働き方・生き方
「仕事がしんどい」は変えられる。心のメカニズムと、チームで乗り越えるヒントを聞いてみた
仕事がつらい。プレッシャーに押し負けそう。「つらかったら言ってね」と言われるけれど、なかなか言い出せずに、しんどさを抱えたまま過ごしてしまう。これって、どうすれば解消するのでしょうか。
そのヒントを探るべく、「#サイボウズ式Meetup vol.17」では、心療内科医の鈴木裕介(Dr.ゆうすけ)さんと、株式会社NOKIOO取締役の小田木朝子さんをゲストに迎え、「仕事のしんどさ」をテーマとしたトークセッションを開催。
サイボウズ式編集部の竹内義晴がモデレーターとなり、しんどいと感じる心のメカニズムから、それを解決するためのチームコミュニケーションについて、語り合いました。
「しんどい」と感じるのはなぜ?
竹内義晴
そもそも「しんどい」って、心のどういう状態を指すのでしょうか。
鈴木裕介
「しんどい」って、曖昧で、広い意味の言葉ですよね。でも、誰もが感じたことのある状態だと思います。
心のメカニズムとしては、たとえば「しんどい」と感じたときに、身体がどうなっているかを考えてみるとわかりやすいかもしれません。
感情の前段階として、情動と呼ばれる身体的な感覚があります。胸がキリキリしたり、喉が締まるような感じがしたり、そわそわしたりする。そういう身体の感覚をキャッチして、脳が「これは不安なのではないか、しんどいのではないか」と感情をラベリングしていくんです。
心のメカニズムとしては、たとえば「しんどい」と感じたときに、身体がどうなっているかを考えてみるとわかりやすいかもしれません。
感情の前段階として、情動と呼ばれる身体的な感覚があります。胸がキリキリしたり、喉が締まるような感じがしたり、そわそわしたりする。そういう身体の感覚をキャッチして、脳が「これは不安なのではないか、しんどいのではないか」と感情をラベリングしていくんです。
竹内義晴
なるほど。身体の状態を脳が「しんどい」と判断しているんですね。
鈴木裕介
はい。そして、情動というのは記憶されるんですね。しんどくなってるときって、「あ、またこのしんどさだ……」ってなんとなく覚えがあることが多いと思うんですよ。それは、おそらく過去のつらい経験のときに身体がその感覚を覚えたからなんです。
たとえば同じニュースを見ても、つらいと思う人もいれば、気にならない人もいる。それはその人がそれまでの人生でどのような傷つきをしてきたのか、という点で違ってきます。
たとえば同じニュースを見ても、つらいと思う人もいれば、気にならない人もいる。それはその人がそれまでの人生でどのような傷つきをしてきたのか、という点で違ってきます。
小田木朝子
ああ、確かに。
鈴木裕介
しんどいと感じるかどうかは個人差があるものの、自分が感じている感覚自体は本物です。なので、まずはその前提を理解して、しんどいと思う自分を信じてあげることが必要なのかな、と。
しんどさの自覚を難しくする“ブレーキ”
鈴木裕介
難しいのは、この「しんどい」という感情が目に見えないところ。特に周りの人のしんどさは感じ取りにくいので、「自分だけがしんどいと思っている」と抱え込んでしまう。
実際、しんどいと感じたことのない人なんていないと思うんですけどね。それに、しんどさはその人の経験にもよるものだから、自分の身体に聞いてみないとわからない。そもそも比べるものではないんです。
実際、しんどいと感じたことのない人なんていないと思うんですけどね。それに、しんどさはその人の経験にもよるものだから、自分の身体に聞いてみないとわからない。そもそも比べるものではないんです。
小田木朝子
目に見えないからこそ、自分のものさしでしか「しんどさ」を測れず、自覚しづらいというのもありますね。
だからこそ、他人から客観的に「それってしんどいよね」と定義してもらうだけで、グッとラクになるときもある。
だからこそ、他人から客観的に「それってしんどいよね」と定義してもらうだけで、グッとラクになるときもある。
小田木朝子
一方で、うっすらと自覚はしていても、「ほかの人はもっと頑張っているし」「相手にとっては大したことがないだろう」などと、わざわざ自分から自覚するのを難しくすることもありますよね。
鈴木裕介
あります、あります。
小田木朝子
しんどさの自覚を難しくする“ブレーキ”っていくつもあると思うんです。
たとえば、わたしは「迷惑をかけたくない」という気持ちがとても大きくて。「迷惑をかけてはいけない」という思い込みが、助けを求めることを躊躇してしまう原因になっています。
あと「すみません、できません」という言葉。自分の脳内で「すみません、わたし仕事自体ができません」という意味に変換されてしまって、言えなくなる。
「頑張るからこそ成長する」という価値観に囚われてしまうのも、ブレーキの1つですね。
たとえば、わたしは「迷惑をかけたくない」という気持ちがとても大きくて。「迷惑をかけてはいけない」という思い込みが、助けを求めることを躊躇してしまう原因になっています。
あと「すみません、できません」という言葉。自分の脳内で「すみません、わたし仕事自体ができません」という意味に変換されてしまって、言えなくなる。
「頑張るからこそ成長する」という価値観に囚われてしまうのも、ブレーキの1つですね。
鈴木裕介
うんうん、いろんなブレーキがありますよね。
小田木朝子
人によって持っているブレーキが違うと思うんですよね。
だから、自分にどういうブレーキが働きやすいかと知っているだけでも、しんどさの自覚のしやすさや周囲への頼りやすさがだいぶ変わりそうです。
だから、自分にどういうブレーキが働きやすいかと知っているだけでも、しんどさの自覚のしやすさや周囲への頼りやすさがだいぶ変わりそうです。
「自己開示の強要」に要注意
竹内義晴
個人単位でも、チーム単位でもしんどいという気持ちはあるけれど、結局個人の思い込みや価値観などで、表に出てきづらい。
とすると、チームでの関わり方を変えていく、あるいは、「しんどさ」の前提から変えていく必要があるのかもしれません。
とすると、チームでの関わり方を変えていく、あるいは、「しんどさ」の前提から変えていく必要があるのかもしれません。
鈴木裕介
チームの観点では、「『しんどい』と伝えるしんどさ」というのが確かにあるんです。
だから、弱音を吐くことのコストに対して、自覚的にならないといけないと思います。
誰かを頼るというのは、過去に頼ってよかったという経験がある人じゃないと難しい。そういう成功体験がない人が、頼るというリスクをおかせないのは、当たり前のことです。
だから、弱音を吐くことのコストに対して、自覚的にならないといけないと思います。
誰かを頼るというのは、過去に頼ってよかったという経験がある人じゃないと難しい。そういう成功体験がない人が、頼るというリスクをおかせないのは、当たり前のことです。
小田木朝子
確かにそうですね。
鈴木裕介
善意であっても、「弱音を吐けよ、しんどさを伝えろよ」みたいな、自己開示を迫る雰囲気に対する忌避感も当然あるわけです。
その人が抱えている内容が深刻であればあるほど、それを誰かに打ち明けることは「清水の舞台から飛び降りるほどの勇気が必要なこと」なんですよね。
組織としての雰囲気が「自己開示ヤクザ」のようになっていないか、気にする必要があります。自己開示が難しい環境では、「大丈夫です」というビジネス自己開示にとどまってしまう。
その人が抱えている内容が深刻であればあるほど、それを誰かに打ち明けることは「清水の舞台から飛び降りるほどの勇気が必要なこと」なんですよね。
組織としての雰囲気が「自己開示ヤクザ」のようになっていないか、気にする必要があります。自己開示が難しい環境では、「大丈夫です」というビジネス自己開示にとどまってしまう。
竹内義晴
本当にそうですね。最近では「心理的安全性」という言葉がいろいろな場所で使われるようになりました。
でも残念ながら、「心理的安全性が大事なんだ!」と迫ってきて、「いや、その態度が心理的安全性じゃなくしているんです!」という状況も時々見受けられます。
でも残念ながら、「心理的安全性が大事なんだ!」と迫ってきて、「いや、その態度が心理的安全性じゃなくしているんです!」という状況も時々見受けられます。
鈴木裕介
勇気を出して助けを求めた結果、無視されたり、「そんなことで?」と軽く扱われた経験が足を引っ張っていることもあります。
「頼る」というリスクを払った以上のリターンが得られる経験の積み重ねが必要なんです。まずは、そうしたリスクを払ってくれたこと自体が承認されるカルチャーを育てていくことが望ましいと思います。
「頼る」というリスクを払った以上のリターンが得られる経験の積み重ねが必要なんです。まずは、そうしたリスクを払ってくれたこと自体が承認されるカルチャーを育てていくことが望ましいと思います。
「助けて」を言えるスキル、ヘルプシーキング
竹内義晴
小田木さんはチーム内に助け合いを生み出す「ヘルプシーキング」を提唱されていますよね。改めて、ヘルプシーキングについて教えていただけますか?
小田木朝子
はい。ヘルプシーキングとは、「ひとりで抱え込まず、助けを求める」ビジネススキルです。
ポイントは、頼ることを「スキル」として身につけること。助けを求めることがチームに必要とされ、それが成果に結びつく行動なのだ、という価値観を日々広めています。
ポイントは、頼ることを「スキル」として身につけること。助けを求めることがチームに必要とされ、それが成果に結びつく行動なのだ、という価値観を日々広めています。
竹内義晴
誰かに頼ることが、恥ずかしくて迷惑なことではなく、チームにおいて必要なスキルである、と。
小田木朝子
はい。ヘルプシーキングでは、上司・部下といった立場に関係なく助け合うという発想を大切にしています。
一般的には、困った人が助けを求めて、困っていない人が助ける、という前提がありますよね。そして、この考え方の延長線上には、若手は助けを求める立場で、リーダーはそれを受け止めて助ける側という、固定された関係性があります。
一般的には、困った人が助けを求めて、困っていない人が助ける、という前提がありますよね。そして、この考え方の延長線上には、若手は助けを求める立場で、リーダーはそれを受け止めて助ける側という、固定された関係性があります。
竹内義晴
リーダーがメンバーに弱みを見せたり、頼ったりしづらい状況は確かにありますよね。
小田木朝子
ええ。でも、そもそも一人でできることは、どんな立場の人でも限界があります。そのため、立場に関係なく助け合って進めたほうが、一人でやるよりも成果が上がるし、問題も解決するよね、という前提に変えていく必要がある。
つまり、一人でなんでもできちゃう人が承認されるのではなく、助け合える人が承認されるチームを目指していくんです。
つまり、一人でなんでもできちゃう人が承認されるのではなく、助け合える人が承認されるチームを目指していくんです。
竹内義晴
なるほど。
小田木朝子
そうしたチームを目指すにあたっても、一人で解決しようとはしないことがポイントです。
まずは「いまの仕事のやり方だとしんどくない?」といった現状のリスクに共感してくれる人を、チームの中で集めることから始めてみるといいでしょう。
まずは「いまの仕事のやり方だとしんどくない?」といった現状のリスクに共感してくれる人を、チームの中で集めることから始めてみるといいでしょう。
「しんどさを共有する」ことを前向きにとらえる
小田木朝子
リーダーも、一人では変われないことが多いです。なぜなら、自分一人で頑張ってきたという成功体験や価値観があるからです。
助け合う関係性を求められるなかで、変われないリーダーを責めるのは、ヘルプシーキングの考え方に当てはまりません。
リーダーが正しい情報や知識を得て、頑張り方の価値観を変えるための支援を組織全体で行っていくことが求められます。
助け合う関係性を求められるなかで、変われないリーダーを責めるのは、ヘルプシーキングの考え方に当てはまりません。
リーダーが正しい情報や知識を得て、頑張り方の価値観を変えるための支援を組織全体で行っていくことが求められます。
鈴木裕介
そうですね。それに、ヘルプシーキングは「高等なスキル」という認識が必要だと思います。だから、必ず最初は失敗するし、転びながら徐々に上手くなるものと思うんですね。
それでも、最終的には自分たちのためになるんだと、組織全体でスキルを育てていけることが大切だと思います。
「しんどさを一人で抱え込む」ことって、現状を変えない点において実はラクなんです。でも、頼ることが誰かのためになると考えて、現状を変えていく。
頼ることがスキルとして伸ばす価値のあることなんだ、という共通認識を組織全体で持てるといいのかもしれません。
それでも、最終的には自分たちのためになるんだと、組織全体でスキルを育てていけることが大切だと思います。
「しんどさを一人で抱え込む」ことって、現状を変えない点において実はラクなんです。でも、頼ることが誰かのためになると考えて、現状を変えていく。
頼ることがスキルとして伸ばす価値のあることなんだ、という共通認識を組織全体で持てるといいのかもしれません。
「頼る」は人生の奥行きに直結する
竹内義晴
しんどさを伝えるって、精神論や感情面の問題という印象がありましたが、「スキル」と言い切ることで扱いやすくなり、チームとしてより関わっていけそうです。
鈴木裕介
誰を頼るべきか、誰を頼らないべきか、を正しく選択できることもそのスキルに含まれます。それがうまく育ったとき、仕事だけでなく、すべての人間関係に還元されるわけです。それは人生の豊かさに直結するレベルの恩恵になりえます。
背中を預けられる喜びや頼もしさを感じられることが、僕にとっての「組織で働く」の真骨頂だと思っています。それはスキルであると同時に、人生に直結する奥行きのあるものだとも考えられます。
背中を預けられる喜びや頼もしさを感じられることが、僕にとっての「組織で働く」の真骨頂だと思っています。それはスキルであると同時に、人生に直結する奥行きのあるものだとも考えられます。
竹内義晴
なるほど。スキルは、どういう行動をするのかという指針でもありますが、その行動を重ねていくことで心に与える影響も大きい感じがしますね。
鈴木裕介
はい。まずは自分が本当に人に頼りたいと思っているのか、その場合はどういう人に頼りたいと思っているのか、一度考えてみるのもいいかもしれません。
明日からできる「しんどい」の伝え方
竹内義晴
小田木さんは普段、ヘルプシーキングを指導していく上で、みなさんにはどのようなことを伝えていますか。
小田木朝子
そもそもしんどさを伝えるのはハードルが高く、しんどさを開示する関係性や環境などがあるかどうかも大事な観点になってきます。いきなりメンバーに「はい、自己開示して」と言われても戸惑うだけですよね。
鈴木裕介
そうですね。
小田木朝子
なので、最終的なゴールはしんどさを開示していくことですが、ハードルが高いと感じるのであれば、「困りごと」に置き換えてみることをおすすめしています。
「困っていることを共有したら、その行動が肯定された」という体験がチームに広がると、「自分も開示していこう」という雰囲気が醸成されていきます。その先に、しんどさが言い合える関係性や場が実現するのかなと思うんです。
「困っていることを共有したら、その行動が肯定された」という体験がチームに広がると、「自分も開示していこう」という雰囲気が醸成されていきます。その先に、しんどさが言い合える関係性や場が実現するのかなと思うんです。
竹内義晴
困りごとを言ってみたり、相手の困りごとを聞いてみたりすることが、最初の1歩になるわけですね。
小田木朝子
ええ。そして、その体験を共有し合うことが1.5歩になります。いっしょに解決方法を考えてみることで、そこから一人のとき以上のアイデアが生まれるかもしれません。
鈴木裕介
自分の困りごとを受け止めてほしいときもあれば、逆に困りごとをチームのみんなから教えてもらいたいと思うときもあるかもしれない。しんどさを開示していく過程にも、いろんなフェーズがありそうですね。
竹内義晴
そうですね。「しんどさ」って個人的な感情だから、伝えるのはハードルが高い。だけど、「困りごと」ってチームに起こっている事実だから、それはみんなに共有したほうがいい。
そう考えられたら、明日からでも「困りごと」を共有するという、最初の1歩が踏み出せそうですね。
そう考えられたら、明日からでも「困りごと」を共有するという、最初の1歩が踏み出せそうですね。
企画:鮫島みな(サイボウズ)執筆:園田もなか 撮影:栃久保誠 編集:モリヤワオン(ノオト)
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