GIANT KILLINGに学ぶ、リーダーなら必ず知っておくべき「チーム内競争を生み出すコツ」
マンガから「チーム」と「仕事」について考えてみようというこの連載ですが、今回もサッカーマンガ「GIANT KILLING」(綱本将也原案、ツジトモ作、講談社刊)を取り上げます。
前回はチームメンバーが辞めるときにはどうすればいいか、という話でした。
今回は、メンバーが出入りした後に発生するポジション争いについて考えてみたいと思います。
「組織の中での競争」をどう考えるか
この連載の第1回目で梅崎先生は「会社組織の流動性が高くなると、そこに属する個人の指向は2極化する」と言っていました。ひとつは「その組織の中で自分がどうやってサバイバルしていくか」、もうひとつは「不安定な組織ながら、その組織をいかに機能させて、組織としての充実感や成功を得るか」というものです。
ここで、現在の仕事環境を「サバイバル」だととらえるなら、そこにはさらに2つの視点が存在します。
ひとつはライバル企業との競争に勝つ。いわゆる「外との競争」です。
もうひとつは、チームのレベルを上げるためにメンバー同士を戦わせる「中での競争」の視点です。
後者の『チーム内に競争を持ち込む』ことは、健全に進めば、組織全体のレベルを上げていくプラスの効果があります。一方で『足の引っ張り合い』といった形で、組織にマイナスの効果を生んでしまうリスクもはらんでいます。
それはそうですよね。そして流動性の高い組織ほど、このリスクは高まると梅崎先生は見ています。
従来の長期雇用のシステムの中では、こうした組織内の競争によるリスクは『競争が長期化する』という前提のもとで、押さえ込まれていたといえます。
たとえば、ある人がルール違反をして、その場では社内のライバルを出し抜いたとしましょう。でも、長い目で見れば別の機会に報復を受けたり、周囲からの自分に対する評価を下げたりと、デメリットのほうが目立つようになるのです。
その点で、長期雇用とそのコミュニティは、このようなルール違反を防ぐためのよい仕組みだったのです。
たしかに「アイツは、自分の成績のためにルール違反を平気でする嫌なヤツだ」ってうわさが社内に広がると、その組織にいる期間が長くなればなるほど、どんどん仕事がやりづらくなります。
一方で、派遣社員が多かったり、短期プロジェクト中心の業務環境だと、組織内の競争がもたらすリスクを抑止する力は、あまり働かなくなってきます。
すると、その場の評価を得るためにルールを破ったり、常に高いモラルで職務を行うための動機づけが弱まるなど、ルール違反のリスクが高まります。
新しい組織の中での競争を、どのようにプラスの効果がある競争に変えていくか。これは流動性の高い職場環境における課題のひとつなんです。
競争は成長のチャンスと伝える
ジャイキリの中で、クラブのメンバーをまとめる立場である監督の達海 猛は競争は成長であるという考えを持ち、その意識をすべてのメンバーに植え付けようとします。この姿は170話(18巻)の前後で「スタメン争奪戦」におけるエピソードとして描かれています。
チームとしての勝利を目指す中で、より実力のあるメンバーが外部からも招かれてきます。すると、これまでそのポジションを担当していた人にとって、その新メンバーは「脅威」になり、そこに「競争」が生まれます。
ここで達海は、その脅威は、個人にとってのピンチではなく「チャンス」であることを力説するのです。(冒頭コマ↑)
1つのチームの中で「スタメン」という花形の役割を担える人物の数は、どうしても限られます。
達海は、ある種の競争をあおりつつも、それは自分のスキルや実力の絶対値を伸ばす成長の機会だと繰り返し強調し、メンバーの意識を変えることでプラスの効果を生みだそうとしています。
「ちゃんと見ている」ことを伝える
そして、これだけでは終わりません。達海は、それでも不安を感じるメンバーに対して2つのことを告げます。
「努力の方向を間違って不調になる」ことを恐れるメンバーに対しては「そうならないようにすることが監督であるオレの仕事だ」と。
そして、試合に直接出場できないメンバーや関係者であっても「自分の働きでチームを勝たせることを考えて動いている奴らの働きを、オレはちゃんと見ている」と。
メンバーには「競争」に対する意識を変えることを求め、その上で自分がそのことに対して目を配り、責任を持つことを表明しているわけです。
これによって、達海はチーム全体の信頼を得ます。
会社組織であれば、上司が「競争しながら自分も成長し、成果を上げろ! 正しく成長させるのはオレの責任だ! また、成果に貢献した人の働きも、オレはちゃんと見てるぞ!」 と言っているわけですね。
何という「監督力」! …でも、さすがにここまで言い切れるマネージャーって、現実には、なかなかいませんよね。
バランスをとるために、「セット」で考える
現実には、こうしたかたちで『うまくあおりながら一体感を出す』というのは、なかなか難しいと思います(笑)。
ただ、ジャイキリの中では、短期的な組織の中での競争からプラスの効果を出すための「意識の変化」とそれに対する「適切な評価」がセットで必要になり、そのプロセスがきちんと機能している様子が描かれています。
なるほど。このあたりがつじつまが最後に合うようになっているマンガの世界ですね。
今の日本企業は、従来の長期雇用に代わる新しい組織状況に対応する有効なシステムを作り切れていないように感じています。
新しい組織は、『競争』『成長』『チームとは何か』といった『倫理観』みたいなものも含めて、これらの考え方をすべてセットで考えないと、なかなかうまくいかないのです。
長期雇用に代わる新しい組織というと、『実力主義』のようなキーワードのみで語られることもありますが、組織のシステムはいろんなものが相互に関連していることを忘れてはいけません。
ジャイキリの中では、主人公で監督の達海 猛が、新しい考え方をひとりでどんどん組織の中に取り入れていきます。
そのすべてを真似するのは無理だとしても、その中から、自分の属する組織を活性化するために競争を盛り込むことを考えてみてもいいかもしれませんね。
次回は、マンガから学ぶチームワークのジャイキリシリーズ最終回。「組織の中での『学び方』と『学ばせる』ことについて」考えてみたいと思います。どうぞお楽しみに。
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