サイボウズ社長が会社で何よりも重視していることは? 高校生とのガチンコ起業教室
2013年8月、 “ゆるキャラ”バリィさんでお馴染みの愛媛県今治市から、起業に関心のある高校生たちがサイボウズに「ベンチャー留学」をしにやってきました。「社長に向く性格は?」「会社で重視していることは?」など高校生からの質問に、今治出身の青野慶久社長が熱く応じました。
創業メンバーとの出会い
──3名で創業したそうですが、他の2名の方とはどのように出会ったのですか?
高須賀さんと畑さんの3人で創業しました。高須賀さんは私の前職である松下電工、今でいうパナソニックの先輩です。グループウェアのビジネスが面白そうだねといってくれて一緒に始めることにしました。 畑さんは、大学時代の一つ上の先輩です。この人の書くプログラムはすごいです。大学までは俺ぐらい書けるヤツはいないと思っていましたが、畑さんのプログラムを見たときに心が折れ、コンピュータの会社に入りませんでした。「すごい技術者がいます」と高須賀さんにいってソフトウェア会社で働いていた畑さんに声をかけました。
──二人は今どうしているのですか?
高須賀さんは最初の7年間社長をしていましたが、新しい会社をやるためサイボウズを離れました。畑さんは、現在もサイボウズの取締役でプログラマーとして活躍しています。
なぜ社長が育児休暇をとったのか?
──育児休暇をとったそうですが、どういう気持ちからですか?
恥ずかしい話ですが、僕はあまり家庭を大事にするタイプではなく、子どもが産まれても仕事に没頭しようと思っていました。 サイボウズの本社があり僕も住んでいる文京区の成澤区長が、男性首長として初めて育児休暇をとったと2010年4月にニュースになりました。首長の育児休暇取得に賛否両論があり面白いなと思って調べていたら、なんと成澤区長のお子さんが、うちの長男と全く同じ日に産まれていたのを知りました。 「すごいな」とTwitterでつぶやいたら、区長から返事がきて食事をすることになりました。お会いすると「これから文京区を育児の街にしていきたい。会社の代表が育児休暇をとったら良いと思うのですが、青野さんはどうですか?」と言われました。会社の知名度が上がるのならいいかと思い取ることにしました。これが実態です。
育児に参加するうちに、自分の中でも考えが変わってきました。 育児って本当に大事だなと思いました。このままだと、どんどん人が減って物が売れなくなる。おじいちゃん、おばあちゃんだけがいっぱいいて、若い人が大変。商売する前に育児をしないといけないのではないか。将来の市場がなくなるのではないかと、自分が育児をして初めて気がつきました。
──育児休暇をしていたときは社長の役割はどうしていたのですか?
僕の仕事は他の人に任せていました。決めにくいことがあれば1日1時間ぐらいは、グループウェアに向かうことができるので対応していました。育児は大変なので、仕事に割くのは1日1時間ぐらいでいっぱいでした。 そうすると、いいことがありました。社長が育児休暇を取ると社員もとりやすくなりますよね。働いているとき子どもが熱を出したら大変ですよ。保育園に迎えにいかないといけない。会社に迷惑がかかるという見方もあるけれど、大事な育児を仕事よりも重視しないといけない。その辺の気持ちを理解できるようになりました。 社員もそういうことをやっていい会社なのだと思えるようになりました。
ゴールの前に人を選ぶ
──一番影響を受けた本は?
僕は高校1年のときに「電脳社会論」を読んでコンピュータの道に進むことを決めました。坂村健という東大の先生が書いた本です。 当時、プログラムってすごいと思っていましたが、それが発展したときに世の中がこう変わるということが書いてありました。自分はコンピュータの分野に行くしかないなと思いました。
──起業してから出会った本では?
「ビジョナリー・カンパニー2」ですね。どうやっていい会社を作るかが書いてある本です。うまくいった会社とうまくいっていない会社を比較しています。その中で発見したことは「ゴールの前に人を選ぶ」ということです。会社をバスに例えているのですが、バスの行き先を決める前に一緒に乗る人を決めるのです。 普通はまずゴールを決め、それから誰と一緒にやるかとなるわけです。バスに乗るときも行き先を見て乗りますよね? 本当にすごい会社は違いました。これには衝撃を覚えました。言い換えると「それぐらい一緒にやる人は大事なのだからしっかり考えなさい」 ということです。 僕たちが一緒にやりたい人たちは「公明正大」な人たちです。「公明正大」な人たちと同じバスに乗りたい。バスの行き先はもしかすると変わるかもしれないですが。
人の心を動かす力
──社長に向いている性格はありますか?
みんなでご飯にいこうというときに、「ラーメンだ」「牛丼だ」「ハンバーガーだ」と色々な候補が挙がる中、「よし、焼肉いこう!」といって、まとめられる人です。 向いていない人は、「焼肉食おう」とぼそっといって周りが「しらーっ」となる。 向いている人は、「よし、焼肉いこう!」といって「おっ、いいね!」と思ってもらえる。焼肉について熱く語って、みんなが「焼肉を食いたい!」と思わせることができる人は、社長に向いています。これを夢とかビジョンといいます。 チームワークにおいては、夢やビジョンがなければ、チームにすらならない。社長は「チーム全体の行く方向」「この集団で何を目指すのか」「社会に何を提供するのか」を決める人です。皆がワクワクしながらついて来られるようなゴールを決めて、話してくれる人でないと社長には向きません。
──青野さんに欠けていることは?
あげるときりがありません。イチローぐらいヒットを打ちたくても、どうにもなりません。自分の持っているポテンシャルを最大限発揮することだけです。僕は人の心を動かすとか、リーダーとして必要な能力をもっと高められると思っています。
チームワークで一番大事なこと
──会社全体で重要視していることはなんですか?
サイボウズは会社の中で情報共有をするソフトを作っています。僕たちの会社のテーマは、チームワークです。僕たち自身もチームワークを高めたいし、僕たちの作ったソフトでお客様のチームワークを高めることが仕事です。 皆さんはチームワークをするために大事にしないといけないことは、なんだと思いますか?
──お互いの活動を理解することだと思います。
お互いを理解することは本当に大事だよね。みんな違うからね。何かを頼むときも何が得意かを知っているほうがいいよね。他は?
──相手がやろうとすることを掴むことだと思います。
今やっていることは何なのか掴むのが大事だよね。これを専門用語でモニタリングといいます。サイボウズの製品はモニタリングの機能があります。その人が今、何をやっているのか、何をやろうとしているのかすぐわかります。他は?
──感謝することだと思います。
どうして大事だと思う?
──感謝されるとまた良い仕事をしようと思えるからです。
これをモチベーションといいます。感謝されると嬉しいよね。もっとがんばろうとなるよね。お互いに感謝するとお互いにモチベーションを高めることができます。 ただ、残念ながら感謝だけではモチベーションが上がるとも限りません。お金もあげないとね。モチベーションを上げるにはたくさんの要素が必要です。君はどう思う?
──トップに立つ人への信頼が大事だと思います。
意思決定をする人が、おかしな意思決定をするとまずいですよね。他は?
──コミュニケーションをとることです。
素晴らしい。実はチームワークで一番基盤となるのは、コミュニケーションだといわれています。
今挙げてくれたことを僕たちも大事にしていますが、もっと大事にしていることがあります。サイボウズは「公明正大」ということを一番大事にしています。 コミュニケーションにしても、モニタリングにしても、モチベーションにしても嘘があったらややこしいですよね。コミュニケーションが得意な人、下手な人がいるのは仕方がない。人間は弱いので、怒られそうなことを隠したり、自分をよく見せようとしたりすることもあります。難しいことですが、嘘はなくせる。嘘をつかないと心に決めればいい。 「良いことも悪いことも包み隠さず開示しよう」。サイボウズの中で、一番大事にしているのはこの考え方です。 採用のときも実はここを見ています。面接で嘘をつかれると、どれだけ頭がよくても採用する気になりません。むしろ、アホでも本当のことをいってくれる人のほうがチームにとってはいい。 いろんな人がいてチームですから、全員がエースで4番である必要はない。優秀でも嘘をいう人がいるとチームとしてはややこしいです。ぜひ嘘をつかない人になってください。
「どうしたいのか」と自分に問い続ける
──地元で起業してから東京に出ていくのと、東京で起業して地元に戻るのとでは、どちらが良いでしょうか?
難しいよね。どちらがしたいですか?
──地元から始めたいです。
僕の価値観では、世の中には絶対的な“良い”、”悪い”なんて存在しないと思っています。何が良いか悪いかといった喧嘩のような議論は生産的ではありません。その人がそう思ったらそうなのです。「あなたは、どうしたいのか」いつもそれを考えてほしいです。
僕も答えを探していました。中学生の頃からプログラミングをしたいと思っていました。しかし大学で「自分はプログラミングの才能がないな」と思い、流されるままに大企業に入りました。 いわゆるエリートコースではありましたがモヤモヤしていました。「俺は何がしたいのか?」「やっぱりコンピュータが好きだ。これが世の中を変える」と。特にインターネットの技術を見たときは雷が落ちたような衝撃を感じました。「絶対、世の中が変わるぞ。これをやりたい!給料ゼロになってもいい」そう思ったのです。そして、会社を作りました。 どうしたいかは、人によって全然違います。これは変わり続けます。毎日、自分に問い続けてください。
未来に向かって真っ直ぐな高校生と社長の対談はいかがでしたか?起業家に学んだ彼らの感想は、以下のサイトで紹介しています。 参考リンク: 「高校ベンチャー留学新聞 2013」2013.8/5~8/7 in 東京 第7期生(PDF)
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