つまらないと言われがちな社内イベント。全員参加をあきらめたら、社員が楽しんでくれた感動課の話
全員強制参加、発表は黙って聞け。かつ、楽しめ。そりゃ難しいですよ
「社内でコミュニケーションが不足している」
最近のコロナ禍において、こんなこともよく社内で聞きませんか? 解決策の1つとして「全社イベントを企画してほしい。しかも、オンラインで」と依頼されることも増えているのではないでしょうか。
「つまらない、参加したくない、意味が分からない」。みなさんの会社で、こんな印象を持たれているかもしれないもの。それが全社イベントです。僕も企画していてよく言われますし、ほかのイベントに参加するときに、たびたび思っていたりします。実際に、幹事や実行委員になった人は毎回準備に追われ、疲弊しているかもしれません。分かります。その気持ち。
僕は、サイボウズの感動課にいます。イベント担当ではないのですが、サイボウズの全社イベントには、たいてい運営として参加しています。感動課は、社内にある感動の種を見つけ、花を咲かせる活動をしている部署で、来年でまる10年になります。その間に見つけた「全社イベントというモンスターの倒し方(*)」を解説します。
* モンスターとは、実態のない縛りや価値観などついつい縛られがちなものを指します。
社内イベントがつまらないのは「イベント自体が本当に楽しくないから」
数年前に、社内旅行の記事を書かせていただきました。このような社内イベントって、僕が言うのもなんですけど、ぶっちゃけ微妙じゃないですか?
まずは、全社イベントというモンスターがどんなものなのか、どうしてつまらないものができあがってしまうのかを考えてみたいと思います。その原因はただ1つ、本当にイベントが楽しくないからです。なぜ、楽しくないイベントができあがるのか……。まず、以下の2つに当てはまっていないか振り返ってみてください。
1. あなたが幹事に向いていない
相手の反応だったり感謝のためにイベントをやるとうまくいったときは良いですが、失敗したりうまくいかないときはとても辛いのです。
簡単に依頼されることがある全社イベントですが、社内のことを知っていないとできませんし、時にはピエロになる必要もあります。会社のお金を使うわけですから予算を使うことへの納得感なんかも必要です。
まだまだこれだけではないですが、実にたくさんのバランス感覚みたいなものが必要になります。それを乗り越え、そもそもイベントごとを、細かくいうとイベントの「企画」を楽しめる人でないと向いていないと思います。この場合は、担当を変えてもらうように上司にお願いしましょう。
2. 普段の仕事で、そもそも一体感がない
全社イベントは、魔法のツールではありません。一体感を熟成するといったチームワーク向上には向いていると思います。
だからといって、そもそも一体感がなければそれを感じることはできませんし、イベントだけでチームワークが高まることはありません。
この場合は、別の手段での解決を上司に相談してください。どちらでもないなら、イベントが楽しくない原因は別にありそうです。
「楽しくない」を掘り下げるとどうなる?
次にやることは、「つまらない」とか「楽しくない」っていう言葉を掘り下げてみましょう。これらは、人の感じ方です。まずは、全社イベントの開催を依頼してきた人に、一度聞いてみてください。
「あなたの思う楽しいって、どんな状態ですか?」
質問してみると、依頼者と参加者が思う「楽しい」が異なる場合があります。そもそも依頼者が、楽しさを求めていないこともあったり、別の目的で開催したイベントを楽しさを尺度に振り返ったりするんです。難しいですよね。
ここのすり合わせを怠り、ズレが生じると、幹事は板挟みにあい、疲弊します。実際のところ、イベントを「楽しく」するのは難しいのですが、「つまらなくさせない」なら意外と簡単にできるんです。
「みんな参加」という呪縛から逃れ、あきらめて、絞ろう
もし「楽しい」がすりあっているのに、まだイベントが楽しくない。この時に陥りやすいのは、「みんなが」という呪縛です。
サイボウズは1,000人弱の会社です。全社イベントには200人くらいが参加します。5人に1人です。これは多いですか? 少ないですか? 少ないように感じますが、参加人数を目標にするなら、経験上それくらいを目指すでちょうどいいんです。
もしあなたが企画しているイベントの参加率がもっと上だったり、目標が高かったりすると、目標設定自体を見直した方がよいかもしれません。
大切なのは、適切なハードルを設けて企画することです。高すぎるハードルはしんどいだけです。時には無茶な目標はあきらめ、絞ることも大切です。
ここで一度、サイボウズの全社規模の社内イベントの特徴を振り返ります。
これは、前職や他社のイベントと比較して感じたポイントでもあります。
ある時、気づいたんです。つまらないのに全員強制参加、発表は黙って聞け。かつ、楽しめ。難しいですよね。過去にいろいろ悩んだあげく、全社イベント企画では、欲張らずにたくさんのことをあきらめました。あきらめたことで道が広がり、最後に「楽しい」が残ったように思います。
楽しさとは、そうしていろんな物事を削ぎ落とした最後に残っているものなのかもしれません。
参加強制をなくし、「楽しむ」だけを残してみた
世の中の楽しいこと、楽しめたことってどんなことがあるでしょうか? コンサート、遊園地、気になるあの子とデート。無理やり連れて行かれたものって、楽しませられている感じがしませんか?
そういうのって楽しくないんです。正確にいうと、楽しくなりにくいんです。
対して、サイボウズの各種イベントは「強制参加」はまずやりません。悪く言うと、参加したくない人に不参加にしてもらうことで、必然的に楽しさの濃度を濃くしていくのです。
イベントの想定参加者を絞ると、参加者は自ら参加を選択します。それにより「楽しませてくれるんですよね」という一歩引いた状態から、「楽しみたい」に心持ちが変わるんです。
大事なのは、出席したという結果ではなく、出席を選んだという行動だったりします。この一歩を引き出すためにも、参加は任意にすることをオススメします。
ちなみに、強制参加のイベントでは、参加していない人や無理やり参加させられた人からの意見やコメントが集まりがちです。もちろん、そういう人たちを放っておきません。その場合は、そういう人たち向けのイベントを別に考えたらいいだけです。
1つのイベントですべてを解決しようとするから難しいのです。そういう時は、イベントの数を増やすことを検討してみてください。
「全社イベントで人の話を聞かない」はマイナスじゃない。黙って聞いてもらうのをあきらめた
任意参加のサイボウズの社内イベントでは、楽しいがあまりに弊害も起きます。「うるさい」「話を聞かない」人が出てくることです。
実は最初、マイナスポイントだと思っていたのです。「せっかく前で話してくれているのに、話を聞かないってなんやねん!」って。
こう言いたい気持ちもわかります。むしろ僕も思っていますし、口にも出しています。でも、イベントに参加して話を聞いてほしいという思いは、主催者側のエゴみたいなところもあります。
過去にこの点で試行錯誤していた時、他社の全社イベントを見学させてもらう機会がありました。みなさん、めっちゃ前を向いて話を聞いています。でも発表者が関係部署以外の人に変わったら、みんなささっと帰っていくのです。横の人と話しもしません。
どことなく僕には、それが楽しそうには見えませんでした。楽しもうとするイベントではなく、会議に映ったんです。こうした経験もあり、ある時から全社イベントでは、参加者に黙って聞いてもらうのをあきらめました。だって、その方が楽しいですし、楽しかったらおしゃべりしますしね。
参加者にしたら、主催者が聞いてほしい題材より、「今話したい」という気持ちに正直に、隣の誰かと会話する方が大切だったりします。社員同士のコミュニケーションを大事にするのは、決して発表している人の話を聞くことだけではないんです。
あきらめが肝心といえるたった1つの理由
楽しいイベントにするために、いろんなことをあきらめてきました。あきらめが肝心という言葉は、ほかにも当てはまります。
あるイベントで、社長の青野に話をしてもらいました。社長が前で話をしている中、社員は話を聞かずに、どんどん隣の人と話し出します。社長の話が始まっても、黙らないんです。
実はこれ、サイボウズでは普通の光景だったのですが、見学に来ていた他社の方がビックリしていました。さらに輪をかけて、話し終わった青野が僕のところに来て謝るんです。「ごめん、準備が足りなかった。みんなに聞いてもらえる話ができなかった」って。
もし楽しくイベントで話を聞いてもらいたいときは、社長であるとないとにかかわらず、楽しい話をしてもらう必要があります。全社イベントは決して社長の話を聞く時間ではありませんし、楽しさは、社長の話に勝るとも劣らない大切なものです。
オンラインの全社イベントが活路を見いだしてくれた。企画者の本音
新型コロナの影響で、リアルに集まる全社イベントは開催できなくなりました。でも、こんな時だからこそ、コミュニケーションをとれる場を作りたいと思い、オンラインでも全社イベントを開催しています。
ここからは、全社イベントの中でも「オンライン開催」という部分について掘り下げてみたいと思います。
6月に開催したサポート感謝祭というイベントです。今まではリアル開催で本部内でやっていたイベントを、オンライン化し、全社イベントとして開催しました。今までつなぎにくかった場所をつなぐのにもオンラインイベントは最適です。
オンラインの経験が増えるにつれ、実はあることに気づきました。オンラインイベントは、実に主催者にとって都合のいいシステムだったんです。
オンラインにすることで、普段会わない人の顔も見ることができます。参加者は家からつなぐので、飼っているペットやご家族との他愛もない場面にも出くわすわけです。
これ、会社に集まっていたら無理ですよね。新しいコミュニケーションのあり方が生まれているんです。普段から在宅勤務をしていたり、他拠点で働いていて、テレビ会議中心にイベントに参加している人からは、「よかったよ」と言ってもらえる機会が増えました。
これまでのリアルなイベントは、会場に集まる前提で企画していました。もちろんテレビ会議でも中継していましたが、やっぱリアルに参加できない人がどっか置いてけぼりになっていたんだと思います。見せ方を変えたことで、テレビ会議越しでもより楽しめたようです。
オンラインイベントで社員の雑談がなくなるのは、イベント担当にはチャンス
オンラインイベントでは「隣の人とちょっとしたコミュニケーション」が取れなくなります。リアルイベントであきらめた、あの雑談やガヤガヤがなくなったのです。
開催形式が異なることで、今までよいと思っていたことがなくなったり、今まで難しいと思っていたことが逆に簡単になったりします。
では、ちょっとした雑談ができないという余白がどこに向かうか。画面に出てくるコンテンツです。オンラインイベントでは、雑談が難しくなるがゆえ、コンテンツを楽しむしかなくなります。例えばイベント用の動画を流すと、一斉にみてくれるんです。
別の動画共有サイトで流しつつ、Zoomはつなぎっぱなしにするので、どんな表情で見ているかもよく見れます。より明確にメッセージを伝えられるようになりました。
今までのリアルイベントで動画を流しても、人で溢れかえった会場では再生が始まったのにも気づかないですし、動画の中身で盛り上がってざわついたりすると、会場の後ろに座っている人は一気に聞こえなくなるんですよね。
オンラインイベントでは、「社員同士のコミュニケーション」「楽しむ」といったコンセプトのどれを欲張っても大丈夫みたいです。
そして、これまでのイベントにおける楽しみ方の比重が変わり、料理や会場の装飾といったリアルイベントで楽しむ工夫も、オンラインに適したやり方がどんどん出てくると思います。
今のタイミングだからこそ、全社イベントを再定義しませんか?
全社イベント企画における今の一番大きな変化は「参加者がコミュニケーションを求めていること」ではないでしょうか。参加者が求めているものがコミュニケーションといったように明確であれば、欲していないものを無理やり企画して提供するよりも、対応がとても簡単です。
「在宅が増えてコミュニケーションが不足している」。この課題は全社イベントだけで解決できるとは一概には言えませんが、一役買えそうな気がしています。
「コミュニケーション不足を解消したい」「イベントのコンセプトをしっかり伝えたい」「楽しみたい」
あれこれ欲張りたい幹事の方は、なおさらオンラインイベントを一度試してみるといいと思います。きっと、働いている社員の人柄や今まで知らなかった活動を知るといった、新たな発見をもたらしてくれるはずです。
社員がコミュニケーションを欲する状態の今は、全社イベントの担当者にとって、むしろチャンスなのかなと思っています。ただ単に場所をつなぐだけだったシステムは、離れた人の心をつなげる可能性がある貴重な存在になっていくのかもしれません。
大きく取り巻く環境が変わる今だからこそ、もう一度社内イベントを再定義してみてはいかがでしょうか。できなくなったこと以上に、やりやすくなったことやできることに気づくはずです。
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執筆
福西 隆宏
1974年奈良県 天理市生まれ。2004年サイボウズへ転職。開発部ドキュメントグループにてサイボウズ製品のマニュアル制作に携わる。2011年感動課設立に伴い異動、それ以降現在に至るまで、感動課としてサイボウズ社員を感動させ続けてきた。