サイボウズは「100人100通りの働き方」をやめます。社員数1000人を超えても、成長と幸福を両立させるための挑戦
社員数が1000人を超えてから、組織的にはいろいろと「よろしくない面」が出てきました──。サイボウズ代表の青野慶久はそう打ち明けます。
かつてのサイボウズでは考えられなかった出来事が起きたり、社歴の差による考え方の違いが出てきたり。2024年には、これまで胸を張って掲げてきた、働き方に関する表現を見直す決断もしました。
このままサイボウズは、よくある大企業の1社になってしまうのか。サイボウズが変えるべきもの、守り続けるべきものとは。
他社でも同じような悩みを抱えるケースは少なくないはずです。組織が拡大するなかで、企業としての成長と、社員一人ひとりの幸福を両立し続けていくためには何が必要なのでしょうか。
サイボウズの社内大学「CAAL(カール)」卒業生の2人が青野を囲み、本音を語り合いました。
「100人100通りの“働き方”をやめる」と決めた背景
社内でも、個人的な希望を実現できることが前提のようにとらえられ、マネジャーがメンバーとのコミュニケーションに苦慮する場面が出てきました。
「わたしはこの時間、この場所で働きたい」と強く主張されても、業務内容やタイミングによってはかなえられないことがありますからね。
そこで「100人100通りのマッチング」という表現に変えたんです。
個々人に「どんな働き方をしたいのか」「それによってどんなアウトプットを出せるのか」を考えてもらい、チームから求められる役割と合致した場合にマッチングが成立します。
サイボウズは普通の大企業になってしまった?
ところが、「前泊を伴う」「飲食代がやたら高額」など、目的に対してお金をかけすぎてしまう例も出てきました。
そんな情報も社内グループウェアで全員に共有されるため、「無駄づかいではないか」と憤りを感じている人もいます。
昔からサイボウズに在籍している人は、社内制度や働き方に関する合意事項がつくられてきた交渉プロセスを見ています。だから「会社の理想を実現するため、チームの生産性に貢献するためのワガママなら通る」と体感的に理解しています。
でも、近年サイボウズに入社した人は、そうした体感を得る機会がありませんでした。
だけど最近はそうした機会が減りましたよね。
額縁に飾られた言葉を見て、なんとなく受け入れている人が多い。これも普通の大企業っぽいなぁと感じます。
僕からあえて「この言葉を変えなくてもいいんですか?」とみんなに問いかけ、揺さぶりをかける必要があるのかもしれません。
企業理念さえも、必要であれば変えるべき
究極を言えば、「チームワークあふれる社会を創る」という、僕たちがずっと大切にしてきたパーパスさえも、必要であれば変えるべき。聖域はありません。
社員だけでなくステークホルダーに向けても、企業理念は変わるものという前提で伝えているんだと感じました。
社内のボトムアップで「変える」ことを提案するためには、何が必要なんでしょうか?
そのため機能ごとに「本部」を設け、本部長にさまざまな権限を委譲してきました。経営会議に僕がいない状態でも、会社としての意志決定ができるようにしたいんです。
役員や管理職のラインだけではありません。現場で一人ひとりが意思決定できる状態が理想だと思っています。
サイボウズも状況としては近いですが、青野さんが画一的なマネジメントを選ばないのはなぜですか?
僕たちが競争している相手は、Microsoft社をはじめとした、世界時価総額ランキングでトップを狙う位置にいる企業です。売上規模でいえばサイボウズの1000倍以上にもなる企業群に、世界中から超優秀な人たちが集まって、必死にビジネスを動かしています。
そんな相手に勝つにはどうすればいいのか。ほかの会社がやっていることを踏襲して、うまくいくはずがありません。
サイボウズが「その他大勢のなかの1社」になってしまったら、超優秀な人材からは一生選ばれないでしょう。
パーパス実現への熱量を感じる、サイボウズの新たな取り組み
チームでオープンに情報共有され、活発に議論して物事を決める。そこに貢献するツールを僕たちは提供する。世界中に普及させ、みんながチームワークを高められれば、世界そのものがよくなる。
僕自身は、この理想をこれからも追いかけたいです。
でも、いまのサイボウズは、人が増え、組織が大きくなってきたからこそ、「チームワークあふれる社会を創る」ことへの熱量がますます高まっているように思うんです。
わたしや藤村さんもサイボウズの社内大学「CAAL(カール)(※)」をはじめ、みんなの熱量を経営へ反映させていくための取り組みに参加しています。
※CAAL:Cybozu Academy for Ambitious Leadershipの略。サイボウズの社内大学。
パーパスは上から与えられるものではなく、自分自身で実現していくもの。そんな熱量を持つ人が増えていけば、サイボウズはこれから先も少しずつ変わっていくはずです。
だから、「いまのサイボウズ」に入社した人もぜひ、こうした場を活用してほしいですね。
3000人規模になっても、会社の成長とみんなの幸福を両立できる
組織規模が大きくなっても、「企業の成長」と「社員の幸福」を両立することはできるんでしょうか?
CAALでは「強い主体性と高い視点を持つ人材を育成し、自律分散的に組織が発展していくこと」を目指しています。
そんな組織のリーダーに求められるのは、自身が「野心」を持ってメンバーに働きかける「アンビシャス・リーダーシップ」。理想への共感を生むためには、わたし自身の野心が必要なのだと学びました。
でも「野心は自分1人ではなくチームで掲げてもいい」、もっと言えば「自分以外の誰かの野心に共感してもいい」のだと学び、よい意味で肩の力が抜けたのを覚えています。
リーダーシップって、特定の「強い誰か」だけのものではないんですよね。そう理解してからは、メンバーの野心も知りたいと思うようになりました。
サイボウズにはまだまだ課題がたくさんあるものの、僕は変化の手応えも感じていますよ。少なくとも3000人くらいの規模までは、会社の成長とみんなの幸福を両立できるイメージが湧いています。
過去には、ある大企業トップから「サイボウズのカルチャーや働き方は数百人規模だから成り立つのでは?」と言われ、カチンときたこともあるんです(笑)。
そのときに抱いた反骨心は忘れていません。もっともっと規模が大きくなっても、このカルチャーと働き方を実現できるのだと証明したい。3000人になっても時代に合わせて変化し、結果を出し続けるサイボウズは、日本に前例のない大企業となっているはずです。
企画・編集:深水麻初、竹内義晴/執筆:多田慎介/撮影:加藤甫
変更履歴:特定の社内イベントを指し示す表現のように見えてしまい、誤解を生む可能性があったので修正しました。(2024/11/13 09:55)
変更前:サイボウズではいろいろな社内イベントが動いていて、チームビルディングにつながるものであれば、会社から費用を支援しています。ところが、「前泊を伴う」「飲食代がやたら高額」など、チームビルディング目的にしてはお金をかけすぎてしまう例も出てきました。
変更後:サイボウズではいろいろな社内イベントが動いていて、チームが一体となり、より良く機能するための取り組みであれば、会社から費用を支援しています。ところが、「前泊を伴う」「飲食代がやたら高額」など、目的に対してお金をかけすぎてしまう例も出てきました。
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執筆
多田 慎介
1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。
撮影・イラスト
加藤 甫
独立前より日本各地のプロジェクトの撮影を住み込みで行う。現在は様々な媒体での撮影の他、アートプロジェクトやアーティスト・イン・レジデンスなど中長期的なプロジェクトに企画段階から伴走する撮影を数多く担当している。
編集
深水麻初
2021年にサイボウズへ新卒入社。マーケティング本部ブランディング部所属。大学では社会学を専攻。女性向けコンテンツを中心に、サイボウズ式の企画・編集を担当。趣味はサウナ。