GIANT KILLINGはチームマネジメントを学ぶのに役に立つ!?
最近のドラマや映画には、原作がマンガだった、というものが増えてきたような気がします。マンガが日本を代表する文化、娯楽の1つになって久しいですが、流行や世相を反映するドラマや映画にマンガの物語を利用するということは、マンガがそれにマッチしているからなんでしょう。
私たちに身近で、多様なコンテンツを持つ「マンガ」だからこそ、チームメンバーと一緒に働くうえでのヒントもたくさんあるはず!と、サイボウズ式編集部の椋田さんが法政大学の梅崎修先生にお話しを伺いました。
梅崎先生は、同大学のキャリアデザイン学部で准教授を務めるかたわら、マンガと仕事をテーマにした「マンガに教わる仕事術」(ちくま新書刊、2006年)、「仕事マンガ! ~52作品から学ぶキャリアデザイン~」(ナカニシヤ出版刊、2011年)などの書籍も執筆していらっしゃる、いわば「仕事視点でマンガを読み解くオーソリティ」です。
会社の中で仕事をしていくにあたって、避けて通れない「組織」や「チームワーク」といったテーマを扱うサイボウズ式。この連載では「マンガ」を通してこのテーマについて考えてみたいと思っています。
チームを考えるのに「GIANT KILLING」が最適な理由
「チーム」という切り口で読むなら、どのマンガがいいかと聞いてみたところ、梅崎先生のおすすめは、「GIANT KILLING」でした。
GIANT KILLING(綱本将也原案、ツジトモ作、最新刊24巻)は、講談社の漫画雑誌「モーニング」で2007年から連載されているサッカーを題材にしたスポーツマンガ。以前は強豪だったものの、現在は低迷が続いているサッカークラブに、かつてのスタープレーヤーだった男「達海猛(たつみ たけし)」が監督として招かれる。監督としての実績はある達海だが、その独特の采配や性格が、クラブに数々の騒動を巻き起こす。果たしてクラブの命運は…? といったあらすじで、アニメ化もされた人気作品です。
ところで先生、なんで「ジャイキリ」が仕事や組織の問題を考えるのに役立つマンガなんでしょうか?
モーニングは、中高生よりもさらに上の若いサラリーマンが多く読んでいる雑誌です。
マンガ雑誌の中で連載が長く続く人気作品というのは、作者や編集者が知恵を絞って『多数の読者の潜在的な願望』を投影し、共感してもらうことに成功している作品であるともいえると思います。ジャイキリは、スポーツ選手に憧れるような若年層向けのマンガと違って、クラブの『監督』が主人公という点でユニークな作品です。新任監督のやり方が、選手たちに与えるさまざまな影響を非常に詳細に描いていて、その結果としての選手やチームの成長を読者はストーリーとして疑似体験できるんですね。それが、会社という組織の中で働くサラリーマンの共感を得られている理由のひとつなのではないでしょうか」
梅崎先生によれば、こうした共感は「借景(しゃっけい)」という仕組みによって生みだされていると考えられるそうです。借景は、もともと造園の世界で使われていた言葉で、庭を造るときに、庭の外側にある遠くの山や木をその庭のものであるかのように見せる、一体化した景観をつくる手法を指す言葉だったそうです。
ジャイキリでは、達海とその周囲の人々との関係や、彼らが属している組織の変化、成長を「景色」として読者が借り受け、自分と職場との関係に重ねて「こんな上司がいたらなぁ」とか「あー、こういうヤツ、いるいる」といった形で共感しやすいドラマが展開されているのです。
流動性が高まるなかでも感じたい「チームとしての充実感」
梅崎先生は、ジャイキリがサラリーマンの共感を得ている理由のひとつとして「社会や会社組織の変化」を挙げます。
かつて「サラリーマンがどう生きるか」を描いたフィクションの分野として司馬遼太郎や藤沢周平といった作家による「時代小説」がブームとなったことがありました。
かつての終身雇用、年功序列が会社組織のシステムとして機能していた時代には、時代小説の中に出てくる組織や人物が借景の対象としてマッチしていたのでしょう。ただ、現実の会社では、終身雇用は崩れ、実力主義が主流となって、人材の流動性も以前に比べて大幅に高まっています。現実がそういった状況だと、かつての時代小説よりも、もともと流動性の高いプロスポーツの世界を題材にしたマンガのほうが、借景の対象としてよりふさわしくなっているのかもしれません。
会社における人材の流動性が高まると、組織としての結束力はどうしても従来よりも弱くなりがち。そうした「新しい組織スタイル」の中で、個人やチームがどうあるべきかについての考え方の多様性は、他のマンガにもみて取れるそうです。
会社組織の流動性が高くなると、そこに属する個人の指向は2極化する傾向があるように思えます。
ひとつは『その組織の中で自分がどうやってサバイバルしていくか』という考え方。
もうひとつは『流動性の高い不安定な組織ながら、その組織をいかに機能させて、組織としての充実感や成功を得るか』というものです。同じモーニングにはプロ野球選手を主人公にした『グラゼニ』、千利休の弟子だった古田織部という戦国武将が主人公の『へうげもの』という作品も掲載されていますが、これらはどちらかというと『サバイバル視点』の作品。一方の『ジャイキリ』は後者の『チームとしての充実感』を現実味のあるフィクションとして描いた作品です。だからこそ『グッとくる』んですね」
なるほど。転職が「普通」のことになっている会社の中で、薄れている「チームとしての力」や「成長感」を疑似体験できる「ジャイキリ」は、たしかに流動的な組織の中で働いたり、チームを率いていこうとする人にとって「役に立つマンガ」といえますね。
…とはいえ、これもフィクションですけどね(笑)
ええっ! そんな身もフタもないっ!!
いえいえ、だから役に立たないといっているワケではないんです。ジャイキリは、古いスポーツマンガのような『勇気と努力と根性で最後は勝利!』のような非現実的な世界観ではなくて、選手個人のバイオリズムやメンタルの弱さの問題にどう向き合うかや、『うまく力を抜く』ことで好結果を生むケースがあることなんかをきちんと押さえてます。あと、達海以外にも強力な個性を持った監督が大勢出てくるのですが、自分だったら『この監督のいるチームでプレーしたい』とか『こんな監督になりたい』といったイメージを働かせやすい点で、ヘタなビジネス書よりも『組織』や『マネジメント』を考えるためのいい素材になると思いますよ
フィクションはあくまでもフィクションだけれど、その世界を自分の問題に投影しながら考え、より良い状態をイメージすることが、もしかすると現実の問題を良い方向へと変えていく最初のきっかけになるかもしれません。もし、そうなればステキですね。
さて、次回は「ジャイキリ」の中から具体的なエピソードを挙げ「組織における『公平性』の問題」について考えてみたいと思います。どうぞお楽しみに!
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