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選別のためのフィルタとしては有効?──エンジニアにとっての「資格試験」を考える(4)
サイボウズ・ラボの西尾 泰和さんが「エンジニアの学び方」について探求していく連載の第13回(毎週火曜日に掲載、火曜日がお休みの場合は翌日、これまでの連載一覧)。
「資格試験」テーマの第4回です。
本連載は、「WEB+DB PRESS Vol.80」(2014年4月24日発売)に執筆した「エンジニアの学び方──効率的に知識を得て,成果に結び付ける」の続編です。(編集部)
第1回のAさんの話では、資格を「取る過程」の価値にフォーカスしていました。そこで、資格を「持っていること」の価値について大手SIerの研究開発部門に所属のBさん(仮名)に伺いました。
基本情報技術者試験は、情報系の学生や仕事してる人からすると、合格して当たり前だから試験用の対策をする必要ない。逆に何もせずに受けても合格できないとちょっと恥ずかしい、というレベルな気がする。
「合格して当たり前」の試験を受ける理由ってなんでしょう?
情報系の一般的な能力を持ってることのエビデンスになるからでは。あとは、会社で取得必須であったり、合格すると祝い金がもらえたりするからではないかと。
なるほど。
資格取得にかかる費用が安い割には認知度が高い。情報処理技術者試験は国家試験だし、試験ごとに知識エリアも明確に定義されてるので、企業としては「この試験に合格したのなら、このレベルの知識は持っているんだろう」と判断できる。知識エリアが具体的にどう定められているかは、ITスキル標準で検索すると幸せになれるかも。
資格を持っていることの価値としては、このほかにも「IT関連の資格があると楽なのは、IT業界の知識のない人に話をするとき」「スペシャリストを持ってると月給が5000円上がる制度がある。社内の平均技術レベルが資格試験以下の環境では、資格取得にインセンティブをつけることは、会社の平均技術レベルの向上に有効である」などの意見がありました。前回のはせがわようすけさんも、報奨金がインセンティブになって資格を取得したというお話でしたね。
Bさんの言及していた「ITスキル標準」は、各種IT関連サービスの提供に必要とされる能力を明確化、体系化した指標とのことです。ITに関する仕事を11職種35専門分野に分類し、それぞれを習熟度別にさらに段階化したもののようです。すみません、筆者はこの種の文章を読むのが苦手なので、じっくり読まずにブラウザを閉じてしまいました。
さて、次は少し視点を変えて、Web系企業の経営者をしている凄腕プログラマのCさん(仮名)にお話を伺いました。
えっと、「IT系の資格試験はWebとかモバイルアプリ作ってる会社で役に立つのか?」ってことですな?
そうです。
そこは、結構微妙なラインで……実際、「資格」自体は不要です。役に立ちません。
役に立ちませんか。
官庁に入札するときに、「IPAの資格保有者が何人いるか?」っていう記入欄があって、あると多少有利。資格自体はその程度ね。
ただし、資格を取ることすらしてないエンジニアは、体系的に勉強してないので……プログラムの質が非常に低いです。
なるほど。
たとえば、Androidのアプリを作ることはできるんですが、それは、EclipseとかADTの使い方を知ってるレベル。アルゴリズムもオブジェクト指向も勉強してないから、上がってくるコードはバグだらけで、汚く、メンテしにくい。
それは、外注などの経験から分かったことですか?
先月から今月はまさにその通りの状態で、外注が上げてきたものが、バグだらけで手直ししようにも、スパゲティソース……オレが全部書き直したよ♪
なるほど。採用側ならではの視点ですね!
バグが発生しなかったとしても、結局、同じ「動く」に大きな差が生まれるのね。
同じ「動く」コードでも、質に大きな差があるということですか?
そうだねぇ……「動く」だけではだめなのよ。意味不明コードで動いているのと分かりやすいコードで書いてあるのでは、保守性に大きな差が出るよね。バージョンアップしたり、不具合修正したり、担当変えたりっていうフェーズを考えるとね。で、資格試験用にちゃんと勉強してるエンジニアは、その辺まで理解してることが多い。
保守性の高いコードを書くスキルって資格試験の勉強で身につくのですかね?
いや、資格試験の勉強で身につくわけではない。ただ、資格試験の勉強すらしてない人間は……。
勉強するスタンスすらない、と。
その通り。でもさ、資格試験を受けようとしたらアルゴリズムの勉強もするよね。アルゴリズム知らないでツールだけ使える人間というのが結構多くて……。あとね、ソフトウェアなんちゃらは、一応DBとかも勉強させられるし、開発工程なんかの勉強もちょっと入るのね。アンドロイドのアプリの表面的な使い方知ってるだけってのと、資格試験合格して他の分野も多少知識があるのは、大きな差が生まれるねぇ……一人でモノを作るわけではないし。
なるほど。資格試験によっては開発工程も学ぶ、と。
資格はいらんけど、資格試験のために勉強してるってことは非常に重要。
外注や採用で選別する際には、資格の有無でそういう人を弾くことが有用だったということですか。
Web案件はレベルの差がひどいねぇ……資格持ってるかどうかは確認したくなる。あと、最終学歴フィルタが意外と効く……。
Webだと本人が「自分はできる」と思うまでのハードルが低いんですかね?
だね。Webは、とにかくレベルの差がひどい。アプリは割と、安定してるんだが、専門学校卒でゲーム制作学んだとかだと、能力的に怪しいね。結論は出さないけど、最終学歴フィルタか資格フィルタで外注さん選ぶのはありです。はい。
貴重な採用側の視点をありがとうございました!
エンジニア兼経営者として身銭を切って人を採用する視点からのお話がとても興味深かったです。資格を持っていること自体にはあまり意味がないが、エンジニアを選別する際には学歴と資格の有無がフィルタとして有効という話でした。それが有効なのは、学ぶ姿勢があるかどうかが現れるからなのでしょう。
第1回でAさんはエンジニアを資格の有無で判断することを「資格至上主義」「自分で相手のスキルを評価できないから資格で判断する」と批判していましたが、実際に採用、選別をする側の視点からは「資格を持ってないけど有能なエンジニア」を取りこぼすリスクをおかしてでも「資格を持っていない無能なエンジニア」を資格でフィルタリングすることでコストを節約できるメリットの方が大きいという考え方なのでしょう。「資格」について、立場によっていろいろな考え方があることが分かって興味深いです。
次回は、エンジニアでもあり「IT業界を楽しく生き抜くための『つまみぐい勉強法』」などの勉強法に関する著書もあるDeNAの渋川よしきさんにお話を伺います。(つづく)
「これを知りたい!」や「これはどう思うか?」などのご質問、ご相談を受け付けています。筆者、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)
謝辞:
◎Web+DB Press編集部(技術評論社)のご厚意により、本連載のタイトルを「続・エンジニアの学び方」とさせていただきました。ありがとうございました。
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