防災とIT
防災は県民70万人の共通課題――徳島県社協が「ノーマークをつくらない社会」を目指すわけ

日本全国すべての都道府県・市町村に存在する「社会福祉協議会」。みなさんの住む自治体にもありますが、耳なじみのない方もいるのではないでしょうか。 実はボランティア、福祉サービス、防災と、多岐にわたる分野において、地域の最前線で活躍している団体です。
今回は活動のうち「防災」にフォーカス。ITの力を用いて災害に備える徳島県社会福祉協議会の山田信人さんにお話を伺いました。
社会福祉協議会と有名なあの「募金」の意外な関係

いわゆる戦災孤児がたくさん路上で生活していた時代に、慈善団体や慈善事業家が中心となって民間の力とお金を集めて社会福祉、社会保障を行う動きができました。それが「赤い羽根共同募金」。
その流れのなかで、市民一人ひとりの善意を用いて地域福祉を進めるためにできたのが、社会福祉協議会なんです。

山田信人(やまだ・のぶと)。社会福祉法人徳島県社会福祉協議会 地域福祉課課長補佐。高齢者施設の生活相談員からキャリアをスタート。誰もが豊かに暮らすためには地域福祉の充実が重要だと痛感し、2004年に徳島県社協に転職。


市町村社協は、住民から直接相談を受け付けています。県社協と市町村社協で担当領域は変わりますが、緊密に連携しています。
徳島県の人口は約70万人。その一人ひとりが、孤立することなく声を掛け合い、互いに気にしあえる体制を築くことで、「ノーマークをつくらない社会」を目指そうとしています。


ある一人暮らしの方がいました。日中はデイサービスの施設に来ているので相談員の目が届きます。しかし、家に帰ると一人になり、目が行き届かなくなってしまう。
誰かがこの人を気にかけなければいけないな、この状況をどうにかしたいなと、強く感じました。
相談者の真のニーズを引き出し、「地域生活課題」をなくしていく


ですが最近は、「家族関係が難しくて送迎を頼めず病院に行けない」「自営業が忙しくて体を壊してしまった」という、いわゆる生活全般の生きづらさを抱える方からの相談が増えました。


たとえそれがぽろっと出たため息や愚痴のような言葉だったとしても、そうした表面的なウォンツに繰り返し対応するなかで、心のうちにある本当の困りごとに辿り着く瞬間があるんです。それが真のニーズです。



たとえば骨折して外出できなくなった。それはしょうがないですよね。ですが、それに対して誰かに心ない言葉を言われて嫌な思いをしたり、学校に行けなくなったりします。
そういった病気や怪我そのものではない個人と社会との壁を、私たちは「地域生活課題」と呼んでいます。
地域生活課題に気づける住民を増やしていき、ゆくゆくは地域生活課題そのものをなくせるようになる。それが地域福祉の基本であり、社協のミッションです。


徳島県は南海トラフ地震の影響を非常に大きく受ける場所で、県民約70万人のうち6割以上の人が想定浸水区域に住んでいるといわれています。つまり、防災は県民の共通課題なんです。
ちなみに、災害が起きたときに特に困りごとを感じやすいのは誰だと思いますか?




ふだんの綿密な情報集めが、災害時に力を発揮する

当時相談に来られた生活に困窮している方々が今どうなっているかの確認や見守りを、この5年間ずっと、県内の市町村社協とともに、様々な士業等の専門職の協力も得て、一緒に取り組んできました。
この取り組みでは、県内の市町村社協が中心となって、相談者一人ひとりへの訪問活動や個別の相談活動を行っています。今後も生活の相談に乗り続けることができるように。
私たちはその活動を「1万人へのラブレター」と呼んでいます。
そして、訪問や連絡、相談をした履歴をkintone上にデータベース化して、経過を把握しています。また、地図上にプロットし、エリアで状況を俯瞰できるようにもしています。


社協や地域の民生委員・児童委員をはじめ、一丸となって寄り添いながら、味方でいるよ、困ったときは頼ってねとお伝えしたいんです。



kintoneを用いて情報集約を進めることで、平時の情報を災害時に活かし、災害関連死をゼロにする。最終的には、将来南海トラフ地震が来たときに大人になっているであろう今の子どもたちに、データを活用してもらうための布石なんです。
南海トラフ地震が来るときは、おそらく私は高齢者になっています。今、私たちにできることを、未来に繋ぎたいと思います。

現場の人たちにITを使ってもらうためのマインドとは


集めた情報をもとに、訓練や研修を通して、住民や士業等の専門家と社協が、考え方や視座を共有しています。

たとえば、「紙のほうが早い」という人もいるかと思います。そういう方々にはどのようにITを理解してもらいますか?

みなさん、スマホを持っていますよね? 時代を遡ればガラケーを持っていた。生活に必要ですし、楽しいから。
だから、ITサービスも「必要だな」「楽しいな」って思ってもらえるように工夫しています。



まわりの人から「kintoneって何ができるんですか?」って聞かれたら、私は最初に聞くんです。「あなたは何がしたいですか?」って。


災害支援で目指すのは、現場職員とIT熟練者の橋渡しをする「通訳」


そこにIT系の支援者が入ると、さらに大変です。ヘルメットをかぶって泥まみれで現場にいる人が「IT支援者はパソコンをカタカタやって横文字ばっかり」と思う場合もあれば、反対にIT支援者は「現場ボランティアの人は効率的な支援をするための提案を聞かない」と思う場合もある。
双方大切な役割を担い、目指すところは災害からの復興で一致しているのに、残念ながら対立してしまうこともあります。



災害支援とIT、それらの共通言語を持つことで、お互いの言い分を通訳して理解してもらう機会を作る。それができる人を増やしていけたらと思っています。


まず、広報が下手なんです(笑) ITも正直言って苦手です。今までの経験から、紙で成果物を出したほうが伝わるだろうと考えて、冊子を必要以上に作ってしまうこともあります。
そうではなく、情報を届けたい人にきちんと届くかどうかを精査していかなければいけないと思っています。


自分たちに置き換えても、IT環境の構築時に、作業そのものは簡単ですぐに終わるものだとしても、実際の使いやすさを突き詰めていくと、何時間もの試行錯誤が必要な場合もあります。その時間とプロセスを理解し、きちんと評価することが重要です。
同時に、「kintoneのアプリを3分で作りました」というのももちろん大事なことです。かけた時間の長さではなく、必要な機能や役割を満たしているか、より多くの人に届けられているか、という点に活動の軸足を移していくことが大切だと考えています。


企画・執筆・編集:小野寺真央(サイボウズ) 撮影:其田有輝也
サイボウズ式特集「防災とIT」

災害大国、日本。平時における防災に加え、災害が起きてからの支援活動はとても重要です。本特集では、ITで防災や災害支援活動を行う会社や団体の取り組みを通じて、防災とITの今をお届けします。
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執筆

小野寺 真央
サイボウズ式ブックス副編集長。メーカー、出版社勤務を経て、2022年にサイボウズ入社。趣味は読書・演劇・VTuber・語学勉強・ラジオ・旅行。複業で小説の編集をし、ラジオパーソナリティを目指している。
撮影・イラスト

其田 有輝也
西日本を中心に企業の取材・広報・イベント撮影を行う。柔軟な撮影と爆速納品がモットー。大正元年築の古民家を購入し、ニワトリ3匹・猫2匹・ニホンミツバチとともに夫婦で半農半Xな暮らしを実験中。