強いモチベーションはどう作る? 弱虫ペダルから考える動機付けの重要さ
「あ~、ヤル気なくなっちゃったな~」とか、「あんな言い方されたら、モチベーション、ガタ落ちっすよ~」とか、言ったり言われたりすること、ありますよね。
日々の仕事の中で、この目に見えない「モチベーション」の存在が、能率や成果に大きく関係してくることを、多くの人は経験から知っています。
チームを率いるリーダーにとっては、自分だけでなくチームメンバーのモチベーション管理も重要な関心事です。
チームが高い成果をあげ続けるためには、チームの目標と同時に、個々のメンバーの目標をうまく設定して、その達成に向けたモチベーションを維持していくことが必要です。
特に追い詰められた状況の中では、チームメンバーそれぞれが平常時と同じモチベーションを持ち続けられるかどうかが、成否のカギを分けてしまったりもします。
つらい状況の中でも「折れにくい」モチベーションは、どうやって作っていけばいいんでしょうか。
マンガから「チーム」や「組織」について考えるこの連載。今回も、梅崎先生にあるマンガを紹介していただきました。
「チームワーク」と「モチベーション」を考えるのであれば、ぜひオススメしたいマンガがありますよ!
「弱虫ペダル」が、すごくいいんじゃないでしょうか。
「弱虫ペダル」は、どんなマンガなんですか?
高校生が主人公の「自転車競技」を題材にした作品です。
私もこの作品を読んで初めて自転車競技がどういうものかというのを知ったのですが、「チームワーク」や個々のメンバーの「モチベーション」が、成果にどう結びつくかを考えるための多くの示唆が含まれていると思いました。
今回は「弱虫ペダル」をテーマに、モチベーションの大切さについて考えてみましょう。
「弱虫ペダル」(作:渡辺航)は、2008年から週刊少年チャンピオン(秋田書店)に連載されている作品で、単行本は現在(2012年12月)26巻まで刊行されています。
主人公は、秋葉原が大好きなアニメオタクの高校生「小野田坂道」。
彼は、周囲の人々に自分の「自転車乗り」としての才能を見いだされ、その中で自分自身も自転車競技の面白さに目覚めていきます。
物語の大半は、彼が高校の自転車競技部の一員として参加する自転車のロードレースの中で展開していきます。
強豪がしのぎを削るレースでは、ときに予想もしなかった過酷な状況にチームが陥ることもあります。また、それぞれに個性を持ったライバルやチームメンバーとの「過去の因縁」や「真剣勝負」が、非常に躍動感のある筆致で描かれます。
自分の力が発揮できるモチベーションの持ち方
「自転車」は基本的に1人で乗るものなので、ロードレースも「個人競技」の側面が強いと思われるかもしれませんが、実はそうではないんです。
自転車のロードレースのなかに、数日間連続で走り続ける「チーム戦」があります。チーム戦のレースでは、それぞれに得意分野を持ったメンバーが役割分担しながら、他のチームと複雑な駆け引きを行います。
この駆け引きの部分を非常にドラマチックに描いているのが、この作品の大きな魅力であり、「仕事マンガ」としての見どころでもあるのです。
弱虫ペダルの中で、主人公が所属する高校の自転車競技部は、全国の強豪が集まるインターハイに出場します。
インターハイにおいて、6人のチームメンバーは箱根の山間道路を含む長距離を3日間で走破します。
メンバーはそれぞれ、平坦な道での高速走行に強い"スプリンター"、斜度がキツい上り坂を得意とする"クライマー"、全般に安定した実力を持つ"オールラウンダー"といった性格、すなわちレーサーとしての「個性」を持っています。
各メンバーは自分の得意分野で交互にチームを引っ張りながら、数日にわたるレースでの勝利を目指します。
ときには、集団での転倒に巻き込まれて大幅に遅れたメンバーを「待つか?」「見限るか?」といったシビアな選択を迫られる場面なども出てきます。
そこでのチームの葛藤や、メンバー同士の友情、信頼から生まれるドラマが作品を盛り上げます。
ロードレースという独特のスポーツを題材にしたことで、チームの「協力関係」が非常に分かりやすくなっているところが面白いですね。
さらにこの作品では、チームワークの効果を高めるための要素として、個々の登場人物のレースにかける「モチベーション」がどこにあるのかというのが、非常に詳細に描かれています。
ロードレースの出場校は「チームワーク」を競うのと同時に、各メンバーの「モチベーション」を戦わせているといってもいいと思います。
人間は、単純に「勝ちたい」という気持ちだけあれば、持てるすべての力を出し切れるわけじゃない。
ギリギリまで追い込まれたり、圧倒的な力の差を見せつけられることで折れそうになるそれぞれのモチベーションを、いかに維持しながら勝負に留まり続けるか? という視点を持って作品を見ると、また別の面白さが見えてきます。
「弱虫ペダル」に登場する選手の試合へのモチベーションは多様です。
ある者は「目立って評価されたい」と思い、また別の者は自らが抱えるコンプレックスの解消が第一の目的だったりします。
さらに別の選手は「ただ、自転車に乗ることが楽しいから」という理由でレースに挑んでいます。各人は、まずはそれぞれのモチベーションを支えに、力を発揮していくわけです。
チームの目標達成に重要な「役割の獲得」
モチベーションには「外発的」なものと「内発的」なものがあると言われています。
例えば、「人に評価されたい」とか「賞金が欲しい」といったものは「外発的」なモチベーション。一方で「その行為自体が好きで好きでしょうがない(ここでは、自転車に乗って走ること自体が好きでしょうがない)」というのは「内発的」なモチベーションです。
一般的に「外発的」なものよりも「内発的」なモチベーションのほうが持続率が高いと言われていますね。
さらにこの作品では、特に主人公が所属するチームにおいて、個々のモチベーションを、別の要素が補強しているんです。それは「役割の獲得」です。
各高校は、それぞれの選手も個性的ですが、そのチーム全体の雰囲気も明確に色分けされています。
とりわけ、主人公が所属する「総北高校自転車部」では、主将である金城は「チーム」としての結束を重視し、 自分が選んだメンバーを深く信頼する人物として描かれています。
主人公の坂道は、他のメンバーと比べて経験も自信もないまま試合に参加することになるのですが、金城キャプテンから、上り坂に強い「クライマー」としての「役割」を任されることで、窮地に追い詰められた際に常軌を逸した力を発揮します。
インターハイ初日のレース冒頭。転倒事故に巻き込まれて最下位になるという絶望的な状況に追い込まれた坂道は、チームの中で与えられた自分の「役割」を果たすために、前人未到の「100人抜き」を目指すのです。
このエピソードでは他人のために、自分の役割を見つけるという「外的な役割の獲得」によって、主人公が、より「折れにくい」モチベーションを得て、潜在能力を発揮する姿が描かれています。
たしかに、金銭や褒賞といった外発的なものに比べて、自己研鑚や自己実現といった内発的なモチベーションはより強いものです。
しかし、それが「自分個人」の中で閉じている場合、その持続性や耐久性には限界があるのかもしれません。
チームワークにおいては、加えて「他人(チーム)のため」という尺度でのモチベーションをうまく作りあげることで、その強度をさらに高めることができるという示唆が、ここにはあるような気がします。
なるほど。
そういえば、2012年ロンドン五輪の男子水泳では、期待されながらも個人種目でメダルに手が届かなかった北島選手に対して、他の選手が「康介さんを手ぶらで日本に帰すわけにはいかない」と奮起し、メドレーリレーでの銀メダル獲得の原動力とした…といったストーリーも話題を集め、流行語にもなりました。
各メンバーが自分の「役割」を明確に認識し、それを果たすことをひたすらに追い求めることが、チームの目標達成において重要な要素かもしれません。
この作品で、インターハイのロードレースは3日間にわたって行われます。
最初の2日間は、チーム内での助け合いによって、なるべく良いタイムで、メンバー全員が次の日に進むことを目指すのですが、 最終日の3日目は、「個人戦」となり、レースの様相がガラリと変わるんです。
各区間で、それぞれの役割を持ったメンバーが限界まで力を出し尽くして、チームのエースを前へ前へと引っ張っていく。
役割を終えたメンバーは、残りのメンバーに思いを託して、そこで力尽きるんです。
ゴールを目指す選手には、リタイアしていったメンバーの思いが次々と積み重なってくる。
その悲痛な思いをモチベーションとすることで、また違うスタンスでレースに臨んでいるライバル校に勝てるかどうか… というドラマも、また見どころですよ。
…もっとも、この部分は仕事の中で折れないモチベーションをどう作るか…というテーマには直結しないんですけれどね(笑)。
さまざまな形の「チームワーク」や「モチベーション」が、スピード感あふれるロードレースという舞台でぶつかり合う「弱虫ペダル」。
個性豊かな選手たちが織りなす友情や戦いのドラマに加え、チーム戦のかけひきの妙など、マンガ作品としての見どころも満載です。
興味を持たれた方は、ぜひ作品で楽しんでみてください。
SNSシェア