「自律って言うほど簡単じゃない?」サイボウズ人事「社員のキャリア」の悩みを武石恵美子教授にぶつけてみた

サイボウズでは、「100人いたら100通りの働き方」があってよい、という考え方のもと、働き方に関するさまざまな取り組みをしてきました。
キャリアについても、「会社が決める」のではなく、それぞれのステップに合わせて「自分で選択する」自律性を大切にしています。
しかし、キャリアに関するアンケートを取ったところ、社員の2人に1人が「キャリアについて困っている」という結果となりました。
「今後、人事としてどのような支援をしていけばいいのか」──そこで、社員のキャリア自律と組織のあり方について、法政大学キャリアデザイン学部教授の武石惠美子先生に、サイボウズ人事の石川憂季が悩みをぶつけました。

そのうち300人強が「キャリアについて困っている」と答えたんです。
「何について困っているのか?」を聞くと、「ロールモデルがいない」「そもそも、キャリアの考え方がわからない」など、根本的なところで悩んでいることがわかりました。
数字も内容も、わたしにとっては衝撃でした。


武石恵美子(たけいし・えみこ)。 法政大学 キャリアデザイン学部教授。博士(社会科学)。筑波大学第二学群人間学類卒業後、労働省(現 厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所、東京大学社会科学研究所助教授等を経て、2006年4月より法政大学に。著書に『キャリア開発論〈第2版〉: 自律性と多様性に向き合う』(中央経済社)など

逆に、不安じゃなかったら能天気すぎます(笑)
なので、取り立てて「課題だ」と思わなくていいんじゃないかと思います。


自律とは「選択できる」ことだけなのか?


石川憂季(いしかわ・ゆうき)。2016年4月、大手建設会社に総合職として新卒入社。本社の人事部、財務部を経験したのち、2020年5月にサイボウズに人事として入社。採用業務を中心に、キャリアコンサルタントの資格を生かして、キャリア支援の制度企画や人事制度を社外に発信するなど、広報業務もおこなっている

場合によっては、人に選んでもらうから、開ける可能性もありますよね。そのバランスを、どう取ればいいのかな? というところで悩んでいます。

けれども、それができる人って、ごくごくわずかですよね。
特に、日本はジョブ型ではないので、「キャリアを選ぶ」という場面が少なかったこともあります。

「日本的な自律」を再定義する




この「有無も言わさず」というのが、非常につらい状況にあったわけです。
でも、「行け」と言われた時に、「なぜ、そこ行かなきゃいけないのか?」「そこで、自分は何を期待されてるのか?」といったことを、ちゃんと説明してもらう。
そして、「なるほど。そういうことなら行きましょう!」となっていたら、それは1つの自律だと思うんです。



本当に支援したいのは「声をあげられない人」

また、提案したくても「何に悩んでいるのか見えにくい」ことも課題です。ここ数年で、社員が急激に増えたこともありますし、コロナ禍によってリモート環境で働くことが当たり前になったこともあります。





本当に支援したいのは、そういった声をあげれない人や制度を使えない人なんです。じゃないと、動ける人と動けない人で、すごい差が出ちゃうので。


本当は、出てこない人ほど支援したいんですけど、自律を大切にしている分、強制的な研修はなかなかできなくて……。




個別最適が進んだ結果、出てきた「全体最適の問題」

いままでは「100人100通りの働き方」を掲げてきました。そのために「人事は選択肢を用意するから、あとは好きなように選んでね」というコミュニケーションが多かったんです。


ただ、個人の「やりたい」を優先して異動や役割変更を行なうと、「いまはA部署に人員が必要だから、現在の部署から異動してほしい」のように、事業の変化に合わせて組織を戦略的に変えることが難しくなります。
実際、いま組織として「みんなで事業を盛り上げていこうよ」「もっと製品を世の中に広めていこうよ」という方向にベクトルを動かしていきたいのですが、個人の幸福と戦略的な組織運営との間には、バランスが必要だな、と。
キャリア自律には、マネジャーの力量が必要



組織として「我が社は何のために活動しているんだ?」ということが大切なのに、「うちの会社は、わがままが言える会社だから……」のように、間違ったメッセージを伝えているとしたらまずいです。
「自律」と「自由放任」は違います。そこを履き違えちゃうと、ただの「みんながわがままを言って、居心地だけがいい会社」になってしまいます。



マネジャーも専門職だと思います。「キャリア支援ができる」とか、「育成ができる」といった能力をマネジメント力として位置付けて、評価できる仕組みが必要ですよね。

ただ、ルールを作って、つまんない会社にはしたくなくて。ワクワクみんなで働けるみたいなところは大事にしたいですね。

それをうまく生かしながら、全体最適につながる仕組みがあるといいですね。
キャリアは「いま」が起点じゃない


キャリアは、未来につながっていくものですし、選択にも責任が伴います。自分に対する責任もあるし、組織に対する責任もあるし。
「いま辛いけど、ここを頑張ると成長できる」とか、「これによって、自分がどう変われるか?」みたいに、未来のキャリアとどうつながっていくかを考えられることが大事だと思います。



「あなたはどんな時に頑張れましたか?」とかね。
未来に対して、いまこの場で「選べ」と言われても、なかなか選べないかもしれませんが、過去には、いろんな分かれ道があったはず。
「あの時わたし、何を大事にして選んだかな」みたいな「選択した理由」を振り返ることは、すごく大事なことなんじゃないかなと思います。


その「気になる」っていう感度を、いかに上げていくか? というところだと思うんですよ。
その感度と、組織をちゃんと結びつけて、「わたしがいまやっているこのことって、うちの会社のどこに役立つのかな?」を考えてもらう仕掛けが必要ですよね。

自分ごととして、仕事をどうとらえ直すか?


わたし、伝統的な会社で働いている人が、最高に自律していたときって就活のときだと思っていて。


転職しようとすると、職務経歴書とか書きますけど、転職もしないでずっと会社にいると、そういう節目がないまま過ごしてきているので、改めて、自分と向き合うことがありません。




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執筆

竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。
撮影・イラスト

高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。