「ともに理想に向かうワクワク感」は、株主への利益還元になりますか? 株主会議で考えた

株式会社では、利益の一部を配当金として株主に還元します。そのため、株主にとって重要なのは企業が利益を出すこと。しかし、企業と株主のかかわり方も時代とともに変わっていくかもしれません。
2021年2月27日に開催された「株主会議 2021 サイボウズと語る一日」。第3部のテーマは「みんなでサイボウズを語る」。株主2人をゲストに迎え、サイボウズ経営陣とともに、視聴者から寄せられた質問について語り合いました。
企業理念や次期取締役候補の選任、株主還元施策などの議題を通して見えてきたのは、会社と株主の「新たなかかわり方」でした。

当日は新型コロナウイルス感染拡大を考慮し、YouTubeでライブ配信しました。
サイボウズの理念について、株主の決議をとったことがなかった



四宮靖隆(しのみや・やすたか)さん。kintone専業でシステム開発を行う、サイボウズのパートナー企業・株式会社ジョイゾー代表取締役社長。サイボウズの理念に共感し、仲間としてより貢献したいという想いから、2020年より株主に

個人的にサイボウズの理念や文化に関心があり、株主になりました。どうぞよろしくお願いいたします。

栗山克(くりやま・よくす)さん。化学系メーカーで研究開発段階の品質保証等を行う。自社でサイボウズ製品を使っていないが、個人的にサイボウズの組織に対する考えに共感。株主になれば、経営シンポジウムや株主総会などのイベントに自由に参加できるという理由から、2018年より株主に

サイボウズは、企業理念として「チームワークあふれる社会を創る」、文化として「理想への共感」「公明正大」「多様な個性を尊重」「自立と議論」を掲げています。
でも実はこれまで、企業理念について、株主総会で決議をとったことがなかったんです。


そんな反省から、今回あらためて株主総会の議題に挙げさせていただきました。本セッションでは、理念や文化への理解を深めていただくべく、株主のみなさんといっしょにお話ができればと考えております。
今回、視聴者のみなさんから寄せられたご質問の回答者として、執行役員・マネージャーのメンバーにも参加してもらいます。

左上から右下の順に、営業&事業戦略室・栗山、開発&サイボウズラボ・佐藤、経営支援本部・林、マーケティング・林田、人事&法務・中根、コーポレートブランディング・大槻
取締役候補を募集したのは、すでにサイボウズが「誰もが質問し、みんなで意思決定できる」状態だったから
株主会議を視聴して、御社の株式保有への関心がわいてきました。
取締役の公募において、2020年12月3日のプレスリリースでは「取締役」という権限を法律上は与えられながらも、これを手続き的な場面以外で使わない、強い心が求められます。
と発表されています。
「手続き的な場面以外で使わない取締役」ということの意味を教えていただけますか。
会社法では取締役は法的責任も伴います。そのあたりの責任を今後会社としてどのように進めていくつもりかご所見をお伺いしたいです。

この質問は、中根さんに回答いただきましょうか。
(※)2021年3月28日の株主総会にて、17名の取締役就任が決議されました。

人事・法務
ご質問の通り、社内募集する取締役も会社法上の取締役の責任は負います。その旨は立候補者17人にも説明し、覚悟をしてもらっています。
ただ、重要な意思決定を伴う議題が社内でまったく議論されずに、取締役会に上がることはありません。


人事・法務
つまり、社内でしっかり議論された上で、最終的な(手続き的な場面での)決定を取締役が行うプロセスになっているんです。

イメージとしては、意思決定の権限を移譲するというよりは、いろいろなメンバーに権限を分散していく形です。
取締役が3人(※)だった従来も、同様のプロセスで議論を進め、いろいろな事項を決めてきました。なので、意思決定のプロセスに実質的な変化はありません。
また意思決定だけでなく、管理監督の責任についても同じことが言えます。全社でのオープンな議論を通じて、透明性を担保することで全社員がかかわっていますから。
※代表取締役社長の青野慶久、取締役副社長の山田理、取締役の畑慎也の3人

山田・理(やまだ おさむ)。本セッションのモデレーター。2021年3月に取締役を退任し、現在は副社長 兼 組織戦略室長を務める。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、取締役として財務、人事および法務部門を担当。初期から同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2007年取締役副社長に就任。2014年からはサイボウズUSA社長、2020年からは組織戦略室長を兼任。著書に『最軽量のマネジメント』『カイシャインの心得: 幸せに働くために更新したい大切なこと』
サイボウズの「オープンな議論」、社外からは見えにくい


1つ気になるのは、議論の場所や進め方ですね。サイボウズは情報をオープンにしていて、議論を大事にしていますが、実際どこでどうやって議論をしているのでしょうか?
ここを明確に伝えてもらえると、株主としては安心できるし、納得できるのかな、と。


経営支援
本部
その日に議論されるテーマは、kintone上で前日までに共有されます。経営会議で議論された内容は「誰が何を話したか」まで、当日の夕方には議事録が公開されます。
そのため、議事録をみるだけでも「誰がどこで何を考えているのか」といった大枠を全社員がつかめるようになっています。

青野が公開したnoteより引用。取締役候補募集の全容とオープンな情報共有の実体についてつづられています


青野慶久(あおの・よしひさ)。サイボウズ代表取締役社長。大学卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年サイボウズを設立。2005年に現職に就任し、現在はチームワーク総研所長も兼任している。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)がある



コーポレート
ブランディング
「取締役の社内募集」という新しいコーポレートガバナンスの取り組みについて、今朝の日経新聞にメッセージ広告を掲載してます。
— サイボウズIR (@cybozu_ir) February 18, 2021
かぶぼうずもちゃっかり全国デビュー✌︎
取締役社内募集については、2/27開催のオンラインイベント #株主会議 でお話し予定!ぜひご参加ください。 pic.twitter.com/dMPt5i7vPv

コーポレート
ブランディング
そういう意味では、オープンな議論は最終的な意思決定をする経営陣にとっても、ありがたい仕組みでもあるな、と。
募集をきっかけに「取締役の役割」から問い直されるように
取締役の社内公募で、社内からどれくらいの賛成意見と反対意見があったのか知りたいです。また、印象的なエピソードがあったら教えてほしいです。

社内でも賛否両論あったと思うのですが、印象的なエピソードを知っている方はいますか?

コーポレート
ブランディング

でも、立候補した何名かは「取締役という役割を経験できる機会と、チャレンジできる環境があるならば、参加したい」とも言っていました。
栗山さんは株主としてどう思いましたか?

でも、サイボウズではそれがない。新しいもの好きというか、お祭好きな人たちが集まっているのかな、という印象ですね。
同じことを表面的に他社がまねをしても、うまく機能しないのかなって。

わくわく感も報酬の一種。株主にも、サイボウズとのかかわり合いの中で楽しんでもらいたい
最近株主になったものです。株主を巻き込む件、興味深いですが、池内氏のお話にあったピンチを救うファン行動ではなく、ポジティブに株主を巻き込んでいただけると未来志向でこちらも気持ち良いのでは?
コロナ禍で世の中も変わりつつありますが、何かアイデアをお持ちでしたら、お教えください。

サイボウズは、企業理念に共感してくれる人に株主になっていただきたいと考えています。そこで、事業を応援するだけでなく、株主にも参加していただくチームワークプロジェクトを立ち上げようとしています。
これはサイボウズが目指す「チームワークあふれる社会」をいっしょに創っていこう、という取り組みです。社員以外の株主に参加してもらうことで、一体感を持ってもらえるかなと思っています。

開発&
サイボウズラボ
製品の立ち上げや企画フェーズにある場合は、株主のみなさんに、テストユーザーのような形でヒアリングなどに参加していただくのもよいかもしれません。

(※)IT業界における職種。高度で複雑なIT技術やトレンドをわかりやすくユーザーに伝えていくことを役割とする

仕事は1日の大半を占めるので、楽しくないと意味がないとわたしは思っていて。だから、いっしょに仕事するのが楽しいサイボウズとかかわっていきたいな、と。
あと、国産ブランドが世界にチャレンジしているわくわくをいっしょに感じたいというのも、積極的にかかわっている理由の1つですね。



けれど、会社のビジョンが不明瞭だったり、目指す姿がわからなかったりすると、株主はリスクだけを感じてしまう。
今回いろいろとご質問いただいているのをみると、わくわくよりも不安を感じる気持ちが勝っているのかな、と思います。僕らのやりたいことが、まだしっかり伝わりきっていないのかもしれません。

サイボウズと株主が同じことを大事にできたら、よりよいチームになれるかもしれない
決算説明資料の内容が不十分であると感じます。
他社SaaS企業では四半期ごとにARR・ARPU・解約率など具体的な経営指標を示しながら詳細に説明している企業が多いですが、貴社では年一回で内容も簡素過ぎると思います。
今期からの改善を求めます。


サイボウズでは、解約率やARPU(ユーザー1人当たりの平均売上金額)などはあまり重視していなくて、むしろサブドメイン数を増やそうとしています。だから、ほかのSaaS企業と数字だけで比べて、判断されることを求めていないんです。


たとえば、サイボウズが大事にしている制度や文化、価値観。これらはサイボウズ式で積極的に紹介していますし、各メンバーがSNSなどで自由に発信しています。
なかには、給与交渉の仕組みのように一般の企業では公開していない情報もあります。
だからこそ、サイボウズが大事にしていることを、株主のみなさんにも大事にしていただきたい。そうして同じものを大事にできたら、よりよいチームになれるなと思っているんです。

営業&
事業戦略室
とはいえ、サイボウズでは一般的な企業とは違う見方をしている部分もあって。たとえば、カスタマー部門でいうと、「対応したお客さんからどんなレスポンスが返ってきているのか」などの指標を置いています。
その意味では、一般的に重要とされる指標だけでなく、僕らが大切にしたい指標も持ちながら、事業の意思決定をしていますね。

と同時に、しっかり議論してサイボウズが大事にしていることを、ご理解いただきたいですね。株主のお2人はいかがですか?

ただ、そうじゃない部分にサイボウズのバリューってあるように思います。
「儲かるかどうか」という単純な資本の理論だけでなく、サイボウズが発信する多様な情報に対して、受け手がしっかりと考えられるスタンスが続くといいのかな、と思います。

競合製品と比べてどっちが良い悪いとかではなく、いろいろな状況を元にそれぞれが必要なモノを組み合わせて選んでいく状況ですね。
その意味では、株主が多角的な視点から判断できるよう、サイボウズにはオープンな情報発信を続けてもらいたいですね。

執筆:中森りほ 編集:野阪拓海(ノオト)
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