あのチームのコラボ術
個人の力を引き出す裏側にチームあり! 卓球 平野選手とアーチェリー蟹江選手が語るメダル獲得の裏側
11月26日(いいチームの日)に開催された「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」。
第5回となる今回は、新たに「スポーツ部門」を設け、ロンドン五輪でチームワークを発揮し、輝かしい実績を残したメダリストチームが受賞しました。
ロンドン五輪で初のメダル取得の快挙を遂げたアーチェリー女子団体、卓球女子団体から、蟹江美貴選手と平野早矢香選手に、個人と団体の違いやチームワークを発揮するための重要なポイントについて、お話を伺いました。
選手から見たオリンピック そしてそこへ向かうプロセス
ロンドン五輪では、団体戦でのメダル獲得が目立ち、卓球とアーチェリーは、史上初となるメダル獲得でした。北京五輪と比べて、環境や決意の面で大きな変化があったのでしょうか。
椋田
卓球は、北京の時点で世界ランキングは5位。つまり、自分たちの力以上に戦わなければメダルに届きませんでした。しかし、ロンドンでは、強豪の韓国、シンガポールよりもランクを上げ、世界ランキング2位で臨めました。
また、決勝まで中国と対戦しない第二シードを獲得できたことが追い風となり、メダル獲得に繋がったのかもしれません。
気持ちに余裕があったこと、追い風があったことが相乗効果を生み出したんですね。
椋田
福原選手も「今回メダルを逃したら一生ない」と言っていたのですが、追い風が吹いたことで気合いが入り、チームメンバーの勢いも例年にないほど高まっていました。
アーチェリーはいかがですか?
椋田
アーチェリーは、2011年の世界選手権の際にオリンピックの出場枠がとれると考えられていましたが、惜しくもとることができませんでした。私と川中選手はここで一度オリンピックの出場を諦めました。
しかし、オリンピックの直前、6月にアメリカで開催されたワールドカップの3位決定戦で逆転勝利し、出場枠を獲得しました。
オリンピックへの出場が直前で決まった。
椋田
一度諦めた悔しさがバネになり、底力のあるチームで挑むことができました。ワールドカップの練習も含めると、3月から8月までの長い期間、チームで試合に挑み続けたのも大きいですね。
オリンピック以外にも、世界選手権や各種試合があると思うのですが、オリンピックはやはり雰囲気が違うものですか?
椋田
卓球は、ひとつひとつの試合が世界ランクに影響する、つまりオリンピックにも影響するので落とすことができません。オリンピックはいままで積み上げてきたものを出す、思いきり戦える場ですね。
基本的に世界選手権などの試合は、アーチェリーの選手しか集まりません。
オリンピックは他の競技の選手も集まり、まさに「スポーツの祭典」です。勝負の場であると同時にどの選手も「この場を楽しもう」とする空気がありました。
オリンピックよりも、普段の試合のほうがシビアなんですか?
椋田
世界ランクを意識している分、シビアと言うよりも、気負いがあると感じます。オリンピックは、そこでしか味わえない緊張感に加え、この楽しさをもう一度経験したいと思えるものがあります。そういう気持ちがプレイをより高い位置に持ち上げてくれ、アウトプットにも繋がるのではないでしょうか。
私は緊張しなかったのですが、オリンピック独特の緊張感で弓が引けない選手もいらっしゃいました。他国の選手や他の競技の選手が近くにいることが、世界選手権とは異なる緊張感を生みますが、同時にそれぞれが持つ“スポーツへの想い”を感じることができ、“安心感”や“楽しさ”もある。それがオリンピックならではの魅力だと思います。
“仲間”の存在が安心感に繋がる
個人と団体にはどのような違いがありますか?
椋田
アーチェリーの団体戦は、1試合につき4ラウンドがあり、それぞれ2分の制限時間が与えられます。この時間内に三人が撃たなければいけない。
メンタルが要求される競技なので、撃つ順番が点数に大きく影響を及ぼします。
普段は声かけやアドバイスを自分自身で行っていますが、“仲間”がいることで客観的なヒントをくれる。また、順番があることで、気持ちに余裕が生まれたり気合いが入ったりもします。
実際には一人で戦っているけど、仲間の存在がより高いアウトプットに繋がるんですね。
椋田
国内での練習は、私と川中選手は練習場が同じなのですが、早川選手の拠点は東京です。このため、三人が顔を合わせる合宿で猛練習を行いました。そして休憩も、テーブルとお茶を用意して思いきり行いました(笑)。
お互いを信頼しメンタルを維持するため、休憩を思う存分楽しむのも練習のうちです。これにより「あうんの呼吸」と言うんでしょうか、お互いが信じて任せ合える「自分の力を発揮しやすい」空気、環境が生まれ、結果にも繋がったんだと思います。
会社でいう仕事と飲み会の関係と似ていますね(笑)。
椋田
皆さん個人戦で十分戦える力を持っています。団体戦では、その力をチームに取り込んで、最大限に発揮することが重要ですよね。誰かが緊張してしまうと全員にも影響してしまうので、信頼できる仲間と一緒である“安心感”がリラックスに繋がりました。
また、ロンドン五輪では試合中に失敗しても「ドンマイ!」「次なら大丈夫」のようなマイナスの励ましはありませんでした。「まだ上を目指せる!」といったプラスで励まし合うことでも、リラックスが維持できました。
卓球の団体では、いかがでしょうか?
椋田
卓球は、極端に言えばパッと集まったダブルスで戦わないといけません。ダブルスのペアは決まってみないと私たちもわかりませんので、常にお互いの特徴や技術を知っておく必要があります。
また、対戦相手についても特徴を熟知しておき、ダブルスの際には情報を共有・交換して、お互いがどう動いて欲しいかを確認して試合に臨みます。
少ない時間でもすぐに息が合うように常にお互いの力を知っておくんですね。
椋田
幸い卓球は年間の試合数が多く、他の選手と練習や生活をともにする機会も多くなります。対戦する相手も多く、経験値や相手の情報が貯まっていくので、その情報をもとに対応、対策を練り試合に臨んでいます。
相手の対策を研究する一方で、常に自分への対策も練られているということですね。
椋田
そういえば、ロンドンで面白いエピソードがありました。シンガポールとの団体戦で、私たちを含めて誰もが福原選手と私がダブルスになると考えていたのですが、福原選手と石川選手が組むことになりました。
試合前の練習時、シンガポールの選手は対福原・平野の練習をしていたのですが、福原選手と石川選手はあえて個人練習を行い、シンガポールの選手が去った後でダブルスの練習を行っていました(笑)
心理戦ですね(笑)。
椋田
卓球は試合が始まるまでオーダーがわかりません。
パッと集まったとは言え、事前に時間をとって、戦い方を考えておくことが重要なんです。“チーム”で臨むので、個人とは異なる緊張感と責任感が生まれます。
反面でベンチに「みんながいる」ことが安心感に繋がる。
選手相互の力や勢いが影響し合いながら、ベンチの力も借りて試合に挑む。
日本は特にこの団結力が試合時に最大限に出せるチームだと思っています。
ロンドン後の変化と今後
普段、選手同士が連絡をとる際、どのような方法で連絡していますか?
椋田
卓球は、遠征が多いので、一緒にいないときのほうが少ないぐらいですのであまり頻繁に連絡はとっていません。ただ、私が怪我をしてしまい、大会を欠場してしまった際は、メールや電話で心配してくれました。
卓球は中国の方も多いので、中国版LINEとも言えるソーシャルアプリ「微信(ウェイシン)」で連絡を取り合っています。話した言葉を自動で翻訳して送ってくれるので、とても便利です。
各選手と会った際には、一緒に買い物や食事をしていますがそれ以外では特に頻繁に連絡は行っていません。ただ、連絡をとる際は、LINEをメール代わりに使っています。メダル獲得が決まったときは、電話の電池がすぐもたなくなってしまうぐらい連絡がきて驚きました(笑)。
オリンピックに出場して、変わったことはありますか?
椋田
メダルを目指して挑戦し続けてきて獲得することが出来ました。いまは「やり切った」達成感もありますが、実際に取材が増え周りの反応も大きく変わってきました。家族や所属する会社にも喜んでいただけたのも嬉しいです。
私も平野選手と同じ気持ちです。いままで持っていた大きな目標は達成できましたので、いまは達成感を味わっています。しかし、まだ上には2チームがいますので、新たな目標を定めて次に挑んでいきたいと考えています。
4年後も今回のチームで出場したい気持ちはありますか?
椋田
それぞれの目標や想いは異なるのですが、私はまたあの三人で出たいと思っています。福原選手は「1+1+1=100になった」と言っていたのですが、ロンドンでは自分たちでも対戦相手をシュンとさせてしまうほどの勢いがあると感じていました。
また、世界ランクが一桁台の福原選手、石川選手とレベルの高い選手とともに戦えたことで、私自身も大きく成長ができました。世界選手権や次のオリンピックでは違うチームとなってしまうかもしれませんが、今回の経験や体験を活かして強い気持ちを持って挑んでいく、そのきっかけになりました。
アーチェリーは相性が影響する競技ですが、私は毎回とても良いメンバーに恵まれることが多いです。その中でも、今回の川中選手と早川選手とのチームは一人一人の力が発揮でき、また組んでみたいと思っています。
4年後のチームはわかりませんが、同じチームで挑めるならまた力を発揮できるでしょうし、別のチームでもまた違う力を発揮できるかもしれない。それが楽しみです。
写真撮影 :橋本 直己
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