかもしれませんね。僕も30歳を超えているので、20代の頃のように長時間は働けません。
そもそもサイボウズでは、メンバーひとりひとりが自立して考えることが求められるので、どう仕事を進めていけば最善なのか、常に思考を巡らせるように意識していますね。
なんでそんな自由な働き方なのに、ヒットコンテンツを作れるんですか?
たくみ
ここからが本題です。サイボウズ式編集部のみなさんって、なんでそんなに自由な働き方なのにいつも安定してヒットコンテンツを作れるんですか?
メディア運営ってやること多いので、どうしても長時間労働に陥りがちじゃないですか。
藤村
「
キントーン」を使って効率よく仕事を進めているというのはありますね。
たくみ
キントーン?
藤村
クラウドの業務改善ツールです。メディア運営している人はキントーンを使うと便利ですよ。
たくみ
詳しく聞かせてください!
藤村
まずサイボウズ式では、みんなで顔を合わせて「ゼロから企画を考えよう」という会議はやりません。
じゃあどうするかというと、キントーンの社内SNS上で、メンバーが「企画になるんじゃないか」と思った案をつぶやくんです。
編集部メンバーがネタを思いつくと、随時キントーン上に投稿していく。
藤村
その中で面白いものに関しては、みんなから「いいね」や「コメント」がつきます。
このスペースは社員全員が見られるので、編集部以外の人からも「こんな企画どうですか?」と持ち込まれることもありますよ。
企画スレッドは編集部メンバー以外でもアイデアを書き込めるようになっている。
たくみ
編集部以外の社員も企画を持ち込めるのはすごいですね。そして、企画のブレストはオンラインで済ませておくのか……。
藤村
はい。オンラインですでに考えているネタを共有しているので、編集会議を始めるときは「さっきつぶやいた件ですけど、どうやったらもっと面白くなりますか?」と「共有」ではなく「相談」から入ることができます。
たくみ
自分は1から企画を持ち寄る会議をやりがちだったので、反省しました。そりゃ効率もよくないですよね。
藤村
ちょうどこのあと編集会議なんですが、よかったら参加してみます?
たくみ
いいんですか?ぜひ参加させてくださいー!!
その後、実際に編集会議に参加させていただきました。会議のやり方も新鮮でした……!
オンラインは「発散」、リアルな編集会議は「収束」
たくみ
編集会議、白熱してましたね。会議は藤村さんがファシリテーターを務められていましたが、普段はどんな点を意識して進行されてるんですか?
藤村
会議を進めるにあたっては、明確に「発散」と「収束」の場を切り分けて考えることを意識しています。
サイボウズ式の場合は、先ほどのようにキントーン上ですでに色々なネタをみんなが発信しています。そのためオンライン上のスペースは、アイデアなどを「発散」してもらう場所になります。
一方で発散だけをやっているとカオスになるので、僕がいったん情報を整理をして、「こんな方向でまとめたらいいんじゃない?」と「収束」をしていく。その場がリアルな編集会議という位置付けです。
たくみ
オンラインでの会話と、リアルな会議の使い分けをしっかりされているんですね。あとは、会議は予定の1時間できっちり切り上げていたのが印象的でした。
藤村
話し終わらないからといって、ダラダラ会議を続けるのは避けたいと思っています。それだとみんなの集中力も切れますし、何より僕がそういう会議のスタイルが嫌いなので。
今日触れられなかった議題については、オンライン上で続きをコミュニケーションすればいいので問題ないです。
たくみ
とことん効率的だ……。
徹底した仕組み化で、メンバーが働きやすい環境を整える
たくみ
編集会議後は、企画をどのように進めていくんですか?
藤村
編集会議でみんなから企画に対するフィードバックをもらった後は、担当者がキントーン上の企画アプリに「ターゲット」や「そのターゲットになんと言って欲しいか」を記入していきます。こんな感じですね。
サイボウズ式の企画フォーマット。「タイトル」「ターゲット」「なんて言って欲しいか」「コンテクスト」「企画担当者の思い」を記入していく。この企画も、全社員見れるようになっている。
たくみ
企画担当者の「思い」も入っているのがいいですね。
藤村
担当者自身がやりたい企画じゃないと、いい記事もできないですからね。
さらに企画のブラッシュアップが必要な場合は、僕と企画者がコメント欄でやりとりを行います。
タイトルの相談や原稿のフィードバック、記事の方向性の相談などは、同じアプリ上のコメント欄で行う。
たくみ
これ、普段使ってるチャットとスプレッドシートみたいに、別のアプリ同士を行き来しなくて済むのがスムーズでいいですね……!
藤村
そうなんですよ。あとそれぞれの企画に対する進捗もパッとわかりますよ。
誰がどの記事を担当していて、どんなステータスなのかが一目で分かるようになっている。
たくみ
これはわかりやすい。公開後の記事に関するPVやSNSでの反響はどうやって共有されているんですか?
藤村
ソーシャル上の反響も全部キントーン上にまとめているので、口頭で共有する時間はとらないですね。
記事公開後は、ソーシャル上の反響をキントーン上に共有していく。
たくみ
(記事の反響を報告するのも、会議でやりがちだ……)。数字の振り返りや共有はどうやっているんですか?
藤村
PVや平均滞在時間、はてなブックマークの数などもキントーンで閲覧できるようにしています。
「ここ見てくださいね」という感じなので、わざわざ数字の報告の会議はしないですね。
サイボウズ式の、ソーシャル反響の解析アプリ。赤枠部分に、PVやツイート数などが入力されている。
たくみ
本当に必要な会議しかしないんですね。ちなみに一番下の、SBM率って何ですか……?
藤村
SBMはソーシャルブックマーク率ですね。PVはそこまでいかなかったけど、ソーシャルで拡散されている割合が高い記事とかも割り出せて便利です。
たくみ
なるほど!ただ、これ藤村さんが全部の数字を入力するのは大変なんじゃ……。
藤村
あ、僕は数字を入力しないです。自動的に数字が溜まっていきます。
社内のエンジニアが、開発者向けのブログでソーシャル上の数字を自動で取得してくれるプログラムを実装していたので、サイボウズ式用にも同じような数字取得アプリを作成してもらいました。
キントーンは外部のシステムと連携したり、色々なカスタマイズができたりするんです。
たくみ
キントーン便利すぎますね……!(というか、編集部の運営スタイルが洗練されすぎていて、同じメディア関係者としては若干落ち込んできた。)
藤村
僕、こういう効率化の仕組みを作るのが好きなんですよね。あとは「Shikipedia(シキペディア)」も僕がガリガリ作りました。
たくみ
Shikipedia(シキペディア)?
藤村
サイボウズ式編集部におけるマニュアルのようなものです。
企画を立てるコツや記事公開のフロー、タイトルづけのコツ、イベント開催時のフローなど、サイボウズ式に関する業務のすべてをキントーン上に記載しています。
これさえあれば、仮に僕がいなくても編集部のみんなが一から記事を出せるような状態になっています。
マニュアルもキントーン上に!
たくみ
うわー、この「マニュアルの整備」は全メディア運営者がやるべき(だけどなかなかできない)やつですね……!
気になるTipsがたくさんあります。「タイトルづけのコツ」とか見てみたいですね。
藤村
どうぞ!
たくみ
めちゃめちゃ勉強になる……。こうやってサイボウズ式の価値観が、新しいメンバーにも伝わっていくのですね。
藤村
「編集長がいなくても仕事が回るようにすること」は、チームリーダーとしての最低限の仕事だと個人的には思っています。
これからも「これ、改善できるかな?」と思ったらスモールスタートでどんどん試していきたいですね。
編集メンバーがサボらないか、心配じゃないんですか?
たくみ
この仕組みなら、自由な働き方でもみんな自立して仕事を進めていけそうですね。
ただやっぱりこんなに自由な働き方だと、実際メンバーがサボっていないか気になりませんか?
藤村
まったく気にならないですね。そもそもサボる人はどんな環境下でもサボりますから。
「管理すればサボらなくなる」ではないんですよね。人は自分の動機が満たされていない時にサボるようになると思うんです。
たくみ
確かに……!
藤村
それに、僕はむしろサボってもいいと思ってるんです。
たくみ
サボっててもいい?どういうことですか?
藤村
こういう企画の仕事だと、それこそずっとパソコンに張り付いていても良いアイデアは生まれません。
適度にサボりながら……サボりながらって言うと、ちょっと語弊がありますが(笑)正しくは、仕事のことを考える時間以外の「ゆとり」を入れることが大事だと思います。
たくみ
それは完全に同意ですね。傍から見てると一見サボっているように見えるかも知れないですが、一回リフレッシュして、また新たに刺激を入れるのが良い効果を生むんですよね。
藤村
それですよ。みんなね、マジでもっと休んだ方がいいですよ!
たくみ
メンバーのモチベーション管理についてはどうお考えですか?(若干、答えが見えているような気もするけど)
藤村
モチベーションって、人によってもタイミングによってもムラがあるものなんですよね。それこそ結婚してライフスタイルが変わったりすれば、仕事に対する比重は下がることもあります。
僕はそれが普通だと思っているので、その人のモチベーションが上がるまで「待つ」スタンスを取っていますね。その人のモチベーションが上がるようなタスクを提案したりしてみます。
やらされ仕事は辛い。メディア運営は楽しむもの
たくみ
編集部員のマネジメントも藤村さんが「管理する」のではなくて、本人の自主性に任せているんですね。
藤村
はい。メディアとか企画って、やらされ仕事だと全然面白いアウトプットにならないんですよ。
それこそ「これやって!」と言われて渋々受けた人が、良いアウトプットを出すところを僕はあまり見たことがないです。
メディアの源泉はその人が「面白い」と感じることであったり、その人の存在自体がメディアの差別化になると思ってるんですね。サイボウズ式ではメンバーの自発性を大切にしているので、企画が生まれたら、それを近くで応援していくスタイルで運営しています。
たくみ
いやあ、実に本質的ですね。それでは最後に「企画出さなきゃ、記事作らなきゃ、結果、長時間労働!」となりがちなメディアの運営者の人たちに向けて、一言もらえますか?
藤村
一言でいうなら、「楽しみましょう!」ですかね。本来、メディアってすごく面白い仕事だと思うんですよ。どんどん新しい人に会いに行けるし、自分で企画を作れるし、それが読者の方に受ければ自分の趣味が仕事になるようなものだし。
こんな感覚って他ではなかなか得られない仕事だと思うんです。
もちろん裏には難しい課題を乗り越えないといけないことも多いんですけど、基本は楽しむ気持ちが大事ですね。編集部のみんなが楽しめるメディア、そのための環境作りがつくづく重要だなと思っています。
とはいえ、改善できるポイントはまだたくさんあると思っています。メンバーがもっと気持ちよく働けるように、これからもサイボウズ式らしいチーム作りを心がけていきたいです。
たくみ
メディア運営の真髄を聞けた気がします……!本日は貴重なお話をありがとうございました!
執筆:たくみこうたろう / 撮影:内田明人 / 企画編集:熱田優香
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