ブロガーズ・コラム
「テレワークだからイノベーションが起こらない」は思い込み。足りないのは、仲間といっしょに仕事をする「場」だ
コロナ禍を受け、テレワークを導入したものの、オフィスの時と比べると「何か」が足りない……。
そんな課題を抱えている企業は少なくないでしょう。株式会社テレワークマネジメント代表取締役の田澤由利さんは、「テレワークには"場づくり"が欠かせない」と話します。
今回はイノベーションをはじめ、テレワークでは足りない「何か」を起こす働き方のポイントを、田澤さんに解説いただきました。
「テレワークだと、社内でイノベーションが起こりにくい。どうすればいいか」
コロナ禍における緊急事態宣言後、長年テレワークのコンサルティングをするわたしに、複数の大手企業担当者からこんな相談が相次いだ。
コロナ禍をきっかけにテレワークを始める企業ではない。コロナ前からテレワークの制度を導入し、コロナ禍において、多くの社員が長期に渡り、テレワークを実施。そしていまも続けている……。
そんな企業から、なぜいま、「イノベーション」という言葉が出るのか。その答えをお話する前に、そもそも「テレワーク」とは何なのかから、説明しよう。
「一部従業員のため」から「社員全員へ」激変したコロナ禍のテレワーク
国は、テレワークを「ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義している。
単に、場所にとらわれず自由に働くことではない。これまで固定されていた、働く時間と場所を柔軟にすることで、企業は生産性を高め、働く人は自分のための時間を確保することができる。また、時間と場所に制約があり、働くことができなかった人も、働けるようになる。
テレワークは、少子高齢化が進み、労働力人口が減少し続ける日本にとって不可欠な「働き方のコンセプト」である。
しかし、国が推進の旗を振っても、日本では、なかなか浸透しなかった。総務省の「令和元年通信利用動向調査」によると、コロナ前において、テレワークを導入している企業の割合は『20.2%』。
テレワーク制度導入済み企業でも、半数近くが「利用している従業員は5%未満」。テレワークの制度導入は少しずつ進んではいるものの、一部の従業員しか利用していない、というのが実情だった。その理由は、多くの企業が、子育て支援など、一部の従業員のための福利厚生的な位置づけだったからだろう。
それがコロナ禍で、激変する。東京商工リサーチの調査によると、2020年4月~5月の緊急事態宣言下において、在宅勤務を実施した企業は、大企業で8割以上、中小企業でも5割以上。全国平均で『55.9%』にも上った。
しかし、突然のテレワーク実施には、無理があったのだろう。宣言解除直後は、出社する社員が増え、実施率は大きくさがる。
ところが、解除3か月後の数字をみると、少しではあるが増加している。この数字を裏付けるように、中小企業経営者から、「緊急事態宣言下では、機材やネット環境が整わず在宅勤務ができなかったが、今後のために導入したい」という相談が少なくない。
調査は異なるものの、コロナ禍前の総務省調査と比較すると、特に中小企業が大きく伸びている。この動きは、さらに進むと思われる。テレワークが、アフターコロナに向けたニューノーマルな働き方となるのは、間違いないだろう。
コロナ禍で気づいた「オフィスでのコミュニケーション」の重要性
今回の「社員の多くが長期間テレワークをする」という経験で、テレワークの課題が見えるとともに、日本の多くの企業や社員が気づいたことがある。
これまで当たり前のように通っていた「オフィス」の重要性だ。
テレワーク用に、パソコンは1人1台ある、インターネット環境も用意した。Web会議ツールやチャットツールも導入した。確かに、オンラインで会議は開催できる。業務指示はチャットで可能だ。しかし、テレワークでは何かが足りない。
それは、オフィスで行われていた「コミュニケーション」だった。業務のホウレンソウはもちろん、仕事の合間の雑談、上司や仲間へのちょっとした相談、自然に耳に入ってくる新しい話、自然発生的に盛り上がるディスカッション・・・。
これらがテレワークだと、「相手の状況がわからないので、声をかけにくい」「会議がない日は誰ともしゃべらない」「雑談ができず、孤独になる」。
そしてこの状態が続くと、業務の生産性低下だけでなく、チームの連帯感の低下、アイデア創出の場の喪失が起こる。その結果、冒頭の「イノベーションが起こらない」という課題につながっていく。
解決策としてのクラウド上の仮想オフィス
緊急事態宣言が解除され、人々が動き始めた2020年7月から9月。テレワークマネジメントが代理販売しているクラウドサービス「Sococoバーチャルオフィス(以下、Sococo)」への問い合わせが急に増えた(前年度比約3倍)。
日本でバーチャルオフィスというと、「会社登記をして、電話対応や郵便受取をするサービス」を想像しがちだ。しかし、Scococが実現するのは、クラウド上に存在する「仮想オフィス」である。
日本企業の多くは、チームで仕事をすることを基本としている。たとえ社員が離れた場所で働くテレワークでも、コミュニケーションをとりながらともに働ける「場」が必要だ。それがあれば、日本でのテレワークは広がるに違いない。
実際、Sococoのデモをすると、多くの人が驚き、賞賛してくれた。しかし、なかなか売れなかった。理由は、「一部の社員のテレワークでは、そこまで必要ない」からだった。
しかし、コロナ禍において、多くの企業が気づいた「真の課題」の解決策として、いま、ようやく「仮想オフィス」が注目されているのだと想像する。
特筆すべきは、テレワーク実施中の大手企業からのアプローチが増えたことだ。ある大手企業は、プロジェクトチームを組み、まだ日本語化されていない海外のサービスも含めて集中的に試用している。そして、機能を比較し、仮想オフィスの本格導入を検討している。
リアルのオフィスを縮小しつつ、仮想オフィスを併用することにより、より広く人材を確保し、生産性を高める。そうすることで、テレワークが進むアフターコロナ時代でも「イノベーション」を起こせるよう、備えているのではないだろうか。
クラウドでも「毎日出勤」。イノベーションが起きる仮想オフィス
では、コミュニケーションを損なわず、イノベーションを起こせるかもしれない仮想オフィスでの働き方は、どのようなものか。テレワークマネジメントにおける「仮想オフィスで働く様子」をご紹介しよう。
テレワークでも、毎日、朝9時に仮想オフィスに通う。ただし、満員電車に乗る必要はない。自分の席に座って仕事を始める者もいるし、講堂に集まって「ラジオ体操」をする者もいる。
フリーアドレスの部屋があれば、そこで仕事をしつつ、仲間とのコミュニケーションを楽しむこともできる。
オフィスを見渡せば、みんなの状況がひと目でわかる。たとえば、応接室にいる社員は、お客様の対応中。当然、彼らに、いま、話しかけてはいけない。電話エリアにいる社員も同様だ。
自席にいる社員は、集中して仕事中。声はかけにくいが、緊急案件ならチャットで話しかけるのはいいだろう。
一方、複数社員が集うフリーアドレスの部屋では、気軽にマイクをオンにして話しかけることができる。「今朝、北海道はマイナス10度だよ!」。部屋にいる全員に聞こえる。「えー、こっちは、プラス10度だよ」。
たったこれだけのことで、オフィスにいるときと同じように「仲間といっしょに仕事をしている感覚」を得られるのだから不思議だ。
そして、部下のマネジメントも、「テレワークだとできない」ではない。
Webスケジュール、クラウド上でのオフィスでの様子、朝礼・会議での発言、相談ごと、そして、提出されたアウトプット。さまざまな要素で部下を評価することになる。
「今日はずっと仕事に集中していたみたいだけど、困っていることはないか?」などと、声をかける機会も作りやすいだろう。
Web会議ツールを「仮想オフィス」として使う4つのポイント
クラウド上の仮想オフィスのメリットはなんとなくわかった。しかし、特定のツール、しかも新しいジャンルのツールを会社で導入するには、時間もお金もかかる。
そこでわたしからの提案である。お使いのWeb会議ツールを使って、「仮想オフィス」を試してみてはいかがだろうか。
1.始業から終業までチーム全員で会議室に
やり方はWeb会議ツールで開いた「会議室」を、仮の「オフィス」として運用するだけ。
始業時間に、チーム全員がそこに出勤する。チャットでの「おはようございます」というメッセージを、出社の合図にしてもいいだろう(タイムスタンプが残る)。それぞれが、自分の仕事を始める。
終業時間には、「田中、終わりまーす」「山本、上がります」とメッセージを残し、次々と仮想オフィスをから退社していく。残業でひとりっきりになると、少し寂しい感じがしたら、「いっしょに仕事をしている」感覚の醸成は成功である。
2.仕事中は常時カメラ・マイクOFF、スピーカーON
仕事中はカメラとマイクはオフ、スピーカーはオンにするのがおすすめ。リアルのオフィスにいるときも、仲間の顔をじっと見ながら仕事をしてはいないだろう。部屋にいる仲間の名前が見えるだけで、いっしょに仕事をしている感覚を持つことができる。
3.誰かに用があれば、マイクをONにして名前を呼んで話しかける
もしも、だれかに声をかけたくなったら、マイクをオンにして話しかけよう。そこにいる全員に届く。
マネージャー「田中さん、あの件、どうなった?」
田中 「えーと・・・」
山本 「あ、その件、僕わかりますよ」
こんなふうに、通常のオフィスであたり前のコミュニケーションもテレワークで実現できる。
4.じっくり話す場合は別会議室で。カメラはON
ちょっとした声掛けから話が長くなるケースもあるだろう。長々と話していたら、ほかのメンバーの仕事の邪魔になるかもしれない。
そんなときは当事者だけ、別のWeb会議室を作って、カメラをつけてじっくり話をしよう。参加者を小規模グループに分ける「ブレイクアウトルーム」機能があるツールであれば、それを使うとよいだろう。
こんなふうにWeb会議ツールを使い、仮の「仮想オフィス」の良さを体験できてから、導入を検討するのもいいだろう。
特にいま、「仮想オフィス」は、次々と新しいサービスが登場している。仮体験することで、細かい機能なども検討しやすくなるはずだ。
アフターコロナの新しい働き方
アフターコロナの理想の働き方は、「いつでもどこでも仕事ができ、かつ、生産性を高め、チームの連帯感を保ち、会社のイノベーションを起こす働き方」だとわたしは考える。
ハードルはかなり高いが、日本の働き方が大きく変わろうとしているいま、目指す方向を間違えてはいけない。
「出社」と「テレワーク」を両立させるにはどうすればいいか、ではない。「テレワーク」が当たり前の働き方を目指しつつ、イノベーションを起こす場としての「オフィス」はどうあるべきか、ではないだろうか。
イノベーションを起こすために必要なのは「コミュニケーション」。出社か、テレワークかではなく、どちらにおいても、ざっくばらんなコミュニケーションができる場づくりが重要なのである。
これからの時代、若く有能な人材は、制度の欄の「テレワーク可能」だけでは集まらない。アフターコロナの働き方を見据えて、「テレワークでもしっかり仕事ができる」企業を求めるだろう。
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執筆
田澤 由利
2008年にテレワークマネジメントを設立。東京にオフィスを置き、企業などへのテレワーク導入支援や国や自治体のテレワーク普及事業を実施する傍ら、「働き方改革とテレワーク」をテーマに全国各地で講演を行う。