「サイボウズは何がしたいんですか?」──急な事業拡大のモヤモヤを社長にぶつけてみた
サイボウズは、プロバスケットボールチーム「愛媛オレンジバイキングス」(愛称:バイクス)の運営や新アリーナ建設の検討など、活動の幅を急速に広げています。事業拡大に伴い大きな売上目標も示されました。
社長の青野慶久はワクワクしながら突き進んでいるように見えます。一方、サイボウズ式編集長の高橋には「ずっとグループウェアに取り組んできたのに、サイボウズはこれからどこへ向かっていくんだろう?」と、どこか釈然としない気持ちも。
サイボウズは何がしたいんですか──? モヤモヤした思いを青野にぶつけてみました。
クラウド化のときも「何がしたいんですか?」と聞かれた

サイボウズはこれまでずっとグループウェアをつくり、売ってきました。それが急に、バスケチームの運営やアリーナ建設、まちづくりへと活動が広がり始めました。


「アリーナに前のめりすぎて怖いです」というコメントもきてましたよ


青野 慶久(あおの・よしひさ)。サイボウズ代表取締役社長。1971年生まれ、愛媛県今治市出身。近年はオーナーを務めるプロバスケットボールチーム「愛媛オレンジバイキングス(バイクス)」の躍進とトップカテゴリー参入に向け、本拠地となる新アリーナ整備の検討を進めている

そんななか、途中までつくっていた製品をやめて、クラウドでつくり直そうと言ったんです。
社内は「青野さん、どうしちゃったんだろう……?」という感じでした。

社内の温度差も含めて、モヤモヤを味わってほしい


高橋 団(たかはし・だん)。サイボウズ式編集長。1996年生まれ。早稲田大学を卒業後、2019年サイボウズ株式会社に新卒で入社。IT企業に入社したと思っていたら、バスケとまちづくりがはじまって混乱中
スタート地点でつまずけば、懐疑派の人からは「ほら見ろ、やっぱりダメじゃないか」と言われるでしょう。
だから、共感するメンバーだけを別部隊にして、結果が出るところまで走ってもらいました。


でも、僕はあまり問題だとは思っていません。「この温度差はなに?」とモヤモヤする状況も含めて味わってほしいくらいです。

クラウド化のときも、「APIを軸にエコシステムをつくれば勝ち筋があるかもしれない」と信じて、こまかな施策は走りながら考えていきました。
いまのバイクスやアリーナについても、「こっちに進めば新しい価値が生まれるかもしれない」と信じて走り出しているところ。まだまだカオスな状況です。
だから、高橋さんのようにモヤモヤを感じる人が増えるのは当然だと思っています。
「チームワークあふれるまち」は、稼いで価値を出せるまち

この「チームワークあふれるまち」とは、どんな状態なんでしょうか?
まちをひとつのチームと考えれば、住民はそのメンバーです。情報共有の基盤や僕たちの考え方を持ち込み、住民が自主的にアイデアを出せるようになれば、地域が活性化していくかもしれません。



稼げるということは、なにかしらの価値を生み出せているということ。まちの単位でいえば、「こんなものをつくれば観光客に喜んでもらえるのでは」「地域の特産品として売り出せるかもしれない」とアイデアを出し、価値をつくる。
その結果として、お金を稼げるようになるわけです。

たとえば、ひとつの施設が完成して住民に使われていれば、それで目的を達成したことになる。でも、同じ施設にしても、もっと価値を生み出す方法があるんじゃないかと僕は思うんです。

愛媛のように交通の便で不利な地域でも、アリーナを軸にまちが盛り上がり、きちんと稼げることを証明できたら、「四国でもできるんだ」とほかの地域が思えるでしょう。
そのメソッドは、日本中に横展開できるはずです。
「よそ者企業」サイボウズだから、まちの生産性を上げられる

アリーナの候補地をめぐる動きは象徴的ですね。バイクスがあることで、県知事をはじめ複数の自治体の首長、それに県議会議長にも同じテーブルについて、議論してもらえるようになりました。

2025年9月のバイクスの決起パーティーでは愛媛県知事をはじめ、多くの要人が一堂に会した

県と市町村の間には特有の利害関係があり、同じ方向を見て議論するのが難しい面もあるでしょうね。
でも、バイクスという県民に愛される共通のハブがあれば、「みんな同じテーブルについて、愛媛全体にとって最適な方法を考えよう」と言えるんです。

でも、「愛媛全体をよくする」という、より大きな理想に共感してもらえれば、自然に対話が始まります。

そこにあえてサイボウズが入っていく意味はどこにあるんでしょうか?
よく、地域を変えるのは「よそ者、若者、バカ者」といいますよね。僕自身はもう若者ではありませんが、よそ者かつバカ者としては機能していると思います(笑)。

まずは公共施設をきちんとシステムで管理し、「こんなイベントを開きたい」「こんな人たちを集めたい」という地域の人々の活動を支援しなければいけません。
既存のツールだけではなく、施設と人をセットでつなぐ新しい仕組みが必要になるかもしれませんね。


政治家は、どうしても「次の選挙で票を獲得する」という短期的な目標から抜け出せません。これは政治家個人が悪いのではなく仕組みの問題です。
一方でグローバル企業のトップを見れば、何十年も先を見て巨額の投資をしていますよね。SpaceXのような企業を見ると、国家よりも企業のほうが長期的視点を持っているんじゃないかとさえ感じます。
サイボウズには、まだ彼らほどの規模感はありません。それでも、まちで生まれた価値を、人々の幸福につなげる取り組みはできると思っています。企業として、社会のためになるお金の使い方を実験していきたいんです。
異例の数値目標「売上509億円」、本当にワクワクするのはその先の光景

正直に言うと、僕はこの目標も、あまりピンとこなかったんです。「何のために509億円を目指すんだろう?」と。
509億円を掲げた背景には、業績が順調すぎることへの危機感があったんですよ。

これはある意味、組織として最悪の状態だと思っているんです。緊張感がなくなり、チャレンジする理由が失われてしまうと、将来の成長が阻害されてしまいますから。

数字を追いかけるのが好きな人なら、それを見て「がんばろう」と燃えてくれるだろうという期待もあります。


僕が見たいのは、日本中、世界中がワッと盛り上がり、チームワークがあふれている状態ですから。

もちろん、バイクスやアリーナでもしっかり稼いでいきます。そうしないと、理想とするまちにも近づけませんから。理想があって初めて、数字にも意味が生まれるんです。
失敗という「屍」にも光を当て、チャレンジ文化を取り戻す

僕自身も2019年入社なので、順調なサイボウズしか知りません。

当時流行していたものに乗ってみて、失敗しながら、「こういう未来が来るのか」と学んだ。その経験があったからkintoneに一点張りできたんです。

成功例だけを残してしまうと、次の世代は挑戦の過程を学べません。僕たちは、失敗という「屍」にも、もっと光を当てなければいけませんね。
そのうえで、サイボウズにもう一度、チャレンジする文化を取り戻したいと思っています。
そのために僕自身がバイクスやアリーナなどの活動に本気で取り組み、みんなに「あそこまでやっていいんだ」と思ってもらえるような姿を見せたいです。

でも青野さんの話を正面から聞いて、「青野さんが見ている理想を僕自身が十分にイメージできていなかった」からこそモヤモヤしていたんだと感じます。

一方でメンバー側も、上司の理想が見えないままモヤモヤしているなら、勇気を出して「何がしたいんですか?」と聞きにいってみるべきなのかもしれません。
経営者もマネジャーもメンバーも、お互いに「どんな未来をつくりたいのか」をもっと話したらいいんじゃないでしょうか。そこから、ワクワクするチャレンジが始まるはずです。
企画・編集:高橋団(サイボウズ) 執筆:多田慎介 撮影:高部哲男(サイボウズ)
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執筆
多田 慎介
1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。
撮影・イラスト
高部 哲男
コーポレートブランディング部サイボウズ式ブックス所属。編集プロダクション、写真事務所、出版社などを経て、2020年サイボウズ入社。「はたらくを、あたらしく」を合言葉に、多様な働き方、生き方、組織のあり方などをテーマにした書籍制作に日々奮闘中。複業として社外での書籍編集にも関わる。
編集
高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。2026年からサイボウズ式編集長。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。
