そのがんばりは、何のため?
あなたが逃げれば、世の中はよくなる。「クソ仕事」に気づいたら、逃げる勇気を──山口周さん

「この仕事に意味はあるのだろうか?」「もっと効率的なやり方があるはずだ」……。
そんなモヤモヤを感じつつも、上司から指示された仕事をこなす人は少なくないはずです。なかには、非生産的な仕事をがんばり続けて、心身に不調をきたす人もいます。
『ニュータイプの時代』を上梓した独立研究家の山口周さんは、本書の中で「意味のない仕事=クソ仕事」が日本では蔓延している、と言います。
「クソ仕事」を目の前にしたとき、ビジネスパーソンが進むべき道とは? サイボウズ式編集部の神保麻希が聞きました。
「上司好みの資料をつくる」は「クソ仕事」

わたしは、その言葉を誰かにずっと言ってほしかったんだな、と思って。


たとえば、「上司の仕事が終わるまで帰らない」とか「上司好みの資料をつくる」などの非生産的な作業が、業種を問わず周りでも多くて……。


山口周(やまぐち・しゅう)さん。独立研究者・著作家・パブリックスピーカー。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発などに従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)や『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。最新著は、水野学さんとの共著『世界観をつくる 「感性×知性」の仕事術』(朝日新聞出版)

どうすれば、わたしたちは「クソ仕事」を見極められるのでしょうか?

どれだけがんばっても、「この人は優秀だ」など組織内で有利に扱われるような社会資本が得られない仕事は、極力避けたほうがいいでしょう。




人的資本は、どこの業界や組織でも通用するものほど価値が高くなります。しかし、「クソ仕事」では、特定の業界や社内のみで使える能力やスキルしか得られないことが多いんです。
終身雇用制度が崩れてきている現代において、異なる業界に入った途端に役に立たなくなる能力やスキルだけしか得られないのは、かなり危険ですよね。


「クソ仕事」の語源は、社会人類学教授のデヴィッド・グレーバーの著書『Bullshit Jobs(クソ仕事)』。山口さんは同著を読んで、「先に言われちゃったな」と思ったのだそう。

「クソ仕事」を生み出すのは「クソ上司」




たとえば、組織は「営業局・営業推進部・営業第一課」のように階層化され、社員には役職に応じた職務や権限が与えられています。要するに、裁量のヒエラルキーが明確化されているのです。


つまり7割の上司が、部下にまともな指示を出せていないのです。


1つは、自分もプレイヤーになって率先して仕事するタイプの「クソ上司」です。


これは何でも自分でやりたがって、部下に明確な指示を出せていないからです。むしろ、組織をかき乱して、業績を下げてしまう可能性のほうが高いのです。



こういう人は、自分の上司にアピールをしたいがために、本来は必要ない仕事をよく生み出すんですよ。


上司の言う「やる気を出せ」はナンセンス

「そんなことばかり言われても、がんばれないし……」と思ってしまう人も多そうです。

「やる気=モチベーション」だと思いますが、それを引き出すのは上司の役割です。だから、部下に向かって「やる気を出せ」なんて言うのはナンセンスだと思っていて。
そもそも、「無意味な仕事」や「尊敬できない人から指示された仕事」に、やる気って出せませんからね。

ちなみに、山口さんは、そういう上司の下で働いたことってありますか?

新卒で入った会社では、当初、筋の悪い上司の下で働いていました。そしたらストレスがたまり、肺に穴が空きまして……。



入社2年目のときに、あるデータを人力で転記する作業を指示されて。その効率の悪い作業が大嫌いだった僕は、「これをITでラクにできないか」と試行錯誤していたんです。


一方の僕は、「この人は、どうしてITがない時代の話をするんだ?」と思い、大喧嘩になりました。それを知った会社側が、僕の配属先を変えてくれたんです。


相談にはすぐに乗ってくれる人でしたが、仕事の目的だけしか言わず、仕事のやり方については「あとはよろしく」とすべて丸投げでした。
そのおかげで、それまで経験のなかった「イベントの企画」や「マーケティングプランの作成」ができるようになりましたね。


それに、会社の代表として、僕がすべてに主導権を握って動くようになったら、利益やクライアントからの評価が上がるようになりました。そのときから仕事が楽しくなったんです。

「クソ仕事」に意味づけできれば、クソじゃなくなる




ひとつ考えられる打開策としては、「クソ仕事」への見方を変えて、自分の力で「人的資本の蓄積」をしていく方法があります。



ただ、「それだけでは食べていけない」と思い、大学卒業後はサラリーマンの道に進んだそうです。


にもかかわらず、いちばん入りたくなかったシステム部門にプログラマーとして配属され、「もう終わったな」と。


入社2日目にして、「プログラムを書くことは、コンピューターと人間の対話である。だから一人称の文学なのだ」と気づいたそうなんです。


辞めていった同期は「自分がなぜこんなことをやるのか」と仕事におもしろさを見出せなかったのでしょう。
そんなふうに、自分の中で「クソ仕事」に新しい意味づけをして、「クソじゃない仕事」に変えていくこともできます。


愚痴をこぼすだけじゃなく、その場でできることを考えて、とにかく動くことに尽きると思いますよ。
「クソ仕事」に気づいたら、「逃げる勇気」を持つ

でも、Twitterで山口さんは「理不尽で苦しい状況に置かれたら、逃げなければならない」と発言されていましたよね。
あなたには「逃げる責任」があります。理不尽で苦しい状況に置かれたら「逃げてもいい」のではなく「逃げなければならない」んです。そうすることで社会は発展する。みんながもっと逃げればこの国は確実に良くなるはずです。将来のこどもたちのためにも「逃げる勇気」を持って欲しい。
— 山口周 (@shu_yamaguchi) December 10, 2019




ただ、大抵は本来逃げるべき場所で、がんばり過ぎていて。だから、基本的には自分が「つらい」と感じたら、何かアクションを取ったほうがいいと思います。

本音では、がんばることに疲れていても、「ここに踏みとどまるべきだ」と考える人は多そうです。

わたしたちには「逃げ出さない」「努力は報われる」などの“ボイス”が刷り込まれています。
それには規範をつくる大きなパワーがあって、「この会社、辞めようかな?」と思ったとき、「逃げちゃいけない」という考えが頭に浮かびやすくなります。

無理をしてがんばっているときこそ、「いまの場所で、がんばり続けなきゃいけない」と思ってしまいがちですよね。

ただ、逃げれば世の中はよくなると思うんです。逃げられるような会社は業績がどんどん下がって、市場から退出させられますから。だから、もっと多くの人に「逃げる勇気」を持ってほしいと思っています。
「〜すべき」と縛るのは、自分の声なのかもしれない


僕は新卒で入社した会社を、6年目で辞めています。そのあと、当時の自分を客観的に見たとき、「どうして、あんなに働いていたんだろう」と感じました。


とくに、理不尽な要求が日常化している環境で働いている人は、「自分ができないから、上司がこんなに厳しいんだ」と自分を責めるようになりがちです。
そうすると、精神的な余裕までなくなって、「限界が来ていること」にすら気づけなくなる。本来は、その「つらさ」に気づけるようになれればいいんですけど……。



働きすぎていたとき、母親から「あんた、おかしくなっているわよ。会社を辞めたら?」とぽろっと言われて。
それを聞いて、僕は救われたんです。「世の中って、これくらい働くのが当たり前じゃないの?」と自分の感覚が麻痺している状態に気づけたので。

ただ、家族や友人から「がんばらなくていい」と言われても、「がんばるべきだ」という呪縛から逃れられない人もいそうです。

それは、「がんばるべきだ」「逃げてはいけない」は誰が言っているのか、自問自答してみることです。
大抵は自分自身がそう思い込んでいるだけで、誰からも言われてはいないんですよ。だから、「〜すべき」「〜してはいけない」の理由を自分に問いかけて、その思い込みに気づくことが大切なのです。
それができれば、視野がグッと広がるかもしれません。

成功するために、いちばん大切なのは、「いるべき場所」にいること


「クソ上司」の下にいることは、自分の人生にとってマイナスですよね。であれば、その「クソ上司」をどかすか、自分が動くしかありません。
それを限られた時間の中で決めないといけないのに、悩んでいる人は少なくありません。でも株主は、そういう経営者にいちばん投資したくないんですよ。


その人が「アーティストとして成功するために、いちばん大切なことは何ですか?」と質問されたそうなんです。


本当にその通りだと思いますね。「ここは自分の居場所じゃない」と感じたら、まずは逃げなければならないのだと思います。

企画:神保麻希(サイボウズ)執筆:流石香織 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)
サイボウズ式特集「そのがんばりは、何のため?」

一生懸命がんばることは、ほめられることであっても、責められることではありません。一方で、「報われない努力」があることも事実です。むしろ、「努力しないといけない」という使命感や世間の空気、社内の圧力によって、がんばりすぎている人も多いのではないでしょうか。カイシャや組織で頑張りすぎてしまうあなたへ、一度立ち止まって考えてみませんか。
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執筆

流石 香織
1987年生まれ、東京都在住。2014年からフリーライターとして活動。ビジネスやコミュニケーション、美容などのあらゆるテーマで、Web記事や書籍の執筆に携わる。
撮影・イラスト

編集
