働き方・生き方
誰かの働く態度を批判する前に知っておきたい「クソどうでもいい仕事」の話
やりがいを感じないまま働き、ムダで無意味な仕事が増えていく。
「一体、何のためにがんばっているんだろう…」
仕事の中で、そう感じたことはありませんか?
文化人類学者のデヴィッド・グレーバーさんは、世の中にとって有益ではない仕事の数々を「クソどうでもいい仕事」と名付け、日本国内でも注目を集めています。
世の中や人のためにならず、なくなっても困らない仕事が増え続けると、どのような影響があるのでしょうか?
今回は「クソどうでもいい仕事」の実態と、そのメカニズムに触れながら
仕事の本当の「価値」について、Kintopia 編集長のアレックス・ストゥレが取材しました。
「クソどうでもいい仕事」と「きつい仕事」
アレックス
高校生のときにやっていたスーパーのアルバイトは、繰り返しの作業が多く退屈で、いやでいやで仕方ありませんでした。
ただ先生の定義によると、このアルバイトは「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」とは限らないようですね。
ただ先生の定義によると、このアルバイトは「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」とは限らないようですね。
デヴィッド
私が「ブルシット・ジョブ」というと、周りからは大抵「自分がやりたくない、きつい仕事」のことだと思われます。そこで、「シット・ジョブ(きつい仕事)」という別のカテゴリーを思いついたんです。
「シット・ジョブ」は、低賃金で労働条件も劣悪、尊敬もされないきつい仕事のことです。
そのほとんどが社会生活に必要な仕事ですが、世の中には「人のためになる仕事ほど、賃金が下がる」という構図があります。
「シット・ジョブ」は、低賃金で労働条件も劣悪、尊敬もされないきつい仕事のことです。
そのほとんどが社会生活に必要な仕事ですが、世の中には「人のためになる仕事ほど、賃金が下がる」という構図があります。
アレックス
報酬と社会的利益が反比例しているんですね。
デヴィッド
そうです。これは非常にひねくれた考え方です。
それなのに、人々はこの構造を我慢しているだけでなく、「自分の仕事は社会に貢献していて、やりがいがある。だから報酬が少なくてしかるべきだ」と擁護しています。美徳こそが報酬であると思い込んでいるんです。
新型コロナウィルスのパンデミックのさなかでも、同じです。私たちは「エッセンシャルワーカーは、命がけで働くのが当然だ」と思い込んでいます。
こうした「シット・ジョブ」に携わる彼らはまさにヒーローです。こうしたパンデミックのさなかだけでなく、常に尊敬に値します。
それなのに、人々はこの構造を我慢しているだけでなく、「自分の仕事は社会に貢献していて、やりがいがある。だから報酬が少なくてしかるべきだ」と擁護しています。美徳こそが報酬であると思い込んでいるんです。
新型コロナウィルスのパンデミックのさなかでも、同じです。私たちは「エッセンシャルワーカーは、命がけで働くのが当然だ」と思い込んでいます。
こうした「シット・ジョブ」に携わる彼らはまさにヒーローです。こうしたパンデミックのさなかだけでなく、常に尊敬に値します。
人為的に需要を生み出す「クソどうでもいい仕事」
アレックス
「ブルシット・ジョブ」と「シット・ジョブ」の大きな違いは、有益性のようですね。
有益な仕事かどうかは、どう判断するのでしょうか。有益というのは、個人にとってなのか、それとも社会全体にとってでしょうか?
有益な仕事かどうかは、どう判断するのでしょうか。有益というのは、個人にとってなのか、それとも社会全体にとってでしょうか?
デヴィッド
仕事が有益かどうかは、本人が決めることです。「あなたの仕事は無益ですね」といって回るような人間にはなりたくはないですしね。
他人からみて「不満があるはずだ」と思われる職種も、実際に不満があるとは限らないんです。
他人からみて「不満があるはずだ」と思われる職種も、実際に不満があるとは限らないんです。
アレックス
詳しく聞かせてください。
デヴィッド
たとえば、「なぜ自分はこんな製品を売っているのか」と疑問に思う小売店員は多いと思うかもしれませんが、そんなことはありませんよね。
詐欺に加担していない限り、彼らは消費者のニーズを批判することはありません。「顧客が求めるものを提供する」のが自分の仕事であり、その仕事が社会に利益をもたらすと思っています。
自分の仕事をブルシット・ジョブだと答える人は、むしろ管理職や経営者といった職種に非常に多いです。
詐欺に加担していない限り、彼らは消費者のニーズを批判することはありません。「顧客が求めるものを提供する」のが自分の仕事であり、その仕事が社会に利益をもたらすと思っています。
自分の仕事をブルシット・ジョブだと答える人は、むしろ管理職や経営者といった職種に非常に多いです。
アレックス
なぜでしょうか?
デヴィッド
彼らは「自分は本当に何もしていない」と答えるんです。
彼ら管理職の仕事は、部下にきちんと仕事をさせることです。彼らも以前は部下と同じ仕事をしていたんですよね。上司がいなくたって仕事に影響がないのは、彼ら管理職もよくわかっています。
さらにひどいのが、上司である自分が部下の邪魔になっていると感じるケースです。
上層階にいる誰かに対して、上司が自分の存在をアピールするために、部下に延々と書類を書かせます。
部下の仕事を増やせば、今度は自分が人事評価表の記入に時間を取られることになり、パフォーマンスが低下するという矛盾が起こるんです。
彼ら管理職の仕事は、部下にきちんと仕事をさせることです。彼らも以前は部下と同じ仕事をしていたんですよね。上司がいなくたって仕事に影響がないのは、彼ら管理職もよくわかっています。
さらにひどいのが、上司である自分が部下の邪魔になっていると感じるケースです。
上層階にいる誰かに対して、上司が自分の存在をアピールするために、部下に延々と書類を書かせます。
部下の仕事を増やせば、今度は自分が人事評価表の記入に時間を取られることになり、パフォーマンスが低下するという矛盾が起こるんです。
デヴィッド
さらには、「自分が働く業界自体、存在しないほうがマシ」と感じる人たちもいます。
たとえば、テレマーケティングの営業担当がそうです。これまでに出会った担当者たちは「この仕事がなくなればいい」と思っている人がほとんどでした。金融やマーケティングのような分野も同じです。
たとえば、テレマーケティングの営業担当がそうです。これまでに出会った担当者たちは「この仕事がなくなればいい」と思っている人がほとんどでした。金融やマーケティングのような分野も同じです。
アレックス
人為的に需要を生み出すビジネスですね。
デヴィッド
まさにそうです。以前、映像の世界で働く特殊効果アーティストに聞いた話が印象的でした。
「巨大恐竜が宇宙船を攻撃するような映画の特殊効果をやっているときは、楽しくて自分の人生の意味を感じられます。でも仕事の95%は、芸能人の見栄えをよくしたり、製品の効果をでっち上げたりする広告の加工や修正です。視聴者の自信を喪失させて、たいした効果もない製品を売り込むのに一役買っているんです」と。
「巨大恐竜が宇宙船を攻撃するような映画の特殊効果をやっているときは、楽しくて自分の人生の意味を感じられます。でも仕事の95%は、芸能人の見栄えをよくしたり、製品の効果をでっち上げたりする広告の加工や修正です。視聴者の自信を喪失させて、たいした効果もない製品を売り込むのに一役買っているんです」と。
「クソどうでもいい仕事」を頑張れなければ、仲間じゃない
アレックス
自分の仕事を「ブルシット・ジョブ」だと答える人は、どれくらいいるんですか。
デヴィッド
私は世論調査に基づいて査定していますが、質問の仕方によって回答は変わります。ある調査では10%前後と、かなり低い数字が出ました。
そのときは「自分の仕事は組織にとって有益か」という質問に、9割の人が「はい」と答えましたが、この調査ではそもそも「組織が存在すべきか」という質問は聞かれていませんでした。
イギリスのYouGovの世論調査によれば、37%が「自分の仕事は、誰にとっても有益な貢献をしていないと思う」と回答していました。
その後、ほかの調査結果も出ていますが、「自分の仕事がブルシット・ジョブだ」という人は20~25%程度だと見積もっています。
そのときは「自分の仕事は組織にとって有益か」という質問に、9割の人が「はい」と答えましたが、この調査ではそもそも「組織が存在すべきか」という質問は聞かれていませんでした。
イギリスのYouGovの世論調査によれば、37%が「自分の仕事は、誰にとっても有益な貢献をしていないと思う」と回答していました。
その後、ほかの調査結果も出ていますが、「自分の仕事がブルシット・ジョブだ」という人は20~25%程度だと見積もっています。
アレックス
「ブルシット・ジョブ」は、どこから生まれるのでしょうか。
農業や工業は少なくともアウトプットを作り出すので、サービス業から発生するのでしょうか。
農業や工業は少なくともアウトプットを作り出すので、サービス業から発生するのでしょうか。
デヴィッド
サービス業という言葉は当てになりません。
髪の毛を切ったり、コーヒーを入れたりする仕事と、事務職や一般職とで大きく異なります。
これまでサービス業と考えられてきた仕事は、過去150年間20%前後で推移していて、数はあまり変化していません。
指数関数的に増加しているのは、事務職や一般職、管理職です。これこそ私が考える「クソどうでもいい仕事」です。
髪の毛を切ったり、コーヒーを入れたりする仕事と、事務職や一般職とで大きく異なります。
これまでサービス業と考えられてきた仕事は、過去150年間20%前後で推移していて、数はあまり変化していません。
指数関数的に増加しているのは、事務職や一般職、管理職です。これこそ私が考える「クソどうでもいい仕事」です。
アレックス
なぜこの業種で「ブルシット・ジョブ」が多発しやすいのでしょうか。
デヴィッド
組織が成長するにつれて肥大化し、非効率になることは、組織論ではよく知られています。
注目すべきは、なぜ誰も手を打たないかという点です。
経営陣は、「シット・ジョブ」に就く人たち、実際にモノを作ったり、動かしたりしている人たちを経費削減と効率化の対象にします。しかし、財政的な余力ができると、自分たちが重要な存在であるかのようにみせるために、すぐに自分を偉そうにみせる「取り巻き」を雇うんです。
経費削減と効率化が賞賛される資本主義にあって、なぜそんな非効率がまかり通るのか?とても疑問に思います。
注目すべきは、なぜ誰も手を打たないかという点です。
経営陣は、「シット・ジョブ」に就く人たち、実際にモノを作ったり、動かしたりしている人たちを経費削減と効率化の対象にします。しかし、財政的な余力ができると、自分たちが重要な存在であるかのようにみせるために、すぐに自分を偉そうにみせる「取り巻き」を雇うんです。
経費削減と効率化が賞賛される資本主義にあって、なぜそんな非効率がまかり通るのか?とても疑問に思います。
アレックス
たしかに、不思議ですね。
デヴィッド
理由はいくつかありますが、ひとつは政治的なものです。
右派も左派も「雇用創出は常に善である」という点では、完全に意見が一致しています。誰もが仕事に就くことを望んでいます。
道徳上の理由もあります。仕事は道徳的な市民の象徴です。好きでもない上司の下で、好きでもない仕事を頑張れない人は、コミュニティの愛情、手助け、配慮には値しない、という考え方があります。
私たちの仕事は、消費者として喜びを享受する道徳的権利を得るために、苦痛を伴うものとされていたんです。
右派も左派も「雇用創出は常に善である」という点では、完全に意見が一致しています。誰もが仕事に就くことを望んでいます。
道徳上の理由もあります。仕事は道徳的な市民の象徴です。好きでもない上司の下で、好きでもない仕事を頑張れない人は、コミュニティの愛情、手助け、配慮には値しない、という考え方があります。
私たちの仕事は、消費者として喜びを享受する道徳的権利を得るために、苦痛を伴うものとされていたんです。
本当に仕事をしている人はだれ?
アレックス
なぜ経営者は、有益な投資をする代わりに、自分の取り巻きを雇おうとするのですか。
デヴィッド
取り巻きがあれやこれやと世話を焼いていないと、その人の重要性が下がってみえるからです。
これは私が教鞭をとっている大学や、病院、クリエイティブな産業など、あらゆる分野でこの現象が見られます。
たとえば、大学がビジネス界から人材を採用したいと思ったら、高額な報酬を提示するだけでなく、アシスタントを5人つけなくてはいけません。
困ったことに、その5人のアシスタントには何の仕事も与えられません。だから、仕事をでっちあげるのです。
時間配分のリサーチをして、院生と学生の学習成果の差分分析を終わらせなければ、研究に取り組めません。こんな仕事は無意味でしょう。どうせ誰も報告書なんて読まないんですから。
結果的に、「何をするべきか」を議論・分析したり、評価する時間が増えるだけで、実際に行動する時間はどんどん減っていきます。
これは私が教鞭をとっている大学や、病院、クリエイティブな産業など、あらゆる分野でこの現象が見られます。
たとえば、大学がビジネス界から人材を採用したいと思ったら、高額な報酬を提示するだけでなく、アシスタントを5人つけなくてはいけません。
困ったことに、その5人のアシスタントには何の仕事も与えられません。だから、仕事をでっちあげるのです。
時間配分のリサーチをして、院生と学生の学習成果の差分分析を終わらせなければ、研究に取り組めません。こんな仕事は無意味でしょう。どうせ誰も報告書なんて読まないんですから。
結果的に、「何をするべきか」を議論・分析したり、評価する時間が増えるだけで、実際に行動する時間はどんどん減っていきます。
アレックス
不要不急の仕事が増えてしまいますね。
デヴィッド
もう1つおもしろい話があります。
ハリウッドの業界人に「最近の映画はなぜこんなにつまらないのか」と聞けば、「脚本に口を出す人が25人もいて、収拾がつかないからだ」と答えるでしょう。
監督とプロデューサーだけでなく、「エグゼクティブ・バイス・プレジデント」の肩書を持つ人が大勢いて、彼らなりにやるべきことを見つけなければならないので、と脚本に口をはさむわけです。
ハリウッドの業界人に「最近の映画はなぜこんなにつまらないのか」と聞けば、「脚本に口を出す人が25人もいて、収拾がつかないからだ」と答えるでしょう。
監督とプロデューサーだけでなく、「エグゼクティブ・バイス・プレジデント」の肩書を持つ人が大勢いて、彼らなりにやるべきことを見つけなければならないので、と脚本に口をはさむわけです。
アレックス
誰もが「何かしなくてはならない」と思っているから、他の仕事が増えて、業界全体の邪魔になってしまうと。
デヴィッド
その通りです。
結果として、本当に仕事をしている人の仕事がさらに増えてしまいます。そしてそれが当たり前になってしまうんです。
結果として、本当に仕事をしている人の仕事がさらに増えてしまいます。そしてそれが当たり前になってしまうんです。
時間を所有する考え方が、不要不急の仕事を生み出す
アレックス
本のなかで、「ブルシット・ジョブ」は不健全な時間の概念によって生まれたとおっしゃっていますね。
デヴィッド
はい。
昔は費やした時間ではなく、どれだけ仕事をしたかで評価されていました。
ですが、今の社会では、時間は買ったり売ったりできるモノだととらえられています。
雇用主が「従業員の時間は、我々のものだ」と言えば、従業員は自然と「それなら会社が所有していない自由な時間を最大化しよう」と考えるようになり、やっかいなことになります。
この考え方が「何かしなければいけない」という不要不急の仕事を生みだしてしまうんです。
昔は費やした時間ではなく、どれだけ仕事をしたかで評価されていました。
ですが、今の社会では、時間は買ったり売ったりできるモノだととらえられています。
雇用主が「従業員の時間は、我々のものだ」と言えば、従業員は自然と「それなら会社が所有していない自由な時間を最大化しよう」と考えるようになり、やっかいなことになります。
この考え方が「何かしなければいけない」という不要不急の仕事を生みだしてしまうんです。
アレックス
どういうことでしょうか?
デヴィッド
もともと私は、住宅のペンキ塗りなどを生業とする労働者階級の出身です。
労働者階級の人たちは自分たちの仕事を理解していて、仕事に誇りを持っています。
仕事の中で一番やっかいなのは、雇用主に「まだ就業時間中だろう」といわれないように、仕事が終わっても忙しいふりをしなければいけないことです。
そして、この私たちの仕事の一番やっかいな部分が、中流階級にとって仕事のすべてなんですよ。
この本を執筆しながら、私のような労働者階級出身の人間が、何もせずに給料をもらっている中流階級の人たちをあわれむのはおかしなことだと思いました。
でも「常に仕事をしているふりをしなければならない」なんて、つらいに決まっています。
労働者階級の人たちは自分たちの仕事を理解していて、仕事に誇りを持っています。
仕事の中で一番やっかいなのは、雇用主に「まだ就業時間中だろう」といわれないように、仕事が終わっても忙しいふりをしなければいけないことです。
そして、この私たちの仕事の一番やっかいな部分が、中流階級にとって仕事のすべてなんですよ。
この本を執筆しながら、私のような労働者階級出身の人間が、何もせずに給料をもらっている中流階級の人たちをあわれむのはおかしなことだと思いました。
でも「常に仕事をしているふりをしなければならない」なんて、つらいに決まっています。
立場を守るために、「仕事をしているふり」が必要
アレックス
「ブルシット・ジョブ」は心理的にどんな影響を及ぼしますか。
デヴィッド
悲惨ですよ。本のなかでは精神的暴力と呼んでいますが、人間はまったく無意味なことを強要されると、精神に影響が出ます。
でも、意味のある仕事を与えられた途端に、うつ病の症状や不安がやわらぎ、心身の病ですら消え去ってしまうことがあります。人間の性質がおもしろい形で反映されていますよね。
でも、意味のある仕事を与えられた途端に、うつ病の症状や不安がやわらぎ、心身の病ですら消え去ってしまうことがあります。人間の性質がおもしろい形で反映されていますよね。
アレックス
「ブルシット・ジョブ」がそんなに憂鬱なら、割り切ってお金だけもらって、人生の目標を追いかけるとか、何か別のことをすればいいのでは。
デヴィッド
時間を潰してしまうことになるので、結構難しいんです。常に何かしている「ふり」が必要になり、「ふり」をしていると、ほかのことをするのがとても難しくなります。
もちろん中には「ブルシット・ジョブ」に別の価値を見出す人もいます。たとえば昔の詩人は、夜間警備員のような仕事をしていました。
もちろん中には「ブルシット・ジョブ」に別の価値を見出す人もいます。たとえば昔の詩人は、夜間警備員のような仕事をしていました。
アレックス
仕事中は、誰にも邪魔されないですしね。
デヴィッド
ですが、大抵の「ブルシット・ジョブ」はそうはいかず、常に忙しいふりをしなければいけない。
実際、仕事量が一番少ない人が一番忙しそうに見えるケースもあります。「つらい仕事に忙殺されてこそ、道徳的市民としての地位が手に入る」という話にも通じますね。
実際、仕事量が一番少ない人が一番忙しそうに見えるケースもあります。「つらい仕事に忙殺されてこそ、道徳的市民としての地位が手に入る」という話にも通じますね。
「仕事は忙しくて当然」という思い込みが、わたしたちを疲弊させる
アレックス
「ブルシット・ジョブ」を解決する方法はありますか。それとも、これが近代経済の現実なのでしょうか。
デヴィッド
簡単に手を打てたはずです。
1920〜30年代を振り返ってみると、「仕事の未来」について2つの考え方がありました。
ひとつは「混乱」です。「製造工程が自動化されたら、どうなるんだ! 椅子にじっと座って、自分の膝を見つめながら、酒に溺れて落ち込むに違いない」というパニックが起こりました。
もうひとつは「興奮」です。「もうすぐ週15時間労働が実現して、詩を書いたり、ホルンを習ったりする空き時間がたっぷりできるぞ。最高じゃないか!」という高揚感です。
1920〜30年代を振り返ってみると、「仕事の未来」について2つの考え方がありました。
ひとつは「混乱」です。「製造工程が自動化されたら、どうなるんだ! 椅子にじっと座って、自分の膝を見つめながら、酒に溺れて落ち込むに違いない」というパニックが起こりました。
もうひとつは「興奮」です。「もうすぐ週15時間労働が実現して、詩を書いたり、ホルンを習ったりする空き時間がたっぷりできるぞ。最高じゃないか!」という高揚感です。
アレックス
豊かさを自分たちの手でコントロールできるかどうか、AIと人間の関係性や、仕事の在り方はよく課題として挙がりますね。
デヴィッド
最終的に勝ったのは前者です。
自分を持て余した人たちが、その恐怖を周囲に広げてパニックを引き起こしたんです。
いまだに技術が進歩するたびに「ロボットに仕事を全部奪われたら、どうやって生きていけばいいのだ」というような道徳を振りかざしたリアクションが多いです。
これは経済システムが完全に破綻していることを表していると思います。
私たちの先祖は、後世の人間が必死に働かなくてもいいように、私たちがもっと楽な生活を送れることを夢見て、懸命に働きました。
ところが、私たちはそんな生活を求めようともせず、「手にした豊かさをどう使うか」という極めて単純な経済問題すら解決できていません。
自分を持て余した人たちが、その恐怖を周囲に広げてパニックを引き起こしたんです。
いまだに技術が進歩するたびに「ロボットに仕事を全部奪われたら、どうやって生きていけばいいのだ」というような道徳を振りかざしたリアクションが多いです。
これは経済システムが完全に破綻していることを表していると思います。
私たちの先祖は、後世の人間が必死に働かなくてもいいように、私たちがもっと楽な生活を送れることを夢見て、懸命に働きました。
ところが、私たちはそんな生活を求めようともせず、「手にした豊かさをどう使うか」という極めて単純な経済問題すら解決できていません。
アレックス
個人のレベルでは、仕事に対する姿勢をどのように見直せばいいでしょう。
デヴィッド
「もっとがんばって働くべきだ」と他人を批判しないことです。私たちを疲弊させるのは、その態度ですから。
企画・執筆:Alex Steullet/翻訳:ファーガソン麻里絵/編集:神保 麻希
サイボウズ式編集部より
去る2020年9月2日、デヴィッド・グレーバー氏が急逝されました。
本企画で取り上げた「ブルシット・ジョブ」をはじめ、グレーバー氏が描いた未来や思いを
より多くの人に伝え、実現していくことが、私たちにできる追悼だと思います。
サイボウズ式 編集部一同、謹んでお悔やみ申し上げます。
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執筆
編集
編集部
神保 麻希
サイボウズ株式会社 マーケティング本部所属。 立教大学 文学科 文芸・思想専修 卒業後、新卒で総合PR代理店に入社。その後ライフスタイル系メディアの広告営業・プランナーを経て、2019年よりサイボウズに入社。