メンバーが辞める時、あなたならどうする? GIANT KILLINGから考える
先生、今回はどんなテーマを取り上げましょうか。
そうですね~。まずは、移籍して、ほかのチームに移るメンバーへの接し方から、組織のメンバーに対する『公正さ』の重要性について見てみましょうか。「メンバーが抜けて、ほかへ移る」というのは、流動性の高い組織においては比較的頻繁に起こる状況です。組織とメンバー、上司と部下との関係を築いていく中で、この「辞めていく人」にどう接するかというのは大きな問題です。ジャイキリの中でも、メンバーが辞めていくエピソードは結構多いのですが、ここではその中でも特に印象的な、石浜修の移籍のエピソードを見てみましょう。
新しい組織における「辞め方」のルール
単行本の14巻の中で、達海が率いるETUにおいて生え抜きの選手として実力をつけてきた「石浜修」に対し、別のチームから引き抜きがかかるエピソードがあります。会社組織にたとえるなら「ヘッドハンティング」ですね。
従来の日本的な企業コミュニティだと、ここで石浜がそれに応じることは、単純に「裏切り」になります。チームは、出て行こうとするメンバーをひたすら引き留めようとしますし、結果的にその人が出て行けば彼は「敵」として扱われてしまいます。その理由のひとつは、今の組織を捨てて、競合に移った人物を「敵」と設定することで、よりチームの「仲間意識」的なものを高めようとする思いがはたらくからかもしれません。
長期的な帰属意識の高い組織であれば、それが『パワー』になることもありますが、現在の組織には、このやり方はそぐわないし、結果として、組織の状況がより悪くなってしまうことも多いのです。ジャイキリの達海猛という監督は、そのことを理解しているんですね。
達海は、移籍オファーのあった石浜に対して、「公平」な立場をとろうとします。
辞めてそこへ移った場合の、彼にとっての「メリット」「デメリット」を正確に伝えようとします。
これが旧来の組織だと、本人にそうしたオファーがあったこと自体を握りつぶしてしまったり、移籍先の良くない情報だけを意図的に伝えたり、場合によっては『お前など、よそへ行ったら使い物にならない』と押さえつけたりという、結構理不尽なやり方になってしまいます。
こういう『非対称な情報の提供』というのは、世の中の会社の中でも、案外普通に行われていることかもしれません。
達海は自分なりに、石浜の現状と移籍を考えているチームの状況を客観的に分析して彼に伝えた後で、「オレのやりたいフットボールにお前の力は必要だ」と、残って欲しい自分の希望を伝え(冒頭のコマ)、その上で石浜本人に決定をゆだねます。その結果、石浜はライバルとなるクラブへの移籍を決心してしまいます。
ETUのほかのメンバーはもちろん、監督である達海が、今後のチームの要となる石浜を引き留めてくれるものと期待していますから、これはこれで穏やかならぬ状況になるわけです。
しかし、ゴールキーパーの緑川による「クラブが俺たちにオファーの話を伝えてくれるってのは、クラブが俺たちをプロとして扱ってくれてるってことだろ」という言葉を受けて、メンバーたちも移籍を決めた石浜の意思を尊重するようになります。
結果的に、達海のこのやり方は、残るメンバーに対しても、強い「公平感」「信頼感」を植え付けるという、良い影響を与えているわけです。
長期的な帰属が前提となった組織の中では、時に『自分はずっとこの組織に居続けるのだし、何かあっても組織が守ってくれるだろう』みたいな、帰属意識のあまり良くない面が出てきてしまうことがあります。達海はおそらく、意識はしていないのでしょうが、そうした『馴れ合い』的な部分を排除して、メンバーを公平に扱っているということを行動を持って全員に示すことで、結果的に組織に良い影響をもたらすことを知っているんでしょうね。
進化する「送り出し方」
ジャイキリの中では、実は監督である達海がそういう判断をしたきっかけになっているのではないかと思われるエピソードも描かれています。
達海がかつてETUのスタープレーヤーでありながら、足の故障でスタジアムを離れているときの回想シーン(15巻)がそれです。
この回想の中で達海は、かつてのチームメイトであり、現在は他チームに移籍している人物に会います。彼が移籍するときに、当時ゼネラルマネージャーであった笠野(達海監督体制ではスカウト担当)から「いっぺん違う世界を見てこい」と言われて移籍を決意し、その結果が正しかったと思っていること。その言葉を言ってくれた笠野が信頼に値する人物であること告げられます。
ジャイキリの中では、達海が選手だった当時も、そして監督である現在も、笠野に対して強い信頼を寄せている様子が繰り返し描かれています。達海の判断の背景には、こうした過去の経緯が影響しているのではないかということを、きちんと読者に伝えるように作品自体も構成されているのです。
こうしたリアリティが重要で、その点よく考えられていると思います。さらに言うと、過去の笠野氏のやり方は、いわゆる『親分肌』的に『別の世界も見てこいよ』といった送り出し方をしています。
しかし、達海の世代では、その送り出し方も一段階進化しているんです。 自分なりの冷静な分析を伝えた上で、自分は『残ってほしい』と思っていることを告げ、さらに石浜自身の『今辞めたらETUに対しての裏切りになるのではないか』という迷いまで看破して、石浜がより自分に対して正直な決断ができるようにおぜん立てをするんですね。
いやー、辞めようとするとき、ここまで自分のことを考えてくれていることが分かれば、そりゃシビレますよね。
ジャイキリのいいところは、古い組織やそこで通用していた考え方が『今では通用しなくなっている』っていうところで終わらずに、それに変わる『新しいルール』のようなものを打ち出しているところですね。『そういうふうに考えれば、うまくやれるかもしれない』と考えられるところ。それが、仕事の目線でこのマンガを読んでいて面白い部分でもあります。
うーん。深い・・・。マンガだけど教科書のようにして学びたい気持ちさえ、芽生えてきます。
さて、次回は、同じくジャイキリの中から「メンバーを競争させること」について考えてみたいと思います。どうぞお楽しみに。
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