もしもルフィが社長だったら? ONE PIECEで考える組織マネジメント
「マンガから学ぶチームワーク」では、いろんなマンガを「仕事」の視点で読み解き、私たちが仕事をする中で向き合うチームや組織について考えています。
これまでに登場した作品は、個性豊かなメンバーがチームで戦う「スポーツ」がテーマだったり、マンガ自体が専門職の世界を扱った「医療マンガ」でした。今回はちょっと毛色が違いますね、梅崎先生。
ええ、今回のマンガは「ONE PIECE」です! 読者のみなさんの中にも、大好きな人が多いのではないのでしょうか?
なんとONE PIECE! もはやストーリーを説明する必要がないほどの超メジャー作品ですね。1997年に週刊少年ジャンプで連載が始まったONE PIECEは、2012年時点でコミックスの累計発行部数が2億8000万部を超える国内最高のベストセラーマンガです。テレビアニメや映画も長期にわたって制作されており、世界40カ国以上で楽しまれています。文字どおり日本を代表するマンガ作品の1つといってもいいでしょう。
…この「超」が付く有名作品をどうやって仕事の視点で読みましょうか?
まずは、ONE PIECEが実は「組織」をテーマにした作品である点を見てみましょう。主人公のルフィが率いる「麦わらの一味」をはじめとして、この作品の世界では様々なチームとしての「海賊」や「海兵」が、それぞれの思惑で活動していますね。
そうですね。それぞれの集団のリーダーとその周辺のメンバーもキャラクターがはっきりとしていて、分かりやすくかつ魅力的ですよね。
「個人」より「組織」の力を描いているワンピース
少年ジャンプには過去にも「戦いの中で友達を増やし、さらに強い敵と戦って、成長しながら勝ち抜いていく」というプロットで世界的に大ヒットした作品がありました。そう、「ドラゴンボール」です。ONE PIECEとドラゴンボールのどちらも「友情」「努力」「勝利」という原則に則った王道のジャンプマンガに分類できると思うのですが、この2作品の決定的な違いってどこにあると思いますか?
出てくる「チームの数」でしょうか?
そうですね。もっと言えば、ドラゴンボールとONE PIECEではストーリーが進むに従って、「成長するもの」が違うんです。どちらの作品も、戦いが終わった後に「新たな仲間」が増える点は同じなのですが、ドラゴンボールでは「強大な新たな敵」に対抗するための手段として、主人公が修行し、それを上回る「個人の力」を手に入れて打ち負かすというパターンが多いんですね。
あぁ、言われてみると「元気玉」とか「かめはめ波」とか「スーパーサイヤ人化」とかって、そういうことですね。悟空がその「新たな力」を修得するまで、仲間が何とか敵を食い止めておくみたいな…。
一方のONE PIECEは「悪魔の実」や「覇気」といった形での超人的な能力は存在しますが、そうした「個人の力」の部分は、戦いを経ても、あまり急激には強化されていかないんです。どちらかというと、新たに得た「仲間」が持っている能力や、各メンバーのチームの中での動き方が変わることで、より強大な「チーム」と対抗していくという流れになっています。ところで、ONE PIECEは2012年現在で68巻まで単行本が出て、連載が継続中ですが、ドラゴンボールって何巻で完結したか覚えてますか?
結構出ていたような記憶があるんですけど…。
実は、最初のコミックスは42巻で完結しているんです。多くの人が指摘していることなのですが、ドラゴンボールのように「個人の力」を強大化させて、さらに強い敵に勝つということを繰り返していると、いわば「力のインフレ」になってしまって、ある段階で限界が出てくるわけです。ONE PIECEのように、王道でありながら長く続いている作品は、個人の力よりも、キャラクター同士の関係性をより詳細に描き、主人公を中心とした「チーム」を成長させていくことによって、そうした限界を回避することに成功している、と考えることもできそうです。
「麦わらの一味」の組織論-その限界は「規模」?
ONE PIECEでは、たった1人で「海賊王」になることを目指して船出したルフィが、冒険の中で仲間を増やしながら、徐々に賞金首を多く抱える海賊団「麦わらの一味」を組織していくようすが描かれています。ゾロも、ナミも、ウソップも、サンジも、それぞれに過去に辛い経験をしながら、それをバネに旅を続けています。彼らはその中で、ルフィという「リーダー志望の男」に出会い、「過去の傷」を共有して互いを認め合うことで「絆」を深め、彼と共に冒険することを望むようになります。
ルフィには、「おれは助けてもらわねェと生きていけねェ自信がある!!」という名ゼリフがありますが、彼は「海賊王になって、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を手に入れる」という自分の夢の実現のために、それぞれの「仲間」が持っている力が必要であることを、繰り返し口にします。
「麦わらの一味」の仲間の増やし方、そしてマネジメントスタイルは、かなり「家族的」ですよね。ONE PIECEに登場する「チーム」には、力と恐怖による支配が行われている海賊団もあれば、海軍のように「機能」として組織されているものもあります。その中で、ルフィの求心力は、圧倒的な力でも、恐怖でも、お金による契約でもなく、あくまでも個人同士の信頼感や絆によるところがポイントです。血縁関係にない個人が集まって、そこに「家族的」なつながりが生まれ、家族以上の関係を築いている。そんなチームが、恐怖支配や機能主義の大組織を打ち負かしていく。ONE PIECEが幅広い世代に長く支持され続けている理由のひとつは、こうした深い関係性への憧れや、そのプロセスへの共感にあるのではないでしょうか。
たしかに。個人的には、アーロンパーク編でナミが正式に仲間になるときのエピソードなんか、かなりグッときました…。これまで、村の仲間のために心を殺して生きてきた彼女が、ついに八方ふさがりの状況になったとき、心からの涙とともに漏らした「助けて…」。その言葉を受けたルフィの「当たり前だ!!!!」と叫ぶ場面は、印象的なセリフが多いONE PIECEの中でも…1、2を争う名シーンですよね~。
たしかに、感動的なシーンですよね。ただ、このマンガが「チームとしての力」を成長させ、戦わせている作品だと考えると、ちょっと気になることもあるんです。それは今後、ルフィが目標としている「海賊王」に近づくにつれ、どんどん大きくなっていく組織を、どうマネジメントしていくのだろうかという問題です。
なるほど。そう来ましたか。
マンガはマンガとして楽しめばいいじゃないという意見ももちろんなんですが、この連載のテーマは「チームワークを考える」ですからね(笑)。つまり、この先、ストーリーが進んで組織の規模が大きくなっていくと、これまで「麦わらの一味」を形づくるための核になっていた「ルフィによる、メンバーひとり一人との家族的な絆の構築」という部分に、無理が出てきてしまうのではないか…という思考実験です。そもそもリーダーは1人なのですから、メンバーが増えれば、会話の時間も少なくなりますよ。こういうことって、事業を始めたばかりのスタートアップ企業や、成長路線に乗り始めた中小企業なんかでも、ありそうな話じゃありませんか?
あー、言われてみると、たしかにそうですね。 気心の知れた少人数でスタートしたころには、いわゆる「暗黙の了解」みたいな感じでうまくまわっていたことが、新しいメンバーが増えるに従って、ギクシャクしはじめる。うまく進めるためには、これまで意識しなくてもよかったようなことまで、ルールやプロセスとして明文化し、共有しないといけなくなる。さらに、機能ごとに小さなチームが形成されて縦割りになり、組織全体の雰囲気が一変してしまう…みたいな感じでしょうか。
そうです。現実の組織だと、メンバーがある規模を超えた段階で、マネジメントの方法には絶対に変化が求められます。しかし、実はONE PIECEの登場人物の中には、その規模の限界を超えて、大海賊団を「家族的」に組織することに成功している人がいるんですよ。「世界最強の男」にして、四皇の1人でもあった船長「白ひげ」です。船員を「息子」と呼び、自らの率いる海賊団を「家族」と称する彼は、傘下に実に5万人の兵力を従えているという設定です。いわば、大企業の社長ですよね。ルフィと白ひげが言う「仲間」「家族」としての組織が、同質の成り立ちによるものなのか、それとも規模の違いに由来する別の形での「絆」が存在するのかというのは、ちょっと原作からは分かりかねるのですが。いずれ「海賊王」となるルフィは、組織を率いるリーダー力においても、この白ひげを超えていく必要があるわけで、その過程で「家族的」な組織運営を続けていけるかどうかというのは、興味深いポイントだと思っています。
なるほど。たしかに、ルフィが事情があって悪事を働いた仲間を「オレとしては許してやりたいが、それでは他のメンバーに示しがつかない!」って言いながら粛正したり、自ら前線に出ずに、はるか後方の本陣で海図見ながら作戦指揮したりっていうのは、考えづらいですもんね…。というか、そんなのルフィじゃないですよぉ~。
でも、組織運営の切り口で、いろいろ想像してみると面白いでしょ? 例えば、ルフィ的な立場でマネジメントできる人物を複数育てた上で、大きくなった組織を細かく分け、それぞれに小規模な組織を「家族的に統治させる」みたいな方法も考えられると思います。家族主義的な事業部制とでも言いましょうか。もっともそれが、ルフィの目指す海賊団や海賊王の姿なのかという疑問もありますけどね(笑)。
ルフィの場合は、そもそも「組織をマネジメントする」って考え方自体がないんじゃないでしょうか(笑)。
ただ、ONE PIECEという作品自体はかなり佳境に近づいてきている雰囲気があって、メインキャラも出そろい、白ひげ亡き後の「四皇」、つまり3人のボスが率いる海賊団の全体像も少しずつ見えてきています。四皇それぞれのマネジメントスタイルもさまざまなはずです。今後のONE PIECEを、その違いを比較しつつ、そこに「麦わらの一味」がどのように影響を受け、また影響を与えていくのか…と、想像しながら読んでみるのも面白いんじゃないかと思いますよ。
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