長くはたらく、地方で
「あいつ、家でちゃんと仕事しているのか?」──コミュニケーションが難しい在宅勤務を円滑にする工夫
地方でNPO法人を運営しながら、サイボウズで副(複)業している竹内義晴が、実践者の目線で語る本シリーズ。今回のテーマは「オンラインコミュニケーション」。リモートワークは、働く場所の自由度が増す反面、オンラインでのやり取りが中心になり、難しさもある。遠隔地で気持ちよく働くために、何を意識し、どのように問題を解決しているのか。
私のサイボウズでの働き方の特徴は、「地方在住で週2日複業」「フルリモートワーク」である。月に1回、東京のオフィスに出社する以外は、新潟での在宅勤務が中心だ。
この働き方ができるのは、クラウド上のグループウエアやテレビ会議システム、チャットなど、オンラインツールの恩恵によるところが大きい。
だが、オンラインツールは働き方を自由にする一方で、対面によるコミュニケーションの量が減るとともに、独特の難しさもある。
しかし、先日、複業&リモートワークをはじめてからの約2年間を振り返ったとき、改めて気づいたのだが、私はこの2年間、会社に電話をしたことが一度もなかった。すべてがオンラインコミュニケーションだった。それにもかかわらず、仕事はちゃんと回っていた。これには自分でも驚いた。
また、フルリモートで働くからこその、「オンラインコミュニケーションの可能性」も見えてきた。
そこで、オンラインコミュニケーションを円滑にし、気持ちよく働くために意識していることや、工夫していることを紹介したい。
オンラインコミュニケーションの難しさ
最初に、オンラインコミュニケーションの難しさについてまとめておきたい。
意図せぬ誤解が生じやすい
オンラインコミュニケーションは文字でのやりとりが中心になる。顔の表情や声のトーン、身振り手振りといった非言語情報がないため、対面コミュニケーションと比べると情報量が圧倒的に少なくなる。
そのため、直接話せば大したことではないのに、「○○さんのひと言で傷ついた」「そんなつもりじゃなかったのに」というように、意図せぬ誤解が生じやすい。
冷たい印象で伝わりやすい
仕事をしていると、「Aさん、そういう言動は混乱を招くので、○○にしたほうがいいと思いますよ」のように、相手に改善を求めるシーンがよくある。
だが、非言語情報のない文字コミュニケーションでは、言葉の意味をそのまま受け取るしかないため、否定的、断定的な表現は、対面コミュニケーションよりも冷たい印象で伝わることがある。
私自身、仕事にかかわらずオンラインでやりとりすることがとても多いが、「もう少し、こういうふうに言ってもらえると、変に傷つかなくて済むのにな」と思った経験が幾度となくある。
心や体の状態を共有しにくい
相手の体調や気分を知ろうとするとき、顔色やため息、全体的な雰囲気から察することがよくある。だが、オンラインコミュニケーションではこれらを察するのは難しい。
テレビ会議のシステムを使って、カメラを常時オンにすれば伝えられなくはないが、常に監視されているような感じがするし、在宅勤務の場合は自宅を常に晒すことになり、あまり気分がいいものではない。
また、「胃の痛さ」を言葉で説明するのは難しいように、心や体の状態は文字に起こしにくく、周囲と共有しにくい。
話したいとき、話せない(タイムラグがある)
仕事をしているとき、「○○がわからないから、ちょっと確認したい」といったことがよくある。
たとえば、出張の旅費精算の仕方がわからないとき、オフィスなら経理担当者に「○○さん、旅費交通費の精算なんですけど、ちょっと教えてもらっていいですか?」と聞くことができる。
だが、オンラインコミュニケーションの場合、この「ちょっと確認したい」がやりにくく、タイムラグも生じやすい。
仕事の進捗や成果が見えにくい
複数のメンバーと仕事をする場合、おたがいのタスクが、次の仕事に影響を与え合うことがよくある。対面コミュニケーションの場合、「○○の件なんですが、今、どんな感じですか?」と、気軽に聞くことができる。
だが、オンラインコミュニケーションの場合は、仕事の進捗や成果物が見えにくい。「ちゃんと進んでいるのかな?」と不安になることがある。
逆にオフィスにいるメンバーも、遠隔地にいる同僚の動きが見えなければ「ちゃんと仕事をしているのかな?」と不安になるだろう。
寂しい
遠隔地で、一人で働くのは、意外と孤独だ。
オンラインはコミュニケーションを難しくする「悪の元凶」なのか
ここまで、オンラインコミュニケーションの難しさについて見てきた。
「メールを使うようになってから、職場のコミュニケーションが減った」といった意見を聞くことがよくある。オンラインツールの出現によって、便利にはなったし、多様な働き方ができるようになった。だが、その分、コミュニケーションが減った……という指摘だ。
たしかに、そういった一面はある。「直接話したほうが手っ取り早い」「直接話せば、こんな問題は起きない」「顔と顔を合わせるからこそ、コミュニケーションと言えるんだ」という意見もあるだろう。
しかも、ここに挙げたように、オンラインコミュニケーションには難しさもある。
だが、2年間在宅勤務をしてみて、オンラインコミュニケーションが、コミュニケーション不足になる「悪の元凶」なのか……というと、そうでもないのではないか。オンラインだからこそできる関係構築もあるのではないかと思うようになってきた。
オンラインだからこそできる関係構築
たとえば、サイボウズの社員のなかには、「直接話すときは言葉数が少ないが、オンラインではおしゃべりな社員」がいる。これをお読みの方のなかにも、「電話よりも、チャットやSNSのほうが気軽に話せるし、先方の都合や時間を気にしなくてもいいから好き」という人もいるだろう。
同僚に対して「○○さん、すごいね」と、面と向かって伝えるのはなんとなく恥ずかしいが、オンラインだと、なぜか素直に言えてしまうこともある。
また、サイボウズでは在宅勤務している/していないにかかわらず、オンラインが賑やかだ。仕事に必要なノウハウや会議の議事録、上司への相談ごとやちょっとしたつぶやきなどの情報がグループウエア上でオープンになっているため、新潟にいようが、オフィスにいようが働き方は同じで情報の格差もない。
さらに、オンラインコミュニケーションはその気軽さゆえに、チャットのようなやり取りをすることで、対面よりも接触機会が多い。
米国の心理学者ロバート・ザイアンスによれば、「接触回数が多いほど親しみを感じる」そうだ。オンラインコミュニケーションは、うまく使えば接触機会を増やし、チーム内の親しみや信頼関係を創るツールになり得るのではないか。
オンラインコミュニケーションを円滑にする工夫
とはいえ、在宅勤務ならではの工夫もある。ここからは、私がリモートワークをする上での「オンラインコミュニケーションの工夫」のいくつかについて紹介しよう。
誤解を生じないようにする工夫
ネット上では、意見の食い違いからおたがいを批判し合っているようなシーンをよく見かけるが、意見の食い違いは、相手の意見を読んだときの「解釈の間違い」によって生じることが多い。
そこで、解釈の間違いを防ぐために、ひと言目に「解釈の確認」を入れることにしている。
たとえば、「テレビ会議だと、ちょっとした発言をしたいとき、オフィスの会議室で話しているメンバーの会話の流れを止めてしまわないかと不安」という社員に、私は以前、次のような「解釈の確認」を入れた。
このように、相手の意見を「なるほど、あなたが言いたいのはこういうことですね」のようにひと言で要約し、「あなたのおっしゃることを、私は○○と解釈しましたが、合っていますか?」と確認し、解釈の食い違いが起こらないように工夫している。
特に、論点がいくつかありそうな長い文章のとき、この「解釈の確認」を入れると、相手と認識を合わせやすくなる。
冷たい印象を和らげる工夫
文字でのやりとりでは、顔の表情やジェスチャーで伝えることができない分、「文字に表情をつける」ようにしている。
たとえば、「ありがとうございます」のひと言も……
- ありがとうございます。
- ありがとうございます!
- ありがとうございますー
- ありがとうございます~
- ありがとうございますm(__)m
- あざっす!
のように、ビックリマークをつけたり、伸ばしたり、顔文字をつけたり、あえて砕いて伝えたりすることで、無機質な文字に表情が生まれる。
また、話の内容が否定的か、肯定的かにかかわらず、相手との関係がギスギスしないよう、できるだけ肯定表現を使うよう意識している。
たとえば、「Aさん、そういう言動は混乱を招くので、○○にしたほうがいいと思いますよ」という意見を伝えたい場合、一般的には「“あなた”を主語にした否定表現」+「アドバイス」になりがちだ。だが、否定されると、受け取った側は反発心を抱く。
そこで、「“私”を主語にした肯定表現」を意識している。たとえば、「私は、△△を○○にしていただけたほうがうれしいです」のように、
また、「今日中に報告書を提出してください」のような命令口調も強い印象を与えやすい。そこで、「今日中に報告書を提出することはできますか?」のように”疑問形”にすると、柔らかくお願いするニュアンスになる。
同じことを伝えるにも、できるだけ、気持ちよく伝えたい。
心や体の状態を伝える工夫
体調や気分などの非言語情報を伝えるために、私は「気分天気」というのを日報に書いている。気分天気とは、体や心の状態を天気で表したものだ。
体調や気分を言語化するのは難しい場合も多いが、天気で表現することで、言語化しにくい心や体の状態をメンバーと共有することに役立っている。
先日、気分天気がしばらく「くもり」の日が続いていることに気づいた、編集部員の明石悠佳が、「竹内さん、くもりが続いているようですが、大丈夫ですか?」と声を掛けてくれた。仕事のことで、しばらくモヤモヤしていたのだが、気づいてくれただけでうれしく、話をするきっかけができ、助かった。
話したいとき、話す工夫
「話したいとき、話せない」について。
これは「工夫」ではないかもしれないが、グループウエアやSNSのメンション(相手を指定して通知する)機能を使い、「@○○(メンション)さん、□□について教えてください」のように、相手を直接指定して、通知が届くようにしている。
他の社員もグループウエアを使って仕事をしているため、会議中などを除けば、多くの場合すぐにレスポンスが返ってくる。こうすることで、タイムラグはゼロではないが、かなり短くなっている。
少なくとも、メールを送って返信がないときの、あの「ヤキモキする感じ」はない。
仕事の進捗を見せる工夫
物理的に離れており、他のメンバーから見えないところで働いているため、できるだけ、「仕事の見える化」をするようにしている。
たとえば、朝、PCに向かってまず行うのは、今日行うToDoリストの作成だ。そして、グループウエア上に書き込む。
仕事が終わったら、日報を書く。「今日やったこと」「今抱えているタスク」「所感」など、一日の出来事をこまめに書いている。また、業務内容だけではなく、思ったこと、感じたことをプライベートも含めて積極的に伝え、自己開示するようにしている。
「分報」というのも書いている。日報が「一日の報告」なら、分報は「分刻みの報告」だ。「○○が終わったよ」「あー、疲れたー」「今、行き詰まっている」「ちょっと休憩」など、その時々の仕事や気分など「何気ないひと言」をつぶやき、共有するのが「分報」の目的だ。
寂しさを解消する工夫
オンラインコミュニケーションによって生じている寂しさを、オンラインで埋めるのは難しい。
そこで、一週間から隔週で、「ザツダン」というミーティングをテレビ会議で行っている。「ザツダン」とは、リーダーとメンバーが1対1で30分、悩みや課題などを自由に話すことができる時間だ。
なお、サイボウズでは組織変更したら部長がいなくなった部署もあり、サイボウズ式編集部では「リーダーとメンバー」だけではなく、「メンバー同士、誰とでも」話すことができる。
普段、文字でのやり取りが中心なだけに、会話の大切さを痛感している。
働き方によってコミュニケーションも多様になる
ここまで、リモートワークのオンラインコミュニケーションの難しさと、気持ちよく仕事をする工夫について見てきた。
「地方在住で週2日複業」「フルリモートワーク」という働き方ができるのは、オンラインツールがあってこそだ。
だが、こういった働き方やコミュニケーションの仕方は最初からできていたわけではない。仕事をするなかで、「こういう場合は、こういうふうに伝えたほうがいいな」「こういう情報を伝えたほうが、相手に理解してもらえそうだな」といった試行錯誤の上、編み出してきたのである。
働き方は、これからもますます多様になるだろう。それに伴って、コミュニケーションの方法も変わっていくだろう。ビジネスコミュニケーションは、今、変革期にあるのかもしれない。
執筆・竹内義晴/イラスト・マツナガエイコ
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執筆
竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。
撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。