「チームワークあふれる社会を創る」。サイボウズでは障害の有無にかかわらず、この理想に共感するメンバーが活躍できる会社づくりを、試行錯誤しながら進めています。
その一環として、障害がある方との相互理解を深める場をつくろうと、2024年9月に「障害者インクルードインターンシップ」を5日間にわたって実施。マーケティング本部では、弱視という視覚障害がある工藤蒼さん(筑波技術大学保健科学部情報システム学科)の受け入れが決まりました。
受け入れ担当者であるブランディング部の高部哲男と、エンタープライズ プロモーション部の河村大輔は「準備段階では、インターンの進め方について不安があった」といいます。
そんな不安をどのように乗り越えたのか? 一方、インターン生の工藤さんはサイボウズで過ごした日々をどのように感じたのか? インターン期間を過ごすなかで見えてきた気づきを語ってもらいました。
イメージだけでの「合理的配慮」は難しい
編集部
今回のインターンシップは、これまでとは異なる準備が必要だったと思います。おふたりは障害者といっしょに働くことに、不安はありましたか?
高部
合理的配慮(※)については事前に確認をしていましたが、「移動はどうサポートしたらよいか」「資料はどうつくるのがよいか」など、対応についての一般的な知識は持ちつつ、より具体的な部分は実際にご本人とお会いするまで不安なままでした。
視覚障害を持った方と働くのが初めてだったので、わからないことがたくさんあって。
事前に聞くこともできたのですが、人によってはセンシティブなことでもあるので、どこまで踏み込んだことを聞いていいのだろうかと、躊躇もありました。
※合理的配慮:障がいのある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに負担が重すぎない範囲で対応すること(事業者においては、対応に努めること)(総務省『「合理的配慮」を知っていますか?』より)
高部哲男(たかべ・てつお)。サイボウズ式ブックス編集長。1児の父。ブランディング部サイボウズ式ブックス所属。編集プロダクション、写真事務所、出版社などを経て、サイボウズ入社。「はたらくを、あたらしく」を合言葉に、多様な働き方、生き方、組織のあり方などをテーマにした書籍制作に日々奮闘中。インクルーシブを実践、体感したいと思いインターンに参加
編集部
たしかに、相手のことを理解したいからこそ、聞きたくなりますよね。
高部
そうなんです。たとえば、インターンの初日、工藤さんが最寄駅からサイボウズのオフィスに向かう途中、道に迷うことがあったんです。
翌日以降も出社することを考えると、解決のために「普段はどうやって移動しているの?」「どんなふうに見えているの?」と率直に聞く必要がありましたが、それを聞いていいのか悩みましたね。
高部
このとき、僕の背中を押してくれたのが、サイボウズで働いている全盲のメンバーの言葉でした。
彼には僕たちが工藤さんを受け入れることが決まった時に話を聞いていたのですが、そのなかで、「わからないことがあれば、とにかく本人に聞くのがいちばんだ」と話してくれました。
そのおかげで「もしかしたら失礼なことを聞くかもしれませんが」と前置きはしつつ、遠慮せずに質問することができたんです。
実際に工藤さんと話しながら、駅からの経路を歩いてみると、点字案内板が気づきにくい場所に設置されているなど、一見障害を持った人に配慮されているよう建物でも、十分なものになっていないことを知りました。
編集部
直接本人に尋ねたことで、見えてきたことがあったんですね。河村さんは不安に思ったことって、ありましたか?
河村
学生のインターンの受け入れ自体が初めてだったことと、研修を実施するにあたりどの程度合理的配慮への対応が必要か不安はありました。
河村大輔(かわむら・だいすけ)。大手メーカーで事業企画などを経験し、2022年サイボウズ入社。エンタープライズ プロモーション部にてアナリストリレーションズを担当。2023年に社内の障害者インクルードチームに協力し障害者雇用について調査した経緯から、インターンに参加。精神保健福祉士の資格取得のための勉強や難民支援団体WELgeeでのプロボノ活動にも取り組む
編集部
たとえば、どのような不安がありましたか?
河村
事前のオンライン面談で確認した際、工藤さんから「画面全体を把握するためのモニターと、画面の一部を拡大して映すためのモニターの2つがあれば、資料は大体読める」と教えていただきました。
それで、研修資料は文字サイズをいつもより大きくした程度で、大きな変更を加えなかったんですね。ただ、実際にそれで十分かどうかわからなくて。
なので、インターンを進めながらご本人とお話ししながら対応しようと心構えはしておきました。
多様性のある会社には、人それぞれが快適に働くためのツールと環境が必要
編集部
工藤さんが体験した5日間のインターンの内容を教えてください。
高部
1日目はオリエンテーションで、翌日から業務体験がスタートしました。業務体験の前半2日間は河村さんとサイボウズ製品を取り巻く市場についての講義とディスカッションを、後半2日間は僕と「多様性」をテーマにしたブランディング施策の企画を、それぞれ1対1で体験してもらいました。
家具の配置などはぼんやりと見えているという工藤さん。インターンでは、工藤さんのいつも作業環境に合わせて2画面のパソコンを用意。モニターの背景は黒にして文字をハイライトに。工藤さんが右画面でポイントした場所が、左側の画面で拡大される仕組み
河村
初日、工藤さんが作業している姿を初めて見たとき、「拡大した文字を一つひとつ目で追いながら取り組む研修は、想像以上に負担がかかるのでは」と感じたんです。事前のヒアリングだけでは全然わかっていなかったなと。
編集部
実際の障害の度合いが想像とは違うことって、よくありそうです。
河村
そこで、資料は補足的に使う形に切り替えました。研修中は二人で横並びになって、資料に書いてある内容を口頭で説明し、質疑応答を中心に、二人で喋り倒すような感じで進めたんです。
編集部
うんうん。
河村
工藤さんと過ごすなかで、当社製品をはじめ、仕事で使うITツールが視覚にとても依存していることも実感させられました。ボタンなどが配置されていますが、視野が狭い方にとってはすごく見つけにくかったりします。
編集部
テキストコミュニケーションも多いですね。当たり前だと思っている環境も、不便だと感じる方々もいる。たしかに、今回のインターンがなかったら、なかなか気づけないことです。
河村
視覚障害の方がわかりやすいように、通知音が鳴ればよいのかというと、音が多くて困るというお話も他の方に伺いました。ツールが助けてくれる部分もあるし、難しくしてしまう部分もある。
高部
サイボウズでもすでに
アクセシビリティへの取り組みが始まっていますが、同じITツールでも、ひとつの型に無理やり当てはめようとするのではなく、その人が使いやすいようにカスタマイズしたり、アップデートしたりできるといいなと感じました。
個々に合わせたやり方を整えつづける
河村
今回受け入れで少しわかったことがあります。
一つは、受け入れ側の素の部分もさらけだすと、お互いに話しやすくなるということ。初日に工藤さんと受け入れメンバーで「共通点探しゲーム」というアイスブレイクをしました。好きな映画を言いあったり、くだらない冗談を言ったりと、フラットなコミュニケーションをとったことで、その後も会話しやすい関係性がつくれたのかなと思います。
もう一つは、お互いに言葉を交わしながら、働きやすい環境を少しずつつくりあげていくのが大切だということ。合理的配慮に対応した環境を整えて「用意しましたんで、どうぞ来てください」というのではなく、その都度、個々に「こういうのはどう?」と相談を重ねていくのが重要なんだと気づきました。
編集部
障害を一括りにして対応しない、ということですね。
高部
インターン以前は「こういう障害だから、これが苦手だろう」という固定観念を持っていたと思うんです。だけど、工藤さんと直接会って話すことで、「障害も多様なんだ」と障害に対する解像度が上がって、個々に合わせた対応の大切さを実感しました。
河村
その上で、基本的には「自分でやりたい、できる」と言うことは本人に任せて、それをサポートするのがいいと思います。
とはいえ、ご本人が「できる」と思っていても、実際は負担が大きいこともあるわけで。そのとき、ご本人の気持ちを尊重して、丁寧に話し合うことが大切なのでしょうね。
編集部
なるほど。
河村
たとえば、工藤さんは最初に「宿泊先のホテルからオフィスまで、自分一人で行けます」と言ってくれました。
でも後日、想定通りにはいかなかったので「じゃあ、明日は駅からいっしょに行こうか」と対応案を話して。最終的にはどうしたいのか、工藤さんに決めてもらいました。
逆に、最終日に行った研修発表のプレゼンでは、他の方が資料を見ながら発表するのに、工藤さんは全部記憶して発表されていたんです。事前準備も含めてすごいなと。
高部
大前提として、障害のあるなしにかかわらず、インターン生という立場で「これはできますか」と聞かれて「できません」って言うのって、なかなか難しいと思うんです。遠慮の気持ちがありますから。
だれだって、そういう遠慮があるのは当然だと考えると、僕らが工藤さんと遠慮せずに話せる関係性を築けていたかは気になるところです。
障害は多様だから、してほしいことは本人に聞いてみる
編集部
ここからは、工藤さんを交えてインターンを振り返っていただきます。
高部
工藤さん、お久しぶりです。
河村
河村もいます。よろしくお願いします。
工藤
お久しぶりです。こちらこそ、お願いします。
高部
ぜひ、インターンでの本音を聞かせてください。早速なんですが、実はインターンが始まる前、障害について踏み込んだ話を聞くのは失礼なんじゃないかと不安でした。ご自身の障害について聞かれて何か気に障ったことってありましたか?
工藤
うーん、思い浮かばないです。明らかに馬鹿にするとかでなければ、「これは見える?」とか「これは大丈夫?」という気遣いは全然問題ないと思うので、腫れ物に触るかのように気をつける必要はないのかなと。
むしろ、障害についてわからないことを聞いてくださると助かる場面のほうが多いです。
工藤蒼(くどう・あお)。筑波技術大学保健科学部情報システム学科所属の大学4年生。「マーケティングへの理解を深めたい」という想いから、サイボウズの障害者インクルードインターンシップ・マーケティング業務体験コースに参加
河村
なるほど。インターン中、実は困っていたことってありましたか?
工藤
初日はツールの使い方がわからなかったり、オフィスに行くのも迷ったりと一挙手一投足で困っていました。でも、そういうことを全部助けてもらえました。
高部
助けてもらうことって、やっぱり遠慮があったりしますか。
工藤
いや、遠慮していたら作業が進まないので、遠慮しているほどの余裕がなくて(笑)。僕としては、みなさんにたくさん助けを求めて、それに応えてもらったという感覚が強いです。業務中も自由に発言できたし、意見を聞いてもらえるなと感じました。
高部
それはよかった。一方で、気にかけられることが煩わしいと感じる人もいると思うんです。
工藤
僕は気にかけてもらうことや助けてもらうことに、あまりためらいがなくて。「どうしても必要なら、頼るしかないよね」と考えています。
ただ、人によっては気にかけられるのが好きじゃない方もいますし、視覚障害の度合いによって頼りたい部分も変わってくる。僕だって、度合いが違う視覚障害の方がしてほしいことはわかりません。
個人差があることなので、その人がどう思うかを実際に聞いてみて判断するしかないと思っています。
わからないからこそ、遠慮せずにアプローチしてみる
工藤
今回のインターンで、「これは大丈夫?」とたくさん気にかけてもらったことで、受け入れ側のみなさんは僕の障害のことがわからないんだろうな、ということに気づいて。
だからこそ、もしかしたら僕よりも健常者のみなさんほうが不安なのかなと感じました。
河村
われわれの不安が伝わっていたか。
高部
みたいですね(笑)。
工藤
インターンが始まるまでは、会社側から「これくらいまで頼っていいですよ」というラインが示されて、それに従うのかなと想像していました。
でも、実際はそうじゃなくて、みなさんが「障害のことがわからないんだけど、どうしてほしい?」と聞いてくださった。だからこそ、僕も「じゃあ、このくらい頼っていいですか」「これくらい助けてください」と意思表示できました。
高部
その意思表示に対して、僕らも「それはできません」とか「でもこういう形ならできます」とやり取りすることが必要なのかもしれないですね。
インターンの様子
工藤
はい。おたがいに遠慮するよりも、とりあえず言ってみることが大事なのかなと。相手のことがわからないからこそ、それぞれが思うようにやってみて、ちょうどいいラインをいっしょに探していくしかないと思います。
相手に失礼だと思われて傷つけてしまうリスクがあったとしても、リスクを恐れて立ち止まってしまえば、相手が損をするかもしれません。そうならないように本音で話して、必要な配慮をいっしょに探っていけたらいいなと思いました。
河村
うん、すごく共感します。仮にもっと長く一緒に働くとしたら、仕事でアウトプットを出す前提で、整備すべき環境とか必要なツールとかを突っ込んで議論して一緒に環境をつくっていくのがいいのかな、と改めて思いました。
高部
そうですよね。インターンって会社が働く場所を用意して、学生に一方的に学んでもらうシチュエーションが多いと思うんです。
でも、今回は自分のことをオープンに話してくれる工藤さんのおかげで、僕らも気兼ねなく質問できて、たくさん学ばせてもらいました。参加してくださって本当にありがとうございました。
※「障害」が漢字表記になっている理由について:
サイボウズでは障害を、個人の問題ではなく社会の問題だとする「障害の社会モデル」のスタンスを取っています。すなわち、障害の「害」の字は、障害者個人に対してではなく、障害を生み出している社会の問題に対して用いています。障害者差別解消法もこの考え方にもとづいており、法令文書などでも使用されている表記にならい、漢字で記載しています。
※インクルードインターンシップの詳細はこちら
企画:深水麻初(サイボウズ) 執筆:流石香織 撮影:高橋団(サイボウズ)、栃久保誠 編集:モリヤワオン(ノオト)