「社員の幸せ」と「お客様の幸せ」を両立し、事業の成長を目指す──ほけんの窓口 猪俣礼治×サイボウズ 栗山圭太
チームワークあふれる社会の実現を目指すサイボウズは、規模拡大により「100人100通り」の組織から「1000人1000通り」の組織へ。
「10年後の組織を、どうデザインしていくか?」が新たな課題となっています。
組織デザインが変革していく過程で、現場が組織や経営方針に対する不安を感じないことが理想的ですが、どうすれば実現できるのでしょうか?
そのヒントとなる企業が、ほけんの窓口グループ株式会社です。同社は従来の保険の常識を覆す来店型保険ショップを立ち上げた「第1の創業」から、顧客本位の業務運営を徹底して社内に根付かせてきた「第2の創業」、そして、保険ショップの枠を超え、新たな事業を展開する「第3の創業」に向けて進化を続けています。
今回は同社代表取締役社長の猪俣礼治さんに、サイボウズ株式会社マーケティング本部長の栗山圭太が「経営と現場が円滑に連携し合うためのヒント」を聞きました。
組織拡大で直面する、サイボウズの新たな課題
その1回目のゲストとして、猪俣さんにお話を伺います。どうぞよろしくお願いいたします。
サイボウズでは「100人100通りの働き方」というワークスタイルを目指し、メンバーそれぞれが望む働き方のマッチングを目指してきました。
ただ、社員数300人くらいであれば何とかなったものの、500人を超えたあたりからきつくなり始めて……。1000人を超えた現在では、「1000人1000通りの働き方」を実現するのが厳しくなってきたんです。
事業を成長させながら、社員のニーズにも応える難しさ
「事業の成長」と「個人の幸福」の両立をどんなふうに考えていますか?
たしかに、お客さま満足があって事業収益が成り立ちますが、お客さま満足をつくるのは社員です。だからこそ、「ES(社員満足度)なくして、CS(顧客満足度)なし。CSなくして、会社の成長はなし」だと僕は捉えていて。
じゃあ、「社員の幸せとは何か?」というと、単に給料をもらうことだけじゃなく、仕事の楽しさ、やりがいを感じることも大事でしょう。
だから、そうならないように「どうすれば、仕事のワクワク感を生み出せるのか?」を日々、考えています。
長期的な視点で見れば、お客さまの人生のお役に立ち、社会課題の解決や社会貢献ができる仕事です。
そういった意義や使命感を社員が持てるようにインナーブランディングを進めることで、社員のワクワク感を生み出せればと考えています。
「高揚」から「陶酔」につながる前に、新しい一歩を踏み出す
ただ、その気持ちが高まりすぎると、いつの間にか「われわれはすごいことをやっている」と陶酔した状態に変わってしまう。そうなると、あまりよろしくないな、と。
コロナ禍になる前まで、ほけんの窓口の社内にも陶酔感が漂っていました。成功を積み重ねてきたからこそ、これまでとは違うことをしてエラーしないように、新しいチャレンジを受け入れづらい雰囲気があった。
そんな状態に危機感を覚えつつ、コロナ禍に突入してしまったんですね。
ところが、「われわれはこのままでいいんだ」と新しいチャレンジを恐れる社員が多く、スピード感のある新しい対応ができない状態になっていました。
そうなったのは会社のせいです。だからこそ、僕は自責の念を持ち、自ら真っ先に考え、行動し、活動量を増やすように心がけています。そのうえで、社員にも「トライアンドエラー、チャレンジ、進化をしよう」としつこく言っています。
人が増えても理念で目線を合わせ、お客さま本位の企業文化をつくる
ほけんの窓口も急成長された際、何かしらの課題はありましたか?
ただ、いろんな人から聞いた話によると、会社が急成長したことで社員は高揚感から陶酔につながり、「お客さまのためにと言いつつ、自分たち本位で物事を捉えていないだろうか」となったようです。
そこで2013年、2代目社長の窪田泰彦さんが就任された際、グループ全社で目線を合わせるために、「お客さまにとって『最優の会社』」という企業理念を制定しました。
この理念を掲げた上で、2014年頃からは理念に共感してくれる新卒の方や、保険業界が未経験の中途入社の方を積極的に採用しはじめたんです。
未経験者の方々を採用し始めたのは、「保険営業は保険商品を販売するものだ」という固定概念がないので、「お客さま本位」のマインドを育成しやすいと考えたためです。
結果、そういう人々が集まったことで、「われわれの仕事の本質であり使命は、お客さまに寄り添い、お悩みを解決することだ」と再認識できたのだと思います。
たとえば「正義」という言葉は人によって解釈が異なるので、「嘘をつかない(=公明正大)」に言い換えるとか。全員が共通の認識を持てる言葉を使うのは大切ですよね。
この理念があることによって、考え方も行動もバラバラになりがちな社員のみなさんを、同じ方向へと思い切り引っ張っていけるようになりました。
現場の目標が「お客さまの幸せ」につながる組織デザインを
大事なのは、利益を何にどう使っていくか。それは、お客さまのためにサービスを進化させることであり、そのために社員のみなさんの給料を上げたり、株主に還元したりしていくこと。
その流れを循環させていくには、集客して利益をしっかりつくっていくのも欠かせません。
もちろん、そういうことを伝えると、「猪俣さんは数字ばかり見ている」というふうに言われてしまうことも多い。ただ、僕が本当に目指しているのは、サービスを進化させ、お客さまにさらに寄り添ったサービスを形づくっていくこと。
そういった僕の言葉の本質を理解して考え、行動し、お客さまの満足や感謝を得ている店舗は増えています。するとチームが明るくなって、店の勢いが増すんです。
来店型ショップであるわれわれは、いろいろな部署があって、サイロ化しやすいんですよね。そうならないために、しっかりと部署や社員同士がつながる組織づくりをしていかないといけません。
そのためには、部署や店舗、一人ひとりの社員が持つ目標が、最終的に何につながっているのかという部分をうまく設計することが大事です。
そうして「つながる」経営を続けていくなかで、「社員の幸せ」と「お客さまの幸せ」の両輪で、事業を成長させていければと考えています。
企画:神保麻希 執筆:流石香織 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)
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執筆
流石 香織
1987年生まれ、東京都在住。2014年からフリーライターとして活動。ビジネスやコミュニケーション、美容などのあらゆるテーマで、Web記事や書籍の執筆に携わる。